「おい、アルカ……そんなに泣くな………」
紫色の髪の女性、コーネリアが、泣いているアルカを慰める。
「…でも、コウ、姉様……。母上、私にだけ…厳し、い………きっと、私の事、嫌い…なんだよ………」
嗚咽を交えながらも、少女は答える。
「マリアンヌ様が? まさか、そんな筈がない。期待しているんだよ、お前に。」
「……私に…?」
「ああ、お前は筋が良い。KMFの操縦にしろ、剣の扱いにしろ。そのまま、騎士侯としての道を進めば、閃光にも届くだろう。」
「………」
「確かにあの方は厳しい。しかし、それはお前だけに対してではない。ルルーシュだって、泣かされていたぞ。」
泣いていた少女は目を丸くする
「お兄ちゃんが……?」
「アルカ。兄上、だ。」
コーネリアがアルカを咎める。
その言葉を聞き、彼女はばつが悪そうな顔をし、兄上が、と言い直した。
「ふっ……。座学で…だったかな。ルルーシュも苦戦している様だ。マリアンヌ様の厳しさは、全てお前達の為なんだよ。」
「ブリタニアに、貢献できる様に……?」
「違う、まぁ結果的にはそうなるだろうが。弱肉強食のこの国で、お前達が生きていける様に、だ。」
・
・
・
「…………随分懐かしい、夢。」
上半身を起こす。
母上の指導に根をあげ、ヘソを曲げていた時の光景。
異母姉であるコーネリアが、彼女なりに慰めてくれたのを良く憶えている。
(私に対しては、特に気に掛けてくれていたっけ)
横で眠るC.C.へ視線を向ける。
布団の端から白い肩が見えることから、服を着ていないのが分かる。
ふと、肌寒さを感じ、自身の身体を確認する。
私も着ていなかった。
重力に従って落ちた布団を手繰り寄せ、部屋にある時計を確認する
時刻は早朝、5時ちょうど。
学校行く準備をするには、早過ぎる時間だ。
「かといって2度寝するのもなぁ……」
私は寝起きがあまり良くない。
今から寝てしまったら、確実に、寝坊する自信がある。
「…ふぁあ………」
しかし、眠い。
昨晩は寝れなかったから。横で心地良さそうに眠る、彼女の所為で。
(まぁ、私が起きれなくても、兄上が起こしてくれるでしょ。)
他力本願思考に切り替えた私は、再び布団に入り込み、C.C.に身体を寄せる。
ほどよく温かく、心地良い。
瞼が、重くなってき、た………
数時間後。
結果、兄上は起こしに来ず、私は盛大に遅刻した。
あの魔女、人払いは事前にしっかりしていたらしい。
◇◇◇
クラブハウス ルルーシュの部屋
「組織が必要だ。」
部屋の主は重々しい口調でそう呟いた。
「ゼロを信用し、命令を忠実に遂行する組織が。」
「コーネリアに無様に負けたと思ったら、次は妹に泣きつくとは。情けない男だ。だから言っただろう?アルカも使えと。」
「黙れ魔女。」
話を聞くと、兄上は一人でサイタマゲットーに向かい、コーネリア軍と戦闘。
シンジュクの様に、現地のテロリストに指示を出すも、統率が取れず惨敗。
窮地に陥った時、ゼロに紛したC.C.に助けられた……らしい。
「ゼロを信用…という点では、扇さん達が一番適してると思う。シンジュクとスザクさんの件もあるし。それにKMFの扱いもマシだしね。」
「お前が教えたんだっけか。」
「うん、あとカレンも一緒に。」
「……そうか。」
あのブリタニアと戦争するのだから、KMFくらいは扱えてもらわないと困る。
そう思って、扇さん達には操縦訓練をほぼ毎日、やって貰っていた。
それが役に立ちそうで何よりだ。
「……アルカからして、扇グループはどう見える?」
「扇さんに対する信頼と、カレンのKMFの操縦技術だけで成り立っている……感じかな。」
