まさかの3時間クオリティ。
どうぞ。
『怨嗟の声が…怒りの声が上がっています……殿下がどれほど愛されていたかという証の声です……』
ブリタニア軍による枢木スザク移送の生中継。
道路を取り囲む民衆から非難の声が上がっている。
「地獄に堕ちろ」「クロヴィス殿下を返せ。」
そんな声が道路中央の枢木スザクに向かって投げられている。
(15世紀にあった魔女狩りみたいな光景…)
勿論実際に見たことは無い。
あくまでもこういう感じだったのかな、という想像だ。
「スザクさん………」
一緒に中継を聞いている姉上が、不安を隠し切れず、彼の名前を零す。
「きっと大丈夫だよ、姉上。信じよう?」
何を。とは言わなかった。
震える姉上の手に自分の手を重ねる。
ゼロは言ってみせた。不可能を可能に、奇跡を起こして見せると。
彼が期待通りの男だったら、彼の軍門に下るのも悪くない。
そういう意味でも見逃せない中継だ。
(張りぼての毒ガスカプセルとクロヴィスの御料車でどうするつもりだろうか)
ゼロの指示でその2つを見た目だけで良いから作って欲しいと言われ、カレンと扇さんと私の3人で用意した。
彼に協力した3人の中で、あの場に居るのは2人。
扇さんとカレンだ。
また作戦から外された事に少しばかり思うところが無い訳でも無いが、彼の判断に今は従うことにしよう。
私、車の運転したことないし。
ふと、枢木スザクを乗せた車と、周りのKMFが停止する。
周囲はざわつき、リポーターからも困惑の声が上がる。
『ここで止まるという予定はありません…何かのアクシデントでしょうか…?』
カメラに映るジェレミアは笑みを浮かべる。
純血派のリーダー、ジェレミア・ゴットバルト。
クロヴィス亡き今、実質的に軍を取り仕切っている男だ。
ブリタニア軍はブリタニア人だけで運営していくべき、というのが純血派の主張。
名誉ブリタニア人である枢木スザクが容疑者になった事で、軍内部での発言力を高めた様だ。
皇族の死すら利用して、成り上がる様はまさしくブリタニアの国是の象徴とも言える。
この枢木スザクの移送中継も彼にとっての一種のエンターテインメントなのだろう。
エリア11での軍のトップは私だ、と主張する為か。
真犯人がいることを見越して、枢木スザクを餌に、炙り出そうとしているのか。
ジェレミアの真意は分からない。
どちらに転んでも、彼がエリア11においての軍の覇権を握ることは時間の問題だろう。
彼が今日、無事に移送出来れば、の話だが。
(来た………)
3人で作った張りぼてのクロヴィスの御料車が小さく映る。
(さてと、お手並み拝見だ、ゼロ)
◇◇◇
『私は、ゼロ』
仮面の男が名乗りを上げる。
突然の登場に周囲の民衆、リポーター、この光景を見ている全員が驚きを隠せない様子だ。
「ゼ、ロ……?」
それは、姉上も例外では無い。
空の輸送機から降下してきたKMFがゼロとカレンの運転する車を取り囲む。
一見すると絶体絶命。生身で鋼鉄の巨人であるKMFに勝てるわけがない。
しかし、ゼロは動揺の一つも見せず、その場に佇んでいる。
ジェレミアはゼロへ銃口を向ける。
何か話している様だが、周囲の雑音にかき消されていて、テレビ越しからは彼の声は聞こえない。
ふと、ゼロが右手を上げ、指を鳴らす。と同時に御料車の張りぼてが外れ、偽の毒ガスカプセルが現れた。
『何らかの機械かと思われますが、目的は不明です──』
軍属の人間にしか分からないであろう、兵器。
周りに居るブリタニア市民は事の重大さに気付いていない。
そんな状況下でジェレミアは焦った様子を隠そうともせず、ゼロに語り掛ける。
『分かった。要求は?』
『交換だ、そっちの男と。』
急にカメラが寄り、音声がクリアになる。
現場のマスコミがネタを嗅ぎ付け、近づいたのだろうか。
『笑止!この男はクロヴィス殿下を殺めた大罪人!引き渡せる訳がない!!』
『違うな、間違っているぞ。犯人はそいつじゃない……。クロヴィスを殺したのはこの、私だ!!』
今まで一番、ブリタニア市民の困惑と驚愕の声が大きく上がった。
『イレヴン一匹で尊いブリタニア人の命が大勢救えるんだ。悪くない取引だと思うがな。』
ゼロは周りの様子を一瞥することも無く、言葉を続ける。
『こやつは狂っている!殿下の御料車を偽装し、愚弄した罪!贖うがいい!』
『いいのか?公表するぞ、オレンジを。』
一瞬、時が止まった様に静寂が訪れる。
「オレンジ?知っている、姉上?」
「さぁ…分からないです」
ジェレミアとの距離を詰める為なのか、ゼロの乗る車が、前進し始めた。
