再び日間ランキングに載っていて嬉しい作者です。
これも全て原作と皆様のお陰……。
ありがとうございます!!
アッシュフォード学園 中等部
(芸術週間、ねぇ……。)
芸術に対して多大な尽力を注いできたクロヴィスに因んで設けられたイベント。通常授業は全て美術系科目へ差し替えられ、これに合わせてクロヴィス記念美術館も開館するとか。
(……ねむ。)
先日キョウトから帰ってきたばかりなのに、勘弁してほしい。とアルカは筆を走らせながら思った。
(ただの授業だったら居眠り出来るのに、こうも美術系科目ばっかりだと実技が多くて……)
ふわぁ、と欠伸をしながら目の前のモデルに目を向ける。
クラスメイト同士で二人一組のペアを組み、お互いをモデルにして人物画を描く、という内容だ。
私の相手はクラスメイトの……えっと。うん、まぁ。名前はこの際、どうでもいいだろう。
「ア、アルカちゃん! 私、しっかり描くからね! 頑張ってその愁いを帯びた綺麗な顔、絵にするから!!」
「は、はぁ……。」
ペアであるクラスメイト1のテンションがやけに高くてやりにくい。
(こんな事、している場合じゃ無いんだけどなぁ。)
そう、今日の夜には大事な作戦が控えているんだ。黒の騎士団にとっても、私にとっても。
なにせ今晩は……
◇◇◇
「本日は藤堂鏡志郎の処刑日ですが……」
髪を後ろに纏め、眼鏡を掛けた理知的な男、ギルバードが口を開いた。
「立ち会うこともなかろう、既に日本解放戦線は無いのだ。」
それに応じたのはエリア11現総督、コーネリア。
視線の先には列車に収納されていく無数のサザーランド。
「…いや、待て。銃殺はあの男に。」
「総督!」
後ろに佇むギルフォードの方へ視線を向けた時、少し離れたところから声がした。彼女の妹であり、副総督のユーフェミアだ。
「すまないな、急で。美術館の方はよいのか?」
「式典は午後からなので。」
ブリタニアの魔女として、兵士として恐れられるコーネリアは、式典の様な華やかなイベントには参加しない。柄じゃない、と自分自身で考えているからだ。
そういう帝国臣民を喜ばせる様なイベントは、ユーフェミアに一任してある。それは今回の美術館の落成式も例外では無い。
「それよりイシカワで不穏な動きってNACが……」
ユーフェミアはその顔に影を落とし、不安を吐露する。
「バックに居るのはEUか中華連邦だろうな。ガン・ルゥを確認したとの情報もある。しかし、これはホクリクを平定する好機だ。」
反乱分子を叩き潰す為、これからコーネリアは精鋭達を率いて租界を離れる。ユーフェミアを残して。
まだまだ一人立ちが出来ていない妹に対し、柔らかい笑みを浮かべ、安心させる様にユーフェミアの顔に手を沿える。
「こちらにはダールトンを残しておく、それと………」
「やあやあやあ! コーネリア殿下にユーフェミア殿下! ご機嫌麗しゅう!」
白い軍服に紫色のマントを身に着けた銀髪の女性。ノネット・エニアグラムが人の良さそうな笑みを浮かべ、右手を上げながら近づいてくる。
「彼女も租界に残る、何かあれば力になってくれるだろう。」
「エニアグラム卿! どうしてここに?」
「いや、殿下のお見送りをしようと思いましてね。これから戦地へ赴くのでしょう?」
「戦地と言っても相手は小物、すぐに済みますよ。それよりユフィの事、よろしくお願いします。」
コーネリアはノネットに対し、軽く頭を下げる。
士官学校時代の彼女の事を知らない者が見れば、目を疑っただろう。皇族としてのプライドが高い筈のコーネリアの今の態度に。
「そんなかしこまらなくても良いんですよ、殿下。私達の仲じゃないですか。
それに、と彼女は言葉を続ける。
「そろそろデスクワークにも飽きてきたところでしてね。戦場が恋しくなってきた所です。」
◇◇◇
「良いのかなぁ? 黒の騎士団と手を組んじゃって。」
「藤堂中佐を助ける手が他にあるの?」
「キョウトの言葉でもある。新型もかしてくれるというし。」
藤堂鏡士郎の懐刀、「四聖剣」の朝比奈、千葉、卜部が順に口を開く。
「でも主義主張がちょっと違うような……」
「私達は民族主義じゃない。分かってるくせに。」
四聖剣の中でも最年少である朝比奈は、ゼロに対する不信感を隠そうともしない。
「……いずれにせよ、細かいことは中佐を助け出してからだな。」
四聖剣で唯一、沈黙を貫いていた仙波が話をまとめる。
