もし桜が呼び出したのが盾持ちの英霊だったら   作:猿野ただすみ

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一応アニメ版ZERO設定モチーフ。


防御特化とストーカー。

士郎と凛が登校し、アーチャーが霊体化してついて行った。家出中の桜は衛宮邸に残り、洗濯などの家事をしている。メイプルは桜の手伝いだ。

やがて昼になり、四人は、なんとなく気まずい昼食を済ませ、桜とメイプルは食器をかたづけた後に干していた洗濯物を取り込みに行く。

そして居間には、イリヤとセイバーだけが残されていた。しばらく、ふたりの間には沈黙が続いている。ふたりはお茶を飲んだり、お茶菓子を食べたりしてその場を凌いでいた。が、ついにはイリヤがひとつ息を吐き、怒ったような、それでいて困ったような、複雑な表情で口を開いた。

 

「言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうなの? ()()()()()?」

 

イリヤからの語りかけに、僅かながらも狼狽するセイバー。

 

「……それではやはり、貴女は()()イリヤスフィールなのですね?」

「その通りよ。それにしても本当に、前回の記憶が残ってるのね?」

 

英霊は召喚時の記憶は引き継がれない。当然イリヤもその事は知っていた。

 

「ええ、まあ…」

「それじゃあ聞きたいんだけど、キリツグは本当にアインツベルンを裏切ったの?」

 

アイリスフィール(母親)(かたど)った何かに教えられ、ユーブスタクハイト(アハト爺)からも聞かされ、自身もまた疑ってはいなかった。これはイリヤにとって、ただの確認作業に過ぎない。

 

「……少なくとも、令呪を使い、私に聖杯の破壊を指示したのは事実です」

 

そう、と小さく頷くイリヤ。特に感情を顕わにしていないが、だからこそ痛々しいと感じるセイバー。なまじ十年前の彼女を知っているため、余計にそう感じてしまうのだろう。

 

(……いけませんね。リンが言っていたではありませんか。イリヤスフィールはマスター権限を失っていないと。それなのに、シロウ(マスター)の敵となり得る者に情を感じるなど、あってはならないことです)

 

セイバーは自分に言い聞かせ、感傷を振り払った。

 

「あれ? ふたりで何話してるの?」

 

と、そこへメイプルが割り込んできた。

 

「キリツグの事を聞いてただけよ」

「あ、そっか。セイバーは前の聖杯戦争の記憶があるんだったね。それで、士郎さんのお父さんってどんな人だったの?」

「それは…」

 

メイプルの問いにセイバーが言いあぐねる。

 

「嘘つきよ」

「え?」

 

イリヤの突然の一言に、言葉に詰まるメイプル。

 

「私との約束をひとつも守らなかった、ろくでなしよ」

 

淡々と語るイリヤ。けれどそこから、恨みのようなものは感じ取れた。

 

「そ、そうなんだ…。あ、そうだ! これから桜と、買い出しに行かなくちゃいけないんだった!」

 

いかにも取って付けたような ── 本当はこれを伝えに来たので、取って付けた訳ではないが ── 理由を述べて、そそくさと退場するメイプル。それを呆れた顔で見送るイリヤだった。

 

 

 

 

 

夕食の買い出しに来た桜とメイプル。スーパーで食材を選んでいると、おば様方の噂話が聞こえてきた。

 

『新都にある古びた洋館で、片腕がもがれた外国人女性が見つかったそうよ。意識不明の重体だって』

『あらやだ、怖い。それってもしかして、教会の近くの?』

『そう、あそこ。なんでも救急に、匿名の電話がかかってきて駆けつけたらしいわ』

 

そんな僅かな情報に、しかし桜の胸はざわつく。

 

〈ライダー、これってまさか…〉

〈わかんない。でも、可能性はあると思う〉

〈聖杯戦争の関係者…〉

 

念話で情報交換をするふたり。ふたりが着目したのは片腕がもがれ、されど命が奪われていないという事。サーヴァントの魂喰いなら命を奪う方が楽であるし、生かすにしても通り魔を装った方が、後の隠蔽工作もしやすい。そうなると「片腕が無くなっている」という状態が意味を持ってくる。

 

〈……令呪の強奪?〉

〈かもしんない。だとしたら、本来とは違う人がマスターになってるって事だけど〉

 

しかし答えは出ない。飽くまでも、推測の域を出ない問題だからだ。

 

〈……どっちにしても私達じゃわかんないし、続きはみんなが帰ってきてからだね〉

〈そうね〉

 

そう、会話を締め括ったところで。メイプルの肩がぴくりと震え、スーパーの出入り口を振り返る。

 

「どうしたの、ラ…楓?」

「誰かに見られてた気がしたんだけど…、気のせいかなぁ?」

 

そう、首を捻るメイプルだった。

 

 

 

 

 

スーパーの外では。

 

(ええっ、あれって桜ちゃん? わあ、大きくなったなぁ。……ってそうじゃなくて、一緒にいるのはもしかして!? え、なんで!? いや、可能性があるのはわかってるけど!!)

