かつて帝王だったモノの対GNOSIA措置   作:ゑなかす

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本編開始です。


1day

「わかった?」

 

 頭の中に膨大な情報が流れ込んできたと同時に、謎の人物に語りかけられる。

 ディアボロはまだ状況を飲み込めずにいた。

 

「ぅあ……ここは……?」

 

「まだ意識が覚醒しきっていないみたいだね。

 でも言葉が通じるようになっただけでも一歩前進かな」

 

 霞のかかった意識が少しずつ鮮明になっていく。

 

「オレは……レクイエムに……、そうか……もういい……早く殺してくれ……」

 これは運命の続きなのだと、そう思ったディアボロは目を閉じ静かにそのときを待つ。

 

「思ったとおりの反応だよ、ディアボロ。

 でも安心して、ここは君の考えているような場所じゃないから」

 

 声の主はそう言うとディアボロの手を引いて体を起こし、頬を軽く叩く。

 トンネルを抜けた時のようなまばゆさを感じつつ、ゆっくり目を開いた。

 

(女……? 今度はこいつがオレを殺すのか……? 

 ふっ……どうでもよきこと、か……)

 

 全てを諦めていた彼は、声の主を濁った目で捉える。

 ボブ程度の長さをした金髪、前髪には赤いピンを二つ刺しているのが見えた。

 吸い込まれそうな紅く鋭い目でこちらをのぞいている。

 

「起きたみたいだね。じゃあメインコンソール室に行こう。

 そこで皆、話し合ってるから」

「まだ、何も分からないかもしれないけど……そのうち慣れるよ。気を楽に、ね」

 そう言って微笑んだ女性はディアボロの手を引き、部屋の外へ連れ出した。

 

 

 

 

 

(攻撃がこない……? どういうことだ……? オレで遊んでいるのか……!?)

 意識が戻っていくにつれ、疑念と同時に恐怖がわきあがってくる。

 

 5分。

 目を覚まして今に至るまでの時間だが、いつもなら既に攻撃を受けて死んでいるハズ。

 これほどまでに長い間無事というのは、逆に彼の恐怖心を掻き立てた。

 

「ディアボロ」

 突然、前方を歩いていた声の主が振り返った。

 

「ッッッ!!!???」

 

 ディアボロの体が硬直する。

 混濁状態であった先ほどまでとは違い、意識が向けられるのをはっきりと感じられる。

 そして彼の目にあったのはかつての傲慢、冷酷さではなくあきらかな“怯え“だった。

 

「ん、大丈夫だよ。私は君に、危害を加えたりしないから」

 明らかに怯えた姿を見て、彼女は優しくそう言った。

 

「君は覚えていないだろうから、自己紹介をしておくね。

 私の名前はセツ、セツだよ」

「ディアボロ、人類はこの宇宙から消滅すべきだと思う?」

 

 いきなり突拍子もないことをきかれたディアボロは、思わず呆気にとられた。

 

(こ、こいつはいったいなにをいっているんだ……?)

 

「ふふ、突然すぎたかな。私が伝えたいのは2つ、

 これから会う3人のうち、ひとりは人間じゃないから気を付けておいて」

 

「それともうひとつ、君は……レクイエムから解放されたんだ」

 

 セツが告げると同時にディアボロの時は停止する。

(レ、レクイエムはおわった……!? さっきから……な、なにをいっているんだ……? 

 そもそも何故オレのことを知っている……!?コイツは一体なんなんだ!?)

 

「お、……おいキサマッ……!?」

「慌てないで、疑問はもっともだと思う。でも今は少し時間がないんだ。

 今は私を信じて、ついてきてくれないか」

 

 セツは諭すようにディアボロをなだめ、同意を求めた。

 

「ぬ、ぬぅ……」

「よかった、じゃあ少し急ごう」

 

 昔の彼ならば、強硬手段に出たとしても情報を得ようとしただろう。

 しかし、プライドや傲慢さをバキバキにへし折られた彼には、

 もはや主張を押し通す程度の“凄み”も残っていなかった。

 

「お、おい待て……、もう少しペースを……落とせぇ……」

「あ、あぁ! ごめん!」

 

 かつて悪魔の如く恐れられた男はレクイエムの影響から心身ともに衰弱し、セツに付き添われながらよろよろと、目的の場所へ向かっていった。

 

 

 

「ああ、来たね本命が」

 

 見たことのない自動ドアを抜けてメインコンソール室に入ると、奇抜な青い服装をした男が言葉を発した。

 

(何だコイツは……とてもじゃあないが、まともなファッションセンスをしてないぞ……)

 

 そんなことを考えつつ、辺りを警戒しながら部屋を見渡す。

(かなり……広いな、奥にいくつか操縦席が見える……ここは何かの乗り物か? 

