もし桜が呼び出したのが盾持ちの英霊だったら   作:猿野ただすみ

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お久しぶりの更新です。


防御特化と説明会。

衛宮邸へと戻ってきたみんなは、メイプルの説明を聞くために居間へと集まっている。とは言え、全員が揃っているわけではない。

桜は気を失ったままなので、宛がわれた部屋で寝かせている。凛は桜に付き添い、メイプルの話はアーチャーからの念話による通訳で間接的に聞くことになり、その為サリーはアーチャーに代わって見張りをすることになった。

 

「えっと、それじゃ説明を始めたいんだけど、まず何処から話したらいいかな」

 

メイプルが訊ねると、士郎とイリヤが視線を合わせ。

 

「そうね、それじゃあ私が伺うわ。シロウは魔術師としての知識が欠けているから」

「……そうだな。俺もそれでいい」

 

士郎は頷き返した。

 

「……とは言っても、聞きたいことは山ほどあるのだけど。でもまず聞くべきは、謎の単語[NWO]かしら。これだけは、ここに居ないリンも含めて私達三人、全く理解できていない事だから」

 

イリヤの発言に、士郎が頷いた。

 

「そっか。うん、そうだね。それじゃあまずは、[NWO]について説明するよ」

 

メイプルはコホン、と軽く咳払いをすると話を続けた。

 

「……通称[NWO]、[NewWorld Online]はVRMMOのゲームのひとつなんだ」

「VRMMO?」

 

新たに登場した単語に、士郎は首を捻る。

 

「[仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲーム]の事で、複数の人が仮想空間内に意識を飛ばして、そこで様々な体験をするゲームだよ。その中でも[NewWorld Online]は、ファンタジーRPGってジャンルだね」

「……ゲーム?」

 

イリヤが複雑な表情で訊ねる。当然士郎も、複雑な表情をしている。

 

「あはは…、やっぱりそうなるよね。でも、嘘でも冗談でもなく、本当のことだよ。この世界線のことじゃないし、こちらでも将来、VRMMOが普及するのかはわからないけど」

 

俄には信じ難いことであるが、メイプルが嘘を吐いているとは到底思えない。それに説明は始まったばかりだ。

 

「……現実世界の私の名前は本条楓。ライダーの私が大河さんに語った名前だね。そしてサリーは白峯(しろみね)理沙。楓と理沙は幼馴染みで、とても仲の良い親友同士だったの。

それである日楓は、理沙に誘われてVRMMOの[NewWorld Online]を始めることになったんだ」

 

二人…いや、セラとリズを含めた四人が、若干の違和感を抱えながらも黙って話を聞いている。

 

「だけどその頃、理沙にはちょっと問題があって…」

「問題?」

「えっと、ちょっと待って」

 

聞き返した士郎に待ったをかけ、例のパネルを呼び出して何かを打ち込む。少し待って、何かを読み。

 

「うん、言っても大丈夫だって。

……えっとね、その頃理沙は学校の成績が落ちてて、ゲーム禁止令が出されちゃったんだ」

「そ、それは…、うん。仕方がないな」

 

学生である士郎としても、身につまされる話題だった。

 

「それでとりあえず、楓が先にゲームを始めることになったんだけど…。えっと、楓って、殆どゲームをしたことが無い、初心者プレイヤーだったんだよね」

「初心者プレイヤー…」

「どういうこと?」

 

何となく嫌な予感がしつつも、聞かずにはいられない士郎とイリヤ。

 

「……最初に職業の選択と、ステータスの振り分けがあるんだけど。痛いのが嫌だから、防御力の高い大盾使いを選んで、更に防御力(VIT)にポイントを全部注ぎ込んじゃったんだ」

「うわぁ…」

 

イリヤがお嬢様らしからぬ声を上げる。ゲームをしてなくてもわかるくらい、下策中の下策だから当然だろう。同時に、あの馬鹿みたいな防御力にも納得がいったのだが。

 

「……えっと、さすがに始めてすぐにミスには気づいたからね? でも、せっかくキャラメイクしたから試しにそのまま進めたんだけど、何だか色々ととんとん拍子に行っちゃって。変わったスキルも手に入れて、調子に乗ってひとりで毒竜退治に行ったら、紆余曲折の末に上手いこと倒しちゃった」

「……ちょっと待って」

 

右手を額に当て、左手を突き出し言うイリヤ。

 

