Nadir Song -天底ノ歌-   作:可惜夜ヒビキ

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前回の話を読み返してて気づいたんですが、次回予告のとこで次の話の題名を書き忘れてたのに気づかず投稿していたことが判明しまして…慌てて付けましたがまた変えるかもしれません。読者の皆さんごめんなさい!今回はそんなことないようにします!


第四章 歌うポケットモンスター
4-1 翳り


突然の告白に、俺は動かざるを得なかった。

 

「何だと!?お前――ッ!!」

 

怒りと共に目の前の人物に右手を放とうと腰を落としたところで、エルフナインが制止した。

 

「押さえてください、アランさん。きっと彼なりの事情があるはずです」

「その通りだ」

 

エルフナインに続いて、藤堂集――カレンとマナを()()()()()人物が話し始めた。

 

「こう見えて、あの時私はとても焦っていた――何としてでも二人を別の場所に転移させ、お前たちだけに気づかせる必要があったのだ」

「何…?」

 

彼の言葉に疑問を感じ、俺はすかさず質問を投げた。

 

「何でアイツらに教えたらだめなんだ?あいつらこそ、自分の正体を知っておくべきだろう?」

 

俺の質問に、彼はすぐには答えなかった。しばらくの沈黙の後、彼はゆっくりと話し始めた。

 

「――二人は高性能なAIだが、仮にも世界初の技術だ。彼らの精神に過大な負荷をかければ――例えば、今まで自分が信じてきたものを急に嘘だと言ってしまうといったものだが――それだけで、どのようなダメージを負うか分からない。最悪――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人そろって精神崩壊ということも有りうる」

「――!!」

 

隣で、エルフナインが小さな悲鳴を上げるのが聞こえた。俺も危ういところでふらつきかけたのをこらえ、さらに質問を返す。

 

「それじゃあ――あいつらは自分の正体を知らないまま戦うことになるのか?このままでは最悪、カレンが俺達と戦うなんてことになりかねないぞ?」

「そうだ――だから彼らは、自分自身の正体を、彼らの手で知らなければならない。我々にできるのは、彼らの帰りを信じ、待つことだけなのだ――……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side カレン>

 

「はぁぁぁっ!!」

「やぁァァッ!!」

 

俺とマナの拳が空中でぶつかり、火花を散らす。彼女と戦い始めてから経過した時間は、恐らく5分程度だろう。だが俺は、ここまで長く苦しい戦いをしたことがなかった――肉体的にも、精神的にも。

今俺の目の前で拳を構えているのは、俺の妹であるマナだ。そして、俺があの場所――ドイツを目指す原因にもなった人物でもある。別れと出逢いを繰り返しながら、俺とアランさん、そしてエルフナインさんの三人はようやく奴らの本拠地にたどり着いたのだが――

 

 

「――ふっ!!」

 

再びマナの拳が唸った。俺は頭の中の雑念を払い落とすと攻撃を受け流し、大きく飛んでマナから距離を離した。着地が乱れたことで地面に貼りつくようにして倒れた俺は、たまらず胸に手を当て、荒い息を繰り返しながら立ち上がった。

正直、俺は今自分がこうして気を失っていないことに感動すら覚えていた。何しろ俺とマナとでは、戦闘経験の差がとてつもない亀裂となって広がっているのだ。

彼女の動きは、素人同然である俺から見ても素晴らしい、いや美しいものだった。無駄な動きが極限までカットされ、目の前で戦い続けている彼女は、舞っているようにも見えた。実際、彼女はまだ俺と一緒にいた頃はダンスが好きだったのだから、それが自然と体の中に染み渡り、戦いの中で顕現するのも不思議ではないだろう。目の前で舞っている俺の妹は、当時の純粋な心を持った彼女によく似ていた。

だが――彼女の眼が、前の彼女とは違うことを物語っていた。俺の父親だという藤堂集に洗脳され輝きを失ったその目は、俺のことを兄ではなく戦う相手としか見て取れないのだろう。実際、その虚ろな目で俺を無感動に見つめながら、今もこうして近づいてきて――

