仮面ライダーアギト×ソードアート・オンライン ~目覚めろ、その魂!~ 作:バーラ18
作戦決行日、迷宮区の南側の入口には攻略組が全員終結していた。
アスナは壇上である切り株の上に立つと作戦の最後の確認を始める。
「それでは今から作戦の最後確認を行います。B班は北側、A班はこのまま南側から迷宮区に入って、道沿いに進んでください。もし、どうちらかの班が目標と交戦したらすぐにメッセージを飛ばし、2班で挟撃します。では皆さん、必ず生きて帰りましょう!」
最後のアスナの激励に全員は大きな声で応えた。
その後B班が北側の入口から迷宮区に入ったことをメッセージで確認すると俺たちA班もそれに続くように迷宮区の探索を開始した。
迷宮区に入って30分、いまだ変化はない。
この層の迷宮区はボスの部屋へ続く道以外ほぼ一本道なので怪物がいる場合はこのまま進んでいけば必ず遭遇できたはずなのだ。
しかし、いつまで経っても怪物は俺たちの目の前に現れない。
暇を持て余していた俺は1つ前にいた黒人の大男に声をかけることにした。
「どうやら今日は報酬にありつけそうにないな、エギル。」
「全くだぜ、せっかく今回クエストに参加するためにわざわざ店を閉めてきたのによ。」
このエギルというプレイヤーは50層で個人商店を営んでいる俺の腐れ縁だ。
よく、プレイヤーが採ってきた高級素材に対して定価以下の値段を吹っ掛けるなど際どい商売をしている時もあるが、俺はお得意様なのでちゃんと正規の価格で取引をしている。
「というか本当にこの迷宮区に頻繁に出現しているのか?もう大分歩いてきたぜ」
今度は悪趣味なバンダナを付けた鎧武者のプレイヤーが割り込んできた。
俺の2人目の腐れ縁であるクラインだ。
クラインの率いる風林火山というギルドは最初こそ遅れをとっていたものの、今では立派な攻略組の一員である。
そこに至るまでメンバーを1人も死なせなかったコイツの手腕は相当なものだ。
「おそらく今日はエンカウントしていないのかも知れないな・・・そうなるとまた明日も来ることになるかもな。」
そう言った矢先、A班のリーダーであるアスナから緊急メールの通知音が聞こえた。
俺はすかさず、アスナに駆け寄り、確認する。
「アスナ!メールには何て書いてあった?」
アスナはメールを一瞬見るとすぐに閉じる。
「怪物を見つけたみたい!けど文字が途中で途切れてるわ、急ぎましょう!」
そこからA班全員は敏捷ステータスを目一杯活かした全力疾走で現場に急行した。
すると、しばらくしない内に複数の人影が見えてくる。
「クソッ、遅かったか・・・・!」
そこには誰一人メンバーは死亡していなかったものの大量に意識を失ったプレイヤーが地面に転がっていた。
その真ん中に、2本の角を生やした怪物が静かに背を向けて立っていた。
その姿は間違いなく異形だった、しかし怪物の身体に身に着けられた黄金の鎧は神々しさを放っており、無駄のないフォルムは洗練された美しさを醸し出していた。
出てきたカーソルに目を向けるとそこには「Agito」と書かれている。
「ア・・・・ギ・・・・ト・・・?」
mobの名前にはある程度ルーツや理由があるが、目の前の怪物の名前には全くそれが浮かばない。
「こっ、こいつがあの・・・・・・・・。」
声を出したクラインだけでなく、その場にいた全員が圧倒されていた。
「アスナ、メールが来てからここまで何分だ。」
「およそ10分・・・・・その間にB班を倒したとなると・・・・・。」
「そ、そんなはずねえだろ!中層プレイヤーならともかくB班もれっきとした攻略組だぜ!奇襲をかけられたにしてもすぐに態勢を建て直すのは可能なはずだろ!」
攻略組は常に最前線にいる以上相当な危険に晒される。
そのため集団の統制が取れなくなるということはパーティの全滅に直結するため攻略組は態勢を崩されても直ぐに建て直す高度なチームワークを誇っていた。
