どうぞぉ!!
『やぁ、アルカちゃん。こうして話すのは初めましてだねぇ。』
人を小馬鹿にしたような声が電話越しから聞こえる。
『どうしてこの番号を?って思ったでしょ。シャーリー・フェネットの携帯に番号が登録されていたからね。念の為、憶えておいたんだ。』
よくもまぁ、こんなにペラペラと。苛立ちが募る。
「どうでもいい、早く要件を話して。」
『君はルルに似て言葉遣いが下品だねぇ。まぁそれは置いといて。最初は君には用が無かったんだけど、予定変更だ。今からクロヴィスランドに来てよ、C.C.も呼んでいるからさ。』
「3人で仲良くお話でもするつもり?」
『まさか。思ってもない事言わないでくれよ。僕には分かるよ、君の醜い心が。』
アルカの瞳が動揺で揺れる。
『泥棒ネコに相応しい罰を与えてあげる。』
そう言って電話は切れた。
「…マオ、私が必ず……!」
・
・
・
クロヴィスランド。
クロヴィスが生きていた頃に彼自身が手掛けた遊園地。トウキョウ租界において有名な観光スポットだが、クロヴィスが死んでからは休園が続いている。
そんなクロヴィスランドのメリーゴーランドに跨り、子供の様にはしゃいでいる青年が居る。
マオだ。
「C.C.! 君はなんて静かなんだ! 君の心までは読めないよ! やっぱり君は最高だよ!」
「……相変わらず子供だな。」
「白馬の王子様って言って欲しいなぁ。君を迎えに来たんだからさ!」
「…………」
マオは子供の様な無邪気な顔で、嬉しそうにC.C.に語り掛ける。両目に赤黒く輝く彼のギアスがミスマッチで、何とも歪な印象を受ける。
そんな彼を見て、C.C.の隣に佇むアルカは、気味が悪いと吐き捨てた。
「隣に居るネコちゃんの声が五月蠅いけどね。」
マオはアルカを睨みつける。
「マオ、どうしてアルカをこの場に呼んだ?」
C.C.はアルカの少し前に立つ。マオから彼女を守るように。
「C.C.が僕を選ぶことは分かり切っていることだけど、幼い彼女ではそれを理解出来ないんじゃないかって思ってね。C.C.が僕の手を取る様を目の前で見れば、彼女も分かってくれるでしょう? 僕は優しいんだ、彼女がC.C.の事を諦めてくれさえすれば、彼女は殺さない。まぁそれが出来なかった場合は―――」
マオはアルカの方へ銃を向ける。
この場で唯一、思考が読まれてしまうアルカは動くことが出来ない。
下手に行動すれば、この男を逆撫でしてしまう。この手のタイプは精神が不安定で厄介だ。
「マオ、前にも言った筈だ。私はお前とは……」
それを理解しているのか、C.C.は話を進める。
「そんなの嘘嘘。C.C.は僕の事が大好きなんだからぁ。」
そう言って彼は自身のヘッドホンを外す。
『ありがとう、マオ。……マオ。マオ。』
C.C.の声だ。
常に周囲の声が聞こえる彼にとっての精神安定剤の様なモノなのだろう。
「やめろ!!」
C.C.は声を荒げる。
「アルカ、君は分かるだろう? この幸せが。君も僕も同類の筈だ。彼女の声、体温、全てが心地良いだろう?」
「……っ!それは………」
「まぁ君は僕も体験していないような事、彼女としているみたいだけど。そこは目を瞑ってあげるよ。どうせこれから先、彼女と居るのは僕なんだから。君には愛しの兄上も姉上も、友人だって居る。それに加えてC.C.まで手に入れようとするのは欲張りなんじゃない? 冷静に考えればわかる筈だ、本当に彼女を必要としているのはどちらかが。」
ズカズカとギアスで人の心の中を踏み荒らして、気持ち悪い。嫌悪感で吐きそうになる。
「C.C.…君だけだ、君だけなんだ。僕が欲しいのは! 君さえ来てくれれば……!」
マオはゆったりとC.C.に歩み寄り、抱きしめようと手を伸ばす。
「やめろ!」
C.C.は悲痛な叫びをあげ、彼の手を振り払い、銃口を向ける。
「最初からこうしておくべきだったんだ……」
乾いた銃声が遊園地に響く。
「C.C.!」
肩を抑え、C.C.は血に膝を突く。
「やっぱりC.C.は僕を撃てなかった。C.C.は僕の事が好きなんだよ! アハハハハ!!」
C.C.はマオを撃つことが出来なかった。一瞬だけ、ほんの一瞬、引き金を引くのをためらってしまった。
狂った様に笑い続けるマオを無視して、アルカはC.C.に駆け寄ろうとする、が。
「おっと、君は動いちゃダメだ。」
マオに銃口を向けられる。
「君はただそこで、指を咥えて僕とC.C.が愛し合う様を見ているんだ。どうせ無策で来たんだろう? 君もまだまだ幼いよねぇ。」