 

洞窟の少女がテンパっていた。彼女にとっては、桜と一緒にメイプルがいることが信じられなかった様だ。

そんな事を悩んでいると、店内の桜達が買い物を済ませて出てくるところだった。少女は慌てて身を隠し、その姿を目で追う。

 

(ああ、行っちゃう。うう、とにかく後をつけた方がいいよね?)

 

色々な意味で顔を合わせづらい彼女は、とにかく後をつけることにした。だがそれには、かなり気を遣わなければならない。何しろメイプルが、普段の抜けた感じとは裏腹に妙なところで勘が働く。

かなりの距離をとり、細心の注意を払いながらついて行くと、辿り着いたのは。

 

(ええっ、ここって切嗣さんの…、衛宮の家!?)

 

目的のひとつである、衛宮邸の門を通り抜けていくふたりを見て、驚く少女。慌てて駆け寄って、門前から敷地の中を覗き込むと。

 

『お帰りなさい、サクラ』

(えええっ、あれは切嗣さんのサーヴァントの騎士王!?)

 

桜達を出迎えた人物に、さらに驚きを重ねる少女。余りにも予想外の展開に頭を悩ませる。

表通りから外れて、衛宮邸の塀に背を持たれながら考え込んでると、門の方から再び人の気配がした。こっそり顔を出すと門前に、白い変わった衣装に身を包んだふたりの女性がいた。ふたりが門を通り抜けていくのを見て、再び門前に駆け寄り覗き込む。

 

『来たわね。セラ、リズ』

『お嬢様、この様なところに()られたとは』

『イリヤ、私心配した』

 

そんな会話を聞いて、おや? となる。

 

(イリヤって、何処かで…。あっ! 前に切嗣さんから聞いた! ……って事は、あの子が切嗣さんの!?)

 

思い至った彼女は、頭がこんがらがる。

 

(えーと、ここって切嗣さんの家で、そこに騎士王がいるのは当然で…って、今は第五次聖杯戦争だから! それに桜ちゃんもサーヴァント連れて衛宮邸にいるし、イリヤ…ちゃん? もここにいて…)

 

だが彼女は、更に混乱することになる。

しばらくすると、男女が会話をする声が聞こえてきたので、そちらへと視線を向ける。

 

(あ…、あの赤毛は士郎君! ……と、あの両サイドアップの子は?)

 

そんな疑問を浮かべてると、両サイドアップの子、凛が一瞬何も無い空間に目配せをした後、士郎と共に衛宮邸へと入っていった。

 

(ええっ!? もしかして彼女さん!? ……じゃなくて、彼女も多分マスターだね)

 

そして同時に警戒する。サーヴァントの姿が見えなかったのは、霊体化して行動していたのだろう。そう考え、不審者である自覚のある彼女は、警戒せざるをえなかったのだ。

 

(でも、う~ん…。これって一体どういうことだろ?

士郎君は多分、騎士王のマスターだよね? でもって桜ちゃんもマスターで、衛宮邸にいる。そして両サイドアップの子もマスターで、やっぱり衛宮邸に。

あと、イリヤちゃんだけど、アインツベルンが聖杯戦争に参加しないなんて考えらんないし、彼女も多分マスター。そしてやっぱり、衛宮邸にいる。

……つまり、七人の参加者の内四人がこの家に揃ってるってこと? って言うか、御三家と同盟組んでるの?)

 

彼女の推測は、強ち間違ってはいない。彼女は知る由もないが、遠坂凛も当然御三家の一人である。つまり遠坂、間桐、アインツベルンという、始まりの御三家すべてと同盟を組んでいることになるのだ。ただそれが、イリヤの発言が発端の済し崩し的なものという、身も蓋もない理由だったが。

やがてスクーターのエンジン音が聞こえてきたためにそちらを見ると、丁度大河が門の前にスクーターを停めたところだった。と、ふいと大河が洞窟の少女の方へ視線を向ける。慌てて彼女は身を隠す。

 

『……うーん、誰かに見られてた気がするんだけど。ま、気のせいか』

 

そう言って大河は門を潜って入っていった。

 

(あー、びっくりしたぁ。大河…さんってば、相変わらず勘がいいなぁ)

 

洞窟の少女は冷や汗をかきつつも、ホッと胸を撫で下ろした。

 

(……さて、と。今、桜ちゃんや士郎君に会おうとしたら、絶対警戒されちゃうよね。特に、たぶん今、見張りをしてるサーヴァントに。

本当なら出直した方がいいんだろうけど、今は聖杯戦争中で、いつ、どうなるかなんてわかんないし、今日はここで様子を見ることにしよう!)