 

「――!?まずっ…」

 

俺が気付いた時はもう遅かった。マナの拳が俺のみぞおちに深々と直撃し、俺は崖の端まで飛ばされた。勢い余ってそこから落ちなかったのは運がいいと言えるだろう。しかし、だからといって俺がまだ戦えるかどうかは別だ。今までの戦闘による疲労に加え、先程の一撃はあまりに重かった――俺の口から血が漏れ出るのに、時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

<side ???>

 

「――艦長、"BLWAK"の第一機から第三十機までの点検及び自動走行プログラムの実装、完了しました」

 

目の前に表示されているモニタは、私が予想していた以上の成果を生み出していることが表示されていた。私は満足げに笑みを浮かべ、フランスの作業場に繋がっている発信機に向けて指示を出した。

 

「よろしい、いいペースだ。この調子で残りの70機も点検しておいてくれ。それから――」

 

辺りに人がいないことを確認し、小声で現場の状況を確認する。

 

「"奴"は動くんだろうな?」

 

周りには誰もいないと分かっていても、自然と声のトーンが低くなる。しかしそれでも、向こう側にいる人物には声が届いたようだ。

 

「えぇ、今のところ機体部分、知能部分両面においては何も問題ありません。システム・オール・グリーン、です」

 

彼女が最後に発した流暢な英単語を口の中で転がしながら、私はあくまで平静を装って話を続けた。

 

「分かった。二週間後には私もそちらへ行く。今回の作戦で、必ず"奴ら"をこの世界から消滅させるんだ」

「えぇ、もちろんわかっていますよ。それこそが我々人類の悲願なのですから。では、お待ちしております。お気をつけて」

 

軽いねぎらいの言葉と共に通信が切れた途端、私はつい独り言をつぶやいていた。

 

「人類の悲願、だと…?違うな。これは――私一人のための作戦だぞ…」

 

そして、今まで抑えていた笑い声を吐き出す。

 

「ククク…ついに"奴"が――あのときの唯一の生き残りが――憎悪と憤怒で再び立ち上がる!!その時その瞬間から、私の敵はもういない!!この世界を私が掌握する日はさほど遠くないぞッ!!フハハハハハハァ――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side カレン>

 

「ぐっ…」

 

意識が朦朧とする中、俺はこちらにゆっくりと近づいてくるマナを凝視した。だからと言って何が起こるわけでもなく、まして俺が戦闘による疲弊から抜け出して再び戦うことだって出来なかった。

そしてそのまま何も起こることなく、マナは俺の目の前までやってきた。先の一撃で重傷を負い戦闘不能となった俺に止めを刺すつもりなのだろう、再びゆっくりとした動作で拳を振り上げた。

 

「くそっ――」

 

ここで終わりなのか、と俺は直感的にそう確信した。俺はここで死に、そして俺の妹だったマナの心も同時に死ぬのだ、と――だが彼女が拳を振り下ろす刹那、俺は彼女の目に、光の揺らぎを見た。それは――躊躇い?

彼女の目に初めて、感情の揺らぎが見えた。その瞬間、俺は無意識に自分の拳を上に振り上げていた。痛みも疲れも忘れ、ただ彼女の躊躇いのその先が見たいという、一抹のエゴの為に。

 

「こ…のぉぉぉッ!!」

 

そこではじめて、マナの目に驚きと後悔の色が見えた。しかし勢いのついた拳は止まらず――俺が中途半端に上げた右腕を、手首から叩き落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、激しい痛みが俺を襲った。だが不思議なことに、苦しいと思うことはなかった。むしろ少し体が軽くなったような気がして心地よかった。

朦朧とする意識の中、俺はマナを見た。彼女の目には、まだ躊躇いと後悔の色が滲んでいた。

 

マナ――お前が見せたその感情を、せめて大切にしてくれ――

 

かすれた声での最後の願いは、恐らく彼女には届かなかっただろう。

視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side マナ>

 

