「ん…雨か。」
私も同じように空を見上げると、顔に水滴が落ちてきた。
夕日で綺麗に赤みがかっている空に、所々暗雲が立ち込めてきている。
「夕立かな。もう少し先へ進みたいけど、どうする?」
ブリタニアからの追手を振り切って数週間。
私達は日本を目指し、各地を転々としていた。
兄上と姉上が生きているかどうかはわからない。
でも、もし生きていたら、再会が叶うかもしれない。
そんな私の気持ちを、彼女は汲み取ってくれた。
そんな自分勝手で、都合の良い願いを心に浮かべていると
「今日はここで寝泊まりしよう。日も落ちてきたしな。」
彼女が視線の先の建物に目を向ける。
黒を基調とした大人っぽいホテルだった。
しかし、私の知識にあるホテルとは、どこか違う。
ホテルの入り口が目に付きにくい奥の方にあり、入り口辺りが電飾でキラキラしていて、外装とはミスマッチだ。
極めつけは……
「ねぇ
「…………まぁいずれわかるさ」
珍しく何処か歯切れが悪い。
なんて思っていると「入るぞ。」と手を引っ張られた。
「このホテルって人と会わずにお部屋行けるんだね!私達にはありがたいね。」
何か問題あってもギアスを使えばどうとでもなるけど、トラブルは無いことに越したことはない。
(そこを踏まえて
玄関の近くにお手洗いと大きいお風呂。
奥の部屋には二人が並んで寝ても、スペースが余るくらい大きいベットがあった。
部屋の内装も豪華であり、設備も考慮すると宿泊費が結構、高いんじゃないだろうか?
お金は軍人の死体から漁ったので無くはないが、心配だ。
「ここのホテル高そうだけど大丈夫?」
「こういう所は内装、設備のグレードと金額は比例しないから大丈夫だ。」
と自信満々に言い切った。
(まぁ、
彼女の言葉には妙に安心感と心地良さがある。
気を抜くと麻薬のように、ズブズブと溺れてしまいそうだ。
「今日はゆっくり休め。また明日、日本に向けて移動するぞ。」
そう言いながら
芸術品の様に美しい身体だが、胸の辺りに傷がある。
彼女が不老不死になった頃に出来た傷らしいが、詳しいことは知らない。
私が3歳の頃からの付き合いではあるが、まだまだ知らないことが多い。
(そういえば、彼女との出会いは母上がきっかけだったっけ)
今は亡き、母の事を思い出す。
「風呂入らないのか?沸いたぞ。」
思考に更けていると彼女の声がした。
お風呂を沸かしておいてくれたらしい。
「ん……入る、ありがとう。」
私も服を脱ぎ、
私が小さいのもあるが、それを差し引いてもホントに浴室が広い。
これなら、
お互い、髪と身体を洗い、湯船に身を沈める。
(気持ちいい……)
温まってきて少しウトウトしていると、彼女の細くて綺麗な腕が、私の腹部辺りに伸びてきた。
そしてそのまま私の肩に顎を乗せ、身体を密着させる。
「ギアスの調子はどうだ?問題ないか?」
と心配そうに尋ねてきた。
◇◇◇
彼女と契約して5年近く経った。
忘れもしない、兄上と姉上が日本に渡ってすぐの事だ。
兄上と姉上から引き離され、独り身となった私は、すぐに世界は残酷なんだと、思い知らされる事となる。
まず最初に、皇位継承権を剥奪された。
まぁ、元々有って無いようなものではあったが、それでも有るのと無いのじゃ話が違ってくる。
とにかく、全てを失った私を守る物好きなど、あそこには存在しなかった。ましてや、何も出来ない、10にも満たない子どもに対して。
皇位継承件を剥奪された日の翌日。
アリエスの離宮にて、子どもの死体が発見された。
顔は誰のものか分からないくらいに潰された死体。
背丈とその格好から、アルカ・ヴィ・ブリタニアであると、判断され、そのまま、死んだことにされた。
実際には、剥奪されたその日、ある施設へ連れていかれた。
私とC.C.が出会った場所。
ギアス嚮団。
子ども死体の事は、後から聞かされた。
V.V.という男に。
