もし桜が呼び出したのが盾持ちの英霊だったら   作:猿野ただすみ

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防御特化と幼馴染み。

皆が山門の前までやって来ると、そこにはアーチャーと、拘束帯で雁字搦めにされたアサシンの姿があった。

 

「お待たせ、サリー」

「メイプル、遅ーい!」

 

シールダーはアサシンをサリーと呼び、アサシンはシールダーをメイプルと呼ぶ。それだけで二人が顔見知りである事は伺い知れた。

 

「ちょっと、アーチャー。どうしてアサシンを倒さなかったのよ!」

 

問い詰める凛に、やれやれといった表情でアーチャーは答える。

 

「こちらのお嬢さんに頼まれてね。助けられた身としては、無下に断るわけにもいかなかったのだよ」

「え…、助けられた?」

 

凛には信じられなかった。確かにアサシンは厄介な戦い方をしていたが、本業で無い戦い方をしたアーチャーでも、その技能は劣っていたとは思えなかったのだ。

しかし、その認識には齟齬がある。アーチャーの剣技は確かに目を見張るものがあるが、彼自身に剣の才はないに等しい。ただ、地道なまでの努力による賜物だ。

だが、アサシンには才があった。それは剣の才とは違うが、それでも今回の戦い方においては、明らかにアーチャーを凌いでいたのだ。

 

「私がサリーの弱点を突いただけなんだけどねー」

「あのタイミングで救いの手は反則でしょ。いくら慣れたって言っても、心の準備が出来てればってだけだし」

「でも、言っちゃえば私達も…」

「言わないでっ! 考えない様にしてるんだからっ!」

 

そんな二人のやり取りを見ていると、さっきまでの戦闘が嘘のようである。

 

「えっと、和んでるところ済まないけど、あなた達って知り合いなのかしら?」

「あ、ごめん。うん。私とサリーは幼馴染み…、だよ」

 

凛の質問に答えるメイプル。しかし少し、歯切れが悪い。ライダーから話を聞いているアーチャーは、何となく察してはいたが。

 

「それでメイプル、首尾はどうだったの?」

 

アサシンが訊ねると、メイプルは表情を曇らせる。

 

「……セイバーは士郎君との契約が切られて、キャスターにさらわれちゃった。ライダーの私は、ランサーに貫かれて…。私が霊核を受け継いでる」

「そう。それで、その背負われた子は?」

 

士郎に背負われた桜に視線を移し、アサシン…サリーは聞いた。

 

「桜ちゃんはライダーのマスターだし、あまりにも色々あったから、緊張の糸が切れちゃったみたい」

「そっか」

 

サリーは頷く。そしてしばらく静寂が包み。

 

「……それで? シールダーはアサシンをどうするつもりなの?」

 

凛が現状で一番大事なことを訊ねた。しかしメイプルがそれに答えるよりも早く、サリーが口を開く。

 

「メイプルにだったら、私は倒されても構わないよ」

「ちょっと、サリー!? 私はサリーと一緒に…」

「そんなの無理だって、メイプルだって判ってるでしょ? 捨て置かれたって言っても、私がキャスターのサーヴァントである事に変わりはないんだから」

「それは…」

 

そう。サリーはキャスターとの契約が切れていない。サリーにその意思が無かったとしても、令呪を使われればいつメイプル達と敵対してもおかしくはないのだ。

 

「それに私は、この門に縛られて離れられないし」

 

これに関してはサリーにも理由が判らなかったが、本来この場にキャスターによって召喚されるはずだった男の、身代わりで召喚されたための不備でもある。

 

「そうね。仮に契約を破棄できたとしても、新たに契約者が現れなければ、やがてその体は維持できなくなって座に戻る運命だものね」

 

凛が補足の説明を入れる。するとメイプルが。

 

「代わりになれる人ならいるじゃない。イリヤちゃんと士郎君が」

 

等とのたまった。確かにイリヤも士郎も、現状サーヴァントを所持していないマスターである。しかし。

 

「残念だけど、私は再契約する気なんて無いわ。私のサーヴァントは、バーサーカーだけなんだから」

 

けんもほろろ、イリヤには取り付く島もない。するとメイプル、今度は士郎を見る。

 

「……俺にとっても、サーヴァントはセイバーだけだ。……だけど、セイバーを取り戻すまででいいなら、一時的に契約してもいいとは思う」

 

この答えに、メイプルはホッとする。

 

「でも、最初の課題が残ってるわよ? どうやってキャスターとの契約を断ち切るつもり?」

「あ…」

 

さすがにこの問題が解決できなければ、いくら再契約先を見つけても意味を成さないことである。

 

「……もしかしたら、出来るかも知れない」

「はぁ?」

 