実際に、扇さんに対する信頼は厚い。
元々知り合い同士だったのだろう。
玉城さんは………まぁ除いて、割と全員、扇さんに対してはイエスマンな部分はある。
「……紅月カレンの操縦技術は間違いないんだな?」
「本国でもそうそう見ないくらいには。」
「………そうか。リーダーの扇さえ抑えれば、どうにでもなりそうだな。」
「間違い無く。」
兄上の目に覚悟が宿る。
そんな彼を見てC.C.はやれやれ、と肩をすくめた。
◇◇◇
電車の窓からゲットーが見える。
倒壊した建物、幽鬼の様に歩くイレヴン達。
(………ゲットーの姿は、何処も変わらないね)
外の景色を眺めていると、
「私、トウキョウ租界を出るのって初めてなんですよ!」
目の前から興奮を隠し切れない、といった様子の声が聞こえた。シャーリーさんだ。
「ルルーシュも来れると良かったのにねぇ。」
私の隣に座るミレイさんは、意地悪な顔をしている。
「な…………」
「良いではないか。今宵は語り明かそうぞ。好きな男の子、教えあったりさぁ!」
「そんな人居るの……?ミレイちゃん………。」
ミレイさんの発言にすかさず、ニーナさんが突っ込む。
私も、ミレイさんには居ないと思う。
「ふふ、さあねぇ。」
私達4人は今、河口湖にあるコンベンションセンターホテルに向かっている。
なんでもサクラダイトの分配レートを決めるサクラダイト産出国会議が開かれるらしい。
サクラダイト――
エリア11で多く取れる鉱物資源。
主にKMFの動力炉であるドライブの触媒として使われており、ブリタニアが日本を侵略したのも、これが目的だったと言われている。
アッシュフォード家は、エリア11におけるサクラダイト利権を握っている家系の一つであり、ミレイさんはアッシュフォード家の代表として参加するらしい。
会議と言っても、あらかじめ決定されている事項を確認するだけの場らしく、後に開かれるパーティーが、殆どメインになっているとか。
そこで、1人で行くのは詰まらない、と考えたミレイさんは私達の声を掛けた。
(……でも、なんで私まで……)
本来だったら今日は、ゼロと扇さん達の会合だったのに。
私はそっちに参加するつもりだった。
誘われた事を話したら、兄上にも、姉上にも、扇さんにも、カレンにも!
皆が皆、口を揃えて、「たまには行ってこい」って言うんだもの。
ちなみにC.C.だけは渋っていたが、最終的には「……まぁ、一泊くらいは許してやろう。」と言ってきた。
(止めて欲しかった……)
結局、私はミレイさんやシャーリーさんの押しに負けて着いてきた。
どうも昔から、人の頼みに弱い。
「それにしても、アルカが来れて良かったわぁ!ルルーシュ、口煩いったらなんの……」
「兄上、心配性だから……」
「まぁ、こんな可愛い子が妹に居たら分かるけどねぇ。」
おりゃおりゃ、と言いながらミレイさんは、私の頭を撫でる。
兄上が念入りにミレイさんに確認していたのも知っている。
メディアの参加はあるか、どんな貴族が来る、ホテルのセキュリティ、治安etc………
素性が素性だから、気にするのも仕方が無い。ミレイさんもそれは分かっているだろう。
………聞かれた後、やつれた顔していたけど。
結果的に、兄上チェックリストは合格した様だった。
「アルカってこんなに可愛いのに、浮いた話、1つも無いの?」
「ないよ……私の学校での話、聞いているでしょ?」
「ええ!気になる男の子とかは!?」
ミレイさん、シャーリーさんが矢継に質問してくる。
ほんとに恋愛話好きだよね………
男の子…男の子かぁ………居るわけが無い、だって
「居ない。だって私、男に興味無いもん。」
「「「え?」」」