朝比奈の言う事ももっともではあるが、黒の騎士団以外に頼れる者が居ないのも事実。
「分かりました。藤堂さんが居る所が、俺の居場所ですから。」
そんな調子だから同性愛者と誤解されるんだ、と千葉は思ったが口には出さなかった。
「それにしてもあんな幼い子どもまで参加しているんだな……」
卜部が少し悲しそうな顔をして、呟く。
彼の視線の先には淡いミルク色の髪をした少女、アルカ。
彼女は今、ラクシャータとカレンと共にKMFの整備を行っている。
「……聞けば12歳らしい。そんな子どもが戦争、か。世も末だな。」
その凛々しい顔に影を落とし、千葉は呟く。
「12歳!? その歳でKMFを操縦しているのかい? 末恐ろしいねぇ……。」
「だが兵士と言えど、幼いのも事実。我々がしっかりしなければ。」
四聖剣の面々はお互いに顔を見合わせ、力強く頷く。アルカの存在が、彼らの結束力をより強めた様だった。
そんな中、アルカはというと。
「パイロットスーツって、身体のライン結構出るんだね……。」
頬を赤らめ、恥ずかしがっていた。
「改めて言わないでよ…、私も結構恥ずかしいんだから……。」
赤を基調としたカレンのスーツに対し、深い青色のスーツ。操縦の妨げにならない様にか、身体のラインにピッタリと密着し、幼いながらもスラリとした身体が強調されている。
「本当にこんなので連動性が上がるんですか?」
カレンが訝しげな顔をしてラクシャータに問う。
「上がんないわよぉ。」
キセルを手で遊びながら、ラクシャータは呟く。
「「はぁ!?」」
アルカとカレンは、思わずそろえて声を上げる。
「生存率が上がるの。」
そんな2人の様子を気にすること無く、ラクシャータはいつもの調子で答えた。
そう言われてしまうと、何も反論できない。
アルカとカレンは、恥ずかしいけど我慢するか。と2人揃って俯いた。
『着替えたか。』
ふと、機械交じりの男の声が響いた。
「ゼロ。」
『どうだ? パイロットスーツの着心地は?』
「えーっと、恥ずかし……」
「はい! 黒の騎士団のエースとしての気が、より引き締まる思いです!」
アルカの言葉を遮り、カレンは身体の姿勢を綺麗に正し、答える。
(嘘つけ!!!)
さっきまで同じ事言っていたのにこの変わり様。流石生粋の猫かぶり……。
『そうか、それは何よりだ。今後の戦果に期待しよう。』
「はい!!」
まぁカレンがゼロに尻尾を振るのは今に始まった事じゃないし、彼女のモチベーションに繋がるならいいや。
アルカはため息を付きつつ、言葉を飲み込んだ。
『アルカ。』
「なに?」
カレンから視線を外し、アルカの方へ向く。
『今回の作戦だが、一番危険なのは君だ。同時に成功確率が高いのも君となる。ここで君という大事な戦力を失う訳にはいかない。』
「………」
『死ぬな、これが私から君へのオーダーだ。』
そういえば家でも同じ様な事を言われたな、とアルカは思い出した。
勿論、今より冷静さは欠いていたし、兄上としての心配だったけど。
(ゼロの立場からもう一度言うなんて、本当に心配性。)
ふふ、とその端正な顔に笑みを作る。
「その願い、ちゃんと聞き届けたよ。」
・
・
・
『取り敢えず、無窮での初陣おめでと~う。戦闘データがたくさん取れそうで、最高じゃな~い。』
ラクシャータの間延びした声が響く。
『軽く作戦のおさらいをするわねぇ。作戦場所はチョウフ基地外周。警備するブリタニア軍の一掃、及び白兜以外の増援の掃討。時間はゼロが撤退の指示を出すまで。つまりは皆が安全に遂行出来る様、アルカちゃんが敵を引き付ける……、シンプルな囮作戦ねぇ。』
彼女の声を片耳で聞きながら、無窮の武装を再度確認する。
『無窮の運動性能を活かす為、単騎での作戦遂行……、まぁ当然ねぇ。』
ゼロは僚機を付ける事を強く推していたが、アルカ本人がそれを却下した。
無窮の性能が高過ぎるが故に、第四世代相当の無頼では付いてこれず、かえって足手纏いになってしまうからだ。ここで戦力を浪費するのは賢い選択とは言えない。
それを伝えたらゼロ=ルルーシュも渋々ながら了承した。
『時間だ。アルカ、頼む。』
新たにゼロの声が響く。
『ええ。』
操縦桿を握り、無窮を起動させる。
『無窮、皇アルカ。出ます。』
◇◇◇
チョウフ基地を囲う様に配備されていた軍用のトラックが、KMFが。次々と激しい音を立てて爆発する。
「っ! コーネリア殿下が不在の時に!!」
