もし桜が呼び出したのが盾持ちの英霊だったら   作:猿野ただすみ

1 / 9
2021・3・16
サブタイトル変えました。


防御特化と英霊召喚。

間桐家の地下。そこには魔法陣が敷かれており、その前には長い紫色の髪の少女、青みがかった髪の少年、そして年齢が読み取れない老翁がいた。

 

---素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する---

 

少女、間桐桜が魔法陣の前で呪文を唱える。今行われているのは、聖杯戦争の為の、英霊召喚の儀だった。

ただ、今回の召喚にはイレギュラーが起きていた。この日のために手配していた触媒となる聖遺物が、輸送の最中に盗難に遭ってしまったのだ。

その後、触媒は発見されたものの、聖杯戦争の開始までの時間もなく、触媒無しの召喚という苦渋の決断を下したのだ。

 

---告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るベに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ---!

 

呪文を唱え終わると共に魔法陣が輝きを放ち、膨大な魔力が荒れ狂う。やがてそれが収まった時、魔法陣の中には人影があった。

その人物は女性、しかも桜と同じ年頃の少女で、片手に大きな黒い盾を持ち、胴体部分を覆うは黒いアーマー。手甲と具足も黒、肩当ては無い。

その少女を見て、桜とその兄である慎二は驚きの表情を浮かべ、祖父である臓硯は驚愕する。

少女は桜を見ると、ニッコリと微笑み尋ねた。

 

「あなたが私のマスターですか?」

 

と。

 

 

 

 

 

穂群原学園高等部。朝のショートホームルーム中、衛宮士郎は考え事をしていた。

 

(今朝もまた、桜は家に来なかった。弓道部や一年の教室にも行ってみたけど、どうやら学校にも来てないみたいだ)

 

毎日のように衛宮家へやって来て家事を手伝ってくれる後輩が、ここ数日、姿を見せない。それだけなら家の用事で済むのだが、学校にも来ていないとなると、心配も募ってくる。兄の慎二に尋ねてみても、

 

「家の事情に、何首突っ込んでんだよ!」

 

と言われてしまえば、それ以上深くは聞くことも出来ない。士郎は、なんとも言えないやるせなさを抱いていた。

 

「……やくん」

「……えっ?」

 

声をかけられたこと気がつき、伏せていた顔を上げれば目の前に、担任教師の顔があった。

 

「藤ね…、んんっ、藤村先生」

「えーみやくん? 先生の話は、ちゃーんと聞いてたのかなー?」

 

おどけたような口調とは裏腹に、その目は笑っていない。

 

「ええと、……ごめんなさい」

 

スパーンと、丸めた教科書で頭をはたかれた士郎だった。

 

 

 

 

 

どうしてこんな事になったのか、士郎は理解が追いつかずにいた。

慎二に頼まれた弓道場の掃除。思わず精を出しすぎて、日も沈み、気がつけば辺りはすっかりと暗くなっていた。

そして士郎は見た。グランドで二人の人物が、双剣と槍、互いの武器を振るい闘う姿を。

窺い見てることに気づかれた士郎は慌てて逃げる。あれは人間じゃない。あれは超常の者だ。逃げなければ殺される、と。

校舎の中へ入り、階段を駆け昇り、廊下の中程で立ち止まり、息を切らせながら周囲を見回し、誰もいないことを確認すると安堵のため息を吐き。

 

「追いかけっこは終わりだ」

 

ドキリと心臓の音が跳ね上がる。振り向いた先には、タイツに似た青い衣装に身を包んだ、槍使いの男が立っていた。

 

「運が悪かったな坊主。ま、見られたからには死んでくれや」

 

そう言って槍を突き出し---。

 

ギィン!

