もし桜が呼び出したのが盾持ちの英霊だったら 作:猿野ただすみ
アーチャーとアサシンがしのぎを削り合っているその裏では。
「ライダー、サクラを降ろしてください。中途半端に離れていては、キャスターの標的になりかねません」
セイバーの指摘の通り、まさに先程標的にされたばかりなので、メイプルは素直にシロップを降下させる。シロップの背に乗っていた桜は、士郎が差し出した掌に自分の掌を重ねて降り立った。
「間桐さんはこっちへ」
「シロウも! 二人を守るくらいなら、なんとかなるから」
凛とイリヤの発言に、ムッとする士郎。
「何を言ってるんだ。俺だって闘うぞ!」
「あんたこそ何言ってんのよ。策もない、真っ当な準備もないこの状況じゃ、私だって身を守るので精一杯。出来たとして、時々牽制して援護するくらいのものよ。
それとも、私の足元にも及ばないへっぽこな士郎に、それを覆すだけの策でもあるわけ?」
「それは…」
凛の正論に、悔しそうに視線を逸らす士郎。
「……相談は終わったか?」
そこへ突如かけられた声。気配は無かった。しかし、凛も士郎も桜も、その声には聞き覚えがあった。
「葛木先生!?」
それは穂群原学園の教師、葛木宗一郎のものだった。
「宗一郎様! この様な場所に出て来られては…!」
「構わん。キャスターにばかり任せるわけにもいかないだろう」
淡々と語りながら、凛達へと近づいていく葛木。セイバーが見えない剣を構える。メイプルも駆けつけたかったが、キャスターを放っておくことも出来ないでいる。
「まさか、葛木先生がキャスターのマスターなんですか?」
「……なら、どうだというのだ」
桜の言葉にも、平然とした態度で答える葛木。
「先生は、街で頻繁に起こっているガス漏れ事故が、キャスターの仕業と知っているのですか?」
「え、遠坂!?」
「……宗一郎様、しばしお待ちください」
凛の発言に、驚いてみせる士郎。一方、興味を持ったキャスターは葛木を止め先を促す。
それを見た凛は、士郎に言い聞かせるように説明を始めた。
「ガス漏れ事故とされてる事件が、魔術師かサーヴァントによって起こされていたことには気づいていたわ。ただ、今までそれが、誰の手によるものかわからなかっただけ。
だけどサーヴァントが出揃った今、もっとも可能性が高いのは、キャスターのサーヴァント。セイバーとライダーは勝手にそんな事するタイプとは思えないし、士郎や間桐さんもそんな命令をするとは思えない。バーサーカーは既に敗退、ランサーは命令されればわからないけど、やり方が彼とはそぐわない。アサシンはどちらかといえば、通り魔的なやり方が本分だと思う。そしてアーチャーは、私のサーヴァント。令呪で縛りをかけてるから、そうそう勝手は出来ないわ。
……魔術師の関与も否定はできないけど、以上のことから犯人はキャスターに絞られるわ。その動機は魂食い、魔力の収集。殺していないのは、教会側の隠蔽がし易いように、といった所かしら? どう、キャスター?」
それだけのことを言い、キャスターへ視線を送る。
「……生意気で小賢しい小娘ね。本当、私の大嫌いなタイプ」
忌々し気に言うキャスター。そして少し間を開けて。
「そうね。概ねそんな所よ。まあ、教会のためと言うより、盛大にやり過ぎて宗一郎様が目を着けられないように、という配慮だけれど」
これだけは譲れないとばかりに付け加えるキャスター。第四次聖杯戦争を記憶しているセイバーは、当時のキャスター陣営を思い出し納得する。
「聞いたでしょう? それでも葛木先生は、キャスターに手を貸すのですか?」
ここぞとばかりに葛木へと問いかける凛。しかし返ってきたのは。
「それの何が悪いというのだ?」
という予想外の返答。
「例え他の誰かが何人死のうとも、私には関係のないことだ」
「何を…、言ってるんだ」
士郎は混乱した思考のまま聞き返す。
「魔術師が、他人を巻き込んでも構わないって言うのか!?」
「私は魔術師ではない。ただの朽ち果てた殺人鬼だよ」
「な…」
「私はお前達の戦いに関与するつもりはなかった。……が、些か気が変わった」
言って、再び歩を進める葛木。