3人の声が車内に木霊した。
◇◇◇
(………最悪)
恐怖で震えるニーナさん。
それを優しく抱きしめるミレイさん。
恐怖を必死に堪えているであろう、シャーリーさん。
ニーナさんに習って、肩を震わせ、シャーリーさんに抱き着く私。
周りには怯える顔をしたブリタニア人達。
今この場に、ホテルの食糧庫に連れてこられた
「諸君らは民間人であり、本来は巻き込むべきではない者達ではあるが……」
男が口を開く。
「我々の日本を占領した、悪しき民族である事には変わりない。」
後ろにきっちりと固めた黒髪。横に携えた日本刀。
「私は日本解放戦線中佐、草壁である。悪いが協力してもらう。」
旧日本軍の生き残りで構成された、エリア11で最大のテロ組織。
日本解放戦線。
私達は今、彼らが起こしたホテルジャックの人質としてこの場に居る。
(本当に、最悪。)
ブリタニア軍に人質の映像でも、送り付けるつもりなのだろう。
クサカベと名乗った男の横に、カメラを持った兵士が居る。
この映像をコーネリアが観ると考えると、下手に映る訳にはいかない。
あれの所為で私は顔を上げることが出来ず、シャーリーさんの胸に顔を埋め、怖がっている演技をするしか無い。
怯える私を哀れんで、シャーリーさんは背中を撫でてくれる。
(……子どもで良かった…………)
こうしている内は、日本解放戦線も私に突っかかって来ない。
今だけは実年齢に感謝である。
(カメラだけだったら、適当に隙を見てどうにかするんだけど……)
いつまでもこうして撮影するわけでは無いだろう。
ブリタニア軍との交渉もあるんだ、人質ばかりに人員を割くわけが無い。
カメラより問題なのは、この部屋に居る少女。
腰まで届くピンク色の髪。今は変装の為なのか眼鏡を掛けている。
ブリタニア第3皇女 ユーフェミア・リ・ブリタニア。
現総督、コーネリアの他でもない、妹である。
(こんな小さいパーティーに、皇族が自ら来ないでよ……)
大方、ユフィ姉様が行きたいとでも我儘を言ったのだろう。
昔からそういう傾向はあったが、今も健在らしい。
市民との距離を詰めようとする皇女様、というのも困ったものだ。
とにかく、仮にカメラが無くなろうとも、彼女が居る限り、私は行動できない。
意外と記憶力の良い彼女の事だ。すぐに私だってわかるだろう。
(はぁ……誰か助けて………)
彼女さえ居なければ、ギアスでどうとでもするのに。
・
・
・
ここに集められて何時間経っただろうか。
まだ数分の事にも思えるし、数時間経ったようにも思える。
「人質を1人殺したくらいで、交渉には応じないか。仕方ない、2人目だ。」
今から15分事に1人ずつ殺していく、と言われてから30分が経過したらしい。
「人質の映像はもういい、その代わり、殺す時の映像を撮っておけ。ブリタニアに我らの覚悟を思い知らせるんだ。」
ユフィ姉様の方へ、視線だけ向ける。
何やら隣に居る女性と言い合っている様だった。
SPだろうか。私が名乗り出ます、とか言っていそう。
「イ、イレヴン………」
ふと、か細くて震えている声が、狭い室内に反響した。
ニーナさんの声だ。
「今、なんと言った!?」
兵士は銃をこちらに向け、激昂する。
「イレヴンだと?我々は日本人だ!!」
「分かってるわよ!だからやめて!」
「訂正しろ!我々はイレヴンではない!」
兵士に対し、ミレイさんが声をあげる。
ニーナさんの幼馴染としてか、彼女本来の正義感からか。私には判断出来ない。
けど、これは非常に不味い。
この密閉空間に加えて、人が死んでいるんだ。人質達のストレスも溜まっている。
それに兵士達側も相当なものだろう。