 

「何っ!?」

 

気がつけば。士郎と槍使いの間には、ボブヘアの少女が盾を構えて、士郎を守るように立ち塞がっていた。

 

「君、は…?」

 

士郎が尋ねると、顔だけこちらに向けた少女は苦笑いを浮かべて。

 

「ええと、……ごめんなさい!」

 

謝ったかと思うと大きな盾を振り上げて、盾の縁で士郎の頭を殴りつける。

 

「なんでさ…」

 

士郎は一言呟き、意識を手放した。

 

 

 

 

 

士郎が意識を取り戻したとき、周りにはあの槍使いの男も、盾の少女も居なかった。士郎は痛む頭を擦りながら、学校をあとにする。

家まで辿り着き、ひとつ息を吐き。

カランカラン、と鳴る呼子の音。それは、敵意を持った者が侵入したのを知らせる音。そして思い至る。自分を殺そうとした男が、果たしてこのまま見逃すのか、と。

慌てて、丸めたままのポスターに魔力を通し強化をかける。

突然天井から姿を現し、槍で突く男。士郎は慌てて身を躱し、ガラス戸を破り庭へ逃れる。

なおも執拗に攻撃をしてくる槍使いの男。その攻撃をなんとか躱し、あるいは強化したポスターで防いでいたが、男の蹴りが決まり、士郎は土蔵の前まで吹き飛ばされる。

土蔵の中へ逃げ込むと、男は士郎へ向け槍を突き出す。その攻撃を、ポスターを開き盾として防いだが、ポスターは粉砕され強化の魔術も解けてしまう。

 

「お前が七人目だったのかもな」

 

足を前に投げ出しペタリと座った状態の士郎にそう言って、男が槍を突き出そうとした時。突如現れた、鎧を纏った女性に槍を弾かれた。

 

「七人目のサーヴァントだと!? ……ってか、またこのパターンかよ!」

 

槍使いの男は毒づきながら、土蔵の外へと飛び出す。そして女性、……少女は。

 

「問おう。貴方が私のマスターか?」

 

振り返り、士郎を見下ろしながら言った。

 

 

 

 

 

少女、セイバーと槍使いの男、ランサーとの闘いは苛烈を極めた。ランサーの槍をセイバーは見えない剣で弾き、また見えないために間合いがわからないながらも、ランサーはセイバーの攻撃を上手く躱していく。

やがてランサーは槍を構え直し、同時に魔力を高めていく。

 

「その心臓、貰い受ける」

 

そう宣言をし。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)!」

 

槍を穿つ。

……それは奇妙な感覚だった。士郎は確かに、セイバーが槍を躱したと認識していた。だが実際は、セイバーの左胸の、さらにやや左上、……肩に近い辺りを貫かれていた。

 

「その槍は呪詛…、いや、因果の逆転か!?」

「躱したな…! 我が必殺の、ゲイボルクを!!」

 

忌々しそうに吐き捨てるランサー。だが、槍の名前を漏らしたことにより、セイバーはランサーの正体に気づく。

 

「正体を知られた以上、どちらかが消えるまで遣り合うのがサーヴァントのセオリーだが、うちの雇い主は臆病者でな。槍が躱されたのなら帰ってこい、なんてぬかしやがる」

「逃げるのか、ランサー」

「追ってくるのなら構わんぞセイバー。ただし、その時は、決死の覚悟を抱いて来い」

 

セイバーの挑発も軽く受け流し、ランサーは撤退をした。

 

 

 

 

 

士郎は混乱していた。駆けつけ少女を見れば、瞬く間に傷は塞がり、自分のことをマスターと呼ぶ。また自分の名を名乗れば、彼女は険しい顔をする。

そうこうしていると、セイバーは衛宮家の塀を跳び越えていく。慌てて後を追った士郎が門を潜ると、右手側でセイバーが赤服の男に斬りかかっていた。慌てて止めようとする士郎。と、そこへ。

 

「やめてくださああああいッッッ!!」

 

()()()()待ったをかける声が響く。その場にいた者が一斉に上を見上げると、大きな黒い盾を持った少女が落下してくるところだった。

 

「なっ」

「くっ」

 

セイバーと赤服の男が飛び退いたそこに、少女は着地する。……いや、地面にぶつかった。

 

「ううー、着地失敗しちゃったよぅ」

「なっ、盾のサーヴァント!? ……アーチャー!!」

 

赤服の少女が赤服の男、アーチャーに命令する。次の瞬間には白と黒、二振りの剣で盾の少女に斬りかかる!