「まさか、バーサーカーを倒したヒュドラって…」

「あ、あれ、毒竜をエナジードレインで倒したら手に入ったスキルだよ。あと、[NWO]ではヒドラだね」

(そうか。あれ、ゲームのスキルだったのか…)

 

士郎は心の中で呟き、ゲームのスキルで倒されたバーサーカーに哀悼の念を捧げるのだった。

 

「そんな訳で、周りから見るとおかしな成長をしちゃったんだけど、お陰で色んなとんでもないスキルを身につけたんだ」

「……確かに、色々ツッコミどころの多いスキルがふんだんに有ったけれど」

 

イリヤが目の当たりにしたものだけでも、[カバームーブ][悪食][パラライズシャウト][大自然][ヒドラ][ピアースガード]そしてシールダーの宝具の[身捧ぐ慈愛]。サーヴァントとして召喚された英霊にしては、例外的なキャスタークラスを除けばスキルが多様に過ぎる。

 

「えっと、これでも結構制限されてるんだよ? さすがに、さっき使った[身捧ぐ慈愛]以外のシールダーのスキルは教えられないけど。

たとえば、シロップの能力はライダー専用スキルだし、[機械神]と[古代兵器]はアーチャーの宝具、[ポルターガイスト]は全クラスで使えるけど、それを利用したレーザーの斬擊はアーチャーじゃないと使えないよ。

[滲み出る混沌]はバーサーカーのスキルで、それに付随する[暴虐]や別スキルの[再誕の闇]はバーサーカーの宝具、他にも[水底への誘い]や[毒性分裂体]もバーサーカースキルだね。個人的には、[蠱毒の呪法]がバーサーカースキルなのは納得いかないんだけど」

「……最後のは、ただの愚痴だな」

 

アーチャーの呟きに、メイプルはうっ、と口篭もる。

 

「……因みに[蠱毒の呪法]っていうのは?」

「毒攻撃をすると、確率で即死効果を与えるんだ」

 

メイプルの答えに、みんなは一瞬口篭もる。

 

「……確かにあなたの場合、共通スキルの方が有難いわね」

 

[ヒドラ]を扱っていたライダーを思い出し、納得せざるを得ないイリヤであった。

 

 

 

 

 

「……話が逸れちゃったね。とにかく私は[NWO]で、色んな意味で有名人になっちゃったんだ。要塞、浮遊要塞、天使、悪魔、触手、ラスボス…。他にも、とにかくもう色んな二つ名が付いちゃった」

「……触手?」

「それは[水底への誘い]で、左腕が触手になったから」

 

メイプルの触手姿を想像し、再びみんなが沈黙した。

 

「えっと、そんな訳で[NWO]では、私ってある意味伝説化しちゃったんだ」

 

その一言に、イリヤがピクリと反応する。

 

「……まさか貴女は、伝説や伝承の英霊だとでも言うの?」

「そうだね。そりゃあ本来のそういった英霊とは違うけど、[NWO]プレイヤーとしての伝説化と、私の参入で[NWO]を大ヒット作に押し上げたっていう、二つの意味でね」

 

ここまで聞き、ようやくイリヤは先程の違和感の意味に気がついた。

 

「……そういう事。さっき貴女自身とカエデが別人の様に語っていたけど、貴女はカエデという存在を雛型として、[NWO]のプレイヤー達と管理者の意思によって形作られた、半ば架空の存在なのね。おそらくは、あのアサシンも同様に」

「さすが御三家のひとり。よく気がついたね」

 

この時、平然と言うメイプルに、愁いを帯びた表情で語っていたライダーとの違いを見て、アーチャーは僅かに違和感を憶える。

 

「そうね。例えば、カエデは初心者プレイヤーと言ってたわね? それならVRMMOというものは知っていても、その正式名称を言えるほど精通していたとは思えないわ」

「確かに。PHSとかATMとか、普通は正式名称知らないもんな」

 

魔術使いなだけあって、電子機器に疎いという事はない、士郎らしい納得の仕方だ。因みにPHSは簡易型携帯電話、英語ではパーソナル・ハンディホン・システム。ATMは現金自動預払機、英語でオートマティック・テラー・マシンである。

 

「シロウは魔術使いだから関係ないかもしれないけど、魔術師は今でも機械に疎い人がいるから。リンだったらPHSやATMすら知らないかも?」

「……今、マスターからの念話で、『さすがにそれくらいは知ってる』だそうだ」

 

