もし桜が呼び出したのが盾持ちの英霊だったら 作:猿野ただすみ
深夜。士郎は土蔵で、日課である魔術の訓練をしていた。いや、正確には訓練をしている内に眠ってしまっていた。とはいえこれは、しょっちゅうやらかしている事。朝食を作りに来た桜に起こされることもある。
だが、この日に限って言えば、いつもとは違っていた。
士郎が気がつくと、そこは柳洞寺の境内だった。手足や首は、視認できない糸のようなものに絡め取られ、身動きが取れないようになっている。
やがてフードを被った女性が現れた。フードの女性、キャスターの目的は、士郎の令呪だった。
「まさか新都の、片腕をもがれた女性ってのもお前が!?」
桜とメイプルから聞いた噂を思い出す士郎。
「あら。その様な事件があったの。けど、残念ながら見当違いよ。だって私なら、腕をもぐなんて乱暴なやり方しないもの。まあ、魔術回路ごと引っこ抜くから、かなりの苦痛が伴うと思うけれど」
キャスターはそう答えて、口許に笑みを浮かべた。
「シロウ?」
セイバーが突然目を覚まし、隣の、士郎の部屋を覗くが姿が見えない。慌てて庭に飛び出すと、土蔵から円蔵山に向かって、魔術で編まれた幾本もの糸が続いている。
「セイバー? どうしたの?」
屋根の上からメイプルが見下ろしながら尋ねる。その隣には無言のまま、アーチャーが佇んでいた。
「シロウがいなくなりました!」
「ええっ!?」
メイプルは驚きながら、屋根から飛び降りる。
「……いかんな。ライダーと話に興じていて、肝心の見張りを疎かにしてしまったようだ」
同じく飛び降りたアーチャーが言い訳染みた事を言っているが、セイバーは何故だか空々しいと感じていた。
「私は魔術の痕跡を追います!」
セイバーは疑念を振り払い、飛び出そうとするが。
「待ってください! 先輩がさらわれたんですか!? それなら私も行きます!」
外の騒ぎに気づいた桜が顔を出し、そして。
「まったく、アーチャー! 見張りもまともに出来ないの!?」
起き抜けで機嫌の悪い凛が、自らのサーヴァントをどやしつける。
「本当、シロウってば、魔術師のくせに隙がありすぎるんだから」
そしてイリヤは、既に着替えの服に袖を通していた。
「セラとリズはここで待機よ」
「しかしお嬢様!?」
「命令よ。その代わり二人とも、この家をしっかりと守ること」
「……! わかり…ました」
セラは渋々と引き下がる。一方のリーゼリットは、イリヤをじいっと見つめて。
「イリヤ、気をつけて」
「わかっているわ」
感情を感じ取れない言葉に、しかしイリヤは微笑みを浮かべて応えた。
「シロップ、 巨大化!」
メイプルがシロップを再び巨大化させる。
「桜、乗って!」
「うん!」
メイプルに促された桜は、厚手の上着を羽織り、躊躇うこともなくシロップの背中に飛び乗った。
「ごめんみんな。私と桜は先に行ってるよ!」
そう告げるとシロップを浮上させ、円蔵山目がけて移動を始めた。
上空から糸を辿っていくと、やがて柳洞寺が見えてくる。そして寺の入り口、山門に差しかかったところで、下を覗いていた桜が同い年くらいの、ひとりの少女の姿を目にした。
「ライダー。門前に、私達と同じくらいの見た目のサーヴァントがいるんだけど。それに…」
「え? どれどれ…」
そう言って桜と同じく覗き込もうとしたが。
ばちぃっ!