 機械に詳しいワケではないが、見たこともないものばかりだ……)

(そしてこの3人、紫の髪をした女、全身が赤い衣装の女、それに羽毛とヘッドフォンを付けた奇抜な青い男……セツと名乗るヤツが言うには、ひとり人間ではないらしいが……)

 

「お疲れ様、セツ。ディアボロの記憶、戻った?」

「いや……ジナ。ここの医療ポッドでは無理みたいだ」

 

 記憶? ジナとかいう紫の女は、今なんと言ったのだ? 

 

「うっ!」

 

 顔が青ざめる……無い、なにも無いのだ。

 名前とレクイエムという存在に殺され続けていたこと以外の、自身に関する記憶が消失している! 

 

「んー、じゃあ手がかりゼロってこと? 

 ……ってすごーく顔色わるいケド、ダイジョブ?」

「ディアボロ!? どうしたの!?」

「も、問題ない……」

 

 セツがあわてて声をかけるが、スッと深呼吸し制止する。

 しかしその顔は依然として青ざめたままだ。

 

「やれやれ、何でもいいけれど、“何も覚えていない“なんて怪しいこの上ないだろう?」

「ほぼ間違いなく、ディアボロこそ──―グノーシアさ。

 ハ、上手く人間になりおおせたつもりだろうが、残念だったね」

 

 グノーシア? この青い男は一体何を言っているのだ? 

 

「いや、ラキオ、逆に考えてみて欲しい。

 この状況で記憶喪失だなんて、それこそ怪しすぎるし目立ちすぎる。

 捕食者の擬態としては不自然だと思わないか?」

「それに私が知る限り、グノーシア汚染された者が記憶を失った振りをした、という例は無い。

 ディアボロが敵なら、もっと上手く周囲に溶け込んでいるはずだ」

 

 自分に向けられたであろう疑いを、セツが反論する。

 コイツもいったいなにが目的なのだ? 

 

「私も、そう、思う。

 ディアボロは大丈夫」

「SQちゃんはよくわかんないけどー、もう時間ないっスよ? 

 パパッと投票しちゃおうZE!」

 

 そんなことを言っていると、目の前にスクリーンが投影される。

 どうやら“時間”が来たらしい。

 

「これを……どうすればいいんだ……?」

「呆れた、そんなことも忘れてるのかい? 君は? 

 ここをこうタッチするンだよ。」

 

 手元のスクリーンに5人のリストが映し出される。

 ここから自分以外の一人を選べばいいらしい。

 

(そうだな、だれにするか……ここは……)

 

 ディアボロが選択し終わると、すぐさまリストの横に数字が並ぶ。

 結果は──────

 

「…………何のつもり? 

 君達、僕がグノーシアだとか本気で思ってるの?救いがたい連中だねまったく」

 

 ラキオに3票、セツに1票、ディアボロに1票だった。

 

「ラキオ。結果は、結果」

「ハッ、言われるまでも無いさ。拒否権なんて無いンだろう? 

 さっさとコールドスリープルームに行こうじゃ無いか」

 

 ジナがそう窘めると、ラキオは苛立ちをあらわに立ち上がり、部屋から出て行った。

 

 

 

 セツに連れられコールドスリープルームなる場所へ辿り着く。

 中には円柱型の機械がいくつか設置されていた。

 

(ここもそうだ……どれもこれも見たことも無い機械ばかり……)

(もちろん精通しているワケじゃあないが……

 単なる無知とは違う、違和感がする……)

 

 ディアボロは最初にメインコンソール室に入った時の違和感を、増幅させていた。

 

「これで空間転移が終わったら? グノーシアが誰かを襲い、僕が無実の罪をかぶったことが分かるだろうね。みすみすグノーシアの暗躍を許すなんて歯がゆいことだ。ああ歯がゆい」

「あーもう、ラキオうるさいなあ。

 早いとこ凍らせちゃおうZE」

「ああ……もうすぐ空間転移の時間だし、ね

 コールドスリープは私が見届けるから、皆は先に部屋に戻るといいよ」

 

 未練がましく訴えるラキオを尻目に、セツが帰室を促す。

 

「ディアボロ、自室、わかる?」

「いや……」

「あ、そうか、Levi、ディアボロを部屋まで案内してあげて」

 セツが宙に向けてそう言い放つと、軽い電子音と共に、床が光り始めた。

 

 

 

 

 ディアボロは光る床の案内を受けながら、思索にふけっていた。

 

(あの女……セツと言ったか、オレはもうレクイエムから解放された……と言っていたな……)

(確かに今のところ、攻撃はない……

 しかしヤツはなぜそんなことを知っている?)