『私が死んだら公表される事になっている筈だ。そうされたくなければ……』
『なんだ、何を言って――。』
『私達を全力で見逃せ!そっちの男もだ!!』
『…………。ふん、分かった。その男をくれてやれ。』
ブリタニアは必要とあらば民間人をも切り捨てる。
ブリタニア市民を人質として立てこもったテロ集団を、民間人ごと叩き潰した、という話は有名だ。
出世欲に憑りつかれていようが、ジェレミアは生粋のブリタニアの軍人であり、KMFを駆る騎士侯。
テロリストとの交渉など、普通だったら乗る筈も無い、が。
彼は人が変わった様に、ゼロの話に乗り、枢木スザクを解放した。
「これは………」
この光景を大多数の人間は、「オレンジ」を恐れたジェレミアが、ゼロに屈したと見るだろう。
しかし、私には。
この光景が、全く別のモノに見える。
「アルカ?何が起きたの?」
「…ん、ああ。えっとゼロの交渉に応じて、枢木スザクをゼロに引き渡したんだよ。」
「スザクさん、無事なんですね!」
姉上は嬉しそうに、暗かった顔に笑顔を少し取り戻した。
(間違いなく、ゼロは……ギアスを………)
思い返すは、ゼロと初めて会った時。
乗車客は私達に何の反応も示さなかった。
クロヴィスの暗殺もギアスがあれば容易いだろう。
テレビに意識を戻す。
そこからの展開は一瞬の事だった。
レプリカのカプセルからガスが噴出した事で現場はパニックに。
純血派がKMFでゼロの逃亡を阻止しようと試みるものの、自身のリーダーであるジェレミアに阻まれ、ゼロはまんまと逃げおおせた。
「よかったぁ」
無意識から出た安堵だろう。
姉上は、異母兄を殺した真犯人よりも、幼馴染の無事に意識を向けていた。
(誰もが不可能と思っていた事を、二度もやって見せた…その奇跡が作られた演出だとしても、これで扇さん達はゼロへと傾倒していく事に……)
ガチャリ、と扉が開く音が響いた。
「お兄様?おかえりなさい―?」
姉上が身体を向けた方へ、視線をやる。
そこに居たのは、兄上では無く。
「…嘘…………」
緑色の髪をした。人形の様な見た目の少女。
「アルカ――――」
C.C.だった。
◇◇◇
ああ、何も変わらない。
いや、変わらないのは、当然か。彼女は不変の存在なのだから。
その綺麗な緑色の髪も。
端正な顔立ちも。
冷たい印象を与えながらも、どこか優しさを含んだその金色の瞳も。
私に対して柔和に微笑みを向けるその表情も。
全てが私の記憶しているままだ。
唯一違うのは、その身に着けているブリタニアの白い拘束衣か。
2年前にフクオカで離れ離れになってから、ずっと彼女を求めていた。
ずっと会いたくて。
会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて――――。
彼女の事を思い出し、自分で慰めた日もあった。
そんな待ち焦がれた彼女が、今、目の前に――。
「……C.C.――――」
「え?C.C.さんってアルカを助けてくれた?コホン、初めまして、ナナリー・ランペルージと申します。この度は妹が――――」
姉としての責務、と感じたのだろうか。
姉上は畏まってC.C.に挨拶とお礼を伝えようとする。
「アルカ――」
が、C.C.はそんな姉上の言葉を遮り、再度私の名前を呼んだ。
両手を左右に広げながら。
おいで、とでも言っているかの様に。私の大好きな優しい表情で。
「――――っ」
視界が涙で滲む。
姉上の言葉の途中だっただろう。
目の見えない姉上からすれば、状況を半分も理解出来ていないだろう。
申し訳無さを感じない、と言えば嘘となるが、今だけは許してほしい。
私は腕を広げるC.C.の元へ駆け寄り、その胸へ飛び込んだ。
まだ、泣き虫は卒業できそうにない。
◇◇◇
(なんだこれは………)
意味が分からない。
スザクを解放し、ゼロの力を扇達に認めさせた俺は、愛する妹達が待つクラブハウスへ帰った。
そこにはいつもの光景が広がって――いなかった。
「おかえり、ルルーシュ。」
「おかえりなさい、お兄様」
「あ、……おかえり…」
見覚えのある緑色の髪の少女。
車椅子に座る盲目の妹。
緑色の髪の少女の膝の上に座り、目を充血させ、しおらしいもう一人の妹。
机の上には折り紙が散乱している。
「その様子だと、食事は外で済ませてきたな。」
アルカを後ろから抱きしめながら、我が家同然にくつろいぎながら、ふてぶてしく言う。
「心配しました…。ゼロという人の騒ぎに巻き込まれたんじゃないかって。………お兄様?せっかくC.C.さんが来られたのに。」
「C.C.……?」
アルカを助けたという……、この女が?