 

そう、今後の方針を定めた少女。しかし彼女は、その選択を後ほど悔いることになる。

 

 

 

 

 

「……なんでさ」

 

家に併設された道場で、士郎が疲れた口調で言った。

結局、凛、桜、イリヤにセイバー、メイプル、更にアインツベルンのメイド二人を家に泊めることになった訳だが。

大河も学校で、虚実交えて説明を受けていたものの、実際現状を目の当たりにしてさすがに爆発した。セラとリズ…、リーゼリットが加わっていたことも、原因のひとつだろう。そして挙げ句には、何やかんやでセイバーと勝負することになり、道場に移って剣道勝負。最優の英霊であるセイバーの敵ではなく、あっさりと負けてしまった。

それでまあ、色々あったものの、大河からのO.K.が出てしまったわけである。しかも何だか、親密になっている。

一方の士郎としては放っとけないものがあるが、それでも異性ばかりがこの家に集まっている状況はいかんともしがたかったので、はっきり言って大河が最後の頼みの綱ではあったのだ。もっと言えば、凛がこの家に泊まる理由は同盟の事を除けば希薄なものであるし、イリヤもワガママを言ってるだけ、保護者もいるので、わざわざここに来る必要などない。監視などは凛か聖杯戦争の監督役に任せても構わないはずだ。

 

「……まあ、仕方がないか」

 

とはいえ、結局お人好しな性分である士郎は、最後は諦め半分でそう言うしかなかった。

 

 

 

 

 

食事を終え、大河が帰ってからスーパーで得た情報を共有し、その後部屋割りで揉めたりもしたが、それぞれに宛がわれた部屋へと移り、深夜。

 

「……何か用かね、ライダー」

 

屋根の上から見張りを続けるアーチャーが、後ろからの気配を感じ取り声をかける。

 

「うわあ、よく私ってわかったね?」

 

メイプルが驚いて尋ねた。アーチャーは軽く息を吐き。

 

「君以外に、大きな物体が浮上してくる気配が感じ取れた。なら、あの亀に乗って君がやって来たのだろうと思ったまでだ」

「そうかぁ。やっぱりまともな英霊は違うなぁ」

 

メイプルの発言に、今度はアーチャーが訝しむ。

 

「そう言う君は、真っ当な英霊ではないと言うのかね? ……いや、さすがにそれには答えられんか」

「あ、別に構わないよ? 確かに詳しいことまでは言えないけど」

 

疑問を撤回しようとしたアーチャーに、あっけらかんと言うメイプル。とはいえ、自らの真名すら暴露するそんな彼女でも、さすがに答えられないことはあったようだ。

 

「本物の私は、英霊になれる様な器じゃないんだ。それがある理由で、ちょっとした伝説みたいなのを作っちゃって。だから元になった私はいるけど、私自身は伝承や逸話の存在に近いかな」

「ふむ…」

 

アーチャーは顎に手を当て、軽く考え込み。

 

「では[本条楓]というのは、君を構成する元となった、オリジナルの人物の名前ということかね?」

「うん。そうだね」

 

メイプルは、少しだけ寂しそうに笑った。暫し流れる、気まずい空気。

 

「……あー、ところで先ほどの答えを聞いてなかったな。私に何か用があるのかね、ライダー」

 

この雰囲気を変えるため、アーチャーが最初の疑問を口にする。

 

「あ、別に大したことじゃないよ。ただお話をして、アーチャーがどういう人だか知りたかったんだ。ほら、一応同盟みたいな感じになっちゃったし」

「そういう事か。だが聖杯を手に入れられるのは一組だけ。やがては敵同士になるのだぞ?」

「そうだね」

 

メイプルはちょっと困った顔をして、そして言った。

 

「でも私の願いは、桜を守ってあげたいって事だけ。桜は、わかんないけど…。だけど、聖杯を使う気はないみたい。だから、桜が無事なら、私は敗退したって構わないよ」

 

メイプルの真っ直ぐな想い。ただその想いは、桜の想いとほんの少しだけすれ違っていたことに、メイプルは気づいていなかった。




メイプルと桜の想い。それは桜とメドューサの想いと似て非なるもの。
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