自殺しよう、と思った。

幸いここは高い崖の上である。ここから落ちてしまえば楽に死ねるだろう。

いや、そんな死に方では駄目だ。何の苦しみも抱えずに死んでしまったら、私は罪を償うことなどできない。それではきっと、あの世でも後悔するだろう――私は実の兄を、この手にかけたのだから。

 

 

 

 

 

数分前、私は兄を崖の端まで追い詰め、トドメの一撃を差そうと拳を振り上げた。その間も私の頭の中では、逆らい難い命令がグルグルと回っていた――目の前の人物は敵対勢力の刺客である。速やかに抹消せよ、と。

だが、私が拳を振り下ろそうとした瞬間、目の前で不思議な光景が流れたのだ。気づけば私の兄は、周りの風景と一緒に溶けるように消えており、会った覚えのない少女が一心にこう呼びかけるのだ。

 

――目の前にいるのは、あなたの大切な人。このギアはその人にとどめを刺すためのものじゃない――拳を開いて、手をつなぐためのものなんだ。このギアで人を傷つけることは、私が許さない。

 

その間も頭の中に命令が渦巻いていた私は、彼女にこう聞いた。

 

――自分の目の前にいるのは敵なのに、どうして倒してはいけないの。

 

彼女の答えは単純なものだった。

 

――それは、その人が人間だから。あなたと同じように心を持っている。同じ人間なら、きっと分かり合えるって、分かっているから。それに、

 

 

 

 

 

 

 

その人を死なせたくないのは、あなたも同じでしょう?

 

その言葉を最後に彼女は消え、私は次の瞬間、兄に向かって拳を振り下ろしていた。先程の不思議な会話の中で生まれた感情を飲み込みながら。

 

 

 

 

 

 

そのあとは時間の流れがとても遅かった。腕を落とされた兄は、痛みが頂点に達したのだろう、すぐに気絶してしまった。切り落とされた彼の腕は、幸い崖から反対方向に転がっていった。直後、彼のギアが解除された。そこで私がなぜ止めを刺さなかったのか分かったのは、だいぶ後になってからだ。

私は命令に必死に抗い、彼を崖から遠ざけるようにして運んだ。彼はその命の灯を消してはいないものの、傷口からは血があふれ続け、口から吐血しており、息も絶え絶えという、いつその時がやってきてもおかしくない状況だった。ならばお父さんに助けてもらおう、と周りを見渡した私は、自分たちがい世界に来てしまったことを、今になって思いだした。

 

「そんな…」

 

膝を地面につき、ぽつりとつぶやく。偶然、私の足元には兄の叩き落された腕の片割れが転がっていた。それを拾って見ていると、改めて自分はとんでもないことをしてしまったのだと感じた。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん…私は、なんてことを…」

 

 

 

 

 

途端、目頭が熱くなり、視界が急にぼんやりした。いくら目を拭っても、それはあとから止めどなく流れ続ける。私は兄の腕を抱き、自分の内側からあふれ出る感情に身を任せて、声を上げて泣いた。その一部始終を、細い三日月だけが見守っていた。




今回も読んで下さりありがとうございます!
さて、クソどうでもいい話ですが、最近私気づいてしまって…




一話書くごとに毎回後書きつけるのめちゃめちゃハードじゃんッ!!




僕が良く読んでいるラノベとかは長めのストーリー+後書き、が定石だったのでよくよく考えてみれば一話ごとに細かくしていては一体何を書いたものか…と散々迷った(今も迷っている)という話を今回の後書きとさせていただきます。文字数稼げたからヨシ!



追記
案の定タイトル変更しました。多分この方がカッコいいししっくりくるので。
読み方は「かげり」です。僕みたいに「あおり」って読まないようご注意を…





それでは次回予告!

「この涙も、この感情も――全部、嘘だっていうの…?」

自分の兄を手にかけたことを激しく自責するマナ。さらに、自らの正体を悟ったマナは、自分の感情が制御できなくなってしまい――



次回[偽兄妹]

お楽しみに!
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