コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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今回は番外編というか、過去編です。

注)今回の話には強姦を連想させる描写があります。苦手な方は読み飛ばしてください。
  全部読まなくても、最初と最後だけ読めば問題はありません。


stage15.5 惨劇

 醜い。

 目の前の光景が。

 ギアスに蝕まれている人間が。

 これを引き起こした私の願いが。

 

 醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い。

 

「……全員、殺そう。」

 

 そう呟く彼女の目は、絶望に染まっていた。

 

 

◇◇◇

 

皇歴2013年 E.U.領土内

 

 バスや電車等の公共の乗り物は一切ない、辺境の地。そんな地に構える名も無き小さな村。

 その村の空き家に、アルカとC.C.は居た。

 

「辺境の地にある村は大体、余所者には厳しいんだが、ここはお人好しが多いな。」

 

 C.C.は焼き魚を食べながら、そう呟く。

 

「住まいだけでも有り難いのに、ご飯まで提供してくれて。感謝してもしきれないね。」

 

 彼女の目の前に座るアルカは、嬉しそうに話す。

 

 ブリタニア本国から逃げ出し、エリア11に向かっている最中に見つけた村。

 本来は2、3日だけお世話になるつもりだった彼女達だが、もうかれこれ一週間程、厚意を受けていた。

 

「気を抜くなよ、アルカ。下心が無いとも限らん。」

「えー、そういうもん?」

「そういうもんだ。」

 

 肉親と離れ離れになってからというもの、アルカは常に周囲の悪意に晒されてきた。彼女の味方はC.C.だけ。

 悪意を向けられる事には慣れていても、好意を向けられる事には慣れていなかった。

 そんな中で、余所者であるC.C.とアルカを温かく迎え、歓迎してくれたこの村。

 まだ10にも満たないアルカは、たったそれだけの事で、心を許すのに値すると判断したようだ。

 良く言えば純粋、悪く言えば騙されやすい。

 

(まぁ、その分。私がしっかりすれば問題ないか)

 

 他人の感情には昔から敏感なアルカが、そう言っているんだ。そんなに神経質にならなくても問題はないか、とC.C.は判断した。

 

「でも、あまり長居するのは良くないよね…」

「まぁ、そうだな。ブリタニアからの追手もあるし、なによりエリア11に着くのが遅くなる。」

 

 彼女達の目的はあくまでもエリア11。慣れない逃亡生活で疲弊したアルカを休ませる為、C.C.はこの村に滞在する判断を下したが、見ての通りアルカもすっかり調子を取り戻した。いつまでもここに滞在するわけにもいかない。

 

「うーん、何か恩返ししたいなぁ」

「恩返し?」

「うん、見ず知らずの私達に良くしてくれてる訳だし。ほら、家貸してくれた村長さんとか、いつもご飯くれる漁師のおじさんと肉屋のおじさんとか。あとは隣に住んでいるお姉さんとか。」

 

 色々良くしてもらったからね、とアルカは呟く。

 アルカは基本的にお人好しだ。他人からのお願いは断れないし、困っている人が居たら手を差し伸べる。

 案外頑固な彼女の事だ、一度言ったら聞かないだろう。

 それなら、とアルカでも簡単に、かつ危険が及ばなそうな恩返しをC.C.は提案する。

 

「……なら、村の奴らの話を聞いてやったらどうだ?」

「話って…世間話とか、悩みとかそういうの?」

「ああ。アルカは昔から人の感情に敏感だろう。それにこの村には子供が少ない。お前みたいなやつと話すだけで案外人は、気が楽になるもんだ。」

 

 アルカはその大きな目を何回か瞬きさせた後、その顔に笑みを浮かべた。

 

「お悩み相談……、それなら簡単に出来そう!」

 

 こうしてアルカのお悩み相談教室が始まった。

 

 ・

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 ・

 

 アルカのお悩み相談は、ハッキリ言って大好評だった。

 人の感情を器用に汲み取り、的確なアドバイスを。かといってダメ出しをするのではなく、あくまでも本人を肯定しつつ、背中をちょっとだけ押す様は、村中の人々から支持を集めた。

 それこそ、それでお金を貰えるくらいには。

 アルカの純真無垢で幼い見た目の効果もあるのだろう。連日のように彼女の元には村人が訪れた。

 C.C.が本来想定していたよりも、長い期間の滞在となってしまっているが、逃亡生活中で使うお金を稼げることもあって、中々村から出れずにいた。

 

「案外お前、指導者とか向いているんじゃないか?」

「えー、やめてよ。私に人の上に立つ度量は無いよ。お悩み相談で十分。」

「ふ…。元皇族が言うことか?」

 

 皆が寝静まった夜、2人は布団の中で談笑していた。

 

「……しかしアルカ、そろそろ区切りを付けておくんだな。長居し過ぎた。」

「うん…。そろそろ出ないと、だね。大丈夫。ちゃんと後腐れ無いようにするから。もう少しだけ……ね。」

 