「ならば、ここで死しても構わんのだな、キャスターのマスターよ!」
「宗一郎様!?」
「させないよ!」
セイバーは、あっという間に自身の攻撃範囲まで距離を詰め、見えない剣を葛木の胴に一閃させ。フォローに入ろうとするキャスターの前に、メイプルが割り込み邪魔をする。
「なっ!?」
「侮ったな、セイバー!」
セイバーは驚愕する。葛木は左肘と左膝で挟み込む様にして、セイバーの剣を受け止めたのだ。
キャスターからの魔力アシストを受けた葛木は、セイバーの後ろへと素早く回り込み、その首筋に拳を振り下ろして…。
「カバームーブ! カバー!!」
咄嗟に割り込んだメイプルが、盾でその攻撃を防ぐ。そして。
「悪じ…ッ!」
悪食を発動しようとし、しかし躊躇い、言葉を飲み込んだ。だがそれは、大きな隙となる。
盾の向こう側からの衝撃。それはダメージを与えるためのものではなく、メイプルを吹き飛ばすためのもの。魔力で強化されたその拳は、充分にそれを可能にしていた。
「か、かめ~!?」
吹き飛んだメイプルは士郎達の間を抜け、シロップの甲羅にぶち当たった。
「ご、ごめん、シロップ! ……カバームーブ!」
メイプルは謝り、直ぐさま士郎達の前まで移動する。
「なるほど。全くダメージを受けないのか」
「防御力には自信があるからね」
葛木の発言に、警戒しながらも言い返すメイプル。
「それなら、こういうのはどうかしら?」
言うとキャスターが魔術を発動し、地面から複数の骸骨が武器を携えて顕れた。
「お行きなさい、竜牙兵ども」
キャスターが命じると、竜牙兵と呼ばれた骸骨達がメイプル達へ群がるように近づいていく。
「ええっ、ちょっと!? ……パラライズシャウトッ!」
短刀をちんっと鳴り響かせ、数体の竜牙兵を麻痺させるが、ハッキリ言って焼け石に水である。
「シロップ、大自然!」
続けて大自然で発生させた蔓を絡ませ足止めを試みるが、呼び出された数をカバーしきれない。
(うう、
メイプルには本来、とんでもないスキルが数多く存在したのだが、その内の幾つかは別のクラスの宝具に割り当てられ、更にそれ以外のスキルも一部、クラス専用となっている。結果、本来の彼女の戦闘スタイルからかなり制約を受けた状態になっているのだ。
唯一、悪食だけは本来よりも使い勝手が良くなってはいるが、それでも現在のクラスではある欠点のために、やはり制約がかかってしまう。
「ライダー、ぼーっとしてないで!」
そんなメイプルに、凛が檄をとばす。そして手の先を竜牙兵の一体に向け、黒い魔力の塊、呪いの弾丸[ガンド]を撃ち出した。ガンドが命中すると、竜牙兵は粉砕して崩れ落ちる。
そしてイリヤは、魔力を通した針金で自身と桜の周囲を覆い、簡易的な結界を張った。
「この程度の敵なら、私の魔術でも対応できる。イリヤの結界も簡易的なものとはいえ、簡単には破壊できないはずよ」
「ならば…」
すうっとメイプルの横をすり抜け、葛木が凛の目前へと迫る。
「あっ!? カバームーブ! カバー!!」
またもや瞬時に移動して、凛の前で盾を構えるメイプル。しかしその時には既に、メイプルを避けるように僅かに進路を逸らし、小さく回り込んで凛の真後ろに位置取られていた。
「えっ、うそ!?」
その人間離れした動きにメイプルは驚き、次の行動に繋がらなくなってしまう。
葛木が凛の首元へ右手を伸ばし。
「させるかっ!」
追いついたセイバーが葛木を叩き切らんと、見えない剣を振り下ろす。しかし葛木は左拳で、見えない剣の腹を叩き、剣の軌道を逸らしてしまう。更に凛に向かっていた右手の軌道が奇妙に変わり、セイバーの首を捉えていた。
「カバームーブ! シールドアタック!」
カバームーブで凛の前に移動したメイプルが、間髪を入れずにシールドアタックを放つものの。
ぶん!とセイバーを
「あ、ふたりとも大丈夫!?」
「……ええ、大丈夫、よッ!!」
次の瞬間、凛がメイプルの目の前に手を突き出し、その顔の横を黒い塊が通り過ぎる。その突然の攻撃に、すぐ後ろまで迫っていた葛木が大きく身を躱していた。
(くそっ! 遠坂やイリヤだってみんなを守るために頑張ってるのに、俺は逃げ回ることしか出来ないのか!?)
