もし桜が呼び出したのが盾持ちの英霊だったら 作:猿野ただすみ
あと、さすがに続きを投稿するので、短編から連載に変えました(完結するとは言ってない)。
バーサーカーとの戦闘から一夜が明けて。
「えええええええええっ!?」
ここ、衛宮邸は朝から騒がしかった。
「ふ、藤ねえ、朝から近所迷惑…」
「だって、桜ちゃんも楓ちゃんも一晩中帰ってこなくて、心配してたら士郎のトコにいて、しかも遠坂さんや、金髪やら銀髪の美少女までいるのに、これが驚かずにいられるわけないじゃないの!」
言われてみれば、成る程その通りである。だがしかし、それよりも。
「……楓?」
気になった士郎が視線を彷徨わせると、メイプルが無言で、自身を指差しているのが視界に入った。
(……ああ、メイプルで楓か)
意外と単純な理由だった。
「士郎、どうかしたの?」
「あ、いや、なんでもない!」
尋ねられた士郎は、やや狼狽気味に答える。大河はそれを訝しむが。
「先輩、藤村先生、ご飯出来てますよ」
「大河さんは先生なんだから、早くしないと遅刻しちゃいますよ?」
桜とメイプルに言われ、ハッとする大河。
「そうだったわねー。さー、楽しいご飯の時間よー」
気持ちを切り替えた大河が席に着くのと入れ替わるように凛が立ち上がり、桜の元に近づく。そこに士郎も加わったところで、凛は桜に言った。
「メイプルの設定、後で詳しく。口裏を合わせなきゃならないからね」
「ああ、俺からも頼む」
「わかりました。では後ほど」
三人は短く言葉を交わすと、各々が席に着いた。
「ふうん、それでセイバーちゃんは切嗣さんを頼って日本に…」
「はい」
朝食を取りながら、いつしか話題がセイバーについてに変わっていた。取りあえず、セイバーは士郎の死んだ養父、衛宮切嗣の昔の知り合いで、切嗣の死を知らずに彼を頼って日本に来た、ということにした。士郎は内心ドキドキだったが、セイバーは相変わらずの涼しい顔である。
「そっかー。それは大変だったわねー。
それじゃあ次は、イリヤちゃんの番ね!」
士郎の心臓の鼓動が跳ね上がる。イリヤは成り行きで保護したものの、バーサーカーを倒したこちらを非常に敵視していた。とんでもない爆弾発言でもしないか、内心気が気でない。
士郎のそんな思いに気づくはずもないイリヤは、手にした食器を置き、口を開く。
「私は、シロウに会いに来たの」
『……は?』
みんなが一斉に、疑問の声をあげる。
「えっと、それってどういう…」
大河は顔を若干引きつらせながら尋ねた。
「私の死んだ母は、キリツグの知り合いだったわ。キリツグが日本で死んだことも、私は知ってる。
今回所用で日本に来ることになった私は、キリツグの子供であるシロウに会おうって、心に決めてたのよ」
保護者と言いつつ依存状態にある大河は、士郎が取られる危機を感じて警戒していたが、イリヤの話を聞いてその警戒を弱めた。
「イリヤちゃんも、切嗣さん絡みか。そういえば切嗣さん、しょっちゅう海外に行ってたみたいだもんねー」
昔を懐かしみながら言う大河。
「……それで私は、本来イリヤに付き添うはずだった方に頼まれて、こうして衛宮くんの元まで同行して、朝食までご馳走になる事になったんです」
ここぞとばかりに、自分が衛宮邸にいる理由をでっち上げる凛。
「成る程。……そうなると後は、どうして桜ちゃんと楓ちゃんは、士郎の家にいるのかなー?」
大河は笑顔である。笑顔であるが、怒りのオーラはダダ漏れである。その圧は、英霊であるメイプルでもタジタジになる程だ。
その状況を救ったのは凛だった。
「……あー、実は恥になるので言いたくなかったのですが、昨夜、私達が衛宮くんに会ったとき、色々と行き違いがありまして。一触即発、という時に間桐さん達が通りかかって、仲裁をしてくれたんです」
