コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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それと、何となくランキングを見ていたら載っていて三度見くらいしました。
皆様に感謝。


stage2 期待と歓喜

 シンジュクゲットー内の状況は今、どうなっているのだろうか。

 ブリタニア軍のKMFが投入されてからしばらく経つ。

 端末に目を落とす。

 カレンが乗るグラスゴーのポインターは健在だ。少なくともカレンは生きているらしい。

 ホッと自然に安堵の溜息が出る。

 耳のイヤホンからはカレンと扇さんのやり取りを最後に何も聞こえなくなった。

 通信機を使うほどの余裕も無いのだろう。

 

(カレンは毒ガスが使われたと思うって扇さんと話していたけど…)

 

 それは無いだろう。

 毒ガスが実際に使われているのなら、今もこうしてブリタニア軍がゲットーに留っている筈がない。

 

(……カレンの乗っているグラスゴーのエナジーフィラーが尽きる。ここで潮時…)

 

 その時ズボンの後ろのポケットに入れているケータイが震えた。

 

(兄上……?)

 

 画面を見ると兄上の名前が表示されている。

 

「どうしたの?」

『ああ、アルカ。悪い、今ニュース見れるか?』

「え、うん。ちょっと待って」

 

 もう一個の端末でニュースアプリを起動する。

 

『シンジュクゲットーのことについて報道されてるか?』

「……?えーっと、軍事演習による通行止め、だって。」

『ふむ、そうか。ありがとう。』

 

 何か考え込むかの様なトーンで話したと思ったら、今度は極めて明るい声……普段私とや姉上と接するときの何時もの様子で、

 

『すまない、今日は帰りが遅くなりそうなんだ……ご飯はナナリーと一緒に食べてくれ。』

 

 と。

 なんで兄上がゲットーの様子を気にする?

 このニュースを見ていない割には、なんでゲットーで何か起きていることを知っている?

 

「えー…夜ご飯も別……?」

 

 努めて何時もの雰囲気で、我儘を言ってみる。

 

『すまない…今度埋め合わせをするから……。手強い相手を見つけてね……。』

「ふふ、冗談だよ。気を付けて帰ってきてね。」

『ああ、じゃあ。』

 

 その言葉を最後に電話は切れた。

 手強い相手…か。

 いくつかの可能性を列挙する。

 が、今考えても仕方ないと、思考を戻す。

 

(電話越しの周りの音は静かだった。それに電話を掛ける余裕も私と少し雑談をする余裕がある、ということは少なくとも今は安全な場所に居る)

 

 心配じゃない…というと大嘘になる。

 けどそれ以上に私は兄上の事を信用している。

 勝てない相手に勝負を挑むような人ではない。

 手強い相手というのに対しても勝つための手段、方法がすでにあるのだろう。

 

 イヤホンを再び付け直す。

 相変わらず何も聞こえはしない。

 

 少し身体が冷えてきた。

 

(温かい飲み物でも買いに行こっと)

 

 私は展望台を後にした。

 

 ・

 ・

 ・

 

 『勝ちたければ、私の指揮下に入れ!!』

 

 レジスタンスが窮地に追い込まれていたその時、とある男が手を差し伸べた。

 後にゼロと呼ばれるその男は、瞬く間にシンジュクゲットーに蔓延るブリタニア軍を壊滅させ、ブリタニア帝国の第3皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアを殺害した。

 シンジュク事変と呼ばれるこの事件は、ゼロの輝かしいステージデビューの場となった。

 

 ―――――A・A著書 「帝国の崩壊」第1章より抜粋

 

 

 

◇◇◇

 

トウキョウ租界 シュタットフェルト邸 カレンの自室 シンジュク事変 同日、夜

 

「そ、それで急にクロヴィスからの命令が出て、ブリタニア軍は嫌々ながらも私達の手当てをして引き上げたってわけ。」

「そんなことが…」

 

 現地に居なかった私はカレンからシンジュクで起こったこと、謎の男の事を聞いていた。

 