特別に武器を持っているわけでもなく、戦うための魔術を持たない士郎は、竜牙兵から逃げ回っている。柳洞寺の境内には棒きれひとつ落ちておらず、たまにしか成功しない強化の魔術すら意味をなさないのだ。
その矢先に、メイプル達が葛木に追い詰められる。
(……駄目だ! このままじゃ遠坂が、……いや、みんなやられちまう! ちくしょう! 武器が、武器が欲しい! そう。あの英霊が使っていた様な、あんな武器が!!)
学校の校庭でランサーと対峙していた、アーチャーの双剣が脳裏に浮かぶ。その一瞬の後には躊躇いなく、自身の魔術回路に魔力を通し。
「
魔術を発動させた。
「ぐ…、があああああ!?」
しかし、長いこと使っていなかった回路に急激に魔力を流し込んだために、魔術回路は悲鳴を上げ強烈な痛みが奔る。
だがそれをも無視し、その両手に陰陽の双剣を出現させた。
「うそ…」
「
凛とイリヤが目を剥いて驚く。とはいえ、投影魔術が珍しいというわけではない。ただ士郎が、英霊が使っていた武器を遜色なく投影させたという、常識外れなことを仕出かしたことに驚いたのだ。
士郎は葛木に向かって駆け出し、間に割り込む竜牙兵を斬り崩し。肉薄したふたりが拳と剣の乱打を、打ち込み、弾き、打ち込み返すを繰り返す。葛木はまだしも、先程までの士郎には考えられない技の切れである。
そしてふたりは、どちらからともなく距離を取る。
「シロウ!」
「士郎さん!」
セイバーとメイプルが駆け寄ろうとするが。
「葛木は俺が抑える! ふたりはあの骸骨達をなんとかしてくれ! 遠坂はふたりの援護を!」
「ッ! ……判りました」
マスターを守りたいと思いつつも、現状、竜牙兵をそのままにする訳にもいかず、渋々ながらも了承するセイバー。事実、竜牙兵を早々に片付けることが出来れば、さすがにキャスターと葛木も撤退するだろうという目算はあったのだ。
「行きますよ、ライダー、リン」
「うん、わかった!」
「任せなさい」
「パラライズシャウトッ!」
メイプルが竜牙兵数体を麻痺させると凛がガンドを飛ばし、セイバーが範囲の外にいた竜牙兵へ斬り込んでいく。
しかしその数故に、どうしてもその全てには手が回らない。討ち漏らした竜牙兵は士郎やイリヤ、桜の許に向かっていく。
「カバームーブ! 悪食ッ!」
即座に移動し、悪食で吸収。
「カバームーブ! パラライズシャウトッ!」
再び凛の許に戻り、先程までの作業に戻るメイプル。しかしその様な行動にはどうしても無理があり、徐々に防衛ラインは下がってゆく。更に。
「カバームーブ! 悪食ッ!」
何度目かのその行動に、しかし竜牙兵は消滅しない。
「え、もう使い切って…? あっ、士郎さんを助けるために使った一回、数え忘れてた!?」
そう、悪食の制約。それはその使用回数だった。悪食は一日に十回までの使用制限がかけられている。再び使える様になるには、日を跨がなければならないのだ。
それでも数え間違えてさえいなければ、使い切ってからもシールドアタックに攻撃方法を切り換えれば済んだのだが。