お前の帰るべき場所は無いぞ、と無慈悲に。
そこから3年間、嚮団によって生かされていた。
母上に何度か連れて行かれたこともあったが、こんなに長い間、身を置いた事は無かった。
生かされていたと言えば、聞こえはいいかもしれないが、実際は飼われていたにすぎない。
文字通り、実験動物として。
ナイトメア、生身、銃火器をそれぞれ用い、嚮団に身を置く人間と殺し合いをさせる戦闘訓練。
薬物を投与され、身体にメスを入れられ、電気を流された人体実験。
拒否権などは存在せず、いくら泣いても手を緩めることはなく。
懇願しても誰も聞く耳を持たず。
飽きもせず、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。
繰り返し行われてきた。
地獄だった。
私自身を将来戦力として、道具として利用するためだろうか。
母上の様に帝国最強のナイト・オブ・ラウンズになれということだろうか。
それともただ単に、私を苦しめたいだけか。
意図なんてどうでも良かった。
考えたところで何か変わる訳じゃなかったから。
―――私は間違いなく、あの時、死んだ。
「アルカ、お前には生き残るための力が必要だ。私がそれを与える。」
そんな時、彼女が手を差し伸べた。
日々の訓練と実験で、心が荒んだ私を、聖母のように慰め続けてくれた彼女。
外の世界を知らない私に、たくさん話をしてくれた彼女。
「お前は死んだことになっていたな。名をくれてやろう。……名前はそのままだ。姓は…ふむ、そうだな……アングレカムとでも名乗れ。」
全てを無くし、肉親からも引き離され、一度死んだ私。
そんな私に彼女は、手を差し伸べてくれた。
生き抜く為の力をくれた。
人間としての名前をくれた。
間違いなく、あの時。私はこの世に誕生した。
それからは私が
悟られてしまっては、いざ逃げる時に、対策されてしまうから。
そしてチャンスが生まれた。
嚮団の実質トップであったV.V.が不在の日が続いたのだ。
私は彼女に連れられ、地獄から抜け出した。
それが2年ほど前の事……。
◇◇◇
「…うん、大丈夫だよ。」
湯船を見つめながら答える。
水面に映る私の右目は毒々しく赤い光を放ち、瞳には羽ばたいている鳥のようなマークが浮かんでいる。
ギアスだ。
「なら良かった。」
ホっとしたように
(彼女から甘えてくるなんて珍し………イッ………)
少しチクッと痛みを感じ、目の前の鏡で彼女の唇があった場所を確認する。
そこには、虫刺されの様な、赤い花が咲いていた。
「もう……」
ため息をつきながら首をさする。
後ろに居る
呆れたような態度を私はとっているが、実のとこ嬉しさを感じている。
彼女はそんなこともお見通しなのだろう。
「ちょっと待ってろ。」
そう言って
先ほどまで背中にあったぬくもりが無くなり、寂しさを覚え始めた頃、彼女が戻ってきた。
その綺麗な手に卵みたいな形をしたピンク色の物体を持って。
「
「簡単に言えば玩具だな」
「玩具………?」
……なるほど、わからない。
「わからない、っていう顔をしているな。まぁ心配するな、夜は長い。身をもってわからせてやる。」
この表情を私は知っている。
彼女がこの表情をする時は大抵、私は寝れない。
・
・
・
その後、私は彼女の手によって、文字通り身体に、一晩中教え込まれた。
このホテルの意図、玩具の正体。
(いずれ分かるって、そういう意味………)
腰を擦る。
今日は痛くてそこまで遠くには行けなさそうだ。
彼女には、私をおぶる責任があると思う。
「どうだ? なかなか良かっただろう?」
口角を吊り上げ、彼女は笑う。
「~~~ッ!!バカッ!!!」
このロリコン魔女め。
一話目がこんな内容でいいのか。
ある程度嚮団との関りとか、マリアンヌの思惑などは考えてあるので、気長に、分かる迄、待っててください。