「クロヴィスの不可解な命令……タイミング的にその謎の男の仕業…って考えるのが一番合点がいく。」

「けど、どうやってクロヴィスを従わせたのかが分からない。」

 

 うーんっと二人で頭を悩ませる。

 謎の男……私も実際に聞いていた。

 そして声を聴いた瞬間、ある一人の存在が脳裏を過ぎった。兄上だ。

 

(声は似ていた…けど、通信機越しでノイズも荒かった。断定は出来ない。)

 

「まぁ何にせよ、無事で良かった。作戦は失敗……だけど、死ぬよりはまし。扇さんに大人しくしてろって言われたんでしょ?どう、久しぶりに学校でも?」

「考えとくわ……」

「それじゃ、また明日。()()()。」

 

 バイバーイとカレンに手を振ってシュタットフェルト邸を後にする。

 カレンが最後、話聞いてた?みたいな顔をしていたが、気にしない。

 一人で帰路についている中、カレンから聞いたシンジュクの事を思い出す。

 

(作戦失敗…か……)

 

 作戦の失敗。すなわち、目的の物は手に入れることが出来なかった。

 いや、化学兵器自体が欲しかった訳では無いけども。

 いつになったら、彼女と、C.C.と再会出来るのだろうか…

 

「会いたいよ…」

 

 ポツリと呟いた言葉は租界の喧騒にかき消された。

 

 

◇◇◇

 

アッシュフォード学園 中等部 教室

 

 教室がざわついている。

 

「毒ガスだって、怖い…」

「見てこれ、イレヴンの死体」

「こんな近くでテロ行為が……」

「KMFかっけぇ、俺も乗りたい」

 

 昨日のシンジュクの事で話題は尽きない。

 反応は人それぞれ、まるで映画を観た後のように興奮している生徒もいれば、イレヴンに対して不安を募らせている生徒も居る。

 まぁいずれにしても、私からすると、雑音以外の何ものでもない。

 

(………カレンから…?)

 

 ふとカレンからメッセージが届いた。

 ケータイを確認すると簡素なメッセージで一言。

 

『学校、来たわよ。』

 

 思わず口元が緩む。

 

(ほんと素直じゃないねぇ)

 

 

◇◇◇

 

 アッシュフォード学園 クラブハウス リビング

 

 疲れた。

 中等部どころか学校のあちらこちらで、シンジュクのあること無いこと、噂話。耳にタコが出来そうだった。

 放課後は放課後で生徒会のお手伝い。

 部活の予算審査が終わらないらしく、私に泣きついてきた。

 それが終わった後はカレンとお茶…だったが、何故か兄上の事を根掘り葉掘り聞かれて気が休まらなかった。

 とにかく、疲れた。

 

「はい、出来ましたよ。」

 

 メイド服の女性、篠崎咲世子さんが姉上に鮮やかな紙で折られた鳥を渡す。

 

「これは……鳥?」

「はい、鶴です。」

 

 私と姉上は日本の文化であった、おりがみを教えてもらっている。 

 

「紙一枚でこんなのが……日本人って器用なんですね…」

「私も少しは折れるのよ、何か折ってあげましょうか?」

 

 折り紙に興味を示した私に姉上は少しだけ得意げになる。

 

「え!ほんと!何がいいかなぁ……」

 

 私達の会話をを微笑ましそうに眺めている咲世子さん。

 そんな和やかな空間に、もう一人分の声が加わる。

 

「ごめん、遅くなっちゃって。」

 

 兄上だ。

 

「おかえりなさい、お兄様。」

「おかえり、兄上」

「おかえりなさいませ。」

 

 三者三葉、それぞれが反応を示す。

 

「ただいま、ナナリー、アルカ。咲世子さん。」

 

 穏やかな顔と、優しい声音。

 いつもの兄上だ。

 

 ・

 ・

 ・

 

「咲世子さんに折り紙を教えてもらってたんです。1枚の紙を何度も折ると鳥とか、花とか色々なものに……あ………」

 

 ナナリーの口元からスープが零れる。

 