アーチャーが目頭を押さえながら言う。もちろん揶揄っただけのイリヤに、念話を使ってまで突っ込む凛に対して呆れたからだ。

なお、「知ってる」と「使える」は別であることを付け加えておく。

 

「あはは、なんか私の話から、変な方向に飛び火しちゃったね。……えっと、[NWO]についてはこれくらいかな? 別に、ゲーム内でどんな事があったかまで話しても、あまり意味がないと思うし」

「……そうね。それじゃああとひとつだけ。アサシン…サリーはどういったプレイヤーだったのかしら? もちろん、明かせる範囲で構わないわ」

 

話を締め括ろうとするメイプルに、イリヤが尋ねる。メイプルは少しだけ、うーんと考え込み。

 

「サリーはゲーム内だけじゃなくてリアルでも、身体能力や反射神経が高いよ。[NWO]ではそれを生かした戦い方がメインだったね。それ以上はさすがにちょっと…」

「わかったわ。ありがとう」

 

マスターとして、サーヴァントの能力の秘匿は充分に理解をしている。もちろん、戦いにおいて相手の能力を調べ尽くすのは当然のことではあるが、相手の口からあっさり聴き出せるはずもないこともまた、当然のことである。

 

「それでは次は、何故、第四次聖杯戦争のサーヴァントである貴女が今ここにいるのかだけれど」

「……うん。でもそれって、聖杯が危険な理由とも関わってるんだよね。だからそれも含めて説明するね?」

 

そう断りを入れて、メイプルは話し始めた。

 

 

 

 

 

「第四次聖杯戦争。さっきも少し話したけど、私は()()()の叔父、 間桐雁夜さんの召喚に応じて呼び出されたサーヴァントだよ。当主の臓硯はバーサーカーを召喚させようとしたらしいんだけど、雁夜さんがわざと詠唱を変更しなかったみたい」

 

本来ならば臓硯の言うとおり、バーサーカーを召喚していたはずの雁夜であったが、こちらでは僅かに反抗心が強かったようである。

 

「……サーヴァントのクラスって選べるのか?」

「バーサーカーとアサシンはね。それに触媒の聖遺物を組み込めば、ある程度は狙った英霊を呼び出せるわ」

 

士郎の疑問に答え、説明をするイリヤ。イリヤ、というかアインツベルンは、まさにその手法でヘラクレスを呼び出したのだ。

ただしこれはバーサーカーの場合。アサシンは本来、歴代のハサン・ザッバーハの誰かに限られているので、召喚者との相性に影響される。今回のサリーは異例の出来事なのである。

 

「多分だけど、シールダーの私が呼び出されたのは雁夜さんの、桜ちゃんを護りたいって想いが影響したんじゃないかな。私も、雁夜さんのそんな想いに共感したしね」

 

メイプルが遠い目をして言うが、見た目は小柄な少女のままなので、イマイチそぐわない姿ではあった。

 

「あ、えっとそれで、雁夜さんがもし聖杯を手にできたら桜ちゃんは必要なくなるから、間桐の、まあ色々と口にしたくないような修行は受けなくていいって事で、雁夜さんと一緒に頑張ることになったんだ」

 

メイプルが何やら気になるような言い回しをしていたが、彼女は上手い言い回しではぐらかすような事には向いていない。その手のことに長けているのはサリーの方である。

とはいえ、そこを聞き出すのは野暮だと思う士郎に、魔術や聖杯戦争とは直接関係ないことに興味を示さないアインツベルン勢、サーヴァントの身である故余計なことを言わないアーチャー。このメンツに限られていたために、一瞬静けさにとらわれただけで終わる。もしこの場に凛がいたなら、どんな反応をしていたかはわからないが。

 

「それで?」

 

滞った話の先を促すイリヤ。メイプルはわざとらしく、コホンとひとつ咳をしてから話を進める。

 

「ええと、戦闘相手や内容はあまり関係ないから飛ばすけど、雁夜さんは魔術師としての無茶な肉体改造をしていたせいで、残りの寿命がごく僅かだったの」

 

一瞬、ほんの僅かにイリヤの表情が曇るが、それに気づいた者はいない。

 

「まだ、維持だけでも魔力を大量に消費するバーサーカーじゃなかったからマシだったけど、でもやっぱり、最後までは保たなかった。そんな雁夜さんは、命が尽きる直前に、令呪に願ったんだ。桜ちゃんを頼むって」

「桜を…」

 

