かつて帝王だったモノの対GNOSIA措置   作:ゑなかす

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2day

用意された自室に入ると、そっとベッドに腰掛ける。

その表情は抜け殻のようにボウッとしていた。

 

「レクイエムの攻撃はいまだこない・・・

フフ・・そうか・・そうか・・・!フフッ、フフフ・・・!」

 

静かな笑みと共に、ツッと涙が頬を伝う。

俯き、肩を震わせながら嗚咽を漏らす。

例えこれがまやかしだとしても、たった数時間のものだとしても。

ささやかな安寧に、彼は喜びを噛み締めずにはいられなかったのだ。

 

 

しばらくして冷静になると、タイミングよく軽い電子音が鳴りディアボロの注意を引く。

この音は確かアナウンスの合図だったか。

「初めまして、ディアボロ様。当船の疑知体であるLeviと申します。

皆様の快適な船旅のために、案内役を努めさせていただきます。」

「当船は10分後に空間転移を行います。

空間転移時には意識を保つことができませんので、怪我のないようベッドに横になっておいてくださいね。」

 

ズピーカーから聞こえる女性のものらしき柔和な声。

連想されるは温和なイメージではあるが、その内容は再び彼に混乱をもたらすものだった。

 

「く、空間転移だとッ!? ど、どういうことだ!?」

「星間航行中にグノーシア汚染が確認された場合、汚染者の排除が完了する間、現在の船内資源で到達可能な最も遠い星系にシュリンプ移動することが義務付けられております。」

「どわぁ!? か、会話ができるのか!?」

「い、いやそうではない。そもそもここはどこだ、いったいなにが起こっているのだ!?」

 

てっきり自動音声の類かと思っていたのだろう、思わぬ返答にすこし腰が抜ける。

擬似知性体。要は超高度なAIプログラムなのだが、彼はよく分かっていないのか

人が操作しているのだろうと解釈し、積み重なっていた疑問をぶつける。

 

「そうですね・・、ディアボロ様は記憶の混乱が生じているようなので、

少ない時間ではありますが、できる限りの疑問にお答えいたしましょう。」

「ではまず初めに、この船はジョナス様が所有する宇宙船D.Q.O.でございます。

惑星シャモにてグノーシア汚染災害が確認された際、ジョナス様のご遺志により5名の避難者がこの船に乗り込まれました。ディアボロ様達のことですね。」

「ディアボロ様は搭乗する際に大怪我を負われました。

負傷者処置手順に沿い、ポッドで処置を行いましたが・・・

記憶に異常があるのは、きっとその時のダメージが回復しきってないのでしょう。」

 

「う、宇宙船・・? 惑星・・・?

オレは・・いや、少なくともオレは地球にいたはずだ!」

 

「これは私の推測に過ぎませんが・・・、おそらくディアボロ様はジョナス様と同じ、旧時代の地球出身の方なのでしょうね。」

「コールドスリープから目覚めて間もなく惑星シャモにいらっしゃり、そこで事件に巻き込まれ記憶をなくしてしまった可能性があります。」

「そんなバカな・・・・・」

 

(オレは間違いなくレクイエムに攻撃をされ続けていた・・!

それが知らぬ間に宇宙だと・・!?ふざけるんじゃあないッッ・・・)

(そもそもの話だ、オレのいた時代にそんな技術は・・・確証は持てないが、無かった・・・ハズ)

 

「オイ、すこし聞くが今は何年だ?」

「G.A.C.92年でございます。西暦で言うと・・3221年ですね」

 

耳を疑わざるを得なかった。自分が生きていた年代は正確には覚えていない。

しかし3000と言う数字の異常性はハッキリと分かる。

Leviの答えはディアボロが素直に受け止めるには衝撃が大きすぎた。

 

「・・・・・・・・・・」

言葉が出ない。死に続け、ようやく解放されたと思っていたら、

タイムスリップして宇宙旅行だと?落ち着いていられるほうがおかしい。

 

「お気持ちお察いたします・・・。

翌日もう一度、促成学習を受けられるのは如何でしょうか?」

「・・ソクセイ・・・?」

「医療用ポッドは身体の組織を再生させると同時に、記憶領域に異常が確認された場合、学力補完システムを施します。」

「本来ならば一度で学習も完了するはずですが・・・、

もしかしたら不十分だったのかもしれません。

音声伝達より効率的に状況を飲み込めるものと思われます。」

 

目覚めたときに頭の中に入ってきた“アレ“のことだろうか。

よく覚えていないしあまり良い感覚ではなかったが、情報が必要だと考え渋々これを承諾。

 

「はい。ではポッドの準備をしておきますので、翌日メディカルルームへきて下さい。

それではまもなく空間転移を行いますので、横になってくださいね。」

「ああ・・・」

「ふふ。ではおやすみなさいませ。」

 