これだけの規模のホテルハイジャックだ、軍が出てこない筈が無い。恐らく、ホテルの周りにはコーネリア軍。テロリストからしてみれば、いつ攻めてくるか分からない。
そんな両者緊迫した中で、ニーナさんが爆弾を投下してしまった。
簡単には収まらないのは明白。
「訂正するから!!」
私の頭の上で、声が上がった。
シャーリーさんの私を抱きしめる腕に力が入る。が、震えている。
(……………)
怖いのだろう。触れてる部分から気持ちが伝わってくる様に、ハッキリとわかる。
「なんだその言い方は!?お前達、隣の部屋に来い!きっちり教え込んで………」
「っ!いい加減に―――――。」
留まる事無く、ヒートアップする日本兵士にギアスを使おうと言葉を紡ぐ――――
「おやめなさい!!」
ことは無かった。
突如、響いた凛とした声に、遮られたからだ。
「なんだ貴様!!」
「私を、貴方達のリーダーに会わせなさい!」
「何!?」
「私は、ブリタニア帝国第3皇女 ユーフェミア・リ・ブリタニアです。」
辺りがざわつく。
それもそうだ、今まで表舞台に立つ事の無かった、第3皇女。
エリア11の現副総督が、こんな所に居るのだから。
「貴女、大丈夫?怪我はない?」
場違いな程に優しい声で、ユフィ姉様はニーナさんに問いかける。
「は、はい……。」
ニーナさんは、まるで神を崇めるかの様な顔で、暗闇の中から光を見つけた時の様な表情で、彼女を見つめている。
「…草壁中佐がお会いになるそうだ……」
「ありがとうございます。私がここから離れている間は人質に手を出さないと、約束して頂けますか?」
「ああ、わかった。」
ニーナさんに話している間に、通信機でクサカベに報告したらしい兵士がユーフェミアを連れていく。
ふと、私の前を通り掛かった時、足を止めた。
「あら…?貴女………」
シャーリーさんにしがみつき震えている…様に見える私の頭に手を乗せ、そのまま撫で始めた。
「ごめんなさいね?妹に似ていたものですから、つい………」
「おい、早くしろ!」
痺れを切らした兵士が声を荒げる。
「大丈夫よ、安心して。私が何とかしてくるから。」
「…………………」
頭の上の温もりが消え、足音が遠くなっていく。
クサカベの元へ向かったのだろう。
(…何も……変わらない………)
その真っ直ぐな優しさも。考えるよりに先に行動してしまう所も。
「おい、そこの子ども。次はお前だ。」
そんな貴女だから。
「ちょっと!約束が違うじゃない!!」
「手出しはしない。連れて行くだけだ。まぁ尤も、さっきの皇女様がダメだった時の保険としてだがな。相手は血も涙も無いブリタニア人だ。これくらいの事をしても罰は当たらないだろう。」
「あんた達ねぇ…!」
そんな貴女だから、嫌いになれないんだ。
「…わかりました。」
兵士に食らいつく、ミレイさんとシャーリーさんを静止させる。
「ほう?」
兵士は少々意外そうな顔をして私を見る。
「大人を殺しても埒が明かない。子どもを殺す事で、ブリタニア軍に与える印象を強くしよう…と?」
下種め。
「アルカ!?」
「……私1人の存在で、
「………え?」
まぁ、勿論死ぬ気は無い。
まだ私の望む世界を創っていない。
だが、これも嘘ではない。大切な人達は守らないといけないのだから。
「でも、大丈夫。私は死なないよ。」
そう言葉を残し、私は部屋を後にした。
目の前には銃を持った兵士1人。
(世話が焼けるお姉ちゃんだな………)
私は兵士に気付かれない様、溜息を付いた。
どうも主人公が原作と乖離し過ぎない様にする為、日々頭を使っております。
目指せ、本当に居そう系主人公(なんだそれ)