仮面ライダーアギト×ソードアート・オンライン ~目覚めろ、その魂!~ 作:バーラ18
「私の名前は茅場晶彦、今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。」
(茅場晶彦?確か姉さんが言ってたSAOの開発ディレクターだっけ)
茅場晶彦もまたテレビや新聞などで報道されていたので、名前だけは知っていた。
最も、具体的にどれだけの功績を残した人間であるかを僕はあまり知らなかった。
「プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、“ソードアート・オンライン“本来の仕様である。」
(仕様だって?一体どういうことなんだ?)
「諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない。」
僕の理解が追いつく前にアナウンスは続けられる。
(この城?まさかこの街ではないはず・・・だとすると。)
「まさか・・・・そういうことか・・・・。」
僕は茅場の言葉をようやく理解した。
このゲームをSAOの100層に至るまでプレイヤーすべてを返すつもりはないらしい。
「・・・・また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もありえない。もしそれが試みられた場合―」
「―ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」
わずかな間の後に告げられる現実味のない話、集まった一万人の思考を停止させるには十分過ぎるほど強烈なものだった。
「そんな・・・・・・」思わず掠れた声を上げる。
ゲームクリアまで現実には返さない、そこまでは理解できる。
しかし、彼は殺すと言ったのだ。
そんなことが可能なのかと僕は疑問に思ったが、姉さんとの会話の一節を思い出した。
『ギアの重さの三割はバッテリーだからね、瞬間停電でもあったら大変よ。』
「いや・・・・・恐らく可能だな。」
茅場の言葉は脅しなどではない、奴は本当に一万人を殺してみせるとそう宣言したのだ。
“生命活動を停止させる”その言葉が僕の頭にずっと反響していた。
(本当に僕は死ぬのか・・・死んだらどうなるんだ?父さんと母さんにも二度と会えなくなる?残された姉さんはどうなるんだ?学校の友達にも会えなくなるし、父さんの家を継ぐことも出来ない?一体・・一体どうすればいいんだ・・・・・)
頭の中で思考が空回りを繰り返し、胃の中のモノすべてを吐き戻しそうな嫌な不安感と絶望感が僕を満たしつくした。
その後も茅場のアナウンスは続くが、僕に届くことはなかった。
さらにそんな僕に追い打ちをかけるように、茅場はさらなる衝撃の事実を告げる。
「しかし、充分に留意してもらいたい、諸君にとって、<ソードアート・オンライン>は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ・・・今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に」
まさか、と僕は顔を上げる、今思えばきっとその顔はすべてを察したかのように恐怖が刻み込まれていただろう。
「諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される。」
とうとう、僕は真実に耐え切れず両膝を地面につく、もう何も考えられなかった。
茅場は次の託宣を告げる。
「諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層までたどり着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすれば良い。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう」
「ハハッ」
僕の口から乾いた笑いが漏れる。
(ああ・・・この城の頂を極めるまでとはそういう意味か・・・・)
僕は姉さんから聞いたもう一つの情報を思い出す。
それは。千人のプレイヤーが参加したSAOのベータテストでは、2か月の期間中にクリアされたフロアはわずか6層だったということだ。
このことからSAOの難易度をどれほどのものか知ることができる。
周りは低いどよめきに埋められていた。
他のプレイヤーは、まだこれが本物の危機か、あるいはオープニングの過剰演出なのかを判断しかねているようだが、少なくとも僕の直感は茅場の言葉は嘘ではないと確信していた。
「それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ。」
すると僕の目の前でアイテム欄が自動的に開かれた。
ストレージの一番上に“手鏡”と記されたアイテムを見つける。
アイテム欄をタップしてみると、その名の通り、何の変哲もないただの手鏡が出現した。
「これはどういう・・・・・?」
鏡をのぞき込んで見るが特に変わったことはない、面倒くささにアバターをいじらず、初期設定そのものの顔が写っていた。
その瞬間、全身を白い光が包み込む。
それと同時に僕の視界もホワイトアウトした。
2、3秒ほどで視界が元の風景に戻る。
しかし、僕の見た風景はさっきとは全く異なるものだった。
周りを見渡してみると、ほとんどのプレイヤーは体格も身長も顔も全く違うものになっていた。
もう一度彼は手鏡を覗き込む、そこには現実世界の自分そっくり・・・いや、全く同じ顔があった。
よく見ると、プレイヤー全体の男女比も大きく変わっており、男性が圧倒的多数となっていた。
僕は自分の顔と身体に触れ、現実の自分と全く同じ姿であることを認識した。
「す、すごい・・・本物の僕だ・・・・。」
どういう原理で自分の身体を再現しているかは理解できなかったが、ポリゴンによるきめ細やかな再現度に僕は思わず舌を巻く。
だが、ここで最後の疑問が頭の中に思い浮かんだ。
(なぜ、茅場晶彦はこんな事を?)
