津羽目風矢は夢を見る。
木陰から密かにライフルを構え、資源を狙い上陸してきた不届き物の脳天を撃ち抜く夢。
焚火の灯りと煙に誘われた猿共に、生きながらにして腸を貪り食われる夢。
頭蓋が砕かれる感触を味わいながら、
昔日の思い出を再演するそれらの夢に共通しているのは、潮と、硝煙と、噎せ返るほどの血の匂い。
この日見た夢も例に漏れず、胸の裡から恐怖と興奮を湧き起こす、郷愁に満ちた森の香りと鉄錆のような血腥さが
(……っ!ひとまず撒いたか…?)
這いつくばるようにして手近な繁みに身を隠しつつ、追手の気配が途絶えたことを確かめる。
とはいえ未だ油断は禁物。γサーバでも指折りのガンマンであるアトバードであっても、ここμ鯖においては一瞬の気の緩みが死を招く。
先ほどもたまたま先にバイバアルが標的とされたから生き残れたものの、彼女の選択が違えば今腐葉土のベッドに横たわっていたのは自分の方だっただろうと、彼は現状を正確に把握していた。
「……クソッ!もう来たか」
木々の揺れる音や野獣の唸り声に混じり、どこかから微かな子守歌が聞こえてきたことにより、アトバードは己が未だ危機の最中にいることを知る。
右前方の大樹の枝の上……居ない。
左後方の岩陰や崖の傍……居ない。
正面に生い茂る草の中……居ない。
全神経を集中させて彼女を探すものの、それらしき幼女の姿は影も形も見当たらない。
せめてすぐに攻撃に移れるよう、手元の銃の引き金に指を添えた、その瞬間。
「みぃつけた」
「!?ぐっ、ごばっ……」
無邪気な声が背後から聞こえると共に、喉を走る鋭い痛みと噴き出す鮮血を感じながら、アトバードは意識を闇に沈め──
◆
「──はっ!?」
目を覚ました風矢は己の喉に手を当てて、そこに傷一つないことを確かめると慌てて今の状況を思い出す。
ここはあの孤島でも森の中でもなく、至って普通の日本家屋の大広間だ。
周囲では津羽目家の親族たちが盃を交わしながら楽し気に談笑している。盆ということもありその人数は多い。
(そうだ、僕は父の代わりに挨拶回りをして……いけない、少し飲みすぎたかな)
社長の地位を正式に父から受け継いだばかりのこともあり、今年は挨拶をする相手も多かった。どうやら疲れとアルコールで少しばかりうたた寝してしまっていたらしい。
「あれ?風矢くん、どうしたんだい?」
「お恥ずかしながら些か酔ってしまったみたいでしてね、少し夜風に当たってきます」
二回りほど年上の親戚と軽く言葉を交わしつつ宴席を中座する。丁度いいので手洗いにも行ってこよう。
そうして酔い覚ましがてら宴会場となった広間からやや離れた位置にある手洗いで用を足し、さてそろそろ会場に戻ろうかとしたその時────彼は異変に気が付いた。
「……誰かに、見られている?」
広間から離れたこともあり最低限の灯りだけが薄暗く照らす廊下で、怪訝そうに風矢は一人ごちる。
彼はかつての孤島の経験から他者の視線に敏感だ。辺りから不審な物音などは聞こえないが、確かに誰かが自分を見ている気配がする。
微かに開いた襖の影……居ない。
廊下の角を曲がる先……居ない。
慌てて振り返り、臨戦態勢を取りつつ背後を確かめる……居ない。
「……いやいや、さっきの夢じゃあるまいし、僕は何をしているんだか」
この
今日はもう酒はやめておこうと心に決めて、一歩踏み出した、その瞬間。
「みぃつけた」
無邪気な声が柱の陰から聞こえ、肌が恐怖に粟立つ。そこに居たのはあの日の
「かざやおにいちゃん、あそぼ」
「っ!?危な……あ痛ぁっ!!?」
それが己に懐いている親戚の少女であると気が付いて、反射的に繰り出していた蹴りの軌道を強引に変える。その代償に足の小指を強かに柱に打ちつけながら。
この日、津羽目風矢の脳に新たなトラウマが刻まれた。