ならば目の前の異形の怪物は攻略組の完璧な陣形を瞬く間に瓦解させ、態勢が整う前に畳みかけ、全員を戦闘不能にしたのだろう。
俺だってこんなことは嘘だと言って欲しい、しかし床にB班の全員が転がっている現実はその事実を雄弁に語っているのだ。
こちらに気付いたのか、アギトは振り返り、ゆっくり歩を進める。
思わず全員が身を引き、後退る。
「みんな落ち着いて、予定された通りに陣形を展開して!」
指揮官の鋭い一喝にA班全員が我に返る。
そこからの全員の行動は素早く、青龍連合のタンクが最前列へ出て防御態勢をとり、俺たちアタッカーはその後ろで攻撃の準備をする。
刹那―――、アギトは“プンッ”という音と残像を残し俺たちの目の前から姿を消した。
「え・・・・・・・・・?」
アスナを含め、その場にいた全員が呆気にとられる。
しかし、俺だけは致命的な危機を察知することが出来た。
「アスナッ!後ろだ!」
俺の警告にアスナが気付いた時にはアギトはすでにAチームの防衛線を抜け指揮官である彼女の懐に潜り込み、その右拳を突き立てようとしていた。
だが、それよりも早く剣を抜いた俺は片手剣ソードスキル“バーチカル”をアギトの後頭部に目掛けて振りぬいた。
怪物は即座に振り向き反対の左手で俺の剣を掴むとアスナに向けるはずだった右拳を俺のがら空きの脇腹に向かって裏拳で放った。
「ガッ・・・・!」
その拳はあまりに鋭く、そして重かった。
脇腹にクリーンヒットさせられた俺は肺の空気をすべて吐き出したような錯覚に陥り、身体は遥か後方に投げ出した。
この仮想世界では痛みは存在しないものの衝撃はあるため攻撃をくらうと身体が吹き飛んだり後ろへ転んだりする。
そしてこの異形の怪物が放った拳の衝撃はフロアボスの攻撃に勝るとも劣らない威力だった。
恐らく攻撃自体に強力な転倒補正と気絶補正がかかっているのだろう。
さらに恐ろしいことにこのアギトは敵の指揮官を一瞬で判別し不意打ちを行う高い知能、俺以外のプレイヤーが認識できないほどのスピードを誇る圧倒的なスペック、そして俺が後ろから放ったソードスキルを捉えあまつさえ手で掴んでしまうほどの技量を兼ね備えていた。
恐らく大部隊による攻略はあのアギトの思いのままに翻弄されるだろう、アギトがフロアボスと同じくらいの大きさだったならまだ効果は見込めたかもしれないが等身大の大きさであの強さを誇られるともはや少数精鋭でしか攻略は難しいかもしれない。
いずれにせよB班が全員戦闘不能にされた時点で作戦はすでに破綻している、悔しいがここは退却を決意するべきだ。
目の前の景色が回転する一瞬の最中、一通り思考をまとめた俺は身体に力を加え空中を一回転し、地面に着地した。
アギトがいた方向に向き直るとすでにA班全員は戦闘を開始していた。
全速力で戦場に戻りながら俺は大声で叫んだ。
「アスナ!そいつの相手に大部隊は相性が悪い、今回は退却するべきだ!」
アスナも同じことを考えていたのか短く頷きすぐさま指示を飛ばす。
「全員退却します!殿は私と彼でやるから他の人はB班を連れて転移結晶で迷宮区を出て!」
敵が逃げ出しそうなことに気付いたのかアギトはB班を救出しようとするA班に追い打ちをかけようと地を蹴ろうとする。
「おっと、行かせないぜ」
その挙動を俺とアスナが見逃すはずがなくアギトの正面に立ちはだかり、アギトは追撃を諦めたのか俺たちを前に構えをとった。
(なんだ・・・・・この構えは?)
それは構えというには些か異端だった。
通常の素手での戦いが達者なmobはボクシングのように両手を顔の前に持ってきて構えるがアギトは顔を少し俯かせ右手を腰の位置まで持っていき代わりに左手を俺たちに向けるように真っすぐ構えた。
「アスナ・・・・・・」
「ええ・・・・・来るわ・・」
アギトが俯かせた顔を上げ、俺たちと視線を交差させると同時に――――両者とも地を蹴った。
いかがでしたでしょうか?
次は主人公達とアギトとの本格的に戦いに入ります。