「話には聞いていましたけど、変わった方ですよね。本当に名前がイニシャルだけだなんて。」
「あ、ああ……」
この状況をどうするべきか、策を模索するも、頭が上手く働かない。
兎に角、この女に対する情報が足りない。
本当にこの女がアルカが言っていた人物だとしたら、アルカに聞くのが一番だろう。
「なぁ、アルカ………」
「アルカは今、キャパオーバーで碌に受け答え出来ないぞ、頭が働いていないからな。」
もっとも、そうしたのは 私だがな、とC.C.は悪戯っぽく呟いた。
(何をしたんだ!?)
いくら考えようと解は出ない。
こいつと2人で直接話す必要がある、な。
手荒な真似にはなるが、仕方が無い。
テーブルの上に置いてある紅茶の入ったティーカップを手に取り、床に落とす。
「ああ、大丈夫か?こんなに濡らしてしまって。着替え、貸すからちょっとこっちへ来てくれないか。」
穏やかな口調とは裏腹に、今の俺の目はクロヴィスを殺した時よりも鋭いだろう。
「はぁ、わかったよ。アルカ、少し席を外す。」
「あ、うん……は、い………」
彼女の腕を掴み、自室へと連れていく。
「ナナリー、アルカ。危ないからそこから動くなよ。後で片付けるからさ。」
そう言い残し、部屋を後にした。
◇◇◇
「誰だ、お前は?」
部屋に入り、彼女を突き飛ばす。
そんな俺の態度に気にする素振りも無く、むしろ愉快そうに口元を緩めている。
「言っていなかったか?C.C.と。」
「そうじゃなくてお前は―――」
「死んだはず、か?」
そう、あの時、シンジュクで。
彼女は額を撃たれ、絶命した筈だ。
「気に入ったか?私の与えた力は。」
力―――。俺の左目に宿るギアスの事だ。
「やはり、この力は…お前が……」
「不満か?」
「いや、感謝している。お陰でブリタニアを崩すスケジュールを、大幅に前倒し出来たのだから。いや、それよりも。」
話を聞く限り、アルカはこの女と共に過ごした期間が長い。
この女の異常性、ギアスの事。
知っていてもおかしくない。
兄としては妹の身近に、こんな得体の知れない女や、危険な力が彼女の傍にあるのは好ましくない。
「お前の身体や、ギアスの事。アルカは―――」
「自分で聞け。」
ぴしゃり。と切り捨てられた。
「……お前とアルカの関係……詳しく知りた―――」
「自分で考えろ。」
「………何処で知り合った?」
「しつこいのは嫌いだ。」
………ああ、この短時間だがよく分かった。
この女とはまともに会話が出来ないという事が。
(今度、アルカに聞いてみるか……。妹に探りを入れる様で良い気分はしないが…)
「…お前、これからどうするんだ?軍に追われているんだろう?」
「軍といっても極一部だけ。アルカと同じだ。普通に隠れているだけで十分だ。」
そう言いながら彼女は、部屋の出口へ向かう。
「ここにはアルカも居るしな、アルカの部屋で過ごすことにするよ。」
「おい、ここに泊まるつもりか?」
「泊まるのではなく、住むつもりだ。」
頭が痛くなる。
ただでさえ、ゼロとして名乗りを上げたんだ。
これ以上、不安の種を増やす様な真似をしたくは無い。
それよりも!アルカには悪いが、この女を妹達に近づけたくない!悪影響を及ぼしそうだ!
(アルカはこの女の何処が……)
そんなことを考えていると、
「あ、そうだ。ルルーシュ。アルカは明日、学校休みだ。起きれないだろうからな。部屋にも来るなよ。」
「は?待て!どういう意味だ!」
「おやすみ、ルルーシュ。」
俺の疑問に答える事無く、C.C.は部屋を出た。
アルカの元へ向かったのだろう。
「なんなんだ、一体……」
人並な表現だが、すごく疲れた。
やっとC.C.出せたよ!やったー!!
後、私、オレンジ卿好きなので、アルカがその場に居ないにも関わらず、割としっかり描写を書きました。
まぁ大事なところなので、いいですよね。