徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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楽郎と玲の結婚式で失恋する紅音のお話。


蕾のままに散った恋

 ──今日、私のお友達が結婚する。

 

 陽務楽郎さんと斎賀──今日からは陽務──玲さんの二人は、何年も前にゲームで知り合った私の二つ歳上のお友達で、今ではゲームとリアルのどちらでも仲良く遊ぶ仲だ。

 旅狼のオフ会で初めて二人に出会った時。ただのお友達では無く恋人としてお付き合いをしていると告げられて、とてもびっくりしたことを覚えている。

 

『……わあっ!そうだったんですね!』

『秋津茜ちゃん、やっぱり気付いて無かったかぁ』

『ペンシルゴンは何でそんなに訳知り顔なのさ』

『んふふ、どこかの脳にクソゲーカセット刺さってるような人とか現在進行形で鈍感系主人公やってる誰かさんと違って、おねーさんには乙女心はお見通しなの』

『いやまぁ、仲が良いなぁとは思ってたけど、まさかあの斎賀家の子から色恋沙汰を聞かされるとはね……』

 

 ペンシルゴンさんとオイカッツォさんが話す隣で「僕も正直驚いたよ」と続ける京極さんの言葉に、当時の私は心の中で密かに頷いていた。

 ──私だって、仲良しだったのになぁ。

 

「それでは、新郎の入場です」

 

 思い出に囚われていた私の意識が、司会進行の声によって引き戻される。

 周りの皆に倣うように一拍遅れて式場の入り口に視線を向ければ、タキシード姿の楽郎さんが深々と頭を下げていた。

 どちらかというとラフな格好を好む楽郎さんの正装は珍しいけれど、だからといって服に着られているようなこともなく、むしろその姿は……

 

(格好いいなぁ……!?め、目が合っちゃった!)

 

 思わずぽうっと見惚れていると顔を上げた楽郎さんと不意に視線がぶつかって、慌ててバッと俯いた。わ、私、顔赤くなってないかな……?

 ぱたぱたと手で顔を扇いで少しでも熱を冷まそうとする。うぅぅ、お手洗いで鏡が見たい……!

 

「続いて、新婦の入場です」

(って、いけない!今は式に集中しない、と……)

 

 その間にも式は進む。慌てて顔を上げた私は、続いて入場してきた玲さんに視線を向けて──

 

(……きれいだなぁ)

 

 目を、奪われた。

 純白のウェディングドレスを身に纏い、お父さんに手を引かれてバージンロードを歩く玲さんは綺麗で、キラキラしてて、幸せそうで。

 まるで、絵本の中のお姫さまみたいだなんて、子供のような感想が頭をよぎった。

 

「……いいなぁ」

 

 女の子の夢を体現したかのようなその姿に、私はこの日初めて明確に羨望の念を抱いた。

 

 もしも、私も彼女のように素敵なドレスを着れたなら。

 もしも、私も彼女みたいにみんなから祝福されたなら。

 もしも、私も彼女の代わりにあの人の隣に立てたなら。

 それは、どれほど幸せなことだろうか。

 

(って、私は何を……!?)

 

 大切な二人の晴れ舞台だというのにも関わらず、脳裏を過った不埒な考えに愕然とする。

 大好きな楽郎さんと玲さんが結ばれる。二人の友達としてこんなに嬉しいことはない。

 そう自分に言い聞かせても、式が進んで行くにつれて胸の奥がモヤモヤして、そんな自分が嫌になる。私は一体どうしてしまったんだろう。

 今日はめでたい日の筈だ。

 笑顔で迎える日の筈だ。

 だって、大好きな楽郎さんが。

 大、好きな…………

 

(ああ、そっか)

 

 すとん、と。

 

(私は、ずっと……)

 

 喉の小骨が取れたかのように、不意に私は理解した。

 私は、楽郎さんのことが──

 

(ずっと前から、好きだったんだ)

 

 二人の誓いのキスを見て、自然と涙が溢れ出る。

 おめでとうって、お幸せにって、ちゃんと笑わなくちゃいけないのに。

 止めどなく零れる涙は一向に止まってはくれなくて。

 二人の門出を祝う万雷の拍手の中。始まる前に終わっていた初恋に密やかに別れを、告げた。

 

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