そう、マオが言う様に、アルカはマオに打ち勝つ算段を立てずにここまで来た。頭に血が昇っていたのだ。
ただでさえ最近のアルカは、自身の出生の事から、精神が不安定だった。
そこに現れたマオという脅威。
嫌悪、怒り、焦燥、不安……様々な感情が彼女の中を駆け巡り、考えるよりも行動が先に出てしまったのだ。
「……お前は…………!!」
アルカの顔に怒りの形相が浮かぶ。
「聞け! マオ、私はお前を利用しただけだ!そんな感情、私は持ち合わせていない!」
「…はぁ? 何言ってんの? 嘘はいけないよ、嘘は!」
再び乾いた音が響く。
「うぅっ!」
C.C.の言葉にならない悲鳴が、木霊する。
「嘘はダメなんだよ、嘘は!」
言う事を聞かない子供を叱る様に、マオはC.C.に語り掛ける。凶弾を彼女に浴びせながら。
C.C.の肩に、脚に、腹に。銃弾の形に合わせて穴が空き、そこから赤黒い液体が流れ出る。
「ねぇ! やめてよ!!」
「動くなって言っているだろう!!」
アルカの頬を銃弾がかすめる。
「C.C.。僕ね、オーストラリアに家を建てたんだ。白くて綺麗な。とても静かな家。」
場違いな程に明るい男の声が、園内に響く。
「だけどオーストラリアに行くには、飛行機に乗らなくちゃいけないんだ。でも、C.C.を飛行機に持ち込むには、ちょっと大きすぎる。だからさぁ。」
マオは手に持つ銃を投げ捨て、彼が用意したチェーンソーが置いてある場所まで歩く。
「コンパクトにしてあげる! これならあっという間だよ!!」
「やめて!」
その顔に怒りの表情を浮かべたまま、アルカはマオに銃口を向ける。
「邪魔するなって言っただろう?」
声のトーンを低くし、不機嫌そうな表情を隠そうともせず、マオは言う。
「貴方がC.C.の事を本気で好きなら、それで良いと思ってた。彼女がそれで幸せなら、それで。だけどこれはどういうつもり? 自分を捨てたC.C.への復讐?」
「復讐? 違う、違う違う違う違う! そんな事、するもんか。これは感謝の気持ちだよ。」
「感謝……?」
アルカは信じられないモノを見たような目で、マオを見つめる。
「お前は、歪んでいる。」
声を震わせながら、アルカは言う。
「お前はC.C.自身の事なんて見ちゃいない! 彼女と一緒に居る自分が、自分自身に優しい世界が好きなだけだ! そんなお前に……!」
「…はぁ? 歪んでいる、だってぇ? アハハハハ! 君がそれを言うかい!?」
「…どういう意味?」
アルカに顔に焦りが浮かぶ。
「4年前、E.U.の領土内にあった村で、君は何をした?」
「っ!!」
「マオ! やめろ!!」
鼓動が早くなる。
彼女の顔が恐怖で染まる。そのアメジスト色の瞳の焦点は合わず、銃を持つ手は震えている。
「ああ! いいところに来たねぇ。ルル~!」
アルカは恐る恐る、その顔を後ろに向かせる。
そこにはルルーシュが居た。息が荒く、額に汗を流している事から、ここまで急いできたのが分かる。
「…あ、あにう、え…………」
来てほしくなかった。そんな言葉が彼女の顔から読み取れる。
「……どういう状況だ、これは!」
「今から君の妹の思い出話をするところだったんだ。君に似て嘘つきな彼女のね。」
「なんだと?」
その顔を歪ませ、マオは手を叩きながら語る。
「こいつはねぇ、村を一つ潰しているんだよ。村人全員にギアスを掛けてね。優しくしてくれたにも関わらず。いやぁ、酷い光景だ。この世のモノとは思えないねぇ! アハハハハ!!!」
玩具で遊ぶ子供の様に、マオは続ける。
「日に日に数を減らす村人達を見て、君はどう思った? 良かれと思って口にした願いが、人を歪めたのを知って、君は何を感じた!?」
「………やめて…」
アルカのか細い声が口から漏れる。
「日に日に……? アルカのギアスの効力は一日持たないんじゃ………」
「まさか! 大嘘だよ、そんなの。彼女自身がそういう使い方しかしない、ってだけさ。」
「……やめてよ…」
その瞳から、涙が零れる。
「彼女のギアスは毒だよ、人を蝕み続ける毒。お願いっていうのが、いやらしいよねぇ! 自分は願っただけだから、知りませんって責任から逃れる事が出来るんだから!」
「私の心に入ってこないで……」
「ルルのギアスより効力が短いだぁ? とんでもない。彼女の願いを聞き届けたら最後、それは一生相手に残り続ける! ギアス発動中も記憶が消えないというのも、いやらしい所だよねぇ!」
ルルーシュの瞳が大きく揺れる。