竜牙兵までの間合いは近すぎ、シールドアタックのための勢いはつけられない。毒攻撃やヒドラを使うには、みんなとの距離が近すぎる。だが、竜牙兵をこのまま近づけるわけにもいかない。故にメイプルは。
「シロップ、大自然!」
大自然で呼び出した蔓を自分に勢いよくぶつけ、自身を弾丸として竜牙兵に体当たりして粉砕、更にそのまま凛の近くまで吹き飛ばされた。
「……なんて方法使ってるのよ」
呆れたように言う凛。いや、実際呆れてるのだが。
「あはは。パラライズシャウト!」
メイプルは笑いつつも、竜牙兵を麻痺させる。しかしそれは、戦場ではしてはいけないことの表れでもある。それは即ち。
「油断したな?」
今までこの場にはなかった、第三者の声。声のした方を向けば、イリヤの張る結界の外、結界の中にいる桜のすぐ真横に、青いタイツに似た戦闘着を着たサーヴァント、ランサーがいた。
どうやってこの場所に潜り込んだかなど、どうでもいい。メイプルはただ、槍を構えて桜を狙うランサーを止めることにだけ思考が向いていた。
「カバームーブッ!!」
桜の前に移動し、盾を構えるメイプル。しかしその盾はランサーの槍で、下から掬い上げるように弾き上げられてしまう。万歳をした格好のメイプルは、完全に無防備な状態だ。
ニヤリと笑い、素早く槍を構え直すランサー。そう。桜は囮で、彼はこの瞬間を狙っていたのだった。
「その心臓、貰い受ける!」
「しまっ、ピア…」
メイプルが対応するよりも速く。
「
ランサーの槍は、メイプルの胸を貫いていた。
「……え、ライダー? ……い、いやっ! いやあああああ!!」
桜が絶叫する。
「な、まさかライダーが…」
さすがにセイバーも驚きを隠せない。しかし。
「……貴女も、油断したわね?」
「なっ!?」
「
キャスターから歪な短剣を突き立てられたセイバー。途端にセイバー、士郎の両者に、お互いの繋がりが感じられなくなってしまう。
更にキャスターはセイバーの反撃よりも早く、彼女を魔術によって拘束してしまった。
「な…」
余りにも急激な展開に、士郎は二の句が継げずにいる。いや、士郎だけではない。凛やイリヤも言葉が出ないでいるのだ。
槍を引き抜かれたメイプルが横たわっている。
「……痛い。痛い、よぉ…」
呻くように言うメイプル。彼女は、痛みによる耐性がない。痛みには弱い、普通の少女。それが彼女の、本来の姿なのだ。
「驚いたな。確かに霊核を破壊したのに、まだ姿を保ち続けるか。しかし、いずれは座に戻ることになるだろうよ」
ランサーは感心した様に言い。
「だが、このまま苦しませるのも後味が悪いな。今、止めを刺してやるよ」
そして引き上げた槍を突き下ろして…。
「カバームーブ! カバーッ!」
大きな黒い盾に防がれる。
『なっ!?』
葛木と泣き崩れていた桜以外が驚き、声を上げる。
盾を構えてそこにいたのは、長い黒髪に白いワンピースを着た、この場には似つかわしくはない少女。だが、皆が驚いたのはその出で立ちではなく。
「ライ…ダー……?」
呟くように言う桜。そう。彼女の顔立ちは、メイプルにそっくりだったのだ。
長い黒髪に白いワンピース。原作の防振り読者にしかわからないだろうな(二期、そこまで行かんだろうし)。