(正直頭がどうにかなりそうだが・・・)

「ふふ・・こうして横になって寝れるのはいつぶりか・・・・。

もう何十年も・・眠っていない気がする・・・」

 

今の彼には極上のワインよりも、目前の白いベッドの方がよほど魅力的なものに見えていた。

久しい休息に頬を緩ませ、考えることを放棄するとバタリ、とベッドへ倒れこんだ。

 

 

 

 

けたたましい音が鳴り響く。この不安を煽る独特な音は、船のサイレンだろうか。

Leviのアナウンスが始まる。

 

「空間転移時にグノーシア反応を検出いたしました。

乗員の皆様は上申された手続きに沿って、グノーシア汚染者を排除してください。」

「ディアボロッ!無事!?」

 

血相を変えてセツがディアボロの部屋に飛びこんできた。しかし問いに対する答えは無く、

変わりに目に飛び込んできたのは彼のあらぬ姿だった。

 

「ヒィィーーーーーーッッ!!!!!!

オ、オレはまた死ぬのか!?!?

やめっ、やめろ!近寄るなああーーーーーッッ!!!」

 

発狂。

顔は恐怖で引きつっており、ガチガチと歯を鳴らしながら、布団で包まれた身を震わせていた。

その姿は余りにもひどく、とても齢30を超える男には見えない。

まるで錯乱した子供のような印象をセツに与えた。

 

「・・・」

セツはなにも言わず、ゆっくり彼のほうへ歩いていく。

ディアボロはその気配を感じ取ったのか、震えがよりいっそう大きくなった。

 

「やめてくれぇ・・・ッ!やめてくれぇ・・・・・ッッ!!」

余りの恐怖に声がかすれる。視界が滲み、意識が遠のいていく。

その姿を見てセツは

 

ただそっと、彼を抱きしめた。

 

 

 

「落ち着いた?」

いつの間にか警報は止んでいる。

それに気づくと同時にディアボロは自身の呼吸が安定しているのを自覚した。

 

「・・離せ・・・」

「ああ。」

 

そっと体を離す。しばし沈黙が流れた後、セツが口を開いた。

「グノーシアが現れた。ラキオは汚染されてはいなかったんだ。

ともかく、メインコンソール室に行こう。

全員・・・・集合するはずだ。」

 

 

 

 

「オハヨ、お二人さん。またあえたねー。」

メインコンソール室に向かうと、既にひとりの人影が見えた。

アレは・・・・

 

「SQ、か。」

セツはそう呟くと、Leviに呼びかける。

「Levi。ジナの所在を確認してくれないか」

「・・・船内にはジナ様の反応が確認できません。

空間転移直後のログを見る限り、おそらく・・・・」

「反応が無い・・・?どういうことだ?」

「グノーシアに、消滅させられた可能性が高いかと・・・」

 

思考が停止した。血の気が引き、耳が遠くなるのがわかる。

すると背中を軽く叩かれ、ハッと現に呼び戻される。

「ディアボロ、落ち着いてよく聞いて。

これは“乗り越えなくてはならない事”だ」

 

キッパリとした口調でセツはそう告げ、コツコツと足音をたて彼の横を通って行く。

その音は前回感じた威圧感溢れるものではなく、むしろ一種の安心感さえ覚える。

 

「ジナは襲われた。

SQ、私、そしてディアボロ、3人の中にいるグノーシア汚染者に、ね。」

「んー、ヤッパリそうなりますかぁ・・・」

「ああ・・・始めようか。

私たちが生き残るための、話し合いを。」

 

 

部屋の真ん中に置かれた大きな円形テーブルに3人は着席する。

まず初めに沈黙を裂いたのはSQだった。

「んー、SQちゃん的にはセツがアヤシイかなあ。」

ディアボロ引き込んで、安心だぜ!みたいな作戦?とか思っちゃったり。」

「反論させてもらうよ、SQ。

君こそ廊下でディアボロに何を吹き込んでいたんだ?」

「ううん、そう来ましたか・・・」

 

すかさずセツが喰らいつく、二人の論争はどんどん過熱する。

反して当のディアボロは一言も発さないままだった。

 

「ディアボロもやっぱりちょっと怪しくNE?

なにも喋らないし」

「私の考えは前に言ったとおり。

ディアボロがグノーシア汚染されているとは考えにくい。

だからSQ、疑うべきは君しかいないんだ。」

 

ここでSQがニヤリと笑みを浮かべた。

「ねね、ディアボロとセツが知り合ったのはつい最近だよね?