「かめー!?」
「あわわっ!? え、何? 結界?」
シロップが、柳洞寺の敷地に張られた結界に弾かれてしまったのだ。
「……うーん。これってサーヴァントが無理に通り抜けると、ステータスダウン喰らっちゃうっぽいね。
……もしかしたら、参道を通らないといけないのかな? それで桜が見たサーヴァントは、門番してるとか」
中々鋭い意見である。
「でも、もしそうだとしても、そんな回り道はできないよ。早く、先輩を助けなくちゃ」
桜の意見にうーんと唸り。
「……桜、使ってもいいかな?」
「うん。お願い」
桜は即断だった。
「それじゃあ、宝具開放! シロップ…!」
メイプルは宝具の発動を決め。
「精霊砲!!」
「か…めーーーっ!!」
解き放った。
それは、シロップの口から放たれたエネルギー砲。精霊砲は結界を貫通し、一時的に綻びを生じさせた。
「シロップ、突撃ーーー!!」
メイプルはその綻びから、シロップで強行突破をするのだった。
一方セイバー達は、柳洞寺参道の長い階段を駆け上がっている。もちろんメイプルの様な例外を除けば、いくら強化をかけようとも魔術師が英霊の身体能力に敵うはずもなく、セイバーがイリヤを、アーチャーが凛を抱きかかえながらの移動だ。
やがて山門が見えて。
「どうやら、素直に通してはくれないみたいね」
「ああ、その様だ」
山門の前には、先ほど桜が確認したサーヴァントが立ち塞がっていた。
そのサーヴァントは、メイプル程ではないが小柄な少女。青と白を基調としたコートに、青いマフラーを首に巻いている。そして手には、左右それぞれに短剣が握られていた。
(アサシンのサーヴァント…)
セイバーが少女を見て思う。今だ確認が取れていないサーヴァントはキャスターとアサシン。しかしその装備を見る限り、キャスターには見えない。もちろん装備だけで確定は出来ないが、彼女からは魔術師らしさが感じ取れなかった。
セイバーとアーチャーが二人を降ろし、少女のサーヴァントと対峙する。セイバーは見えない剣を構え、アーチャーは陰陽の双剣を手にする。
「貴女がシロウを拐かしたのですか」
セイバーの質問に、少女は思案顔をして。
「ああ、さっきの赤毛の…。あれはキャスターがやったことよ。私は関与してないわ」
そう答えてから剣を構え。
「って言っても、ここを通すわけにはいかないけどね」
たん! と地を蹴り、アーチャーに斬りかかる。
キイィン、と高い音を響かせ剣と剣がぶつかり合う。二人が数度切り結んだ後、少女はバックステップで間合いを取ろうとし。セイバーが斬りかからんと踏み込んでくる。セイバーが剣を振り下ろし。
「!? これは…!」
手応えはなく、少女の姿は崩れ消え失せる。その直後、背後に感じた気配に、セイバーは前方に転がり込む。寸前までセイバーが立っていたその位置に二筋、剣が閃いた。
「……直感スキルか」
呟くと追い討ちはせずに距離を取り。その視界に黒い魔力の塊が映り込む。凛が牽制に放った呪いの魔弾、ガンドだ。
「攻撃誘導!」
ガンドは少女の脇を逸れて飛んでいく。少なくとも凛にはその様に見えた。
そして。その瞬間から少女の周りを青白い光が覆い始めた。
「覚醒!