神妙な顔で呟く士郎。だがイリヤは、納得がいかないとばかりに口を挟む。

 

「令呪によるブーストを受けていたとはいえ、現在まで存在を維持するのは不可能なはずよ。仮に魂食いで魔力維持をしていたとしても」

「確かに、その通りだよ」

 

メイプルは頷く。

 

「私には単独行動のスキルがあるけど、令呪のブーストを受けても、聖杯戦争が終結する頃までしか保たなかった。しかも無駄な魔力を使わない条件で。

だけど、サーヴァントが六騎脱落する前に大聖杯は為ってしまった。でも、その聖杯は…」

「キリツグが破壊した。アインツベルンの悲願を成就させることもなく、ね」

 

恨みを込めながら、イリヤは言った。メイプルは再び頷き。

 

「でもね。それは仕方がないことだったんだ」

「何が、仕方がないことだと言うの!?」

 

声を荒げるイリヤに、メイプルは静かに言う。

 

「だってあの聖杯は、(けが)れていたから」

「「「……え?」」」

 

イリヤだけではない。セラも士郎も、声を上げてはいないがリズでさえ驚いている。アーチャーは眉をピクリと動かしていたが、これが驚きなのか、何かを知っていてなのかまではわからなかったが。

 

「あの聖杯は第三次聖杯戦争で取り込まれた、悪神[この世全ての悪(アンリ・マユ)]の紛い物のせいで、強力な呪いに侵されてるんだよ。その聖杯に願うと、どのような願いもねじ曲げられて、人類滅亡に向かってしまう。そういうものなんだ」

「う…そ…」

「本当だよ」

 

メイプルの話を受け入れたくないイリヤのひと言を、バッサリと切り捨てる。そして。

 

「証拠は、この私」

「え? それってどういう…」

 

言ってる意味がわからない士郎。

 

「私がどうして今も顕界してるのか。それは、破壊された聖杯から溢れ出した泥を浴びて、受肉したから。

呪われた聖杯の泥は、サーヴァントにとっては猛毒。普通だったら私も、消滅するか狂わされるかしていたはずだけど、私の[毒竜]は[毒無効]の上位スキル。[サーヴァントにとっての猛毒]という概念のおかげで、呪いそのものの無効化は無理だったけど、何とか抑えることが出来るくらいには弱められたんだ」

 

苦笑いを浮かべて言うメイプル。

 

「でも、それじゃあどうして、今まで桜の所にいなかったんだ? その雁夜って人とメイプルの願いは、桜を護ることだったんだろ?」

「……呪いを受けてしばらくは、私は動けなかったから。ライダーの私でわかってると思うけど、私は痛いことには人一倍弱いんだ。抑えられたとはいえ、呪いの痛みで私は全く動けなかったの。そんな私を保護してくれたのが、もう戦う意思の無かった切嗣さん。そして偽造パスポートと一緒にウェイバーさんに託されて、私はロンドンに渡っていったんだ」

「時計塔か」

「うん」

 

アーチャーの発言に頷き、話を続ける。

 

「その後、痛みに対して普通に生活ができる程度の耐性が出来たのは、二年近く経ってから。そうなってからようやく切嗣さんに会いに日本に行ったけれど、その頃には私と同じ聖杯の泥を受けていた切嗣さんは衰弱していたよ。それでも私の『桜ちゃんと間桐について調べて欲しい』ってお願いを聞き入れてくれて。翌年にはその結果を伝えてもらったけど、あまり良い情報じゃなかったな。

そして切嗣さんからは、もし次の聖杯戦争が起きたときは聖杯を完全に破壊して欲しいと、……そしてもしイリヤちゃんが巻き込まれていたら、どうか救って欲しいって頼まれたんだよ」

「……どうしてオヤジが、イリヤを?」

 

聞かれたメイプルは、一度イリヤを見てから口を開いた。

 

「イリヤちゃんは、切嗣さんの娘さんなんだよ。士郎君の、義理の()()()()だね」

「……え? ええーーーーーっ!?」

 

思わず叫んでしまう士郎。衛宮邸は今夜も、ご近所迷惑であった。




シールダー・メイプルが桜の後を付けていたときに霊体化しなかったのは、受肉していたために出来なかったからです。
後、前々回で宝具の発動が出来たのは、悪食で魔力をため込んでいたためです。因みにリソースは、生物ではありません。生物以外も(一部例外があるものの)悪食の対照のため、生物にこだわる必要性が無いのが理由です。
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