「そ、そうなんだ! それで、もう夜も遅いってことで、みんな家に泊まっていくように勧めたんだよ」
士郎も慌てて口裏を合わせる。だが、あながち嘘というわけでもない。セイバーがアーチャーを斬り伏せようとした所を止めたのが、メイプルとマスターである桜だったのだから。
「えー、普通ひとり暮らしの男子の家に、女の子泊めるー?」
大河の意見はもっともである。
「でも、先輩ですから」
困ったような諦めたような、そんな表情で言う桜。
「まー確かに、士郎に他意が無いのはわかるけど」
大河も、不貞腐れながらも納得している。
(……なんだろう。信用されてるはずなのに、このしっくりこない感じは)
士郎は、半ばディスられていることに気づいていなかった。
「……まあいいわ。でも二人とも、ものすっっっごく心配したんだからね? どんなに遅くなってもいいから、必ず連絡すること。いい?」
「はい…」
「済みませんでした」
メイプルと桜がシュンとして謝る。そして普段子供っぽく見える大河も、こういうのを見るとやっぱり大人なんだな、と認識する士郎だった。
「行ってきまーす!」
元気よく家を出た大河は、衛宮邸の前に止めてあったスクーターに乗って出勤していった。
人数分の食器を片し終えた後、居間に戻った士郎が席に着く。
「さて、全員揃ったわね。それじゃあ間桐さん、説明をお願い」
凛が場を仕切って、桜に説明を請う。
「いや、アーチャーがまだだろ?」
「アーチャーは見張りよ。大丈夫、アーチャーはそもそも人前に出すつもりはないし、念話で伝えれば問題ないわ」
士郎はまだ少し疑問に思うが、そういうものかと納得することにした。
「それじゃ間桐さん、改めてお願い」
「はい。ええと、ライダーの名前は『本条楓』、間桐の遠い親戚、ということになってます。
『本条』の家では今、ゴタゴタが起きていて、『楓』は間桐に避難をしてきたけど、お祖父様がいい顔をしなかったので、二人で家を飛び出して、藤村先生に保護された、という形に納まってますね」
「なんだか、桜のお祖父さんがヒドい扱いになってないか?」
会ったことは無いが、少しばかり擁護をする士郎。しかし。
「いいんだよ、あのお祖父さんのことは!」
メイプルがまたプリプリと怒り出してしまった。
「メイプルは、よほど間桐臓硯の事が嫌いみたいね?」
「うん、嫌いだよ。あのお祖父さんも、お兄さんも」
凛の問いかけを、あっさりと肯定するメイプル。それは普段の彼女からは、想像が出来ないものだった。
「ええと、臓硯さん? だけじゃなく慎二もって、一体何があったんだ?」
確かに最近、慎二が桜に暴力をふるっていることに、士郎も気づいている。しかしそれにしても、メイプルの怒り方はおかしな気がした。いや、怒りと言うよりも、毛嫌いしていると言った方が正しい気がしている。
だがメイプルは、首を左右に振り。
「……それは、言えないよ」
悲しげな表情を浮かべながら言った。そんな彼女を見て士郎も、それ以上聞き返すことは出来なかった。
「……まあ、他の家の事情にまで首を突っ込むのも野暮ってものね。間桐さんのことは深くは聞かないわ。
さて、それじゃ今度はイリヤの事ね」
凛は視線をイリヤに移し、話を続ける。
「バーサーカー…、ヘラクレスに託されたのもあって貴女を保護したけど、今後の事は出来るだけ貴女の意向に添えるようにするつもりよ? もちろん制約は付くけど」
そう言われ、イリヤは小さく笑みを浮かべる。
「そう。なら私は、シロウと一緒に暮らしたいわ」
『……は?』