突然そんな事を言い出す士郎に、凛は素っ頓狂な声をあげた。

士郎は背負っていた桜をそっと下ろし、サリーの前へ移動する。

 

「 ── 投影開始(トレース・オン)

「ちょ、まさか!?」

 

投影魔術を発動させようとする士郎を見て、何をしようとしているのかに気づき、凛は驚愕する。

 

「 ── 基本骨子、解明

  ── 構成材質、解明」

 

士郎はより丁寧に、投影すべきものの構造を組み上げていく。

 

「 ──、 基本骨子、変更…

  ── 、 ── っ、構成材質、補強…」

 

しかし、徐々に士郎が苦悶の表情へと変わっていく。身体中の魔術回路が悲鳴を上げているのだ。

 

「士郎君、無理しないで!」

 

心配そうに士郎を見るメイプル。しかしそれが、先程サリーに見せた表情を思い起こさせる。

自分のことは頭数に入れず、他人のために無茶をする。それが衛宮士郎という男である。

 

「 ── 全工程、完了(トレース・オフ)!」

 

そして無茶を通した士郎の手には、歪な形の短剣が握られていた。

 

「それって、キャスターが使ってた…」

「キャスターの宝具まで…って、シロウの投影魔術、おかしすぎるわよ!」

「いや、おかしいって言われても…」

 

凛とイリヤに言われても、投影魔術に関する()()()()()()()()士郎には、戸惑って言葉を濁すしかない。

 

「……ええと、それで私にとどめを刺すつもり?」

「人聞きの悪い事、言わないでくれ!」

 

サリーの問いに、慌てて否定する士郎。

 

「冗談。あなたの声が昔の知り合いに似てたから、揶揄っただけよ。それで、その短剣は何なの?」

 

揶揄われたことに文句を言おうとするも、サリーが素早く質問を重ねてきたため、少しだけ不貞腐れた表情になる士郎。

 

「……これはキャスターが、俺とセイバーとの契約を断ち切るために使っていた物を複製したんだ。これを使えば、君とキャスターとの契約を破棄できるんじゃないかと思ってね。上手くいけば、この場所からも離れられるかも知れない」

「なるほどね」

 

納得し頷くサリー。拘束されていなければ、腕を組んでいただろう。

 

「それじゃいくぞ?」

「うーん。仕方がないとはいえ、初ダメージがこんな理由だなんてね」

 

[NWO]では回避盾としてノーダメージを通してきたサリーとしては、これには少しばかり納得がいかなかった。とはいえ、自身が言っていたとおり、契約破棄のためには仕方がないことでもあった。

士郎はサリー目がけて短剣を突き立て。

 

破戒すべき全ての符(ルール・ブレイカー)!」

 

真名を解放する。するとサリーから、キャスターとの繋がりが断ち切れた感覚がした。

 

「……うん。キャスターとの契約は破棄されたみたいね」

「サリー、良かったぁ…」

 

メイプルが安堵のため息を吐く。

 

「それじゃあ彼女の拘束を解いて…」

「待ちなさい、士郎」

 

サリーの拘束を解く様に促したところで、凛が待ったをかける。

 

「今のはあくまでも、彼女からの申告に過ぎないわ。拘束を解いた途端に襲ってくる可能性もあるのよ」

「ちょっと、サリーが嘘ついてるっていうの!?」

 

凛の説明にメイプルが食ってかかる。しかしそれを諌めたのは、サリー自身であった。

 

「彼女が言ったとおりだよ、メイプル。今のはあくまで、私からの申告でしかないわ。慎重に慎重を重ねるくらいじゃないと、聖杯戦争を生き残るのは難しいんだから仕方がないわよ」

「サリー…」

 

サリーに諭され、メイプルは膨れっ面でいじけた。

メイプルとしては、幼馴染みの親友が貶されたことが腹立たしかったわけだが、英霊として存在しているメイプルにもサリーの言っている意味が理解できるため、最終的にはむくれることくらいしか出来なかったのだ。

 

「そんな訳だから、ええと、士郎さんだっけ? 早く私と契約を済ませて」

「え、ああ、えっと…。なあ、遠坂。契約ってどうやるんだ?」

 

サリーに促された士郎は少し悩んだ後、凛に訊ねた。

 

「……ああ、そう言えばあんた、イレギュラーで英霊召喚したんだっけ」

 

額に手を当て、軽くため息を吐く凛。

 

「わかった。それじゃあ、これから私が言うとおりに詠唱をして」

「あ、ああ。頼む」

 

士郎は頷き、サリーへ体を向けると、凛に言われて令呪の宿る手をサリーへとかざす。

 

「 ── 告げる

汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に」

 「 ── 告げる

汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に」

 

「 ── 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら」

 「 ── 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら」

 

