それではいきなりですが、本編どうぞ!
どれくらい経っただろう――気が付くと私は、兄をしっかりと抱きしめていた。彼はまだ苦しそうだが、息は何とか続いている。私の涙も収まり、いつしか頭の中から"命令"が消えていることも気づかず、私は先ほど転がっていた兄の腕を拾い上げようと手を伸ばした。
「――?」
刹那、私は違和感を覚えた――その傷口から、キラリと金属の輝きが走ったのだ。訝しがりながらもそれを拾って確かめる。傷口からの血はだいぶ収まっており、少し拭えばその内部を見ることができた。果たしてそれは――私が思っている物とは、全く異なるものだった。
「――!!どういう、こと…?」
薄い皮膚の下には、血管と筋肉、そして骨という、私が思っていたものとは全く別のものが入っていた。
つなぎ目の見当たらない、滑らかな金属。その周りを走る、いくつもの導線。そして、中心を貫いているシリコン製とみられる棒――どれも全て、人間の体内にあるはずのないものだった。まるで、誰かに作られたかのような――
「まさか…いや、そんな訳…」
私の兄が、作られた存在?
容易に信じられるものではなかった。なぜなら私の頭の中には、ぼんやりとだが彼と過ごした記憶があるのだ――そこでは施設にいたほかの人達と同じくらい食べ、飲んで、笑っていた兄の姿があった。そして、それから数年が経って今でもそれは変わらない。彼の感情の起伏は、一緒にいた二人の人と大差ない。そんな彼の感情は、すべてプログラムの集合体だというのか――やはり、容易に信じられるものではない。
さらに私はこの瞬間、"不信感"に目覚めてしまった。私と同じ人であるはずの兄が作られたものだと知り、それならば周りはどうなのだろう、と考えるようになってしまった。この人はロボットなのだろうか、彼らの感情は自ら生み出してきたものではなく、誰かに作られたものではないのだろうか――今でも、その感情を消し去ることはできない。
そして私は、自分自身すらも信じられなくなっていた。
「…」
私は無言でギアを纏うと、再び腕を振り下ろした――兄ではなく、自分の腕へと。
私の拳は少し狙いを外し、私の指を弾き飛ばした。それにより生まれた激痛は想像を絶するものだったが、彼が受けた痛みはその比ではない。私は歯を食いしばって痛みに耐えると、自分の指が落ちていった場所へと向かった。自分の指であろう肉片を拾い上げ、その断面を――。
「――!!」
私の目に飛び込んできたのは、滑らかな薄い金属板といくつもの導線、そしてシリコン製の棒だった。
<side アラン>
「う…おぉぉ!!」
「そうです、アランさん!その調子ですよ!」
エルフナインが何か叫んでいるようだが、プロペラの回転する音で何も聞こえない。隣で藤堂さんも見守っているようだが、こちらは口を閉じ、黙って見守っている。
俺達はカレンとその妹であるマナが戻ってくる前に、集に頼んでヘリコプターの操縦訓練をしてもらうことにした。
――が、これがかなり難しい。操縦席に座った俺の目に飛び込んできたのは、見たことのない数の計器とボタンだった。苦心してヘリコプターを浮かせるようになったのは訓練開始から2時間後、そしてそこからさらに2時間がたったところで、ようやく俺は空中での移動ができるようになったのだ。
しばらくすると藤堂さんがこちらに向かって手を振り、大きな丸を作った――終了の合図だ。
「ふぅ…」
俺は息をつくと、高度を少しずつ下げていった。
「それにしても――」
休憩中、エルフナインが俺に話しかけてきた。
「どうしてアランさんは、ヘリコプターの操縦なんて急にやろうと思ったんですか?」
「あぁ、簡単なことだよ。そのうち帰ってくるだろうカレンを驚かせるんだよ。マナさんも一緒に」
「まったく、君たちは――」
会話に割り込んできたのは藤堂さんだった。
「彼のことが、心配ではないのかい?私は心配で気が狂いそうだ」
思わず苦笑してしまってから、質問に答える。
「えぇ、もちろん心配ですよ。でも――」
俺は食事の手を止め。空を見上げた。しばらく見ていると、なんだかそこにカレンとマナがいるような気がした。
「俺もエルフナインも信じていますから。彼は絶対に帰ってくると」
俺がヘリコプターに乗ろうとしている二つ目の理由をここで言わなかったことを、俺はあとになっていやというほど後悔することとなった。
<side マナ>
「…うそだ」
兄の傷を――正確には彼の切断面を――見た時から多少の覚悟はしていた。が、現実を突きつけられれば、生半可な覚悟などすぐに折れてしまう。今の私のように。
「私は、人間じゃなかったの…?」
自分ですら聞こえないほど小さな声で呟くと、不思議と涙が出てきた。
「「止まることないこの涙も、胸からあふれ出てくるこの感情も――全部、嘘だっていうの…?」」
自分の中で、別の声が響いた気がした。しかし私は、思考を止めない。止めることができない。
「違う、私は人間だ。こんなこと、絶対に認めるものか!私は作らレた存在じゃない、こウして自我を持っテるじゃナい!絶対ニ認めナイ、認メナイ、ミトメナイ、ミトメナイミトメナイミトmennnnnnnnnnnnnn――」
頭の中で、何かがはじけた音がした。同時に、私の意識は深淵へと落ちていった。
<side カレン>
「――ん…」
誰かの叫び声が聞こえた気がして、俺は目を開けた。どうやら、戦闘中に腕を叩き落された痛みで気絶していたらしい。
「そうだ、マナ――」