◇◇◇

 

 アルカの元に1人の女性がやってきた。

 

「………また?」

「……うん、ごめんね。アルカちゃん……」

 

 アルカ達が寝泊まりする家の隣に住むお姉さん。彼女がこうして私の元に来たのは5度目になるか。

 相談内容はいつもと同じ、恋愛相談だ。

 

「もう告白しちゃえばいいのに…。あの人も絶対、貴女の事好きだよ?」

「アルカちゃんが言うなら、そうなんだろうけど……、どうしても行動に移せなくて……」

 

 奥手すぎる……!とアルカは思った。

 私達はいつまでもここに滞在する訳にはいかない。村を出る前に、この彼女に行動を起こしてほしいが……。

 

(無理矢理でも背中押さないと、一生このままなんだろうなぁ……)

 

 とアルカはここで閃く。後押し出来る良い力が、私にはあるじゃないかと。

 C.C.は言っていた、使い方を間違えるな、と。

 なら間違いなければ良い方向へ転がる筈だ。

 

「しょうがないな…、取って置きのおまじないを掛けてあげる。…私の目をよく見て―――」

 

 アルカは初めて、他人の為にギアスを掛けた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 結果だけ言えば、大成功だった。

 2人は結ばれ、村中から祝福を受けた。アルカにとっても、喜ばしい出来事だった。

 そして、彼女は自身のギアスを誇らしく思った。

 

(ギアスなら、他の人の悩みをより的確に解決できる!)

 

 半月ほど村に滞在したからか、アルカは完全に村の人々に情を抱いていた。

 だがそんな村からあと少しで去らなければならない。それならば、せめてもの置き土産として私の力を残していこう。

 幼いアルカはそう考えた。

 

 それからというもの、アルカは相談に来た人達に躊躇いなくギアスを掛け始める。

 好きな人にアタックしたいという願望を後押しし。

 周りの目が気になって、やりたい事が出来ないという悩みを解消し………。

 様々な人の願いを、悩みを、欲望を、全て聞き入れ、そして開放していった。

 村は訪れた時よりも活気に溢れ、賑やかになっていった。

 

 異変が起きたのは、アルカがギアスを使い始めてから、3日後の事。

 女性の変死体が村の中で発見されたのだ。

 その服はズタズタに引き裂かれ、女性の局部の辺りに乾いた鮮血と白い染みがベッタリと付着していた。

 恋愛相談に来ていたお姉さんだ。

 

「何で……?」

 

 アルカの乾いた声は、誰にも聞かれる事は無く、彼女の恋人の悲鳴に掻き消された。

 

 犯人はすぐに見つかった。魚屋のおじさんだ。

 しかし、様子がおかしい。お姉さんを殺した動機をいくら聞いても、「頭の中の声が促した。俺は彼女の言う通りに行動しただけ」の一点張り。

 これには駆けつけた警察もお手上げだった。

 

 その日から、毎晩異変が起きた。

 時には、犬や猫が無残に殺され。

 時には、村人の家から金品が盗まれ。

 時には、人の四肢が欠損した死体が発見され。

 時には、時には、時には、時には、時には―――――

 

 閉鎖的な村というのもあり、村全体がギスギスし始めた。

 お前がやったんじゃないか。

 あの家の男が、夜歩いていたのを見つけた。

 あいつの様子が可笑しい。

 

 アルカはその光景を見て、15世紀頃にあったという魔女狩りの事を思い出す。

 住民同士がお互いを告発し合い、罪の無いものが何人も死刑に処されたという、所謂集団ヒステリー現象。

 今この村に起こっている事は、まさにそれだった。

 

「アルカ、村の様子がおかしい。出るぞ。」

 

 夜の帳が完全に降りた深夜、C.C.は言った。

 

「幸い、私達にはまだ疑いが掛かっていないが、それも時間の問題だろう。」

「………C.C.……。わ、わたし………」

 

 その時、家の外から異臭が漂ってきているのに気づいた。

 窓の外に視線を向ける。

 火だ、火が上がっている。

 火事に気付いた村人が、村の中央に集まり言い合いをしている。

 その形相は、今にも殺し合いをしてしまう程だ。

 

「…………っ!!」

「アルカ!!」

 

 アルカは思わず家から飛び出し、皆が集まる広場へと向かう。

 

「お前が火を付けたんだろ! 俺は知っているぞ、お前が夜な夜な出かけているのを!!」

「なんだと!? そういうアンタだって……」

「ね、ねぇ! 皆どうしたの!? らしくないよ、落ち着いて!!」

 

 アルカは言い合いをしている村人に駆け寄り、なだめようとする。

 

「確かに、最近の村の様子はおかしいけど。だからといってここで言い合いしても……!!」

「落ち着いて……だと?」

 

 1人の男が呟く。

 

「言いたいことを言えなかった俺に、我慢しなくていいと。おまじないを掛けたのはアルカちゃんじゃないか……」

 