「ちょっと動かないでね~、姉上……。うん、拭けたよ」

 

 すかさずアルカがナプキンを取り、ナナリーの口元を拭う。

 

「そんなに急いで話さなくても大丈夫だよ、俺は何処にも行かないから。」

 

 妹達との食事。

 俺にとって一番心が安らぐ時間であり、毎日の楽しみでもある。

 しかし、昨日は3人同じ時間に食事を取ることは叶わなかった。

 …俺の帰りが遅くなったからだ。

 もっとも、俺が帰宅するまで二人とも起きてはいた。が、先にご飯を済ませたらしい。

 良かった。昨日の俺は食べる気分ではなかったから、不幸中の幸いとも言える。

 

「よかった。」

「え?」

「昨日のお兄様、少し怖かったから。」

「ごめん、ちょっと考え事があってさ……」

 

 あの光景を思い出す。

 冷たい銃の感触。命乞いをするクロヴィス。

 考え込む俺をアルカは不思議そうな顔で俺を見ている。 

 

「ん?どうした、アルカ?」

「え、あ、いや。……兄上は何かお願いあるかなぁって」

「なんだ?唐突に」

「お兄様が帰ってくるまで、咲世子さんに折り紙を教えて貰ってたんです。折り紙で鶴を千羽折ると夢が叶うという素敵なお話がありまして……。」

「そこで姉上と2人でお互いの願いは何?っていう話になったのをさっき思い出して…。それで兄上は何かないかなぁって。」

 

 妹達の可愛らしい発想に口元が緩む。

 しかし、今の俺に、願いを言う権利があるのだろうか。

 人を殺した俺に……。

 

「いや、俺は……。2人のはどんな願いなんだ?」

「優しい世界であって欲しいです。」

 

 ナナリーの即答に対してアルカは何処か言葉を選ぶ様に、慎重に

 

「大切な人達が幸せに暮らせる世界…かな。」

 

 2人の純粋な願いを聞き、思わずハッとなる。

 そうだ、俺達には選択できる未来が限られている。

 アッシュフォードもいつまで匿ってくれるかは分からない。

 素性がバレればシャーリーやリヴァル達も離れていくだろう。

 行く末は、政治の道具か陰謀の餌食だ。

 妹達にとって、今の世界は優しくない。

 この世界では、幸せに暮らせない。

 

「お前達が大人になる頃には、きっとそうなっているよ。」

 

 妹達には気休めに聞こえただろう。ナナリーは嬉しそうに、アルカは何処か不安そうな顔をしている。

 しかし、これは俺の覚悟だ。

 妹達に優しい世界を、幸せに暮らせる世界を。作らなければ。

 

 

◇◇◇

 

アッシュフォード学園 クラブハウス エントランス

 

「研究のデータが入ったメモリーカード?」

 

 うん、と目の前の眼鏡をかけた少女は申し訳なさそうに頷く。

 

「クラブハウス内の何処かに落としちゃったみたいなの……」

 

 眼鏡の少女、ニーナさんの大事なデータが入ったカードが何処かにいってしまったらしい。

 

「大きさは?」

「すごく小さい……」

「最後に見たのは?」

「私が使っているパソコン部屋……」

「パソコン部屋以外に何処か行った?」

「2階に用事があって、一度だけ……」

 

 私、リヴァルさん、シャーリーが順番に問いかける。

 ニーナさんは頻繁にクラブハウスにある一室に引き籠り、趣味の研究に没頭している。

 彼女が普段使っているパソコン部屋は、私達が住む区画とは反対側の最奥の部屋。

 2階にも行ったということは……

 この場に居る4人で小さなメモリーカードを、彼女の広い行動範囲から探さなければならないらしい。

 気が遠くなる。

 

「まぁ…まだ会長の準備。かかりそうだし、それまで探すか……」

 

 リヴァルさんが少し、げんなりしながら呟く。

 それに対し。シャーリーさんは絶対に見つけるぞ。と意気込み、ニーナさんは相変わらず申し訳無さそうに眉を下げている。

 