他の全プレイヤーもそう思っているはずだろう、そしてその疑問に答えるかのように、血の染まった空から、厳かとすら言える声が降り注いだ。
『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は―SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』
そう、その理由を僕は一番欲していた。
地位も名誉も金も思いのままにできる人間が一体何を血迷ってしまったというのか。
『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら・・・・この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』
(・・・・・・・・・・・・はっ?)
あまりにも僕の理解からかけ離れた理由に思考がフリーズする。
『・・・・・以上で≪ソードアート・オンライン≫正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の―健闘を祈る』
深紅のローブ姿をした茅場晶彦は空中のシステムメッセージにフードの先端から溶け込むようにゆっくりと吸い込まれていった。
市街地のBGMが遠くから流れ始め、ゲームは再び本来の姿を取り戻した。
一万人のプレイヤー―を閉じ込めた、巨大な監獄と化して。
「嘘だろ・・・・・なんだよこれ、嘘だろ!」
「ふざけるなよ!出せ!ここから出せよ!」
「こんなの困る!このあと約束があるのよ!」
「嫌ああ!返して!返してよおお!」
ようやく事態を把握したプレイヤーが声をあげるが、もはや何の意味もない。
現実を受け止めた一部のプレイヤーはさっさと広場を抜け出し始める。
そんな中、僕は広場の外壁に背中を向け、目と耳を閉ざしその場にうずくまる。
“今は、何も考えたくない”そう思いつつも頭の中は現実世界に残した両親や姉さんの事でいっぱいだった。
「よし・・・・・・。」
気分の整理がつき、ゆっくりと僕は立ち上がる
あれからかなりの時間が経ったのだろう、広場にはほとんど人は残されてはいなかった。
両手で自分の頬を叩き、奮い立たせる、そうすると不安もいくらか落ち着いた。
そして、僕はもう一度、茅場が消えていった空を見つめる。
今も、奴は遥かな高みから全プレイヤーを監視しているかもしれない。
己の手で世界を創造し、その中で生きる者達を観賞することが最大の目的だと彼は言った。
そういう意味では自分の事を神だと騙ったとしても何もおかしくはない。
対して、今の自分達はこの世界の理に縛られた者達、どれだけ足掻こうとも、このSAOという名の監獄から脱出する手段は何一つないだろう。
茅場が示した、アインクラッド全100層をクリアすることを除けばの話ではあるが・・・・。
しかし、それで“はいそうですか”とすぐに納得してこの世界に旅立つほど僕は達観した視点は持ち合わせてはいなかった。
(なるほど、この世界においてお前は神なのだろう、本気でこの世界を作りたいと願ったのだろう、しかし・・・だがしかし、そのためだけに一万人の人間を閉じ込め、あまつさえ弄ぶなど絶対に許されないことだ!)
僕の中に強烈な怒りが沸き立ち、ある一つの決意を固める。
(いつの日か・・・・お前の手から、みんなの運命を奪い返す!例えお前がこの世界の神であったとしても!!)
・・・・・・かつて、この世界では、絶対なる創造神とその創造物である人間の間で大きな戦いが2度起きた。
その2回目の戦いの中心人物の一人が少年の父親であった。
圧倒的不利な状況で少年は父と仲間と懸命に戦い、時には大切なものを失いつつも、ついには勝利をもぎ取ることができたのだ。
(父さんは世界を創った神にさえ勝ってみせた。ならば僕だって・・・・・!)
誰もが絶望に暮れるなか、少年だけは真っすぐと上を向く、そのまなざしには固い決意が込められていた。
しかし、現実はそう、うまくはいかなかった。
MMORPGどころかゲームすらも初めてである僕は情報を手に入れる術も知らず、ろくにレベリングすらも出来なかった。
その結果、攻略組に入ることはおろか、中層プレイヤーに到達するのがやっとであった。
焦りを覚えた僕は日に日に無茶なモンスター狩りを取るようになり、そのツケは日に日に積み重なっていった。
そして今日このクリスマスの日、とうとう精算の時が訪れた。。
3日間ろくに寝ていなかった状態で周囲の警戒も出来るはずもなく、麻痺と毒効果を同時に持つ攻撃をまともに背中から食らい、その衝撃で崖から転げ落ち、今に至る。
「やれやれ、ほんの一瞬でこのざまか・・・・・。」
これまでやってきた努力はいともあっけなく散ろうとしている、僕は改めてSAOの残酷さを思い知らされた。
(結局・・・・俺は父さんの様にはなれなかったな・・・・・)
ポリゴンで構成された身体から、徐々に力が抜けていく。
(姉さん、父さん、母さん・・・・みんな・・ごめんなさい)
最後の思いを残し、僕は意識を手放していく。
視界が急速に真っ白になっていく。
すると遠くから誰かの呼びかける声が聞こえてきた。
「・・・・・・・い・・・・・・・か・・・・・・ろ・・・・・・。」
誰かが誰かを呼んでいるのだろうか?
しかし、これから死にゆく僕にとってはどうでも良いことだった。
いかがでしたでしょうか?
これからまた場面が切り替わります。