上体を起こそうと右手に体重をかけたところで、激痛が走る。そうだ、ついさっきも言っていたではないか。俺はマナに腕を叩き落されたのだ。
「畜生…」
俺の腕を再起不能にしたマナに対してでなく、マナを洗脳した俺の父親であるという藤堂集と、何よりこんなことで立ち上がれなくなってしまう自分を恨みながら、俺は右手を容姿しようと持ち上げ――すぐに違和感に気が付いた。
「え…?」
腕を真っ二つにされ、痛々しく肉が露出しているものだとばかり思っていた俺の腕の断面は――薄い金属板と細い導線、そして何やら柔らかいゴムのような芯が剥き出しになっていたのだ。
「何だよ、これ…これが、俺の腕なのか…?」
もちろん、返事はない。
「おいおい、悪い冗談はよしてくれ――この俺が、機械で作られたとでも言いたいのかよ…」
ちょっと考えた挙句、俺はある一つの結論を導き出した。
「…てことは、俺ってもしかして――AI?」
正直なところ、動揺よりも厨二心をくすぐる喜びの方が大きかった――何のことはない、昔から機械や電化製品の中身を見るのが好きだった俺にしてみれば、こんな衝撃的かつ興奮する体験をするなら喜びの方が大きいに決まっている。何しろ自分の体がすべて機械でできている、というのだ――よくある小説のよくあるパターンなのかもしれないがまさか自分が、などとは露にも思わなかった。だがここで「よっしゃあぁぁぁ!」と叫ぶほど頭の悪いちびっこではない。俺の本来の目的はマナを探すことだ。
俺は立ち上がって辺りを見回し、すぐに見つけた――輝きを失った虚ろな目を見開き、口を少し開いて死んだように横たわっている妹を。
「――マナ!!」
おれはすかさず左手を彼女の胸に当てた。幸いと言っていいのか分からないが、まだ鼓動は止まっていない。息もわずかだがあるようだ。だが、虚ろな目だけは変わらず、瞬き一つせずに空を見つめている。と、彼女の目が突然こちらを向いた。
「マナ!!気が付いたのか?」
しかし彼女はそれに応えることはなく、またすぐに別の方向を向いてしまった。
「おかしい…心臓は止まっていないし、息もある。目が動いている限り意識はあるはずなのに、こちらの呼びかけに一切応じない――おいマナ、こんなところで悪戯は無しだぞ?」
少し冗談めいた口調でそう言ってみるが、相変わらず虚ろな目だけがぐるぐると回っているだけだった。
「嘘だろ…お前の体に、一体何が起こったっていうんだ?まさか、藤堂のやつが何かしたのか――」
再び俺の父親――いや、俺はもうAIなのだから父親と呼ぶべきではなくなった――藤堂集に向けての憎悪が爆発しかけたが、今はぐっと堪える。今はそれよりも優先すべきことがあるのだから。
「マナ…おいマナ、本当に聞こえてないのか?俺は、どうすれば――」
その時、俺の脳裏にある童話が浮かび上がった――悪い魔女に眠らされてしまった王女が、王子とのキスで目覚めるというものである。
しかし、そんなことがありうるのだろうか?あれはあくまで童話の話である。仮に俺が同じことをしても、彼女は目覚めないのではないか?
不意にそんな声が聞こえた気がした。胸の中から、あの時の名も知らぬ少女が語り掛けてくれた。
「――ありがとう、未来さん」
無意識にそう呟くと、俺はマナのもとへ一歩近づいた。あとは少し屈むだけだ。
「――大丈夫だ、深い意味はないぞ。深呼吸深呼吸、っと」
そこからおよそ20分後、ようやく心臓のバクバクが収まってきた俺は、覚悟を決めてマナに顔を近づけた。
「ごめん、マナ。ちょっとだけの我慢だ」
そして俺は、彼女の虚ろに開いた唇を、自分のそれでゆっくりと塞いだ。
それから、どれぐらい経っただろう、俺はどうやらそのまま眠りこけてしまっていたようだ――何故なら、彼女の悲鳴が嫌というほど俺の耳を抉ったからだ。
「ひゃァぁぁ!?」
次いで、パシーンという気持ちいい音。同時に俺の体はぐらりと揺れ、背中から地面に激突した。
「うぅ、ってて…」
背中と頬をさすりながら前を見ると、顔を真っ赤にして、何か言いたげにこちらを見つめているマナの姿があった。
「お、おはようマナ」
「お兄ちゃんノ――
馬鹿あアあぁあぁぁァぁぁぁ」
おまけのもう一撃が飛んできたのは言うまでもない。
<side アラン>
アラン「――そういえば集さん、もしマナかカレンが万が一精神崩壊を起こしてしまったら、彼らを回復する術とかはあるんでしょうか?」
藤堂集「あぁ、あるとも。2人の体内には、お互いのコアプログラムのバックアップが用意されている。それを口づけにより転送することで、一度精神崩壊しても戻ってこられるのだ。プログラムは常に更新されていくから、精神崩壊前とほとんど変わらない人格が戻ってくる」
ア「なるほどなぁ…って、はぁ!?口づけだと!?あんたそんなにロマンチックな人だったのかよ!!」
集「いいや、これは私が編み出したものではない。この前Tw●tterで見つけたのだ」
ア「」
今回も読んでくれてありがとうございます!
最近の1週間でだいぶ投稿頻度が高くなっているような気がします…!
この調子で頑張りたいと思うので皆さん離れていかないでくださいね、、、
それでは次回予告!
「絶対に、帰る…お兄チゃんと私ノ二人で、アの暖かイ場所ニ、もう一度――ッ!!」
残された時間は僅か――少女の覚悟は、既に定まっていた。
誰もいなかったはずの世界に凛と響く歌声に、気が付けばそれに、いくつもの声が重ねって。
次回[絶唱]
お楽しみに!