「皆で探せばきっと見つかるよ、がんばろう?」

 

 私の言葉が合図となり、4人は黙々と小さなメモリカードを探し始めた。

 

 

◇◇◇

 

「あったあった~!!」

「ああ、それです、それ!!」

 

 シャリーさんとニーナさんは互いに手を取り喜んでいる。

 

「ふふ、あって良かっ……あれ?兄上にカレン?全然気づかなかった。」

 

 私達の居る2階から下の階へ視線を落とすと、兄上とカレンが居た。

 2人はポカンとした表情でこちらを見ている。

 

「アルカ?それに皆も…どうして……」

「そっちは見つかった~?」

「会長とナナリー…?」

 

 言葉が途中だった兄上だが、続けることは無く、部屋に入ってきたミレイさんと姉上の方へ意識を向ける。

 ミレイさんが押すワゴンの上にはたくさんの料理が。姉上の膝の上には専用の段ボールに入ったピザが。

 

「この料理は……?」

「あれ?知ってて連れてきたんじゃないの?」

「は………?」

 

 理解が出来ない、2人はそんな顔をしている。

 

「カレンを生徒会に入れるって、やったね!」

 

 私の言葉を聞いた途端、顔面蒼白のカレンが私を部屋の隅へ連れていく。

 

(ちょっと!私入りたくないんだけど!)

(そんな事言われても……私が決めた訳じゃないし……)

(じゃあ誰が決めたのよ!?)

(理事長だって。部活が出来ない病弱お嬢様(仮)のカレンに気を使ってくれたらしいよ)

(余計なお世話よ……。大体………)

 

 ああだ、こうだ。カレンとのひそひそ話が続く。

 

(まぁまぁとにかく、私も生徒会には顔出してるから、ね?行きたくない日は病弱設定を使えばいいじゃん)

(………はぁ、腹くくるしかないか…)

「おーい、そこの2人~。内緒話してないでこっち来なさいよ~。」

 

 私達の様子に痺れを切らしたらしい。

 カレンの手を引っ張りながらミレイさんの元へ戻る。

 

「ごめんごめん、カレンに生徒会の仕事出来そうか聞いてたの、大丈夫だって」

「そう、それなら良かったわ。じゃあ始めますか!新しいメンバーの歓迎パーティー!!!!!」

 

 お祭り女(ミレイさん)の言葉を皮切りにどんちゃん騒ぎが始まった。

 

 ・

 ・

 ・

 

 リヴァルさんが持ち込んだシャンパンによってびしょ濡れになってしまったカレン。

 風邪を引いては大変だと、カレンは途中退出。

 主役が居なくなった事により、パーティーは一時中断となった。

 急ぎカレンをシャワー室へ案内し、早々にお役御免となった私は、皆の待つエントランスへ戻る。

 代えの服を持っていこうとしたが、カレンのサイズに合う服を私が持っている筈も無く、兄上が代わりに自身の服を届けるそうだ。

 

「そんな、」

「どうして……」

「皆して、どうしたの?」

 

 先ほどのどんちゃん騒ぎとは打って変わり、皆神妙な顔つきでテレビを見ていた。

 姉上が眉を下げながら、悲しみを含んだ声で口を開いた。

 

「アルカ、大変なことになったの」

「一体何が……」

 

 私もテレビへ意識を向ける。

 

 画面には純血派のリーダー、ジェレミア・ゴットバルトが真剣な顔つきで会見を行っていた。

 右上にLIVEと表記されていることから生中継ということが分かる。

 

『クロヴィス殿下は殉死されたのだ。平和と正義の為に………』

「クロヴィス総督が……殺されたんです……………」

 

 テレビの音声と姉上の声が重なる。

 その言葉を聞き、私は目を見開く。言葉を失う。

 しかし

 決して、悲しみからではない。

 決して、不安からではない。

 

 私の中にあるのは

 

(………ふぅん…………………。)

 

 今後に対する期待。

 皇族殺しをやってのけた者が現れたという歓喜。

 それだけだった。

 

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