士郎は目が点になり、桜はイリヤを凝視し、凛は若干怒りを滲ませた表情に。セイバーはただじっとイリヤを見つめ、メイプルは他人事である。因みに念話で状況を認識しているアーチャーは、ヤレヤレといった表情だ。
「何を驚いているの? 私はシロウに会いに来たんだもの、同じ家に居てもおかしくはないでしょ?」
「そんな、それこそ藤村先生に言った作り話に合わせる必要はないでしょう?」
凛がそう切り返すと、イリヤは呆れたという表情でため息を吐く。
「私の話が作り話だなんて、どの口が言うのかしら」
「どの口って、え?」
「アインツベルンは、冬木の聖杯に携わる御三家のひとつ。そしてエミヤキリツグは、第四次聖杯戦争のマスターのひとり。それならお互い関係があっても、おかしくはないでしょう?」
イリヤの説明に、頭を殴られたような衝撃を受ける凛。
「まさか、同盟を結んでいたの!?」
「さあ、どうかしら?」
からかうような笑顔を浮かべるイリヤ。
「どちらにせよ、私がタイガに話したことに、嘘、偽りはなかったって事。
……だから、ここに泊めてもらってもいいでしょ? ね、お兄ちゃん?」
イリヤはここぞとばかりに、士郎におねだりをする。けれど士郎とて、幼いとはいえ女性を連日泊めるのは気が引けてしまう。あと、年頃の男子故に、心が落ちつかなくなるというのもある。
「ええと、だけどイリヤにも、保護者みたいな人はいるんじゃないのか?」
だがこの切り返しは、士郎にとっては悪手であった。
「それじゃあ、セラとリズもこちらへ呼ぶわ。それならいいでしょ?」
「……因みに、その二人の性別って」
「モチロン女性よ」
「……だよな」
自分の首を絞めた事に気付き、小さくため息を吐く士郎。しかし話はこれで終わったりはしない。
「ちょっと待ちなさい! 敗退したとはいえ、マスター権限を残してる者をヘッポコのマスターの元に置くなんて、認められるわけないじゃない!」
敵である士郎の事などどうでもいいはずなのに、凛は思わず口を挟んでしまう。もっとも、この非常になりきれないところが、人としての凛の美点であり、同時に魔術師としての欠点であるのだが。
「それじゃあリンも、シロウの家に泊まればいいじゃない」
「な、ええっ!?」
イリヤにそう振られて慌て出す凛。更には。
「と、遠坂先輩が泊まられるのでしたら、私も先輩の家に泊まります!」
桜までもが張り合うように名乗りを上げた。
「それじゃあ桜のサーヴァントである私も、士郎さんちに泊めてもらわないと!」
当然メイプルも追随する。そして。
「シロウ。よもや貴方のサーヴァントである私を、頭数に入れていない等という事は、ありませんよね?」
と告げるセイバー。
「お兄ちゃん」
「ええと、衛宮くん?」
「先輩!」
「士郎さん?」
「シロウ」
五人に詰め寄られ、タジタジになる士郎。
「だ、だけど、藤ねえになんて言ったら…」
「それはお兄ちゃんに任せるわ」
笑顔のイリヤが、間髪を入れずに言ってのける。士郎は大きく肩を落とし。
「なんでさ…」
そう呟いて、盛大にため息を吐いた。
冬木市内を歩く、ひとりの少女。それは大空洞の中で佇んでいた、あの少女であった。
彼女の目的は、衛宮士郎に会うこと。そしてもうひとり、間桐桜に会うこと、である。
しかし彼女は、衛宮邸でも、間桐邸でもない場所を彷徨っていた。その理由は、「なんとなく」こちらへ来た方がいいと思ったから、である。
そして彼女は、ひとつの寂れた洋館を目にする。そしてそして、またもや彼女は、「なんとなく」洋館の中へ入っていく。そしてそしてそして。
「え…」
彼女は、ベッドの上に寝かされた左腕の無い女性を見つけてしまったのだった。
メイプルが怒った理由。藤村組では普通の人間として過ごすため、取らなくていい睡眠を取ってました。つまり…。