少女は小さな白い狐の使い魔を召喚し、スキルを解放すると、少女が五人に分裂した。その内二人が凛、そしてイリヤに襲いかかり。
ひゅん、とアーチャーが投擲した一対の双剣がそれぞれに突き刺さり消滅させる。
更にセイバーが一体、アーチャーが新たに出現させた双剣でもう一体を斬り伏せる。
「ナイスよアーチャー」
「ふうん、変わった魔術ね。自身の幻影に実体を持たせた、投影魔術の応用かしら。興味深いけど、さすがに本物からは数段性能が落ちるみたいね」
凛が自分のサーヴァントを褒め、イリヤが少女のスキルを冷静に分析をする。
(……それにしても)
凛は思った。
(あの朧っていう使い魔、似ているわね)
柳洞寺の境内。
「ぐあああああ!」
キャスターによって士郎の令呪、そして魔術回路が引き抜かれようとしていた。士郎も必死に抵抗はしているが、それも時間の問題だったろう。……何も起きなければ。
どおっ、という激しい音と共に、蒼白い閃光が結界を突き破る。そして結界の綻びから、巨大な亀が侵入してくるのが見てとれた。
「とう!」
亀から人影が飛び降りてくる。それは、当然メイプルであった。
「百鬼夜行!」
落下中のメイプルが叫ぶと、二匹の鬼が召喚された。
「いっけえ!」
不様ながら鬼と共に着地したメイプルが指示をすると、鬼達がキャスター目がけて襲いかかる。
しかしキャスターが放つ魔力弾によって、鬼達はあっさりと光へと還っていく。
その間にもメイプルは士郎の元へと駆け出していたが、如何せんメイプルはサーヴァントにあるまじき低スピードである。キャスターはメイプルに向かって複数の魔力弾を放つ。例えダメージを与えられなくても、令呪を奪うまでの間、足止めさえ出来ればいいのだ。
だが、魔力弾がメイプルに届く前に。
「カバームーブ!」
瞬時に士郎の前に移動をした。キャスターは術を止め、慌てて距離をとる。メイプルはそれには目もくれず。
「悪食!」
士郎を縛り上げる魔力の糸へと盾を振り下ろし、魔力リソースとして吸収しつつ士郎を解放した。
「士郎さんは返してもらうよ!」
そんなメイプルを見て、キャスターはニヤリと笑う。
「そんな悠長にしていて、いいのかしら?」
視線はメイプルから逸らさず、しかし攻撃用に展開した魔法陣が向いていたのは。
「シロップ…、桜!?」
士郎は空に浮かぶシロップを見上げ、覗き込むように下を見ていた桜と目が合った。
「さようなら、ライダーのマスターさん」
「やめろおおおおお!」
士郎は叫ぶが、掴みかかろうとするよりも前に、キャスターの魔法陣からは魔力砲が放たれた。
しかしもちろん、メイプルもただ黙って成り行きを見守っているわけもなく。
「シロップ、大自然!」
「かめ~~~」
メイプルの指示と共にシロップがスキルを発動させる。それは地から植物の太い蔓を発生させるもの。蔓はシロップの前を覆い、魔力砲を相殺する。
「!? ……全く、幾つスキルを持ってるのよ!」
さすがにキャスターの口から、愚痴がこぼれ出した。
と、そこへ。
「「「士郎/シロウ!」」」
士郎の名を呼び現れたのは、セイバー、凛、イリヤの三人。
「な、アサシンは何をしてるの!?」
今度はややヒステリック気味に声を上げる。
「アサシンなら、私のサーヴァントが引き受けてるわ。同じ双剣使い同士、お互い引けを取らない戦いっぷりよ」
凛は煽るように言い返した。
参道では凛が言ったとおり、アーチャーとアサシンが剣を交えていた。打ち合いはどちらも引けを取らず、互いが攻守一体をなしている。
しかもアサシンがアーチャーの攻撃を躱す毎に、少しずつ彼女の攻撃力が上がっているように感じられた。
更に数合打ち合い、どちらからともなく距離を取る。
「……ふむ。正直驚いているよ。まさかアサシンがこれ程真っ当に打ち合えるとは。いや、侮っているわけではないのだがね」
「それはこっちのセリフ。私が知ってるアーチャーは、こんな闘い方してなかったわよ。……まあ、おかしな方向に進化してった知り合いもいるけど…ねっ!」
言ってアサシンは、アーチャーに斬りかからんと飛び出し。
ヒュン! と陰陽の双剣を投げつけるアーチャー。
「攻撃誘導!」
アサシンが再び攻撃を逸らすような動作をする。しかし、それに動揺する素振りも見せずに、アーチャーは再度双剣を出現させて斬りかかった。
キィン! と高い音を響かせ、剣と剣がぶつかり合う。
「残念ながら、その手は喰わんよ」
剣を打ち合いながら、アーチャーは話を続ける。
「攻撃を任意の方向に逸らすスキル、……の様に見せてはいるが、実際はその身体能力で躱しているに過ぎない。謎のスキルの様に見せて、相手を惑わそうとしていたようだが…。
「……前言撤回。あなたのその観察眼は、知り合いのアーチャーを彷彿とさせるわ」
言ってアサシンは、アーチャーから距離を取ろうとバックステップを践むが、そうはさせじとアーチャーは詰めてくる。
「 ──
突如、アーチャーが唱え始めた言葉。
「 ──
「なっ!?」
気が付けば左側から飛来する陰陽の剣。アサシンは自身の双剣でそれを弾く、が。
「 ──
「くっ!」
今度は右側から双剣が襲い、それも弾く。
「 ──
(これって、剣同士が引き合ってる…?)
