「ヒカル。囲碁部の見学に行ってきたんでしょう?どうでした?」
「うーん。まあまあかな。全国レベルって聞いたから相当すごいのかと思ったけど、全然大したことなかったよ。」
佐為は、ヒカルのいる世界に興味があるようで、前のめりに聞いてくる。佐為は、ヒカルのいる世界の話をすると、すごくうらやましそうにするのだ。佐為は平安時代に生きてた人だから、ヒカルのいる時代に興味があるのだろう。
「いいですね~。私も行きたかったです。ヒカルばかりずるい。」
「何言ってんだよ。お前、死んで神様になってんじゃねーか。」
どうやら、死んだ後、何かに飛び抜けて才能のあった人は転生されず、こうして神になるらしい。ここにいる神は、囲碁の神なので、全員飛び抜けて囲碁がうまい。ヒカルはどうやったってここにいる人に敵わないのだ。
「そう言えば、囲碁部の部室におもしろいもの見つけてさ。」
ヒカルはそう言って、自分の前にある碁盤に、碁石を並べていく。佐為は興味津々でそれを見ているようだった。
「これ、詰碁って言うらしいんだよ。ここから、白を殺すにはどうしたらいいのか、っていう問題。」
佐為は、ちらりと見ただけでその問題を当ててしまった。
「ここです?」
「ん。正解。」
「これは、簡単な問題なんだけど、上級の問題で結構難しいのあってさ。」
佐為は、ほうほう。と言いながら、ヒカルの並べる碁を真剣に見つめる。ヒカルは、見学に行って、部室にあった詰碁集を一通り解いてみたのだが、やはり、いくつか解けない問題があった。一晩中考えても分からなく、答えを見るのもしゃくだったので、佐為に出してみようと思ったのだ。
「あ、分かっても答え言うなよ。俺まだ解けてねーから。」
「分かりましたよ。」
そう言って佐為は碁盤を覗き込む。目をきらきらさせて見ているその姿に、ヒカルは、やっぱり囲碁バカだなと思う。
「むむ。なかなか、難しいですね。」
佐為は、扇子を口元にあって考えている。ヒカルは、佐為の苦戦する姿に、なかなかの快感を覚えた。
「な!難しいだろ。ここをこうすると、こっちが死んじゃうんだよな。」
ヒカルは、意気揚々と佐為を見る。ムキになっている佐為を見るのは、面白かった。
「ヒカル。少し黙ってください!」
佐為は5分ぐらい考えた後、パタンと少し開いていた扇子を閉じた。
「分かりましたよ。」
「え、もう?」
佐為は、得意げにヒカルをみる。ヒカルが一晩考えても分からなかった問題を5分で解いてしまうと思うと、ヒカルはなんだか悔しい気持ちになった。
「なんだよ。俺、一晩考えても分からなかったんだけど。」
「確かに、ヒカルには少し難しかったかもしれないですね。ヒント言いましょうか?」
「いや、いいよ。自分で考える。」
ヒカルは、どうしても解いてやろうと、まじまじと碁盤をみる。
「うーん。」
昨日から、なんとなく分かりそうな気がしてはいるのだ。ヒカルはちらりと佐為をみる。佐為は、微笑ましそうにヒカルを見ている。
「なんだよ?」
ヒカルはむっとして碁盤から離れる。佐為は、クスクスと笑っているようだ。
「いや、なんだか可愛くって。ヒカル、このままいくと、一週間たっても分からないんじゃないです?」
ヒカルは、佐為に詰碁を出したことを後悔した。
「なっ。バカにすんなよ!こんな問題、一瞬で解いてやるからな。」
ヒカルは、佐為をこの問題が解けるまで付き合わせ、最終的に朝になるまでそれは続いた。
「ヒカル。もういいでしょ。ヒント言いますから!ヒント!」
「ああああああああー。」