その割にはずいぶん親切だなーって。」

「・・・」

セツが口をつむぐ。

 

「昨日、ディアボロもセツに入れてたし。

SQちゃんも、ちょっとあからさまかなって思うのDEATH!」

「・・・・私はSQに投票する。SQも当然、私に入れる。

仕方がないけど平行線だね。」

 

ふたりはチラリ、と決定権の所有者に目をくべる。

ディアボロはまだ喋らない。

しかも顔を俯けている為、表情で推し量ることもできない。

 

「やっぱりアヤシイっス!SQちゃんなら理由言えるもん。」

「・・・ディアボロ、確かに私は“君にとって”怪しいと思う。」

 

俯いた彼の体がピクリと反応した。

「でもこれだけは聞いて、私は、君の味方だ。」

 

記憶を失ったものの、誰かを信じる、信じざるを得ない状況。

それはかつて「帝王」であったころでは絶対にあり得ない状況だ。

信じて、と差し伸べられた手を切断していく、それが彼の生き様だったのだ。

死に続けて全てを失えど、悪の「帝王」。何を想う。

 

進展が無いまま刻々と時は過ぎていき、ついにそのときが来た。

「・・・時間、だね。投票を開始しよう。」

「おーい、ディアボロ。おきてる?」

 

手元にスクリーンが表示され、セツとSQは各々の敵へタッチしていく。

しかし結果はまだでない。

 

「ディアボロ・・・」

「おーい、おーい」

 

男の体が微かにうごく。

同時に投票完了の音が鳴り響いた。

結果は――――

「そう、か」

 

 

 

 

 

「ちぇー、いけると思ったんだけどなぁ」

「ね。どうせダメなら逃げちゃうのって、アリ?」

「・・・その場合はLeviが実力行使に出ることになるだろうね」

「だよねぇ、ヤッパ。おとなしく凍っておくことにしますかぁ・・」

 

SQは大げさに肩をすくめ、ため息を吐きながら、コールドスリープルームへ向かって行った。

 

 

「ディアボロ、君がSQに入れてくれなければ私は凍っていた。」

「・・・フン、どちらかに入れざるを得なかっただけだ、ただの気まぐれに過ぎん・・・」

「そうだとしても君は、私の方を信じてくれた。 ありがとう。」

 

そう言ってセツは初めて見せたときのようなほほえみを彼に向ける。

しかしその表情はほんの微かに憂いを含んでいたが、彼がそれに気づくことはなかった。

 

「ええい、やめんか・・!

そんなことよりもいいかげん話してもらうぞ、

キサマがいったい何者なのかを!」

「そうだね。ちゃんと話しておかないといけないな。」

「端的に言おう、私は君を知っている。

いや何度も“会っている“といったほうがいいかな・・・」

「会っている、だと?ちょっと待て、一体なにが言いたいのかまるでわからんぞ!」

 

「この世界はループしてるんだ。何度も何度も、ね。

だから君の事を知っている。いや、君から教えてもらったんだ。

もちろんレクイエムのことも。」

 

 

 

嫌になる。本当にほん当にほんとうに。

オレはまだ逃れることはできないのか、まだ繰り返すのか。

そんなにもこのオレが憎いか。なぜこんな、

ああ、ああ。

 

悪夢だ。

 

 

 

 

「でも今度は、君一人じゃない。」

 

その言葉に思わず顔を上げる。

 

「君には私と一緒に探して欲しい。ループを抜け出す方法を。」

 

「“運命”が君を縛るのなら、共に抗おう。」

 

彼はセツのことを完全に信用したわけではない。

だが彼女のその言葉にはどうしても抗えなかった

 

絶望、それもある。しかしそれだけではない。

決してここで引いてはならないような気がしたのだ。

立ち向かわなければならない、そんな気がしたのだ。

ゆっくりと立ち上がる。

言葉はない。しかしその貌は覚悟を決めた漢のものだった。

【ディアボロ】は差し出された手を受け取り、握り返した。

 

 

「それはそうと君にはコレを受け取って欲しい。」

そう言うとセツは胸元に手を掲げる。すると手のひらにガラスのような正方形の物体が出現した。

「・・・なんだコレは?いったい何の関係がある?」

訝しげに人差し指と親指で掴み、その奇妙な物体を色んな角度で眺める。

「これはね、ディアボロ。君の旅路を助けてくれるものなんだ。」

「疑うな。畏れるな。そして知れ。全ては知ることで救われる。」

そう言うと物体は青く光り輝き始め、そして消えた。

「私にこれをくれた人が、そう言ってたんだ。

ずいぶん・・・・昔のことだけどね。」

 

「そうだね。あとは何を・・・

っと、そろそろ時間らしい。」

 

急に視界が暗くなる。意識が遠のくが不思議と不快感は無い。

むしろ入眠直前のような心地よさすら感じられる。

「な、なん――、コレ――は――」

 

「ディ―――――り――――――って―――。」

何か言っている。しかし遂にディアボロがその言葉を聞き取れることはなかった。

 




Leviはボスが泣いてるところをバッチシ見てましたとさ。
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