「記憶が消えない…? じゃあ、ギアスに掛かった者は、無意識に……。」
「そう、彼女の願いを全うする。自身がやるべき事と誤認したまま! その人の在り方を徐々に歪めていくんだ! 醜い力だねぇ!」
「だからアルカは、その場で完了する願いしか、口にしない……。」
マオの口が三日月の様に吊り上がる。
「そして、自身のギアスが人を歪めてしまうのを、醜いのを知っているから、ギアスを掛けた者は可能な限り殺す。醜い自分のギアスが、人を蝕んでいる様を見たくないから!」
「……それは、…私なりに、責任を………」
「責任…? ハッ、違うね。逃げているだけだ。本当に責任を取るなら見届けるべきじゃないかい? それを君は、心の奥底で分かっていながら、人を殺す。自分自身が耐えられないから!! それを歪んでないと言えるかい!?」
一種の潔癖症に近い、とルルーシュは思った。
(ギアスを掛けた人間を見る目に、違和感があったが、そういうことか……)
思い返すは、ナリタ連山に居た囲碁を打っていた日本解放戦線の兵士。確かにそいつらを見てから、アルカの様子は目に見えて変化した。
「君は常に、ルルやC.C.に対して愛情を求めているよねぇ? 表面には出していないかもしれないけど、僕には分かる。君は愛に飢えている、僕と一緒だ。」
「黙って……!」
「でもそんな君を誰が愛す? 醜い力を持った君を。歪んでいる君を!!」
「黙ってって言っているでしょ!!!!」
アルカの絶叫にも近い声が、響く。
「君は永遠に歪んだままだ!! そんな君を……!?」
乾いた音が響いた、発砲したのだ、アルカが。
「う、……か、はぁ………」
お腹に風穴が空き、血を流しながらマオは地面に倒れる。
倒れ伏したマオに彼女は近づく。
「なぜ……思考が………うっ!?」
お返しと言わんばかりに、アルカはマオに銃弾を浴びせる。丁度C.C.が撃たれた場所だ。
「マオ、お前はもう……」
アルカの目が赤黒く染まる。
「私に関わらないで――――」
◇◇◇
無意識にギアスを発動したのだろう、マオに自身のギアスが掛かった事を知ったアルカは、マオに止めを刺そうとした。が、それをルルーシュが止めた。
その後、ルルーシュはあらかじめギアスを掛けておいた警察を呼び、クロヴィスランドを後にした。
そして、警察ヘリの中。
「ルルーシュ…アルカは………」
「分かっている、悪意があってやった事では無いのだろう。マオは人を煽るのに長けている人間だ。誇張表現もあっただろう。」
脅威を拭ったのにも関わらず、アルカは俯いたまま顔を上げない。
「私は………」
「アルカ。」
ルルーシュは優しく語り掛ける。
彼女はその声に肩を震わし、恐る恐るルルーシュの方を見る。
「俺は、お前の願いが醜いとは思わない。願いというのは人を動かす原動力だ。それを力として発現させたお前を、俺は兄として誇りに思っている。」
アルカは呆然と、ルルーシュを見上げている。
「それにその、すまなかった。お前の悩みに気付いてやれなくて。まさか混血という事くらいでショックを受けているなんて、思っていなくてな。」
「だから言ったろう、お前は言葉が足りないと。」
ルルーシュの言葉にC.C.が呆れた様に声を上げるが、
「ああ、そうだな。」
珍しく言い合いをする訳でも無く、すんなりと彼女の言葉を受け入れた。
「……半分しか、血が繋がって、いないこと…。兄上は、ショックを受けなかったの……?」
「驚きはしたが、だからと言ってアルカに対する見方が変わる訳じゃないさ。前にも言っただろう、何が起きても俺達の妹はアルカだけだって。」
「あ………」
虚ろだったアルカの目に、再び光が宿る。
「ナナリーも同じ気持ちだ。一緒に居る時、いつもと変わらなかっただろう?」
「…話してたの……?」
「当たり前だろう、俺達は
静かに話を聞いていたC.C.が、ここに来て口を開く。
「…まぁ、そういう事だ。だから言っただろう? 話してみてもいいんじゃないか、って。」
それと、と彼女は続ける。
「私はお前の全てを知っている。知った上で一緒に居るんだ、……わかるな? 私もお前の事、大好きだぞ。」
C.C.は優しくアルカを抱きしめる。子どもをあやす様に、慈しむ様に。
ルルーシュはそんな二人の光景を何処か複雑そうな表情で見ていたものの、その顔に笑みを浮かべ視線をずらした。
マオを書いていく内に、こいつマジでDV男だなって思いました。(小並感)
泥棒ネコ(意味深)
百合は負けんよ。