ヒカルは、そう言って、佐為がヒントを言おうとするのを阻止する。
「ヒカル!いつまでするつもりですか?もう朝ですよ!学校いってください!」
「やだ!」
「やだじゃないです!」
結局、佐為がヒカルに考えた詰碁を出すという条件で、ヒカルは学校に行くことになった。佐為はヒカルに付き合わされている間、自分でいろいろ考えていたようだ。ヒカルは佐為が考えた詰碁という誘惑に負けてしまった。
「この問題はヒカルに難しすぎるんですよ。もう少しうまくなってから、挑みましょう?」
ヒカルは、佐為に負けたような気がして、胸が晴れない。
「ね。ヒカルにぴったりの問題考えましたから、そっち解きましょう?」
ーーーーーーーーーー
ヒカルは学校の裏庭で突っ伏していた。結局、あの詰碁がとけないどころか、佐為の出した問題も解けてない。
「佐為と会うまでに、解いときてーな。」
どうにか解いてやろうと、昼休み、誰にも邪魔されないところに来たのだ。ヒカルは、佐為に出された問題を紙に書き写していた。書き写した紙を、穴が開くほどみる。
ヒカルは、佐為なら、どうするだろう?と考えた。いつも、悩むとそう考えていることは佐為に秘密だ。
「わかんねー。」
ヒカルは後ろへ突っ伏した。だいたい、佐為も含めて、あそこにいる奴らはおかしい。とヒカルは思う。みんな、始終、囲碁囲碁言っているし、
神様のランク=囲碁の強さ
なのである。ヒカルが全く歯が立たない佐為であっても、敵わない相手はいくらでもいるのだ。そう思うと気が遠くなる。
「何で俺、いつまでたっても勝てねーんだろ。」
ヒカルは佐為と一番、対局することが多いが、未だかつて勝てた試しがない。
「俺って、才能ないのかな。」
ヒカルは落ち込んでいた。そうしていると、なにやら後ろから気配がした。上を見上げると、紫色の変なおかっぱの奴がいた。ヒカルが持っている、詰碁をまじまじと見ている。
「・・・・誰?」
ヒカルは、この怪しい奴に対し、すぐ起きあがり、警戒態勢をとった。
「ご、ごめん。なんか見てるなと思ったら、詰碁だったから。」
ヒカルは眉をひそめる。詰碁だったから何だというのか。変な言い訳に、こいつ大丈夫かと思う。
ヒカルが怪しんでいると、おかっぱの奴は、慌てて、謝った。
「あ、勝手に覗き込んでごめん。ところで、面白そうな詰碁だね。」
ヒカルは、立ち去ろうと思ったが、詰碁に興味津々のようだったので少しはなしてみることにした。
「・・・今、解いてるんだ。」
ヒカルは、そいつに詰碁を見せる。そいつは、佐為みたいに、目を輝かせて、その詰碁を見ていた。ヒカルは、それを見て、こいつも囲碁バカか、と警戒心を解いた。しかし、ヒカルは昨日のことで、中学生のレベルに落胆していたので、こいつもどうせ見るだけ無駄だろうと思っていた。
「もう、いいだろ?そろそろ昼休み終わるし。俺行くわ。」
ヒカルは、そう言って、立ち上がった。長時間考え込んでいたため、「うーん」と背伸びをした。
(結局、解けなかったな。)
ヒカルが立ち去ろうとすると、おかっぱの奴は、すごく残念そうな顔をしていた。その顔を見て、少し、動揺する。
「なんだよ?」
「いや、その問題、解きたかったなって。」
ヒカルは、なるほど。と思う。こいつは顔に似合わず相当な負けず嫌いだと再認識した。
そいつは、「ここなんてどうかな?」と詰碁の場所を指した。
「俺は、そこ、考えたよ。ここうたれると終わりだろ?」
「いや、でも、こうなると・・・」
結局、チャイムが鳴っても、討論は続き、先生に見つかって、連れ戻されることになった。