その考察を肯定するかのように、弾いた剣は再びアサシンに向かって軌道を変える。そしてアーチャーが手にした双剣が姿を変え、刀身が伸び。
「 ──
アーチャーが斬り込み、四本の短剣が宙から襲いかかる。
「鶴翼三連!!」
躱す手段ならあった。しかしアサシンは、敢えてアーチャーの前へ突き進み、自らその一刀を身に受ける。
「なに!?」
驚愕するアーチャー。確かに切り裂く手応えがあった。なのにアサシンは、
[空蝉]。一日に一度だけ。受けた致死性のダメージを無効化する。それがそのスキルの正体だった。
アサシンは双剣を納刀し、アーチャーの脇をすり抜けるように後ろへと回り込み。
「
アーチャーが双剣を出す度に、小さく唱えていた短い言葉をアサシンが紡ぐ。するとその両手には、アーチャーと同じ双剣が手に納まっていた。
「虚実反転! ──
「何だと!?」
アサシンの詠唱と共に、アーチャーの二対の双剣が反応をする。即ちアサシンが持つ双剣は、
「 ──
右側から飛来する双剣を弾くアーチャー。
「 ──
更に左側から飛来する双剣弾く。
「 ──
しかしアサシンの双剣は変化せず、黒と白の短剣のまま。
「 ──
されどそこには気も止めず、アサシンはアーチャーと距離を縮める。
と、その瞬間、アーチャーへと襲いかかる二対の双剣が姿を消した。そもそも双剣はアーチャーが出した物。アーチャーがその存在を破棄すれば、消えてなくなるような、そんな物なのだ。
モーションはほぼ同時。ならば長身で、刃渡りの長い剣を所持するアーチャーの方がリーチが長い分、有利である。
「超加速!」
瞬間、アサシンが急加速し、瞬時にアーチャーの後ろを取る。攻撃態勢に移っていたアーチャーは、一瞬対応が遅れた。その隙を逃すまいと、アサシンは手にした双剣を振り下ろそうとし。
その時、アーチャー・アサシンのどちらでもない、第三者の声が響いた。
「救いの手!」
いつの間にかアーチャーとアサシン間に立つ、一人の少女。彼女の言葉の直後、アサシンの頬を半透明の手がそっと撫で…。
「っっきゃああああ!!」
アサシンは絶叫をあげるのだった。
今回は防振りアニメ1期以降のスキルとネタの簡単な説明です。
百鬼夜行:赤鬼と青鬼を一体ずつ、計二体を召喚するスキル。
知り合いのアーチャー:アニメでも第3回・第4回イベントに名前のあったギルド、[ラピッドファイア]所属の人物。
空蝉:本文記載の通り。
「
虚実反転:虚を実に、実を虚に反転させるスキル。この場合、[ホログラム]で造った虚像に[虚実反転]をかけ、創り上げたアーチャーの双剣を実在のものにした。ただし若干の制約はある。
救いの手:使用者の装備スロットを二つ増やす効果のある、幽霊の手。今回は別の使い方をした。