「 ── 我に従え。ならばこの命運、汝が剣に預けよう……!」

 「 ── 我に従え。ならばこの命運、汝が剣に預けよう……!」

 

士郎が詠唱を終えると、サリーはニコリと笑い。

 

「アサシンの名にかけて、その誓いを受けるわ。

……真名サリー、士郎さんを主と認めてあげる」

 

士郎の契約を受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

サリーとの契約の繋がりを確認したのち、彼女に施された拘束を解く。サリーは立ち上がると、大きく伸びをした。

 

「あー、やっと自由に体が動かせるっ!」

 

サリーが漏らした言葉(いやみ)に、凛が苦笑いを浮かべる。

 

「それでアサシン…サリーは、ここから移動できそうか?」

「ん、ためしてみる」

 

士郎の問いに短く答えると、サリーは長い階段の下を見て。

 

「超加速!」

 

スキルを発動させて、一気に階段を下っていった。そして少しの後に、同じ勢いで士郎達の元へ戻ってくる。

 

「凄い凄い! 私、自由に行動できる!」

 

先程とは違い、心の底から喜ぶサリー。やはり、長いこと同じ場所に縫い止められるのは、結構なストレスとなっていたらしい。

 

「良かったね、サリー。……あ、そうだこれ」

 

サリーと共に喜ぶメイプルが、ふと思い出して取り出したのはひとつの指輪。それはメイプルがしているものと酷似しており、しかしワンポイントは亀ではなく狐であった。

 

「私が預かってた、サリーの[絆の架け橋]」

「預かってた、じゃなくて取り上げてた、でしょ?」

「え? あはは…」

 

誤魔化す様に笑いながら、サリーに手渡すメイプル。そう。[救いの手]で無力化されている間に、メイプルがサリーから取り上げてしまったのだ。

 

「ねえ、それって…」

「これは[絆の架け橋]って言って、テイムモンスターを使役するのに必要なアイテムなんだ」

 

メイプルが自分の指輪(絆の架け橋)を見せながら、凛に説明をする。

メイプルも、全てのクラスで所持はしているものの、その特性上クラス振り分けの犠牲となり、ライダーのクラスでしか使用できないアイテムでもあった。

そして現在指に嵌めているものは、十年前に桜に渡したものではなく、霊核を取り込んだライダーの物を受け継いでのものだ。

 

「……やっぱり。あの時の、朧とかいう使い魔、なんかシロップと似た雰囲気があったのよ」

 

あの戦闘の最中に感じた直感のようなものに間違いは無かったと、一人納得をする凛。そしてすぐに。

 

(こんな事に喜ぶなんて、心の贅肉だわ。……まあ、ここの所、贅肉溜め込んでばかりな気がするけど)

 

自身を律しようとして、むしろここ最近の行いを思い出して自嘲する羽目になってしまうのだった。

 

「それじゃあいい加減、士郎君の家に行こっか。ちょっと人数多いけど、シロップだったら全員乗せられると思うし」

 

メイプルの発言に、凛は驚き訊ねる。

 

「ちょっと待って。シロップって使えるの? あなたが霊核を譲り受けたときに消えていなくなったけど?」

「あれはライダーが、一時的に消失したからだと思う。今は私がライダーでもあるから、呼び出すことは可能だよ。さすがに宝具は使えないけど」

 

相変わらずとんでもないことを、平然と言ってのけるメイプルだった。

 

 

 

 

 

そして、衛宮邸。

 

「……セラ、あれ」

 

庭に立つリーゼリットが上空を指さし、隣に立つセラがそちらを見れば、徐々に近づく巨大な亀のシルエットが浮かびあがっていた。

亀、シロップは衛宮邸の庭にゆっくりと降り立ち。

 

「帰ったわよ。セラ、リズ」

 

シロップの背中から降りたイリヤが、二人に声をかける。その後ろでは、背から降りた士郎が背に残ったままの凛から、桜を受け取り抱きかかえた所だった。

 

「メイプル、お姫様抱っこだよ!」

「うん。ちょっと憧れるね」

 

野次馬と化した幼馴染み二人がそんな事を言っているが、士郎は聞こえないフリをする。

そんな二人も、いつまでも揶揄う気はないらしく、さっさとシロップから飛び降り、メイプルはシロップを休眠 ── 指輪の中に納めた。

 

「お嬢様、そちらの方は? それにセイバーの姿が見えませんが…」

 

セラの疑問に、イリヤは複雑な表情を浮かべてメイプルを見る。メイプルは頷き。

 

「そうだね。それじゃあ私が、色々説明するよ」

 

そう答えたのだった。




昔の知り合い…。当然[NWO]の、もうひとりの大盾使い。お人好しなところといい、声以外も結構似ていたりする。

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