少女は慌てて盾を突き出し。

 

「悪食ッ!!」

 

剣が盾にぶつかるのと、彼女がそう叫んだのはほぼ同時。

 

「なにっ!?」

 

アーチャーは驚愕する。盾に触れた瞬間、二振りの剣は消失してしまったのだから。

 

「吸収したの…?」

 

赤服の少女の呟きに警戒を高めるアーチャー、そしてセイバー。二人がジリッと距離を詰め…。

 

「待ってくださいっ!」

 

またもや上空から聞こえる声。再び見上げると、先程は気がつかなかったが、巨大な何かが浮かんでいた。そのシルエットはまるで。

 

「……亀?」

 

士郎がポツリと呟いた。そう、それはどう見ても巨大な亀だった。

ゆっくりと降下してくる亀の背中から、ひょっこりとこちらを見下ろす人影がある。

 

「衛宮先輩、遠坂先輩、お二人を止めてください。私達には、争う意思はありません」

「桜!?」

「……間桐さん?」

 

間桐桜だった。

 

 

 

 

 

亀の背から降りた桜に駆け寄る、盾の少女。しかし。

 

(……遅い)

 

少女の、あまりにもの足の遅さが気になる士郎。

 

「桜、大丈夫?」

「うん、平気よ。この子、大人しくていい子だから」

 

そう答えて亀を優しく撫でる桜。亀は気持ちがよさそうだ。

 

「お疲れさま、シロップ」

 

少女も亀…、シロップを撫でながら、ねぎらいの言葉をかけてあげる。

 

「カメ~~~」

((鳴いた!?))

 

士郎と遠坂と呼ばれた少女、……凛は内心で同時にツッコんでいた。

二人が驚いている間に、シロップは20センチくらいの大きさにまで縮小する。

 

「ええっと、桜。その子は一体誰なんだ?」

 

士郎の疑問に、しかし答えたのは盾の少女だった。

 

「あ、私は桜が召喚したサーヴァント、ライダーのメイプルです!」

「……ライダーのサーヴァントは、真名を明かすのが習わしなのですか?」

 

セイバーは、疲れたといった表情でツッコミを入れた。最もこの発言の意味を知る者は、この場にはいなかったが。

 

「えっと、私は未来の英霊で、しかもこの世界線じゃ誕生しないから、真名明かしても問題ないんじゃないかなぁ?」

「そういう問題でもなかろう」

「ええ~?」

 

呆れるアーチャーにメイプルは不満気だった。

 

「はいはい、みんな落ち着いて!」

 

手を打ち鳴らし、凛が話の主導権を握る。

 

「こんな所でぐだぐだ話してたって、(なん)にも纏まりゃしないわよ。

衛宮くん、ここってあなたの家よね? 済まないけど、話をするのに使わせてもらえないかしら」

「あ、ああ。構わないけど…。って遠坂!?」

「ちょっと、今更!?」

「先輩…」

 

本当に今更な発言に、凛どころか桜まで呆れてしまった。

 

「……まあ、いいわ。さ、中に入りましょう? どうせ衛宮くんは、何も分かってないんでしょうから」

 

そう言って凛が促し、みんなは衛宮邸の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

……ライダーのメイプル。彼女がこの聖杯戦争に加わったことで、この物語は正史のどのルートとも大きく道を違える事になるのだが、それはまた別の話である。




タグに防振り関連を入れなかったのは、ネタバレになるからです。三日くらいしたら、タグに修正を入れます。

※7/18 タグに防振り関連を入れました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。