 その言葉にアルカは肩を震わす。

 

「頭に響くんだ、君の声が。我慢しなくて良い、って優しい声で。後押ししてくれる。」

「…ち、違う……。わ、私、そんなつもりで………」

 

 アルカは顔を青くして、思わず後ずさる。

 その時、村の端の方から女性の悲鳴が響いた。

 その場から逃げる様に、アルカはその声のした方へ向かう。

 

「……何、してるの………?」

 

 そこには女性の身体があった。四肢が切断され、白目を向いて息絶えた死体。

 

「…ああ、アルカちゃん。君の願いの通り、やりたい事をやっているんだ……。人の目を気にして出来なかった事を。」

 

 アルカの瞳に涙が浮かぶ。肉屋のおじさんだ。その手には赤く染まった肉切り包丁が。

 

「実はね、切断した腕と脚を調理して食べているんだ、それが美味しくてね。特に女性のお肉の方が柔らかくて美味しい。君に相談して良かったよ。」

 

 男は身体を翻し、アルカの方へ向く。

 

「でもまだ、子供のお肉っていうのを食べた事無くてね。興味がある。」

 

 そう言って男はアルカの腕を掴み、押し倒す。

 

「…っ! いやっ! や、やめて!!」

「そんなに抵抗しないでくれよ! 僕は君の願いの通り、行動しているだけなんだから!」

 

 アルカは激しく抵抗する。が、大人の腕力に勝てる筈もない。

 そして、目に涙を浮かべながら抵抗をする彼女の姿は、男の情欲を掻き立ててしまった。

 

「……ああ、なるほど! 子どものままで死にたくないんだね?」

「な、何を……」

 

 男はその顔に笑みを浮かべながら、ズボンを脱ぐ。

 

「大丈夫、ちゃんと大人にしてあげるよ……」

 

 男は器用にアルカの服を包丁で切る。アルカの上半身が、外気に晒される。

 

「いやっ……!」

「妻に先立たれてしまってから、ご無沙汰でねぇ。大丈夫! ちゃんと満足させてあげるから!」

 

 男の下劣な顔が、アルカに近づく。

 

「い、いや……、わ、わたしに、触れないで!! …助けて、C.C.………!!」

 

 乾いた音が響き、男は頭から血を流しながら、力無く倒れる。

 返り血がべっとりと、アルカに掛かる。

 

「無事か! アルカっ!!」

 

 珍しくその顔に焦りの色を浮かべて、C.C.はアルカに駆け寄る。

 

「……し、しーつー……」

 

 駆け寄ったC.C.にしがみつき、アルカは力無く彼女の名を呼ぶ。

 

「ああ、私だ。……すまないな。遅くなってしまって……。隠してある銃を取り出すのに時間がかかってしまった。」

「あ、い、いや。大丈夫……。服を切られただけだから………」

 

 C.C.はそんなアルカの身体を確認した後、自身の上着をアルカに着させた。

 

「…どうして、こんな事になった?」

 

 C.C.の言葉に、アルカは村人達が集まっていた筈の村の中央に目を向ける。

 狂った様に笑いながら、殺し合う村人達。

 1人の女性を囲み、嬲っている男達。

 家屋に火を付ける女。

 あらゆる家から金品を強奪している村人。

 人を括り付け、火を灯す女。

 辺りに点在する、人々の死体。

 

「人を殺す事が、こんなに楽しいなんて!!」

「見た目は最高だったが、こっちはダメだな。ギャハハハ!」

「これで、俺は裕福に……!」

「前々から、貴方の事、気にくわなかったのよ!」

 

 村のあちこちから、悲鳴が、笑い声が、怒号が、聞こえる。

 そんな村人達が、共通して口にする事、

 

 「頭の中の少女の声が、こうしろと望んでいる。」

 

 

「……私は、間違えた。」

 

 アルカが俯いたまま、呟く。

 

「アルカ……」

「私の願いは、人を歪める…」

 

 本来は鮮やかな彼女の瞳には、光が宿っていない。その目からは涙が零れ落ちている。

 

 醜い。

 目の前の光景が。

 ギアスに蝕まれている人間が。

 これを引き起こした私の願いが。

 

 醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い。

 

「全員、殺そう。」

 

 虚ろの目をしたアルカは銃を手に取る。

 それが、せめてもの………。

 

 ・

 ・

 ・

 

 全身を返り血で染め、村の中央に立つアルカは天を仰ぐ。

 

「C.C.……。私は、もう他人の為にギアスを使わない。」

 

 まるで神に懺悔するかのように、空を見つめたまま、アルカは呟いた。

 

 

 これ程の事を起こしながらも、アルカはその歩みを止める事は無かった。

 マオの言う通り、確かに彼女は歪んでいるのかもしれない。

 果たして足を止めなかった事が、彼女にとって幸運だったのかどうかは、今はまだ誰にも分からない。

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