(流れに乗せられて今に至るが……そもそもここはいったいどこだ?)

(そしてオレは何者なんだ……?)

 

 答えの出ない疑問に頭を悩ませ歩いていると、唐突に後ろから声をかけられる。

「おーい、ディアボロー」

「ム……」

(ヤツはたしか……)

「やほー、SQちゃんだよ。

 どったのそんなところで?」

 

 SQ、メインコンソール室にいた3人のひとり、

 赤い衣服に黄色い肩掛け、特徴的な髪型の赤髪に、左頬にあるハートマークが特徴的な女

 そこまで知性は感じられない……。

 

 ディアボロはすぐさま警戒の姿勢をとる、

「ありゃりゃ、なーんかすごくこわがられてるなぁ

 SQちゃん、ぜんぜんこわくないZE?」

「……なんの、用だ……」

「んー、ディアボロ、ホントにSQちゃんのこと覚えてないのかなって

 ひょっとしてアノ夜のことも忘れちゃった?」

「アノ夜、だと?」

(まさかコイツも、何か知っているとでもいうのか?)

「まあ覚えてるわけワケないかー、そりゃそうだ、あったこと無いもん」

「……」

 

 肩の力が少し抜けるのを感じる。なんなのだコイツは。

 

「まぁ、それはどうでもイイんだけど。

 ディアボロさ、いきなりシリアスな場面に放り込まれたワケでしょ?」

「ダイジョブカナーって。ついて行けてる?」

「いや……、キサマは何か知っているのか?」

「アハハッ、SQちゃんもぜんぜん知らないから大丈夫さっ!」

 

 マジでなんなのだコイツは。

 

「それにホラ、ディアボロにはセツがいるし」

 SQから出た言葉は、ディアボロの弛緩させた体に緊張を走らせる。

 セツ、本来知りうるはずの無い事を知っている謎の人物。

 オレの知らないナニカを知っている存在。

 

「そそ、そのセツだけどさ。ヤケにディアボロに親切だよねー。

 なんかディアボロのコトよく知ってる感じだし」

「でもさあ、ディアボロ、気をつけてねー。

 親切だからってムヤミに信じちゃダメよん?」

「もとより誰も……信じる気は無い……」

「たぶんー、そうじゃなくて、

 あのね……グノーシアって、嘘ついてヒトを騙したり、取り入ったり、するんだって。

 だから中々やっつけらんないらしーんだけど」

「ひょっとすると、セツがそのグノーシアかもしれないZE?」

 

(“グノーシア”先ほどの男も言っていたが……

 人間ではないとはどういうことだ?)

 

「SQ、と言ったな。さっきから言っている“グノーシア”とはなんなのだ?」

「えっとね、それは―「SQ」」

 

 言葉を発し終える前に、被さって声が響く。

 コツ、コツと威圧的な足音を鳴らしながら、こちらに向かってくるあの姿は。

 

「セツ……!」

「そこからは私が説明しよう。

 それとSQ、陰口とはいただけないな」

 

 紅く鋭い目で、ギロリと彼女を睨みつける。

 口元は笑みを浮かべているが、友好的なものではないことは誰にでもわかるだろう。

 

「げっ、もしかしてセツサン、聞いちゃってました……?」

「ああ、バッチリとね」

「あはは……、じゃあSQちゃんはこのへんでー……」

 そう言うと脱兎の如くスタコラサッサと、尻尾を巻いて廊下をかけていった。

 

「お、おい……! 話はまだ──」

「ディアボロ。少し話しをしよう」

 

 彼女が提案するが返事は無く、すこしのあいだ沈黙が流れる。

(ハッキリ言って、オレはコイツを信用できない……いや、誰かを信じるなんざ、したこともない気がするが…… ともかく、コイツは信用ならない……!)

 

 無言のまま額に汗を流し、ジリジリと後退するディアボロ。

「うん、やっぱり、そうなるか」

 少し悲しそうな顔をしながらセツはそう呟く。

 

「わかった。でもこれだけは聞いて。私は君の味方だ」

 表情を戻し、そう言い残すと、くるりと方向を変えて遠ざかっていった。

 

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