サザーランドを駆る男は思わず舌打ちをする。
コーネリアの不在を狙ったかの様な黒の騎士団の襲撃。
サイタマでもナリタでも、ここ最近の戦闘は全てコーネリアの指揮と精鋭のお陰で黒の騎士団と渡り合ってきた。
しかし、今はそのどちらもこの場には居ない。
『なんだ、このKMF…、うわぁぁぁ!』
『攻撃が当たらなっ!!』
『おい、こんなやつ、見た事無いぞ!』
さっきからずっとこの調子だ。
基地の正面ゲートを警備していたKMFとの通信が途絶えたと思ったら、今度は仲間達のノイズ混じりの悲鳴。恐らく破壊されたのだろう。
サザーランドの速度を上げ、仲間の元へと急ぐ。
角を曲がり、また直進し。進むに連れ、KMFやトラックの残骸が増えていく。
「そろそろ、か……。っ!?」
目を疑った。目の前の光景に。
一般的なKMFよりも高い等身。燕尾服の様な腰に着いたバインダー。額から伸びる一本の角。両手にはKMFの装甲をも貫く太刀。
そんな青いKMFが複数のサザーランドと戦闘をしていた。
いや、戦闘にすらなっていない。蹂躙という表現が正しいだろうか。
「敵はたった一機……、の筈なのに……。」
アサルトライフルは全て避けられ、近接戦闘は全て受け止められ、スラッシュハーケンはその手に持つ太刀で切断される。
「イレブン風情が……!」
数では優位に立っていた筈なのに。一機一機確実に潰されていく。
アサルトライフルで牽制していたやつは、投擲された太刀が脚部に刺さり動けなくなった。
近接戦闘を挑んだやつは、コックピットを太刀で貫かれた。
スラッシュハーケンを飛ばしたやつは、お返しと言わんばかりのスラッシュハーケンで頭を吹き飛ばされた。
あまりの戦力差に絶望を覚え、操縦桿を持つ手から力が抜ける。
そして、
「何だ!? 何処に消えた!?」
急に視界から青いKMFが消えた。意識を一瞬だけ、ほんの一瞬だけ外しただけなのに。
青いKMFの位置を確認する為、ファクトスフィアを起動させようとする、が。同時にけたたましい警告音がコックピット内に響く。外の様子を映すモニターにノイズが走り、コックピット内に熱が籠ってきているのが分かる。
「…ああ、なるほど。後ろだったのか……。」
男はサザーランドの爆発に巻き込まれ、その生涯に幕を下ろした。
◇◇◇
「これが、無窮……。」
サザーランドの後ろから突き刺した太刀を引き抜きながら、アルカは呟く。
「やっぱりシミュレーターと全然違う。」
キョウトで散々シミュレーターを行ったが、実戦はこれが初めて。
無窮の性能は彼女の想像以上だった。
アルカの操縦に寸分狂いなく付いていく反応速度。
無茶な戦闘も可能にする耐久性。
サザーランドの攻撃を受け止め、叩き潰す圧倒的な出力。
立体的な動きを可能にする運動性能。
「試しに白兜の動きを真似してみたけど、無窮で再現できた。これならあいつとも渡り合えそう。………ん?」
ふとKMFの駆動音が聞こえ、意識をそちらへ向ける。
地に伏していたサザーランドが起き上がろうと、動いている。
「ああ、そういえば頭を吹き飛ばしただけだったね。」
無窮をゆっくりサザーランドに近づける。
「ごめんね。」
無窮の足をゆっくり上げ、コックピット目掛け踏み下ろす。上からの圧力にコックピットは音を立てながら拉げ、動かなくなった。
「無窮での戦闘も大体慣れた。後は与えられた役目を……。」
『見た事無いKMFだが、黒の騎士団の新しい機体か?』
ふと女性の声が響き、アルカはそちらへ意識を向ける。
そこには第五世代KMF「サザーランド」の改良機。「グロースター」が居た。
(グロースター? 今コーネリアは租界に居ない筈……。)
グロースターはエリア11内では現状、コーネリアとその精鋭の者達が乗る機体だ。しかしそのコーネリアは精鋭を連れ、イシカワへと向かった筈。
(コーネリアが戦力を一部残した……いや、だとしたら一機では来ないだろう。)
この場に居る筈の無い目の前の存在に、アルカは思考を巡らす。
『これはお前がやったのか?』
テロリストに対して世間話をするかの様に話しかけてくる軍人に、アルカは少し呆れ顔になる。
「…そうだと言ったら?」
『おお! 女だったか! いや、凄まじいなぁ! 黒の騎士団のまともな戦力は赤いやつだけだと思っていたが、お前と言い、基地内で暴れているやつらと言い、考えを改める必要があるな。殿下にもそう伝えておこう。』
コーネリアに対してコンタクトが取れる女性騎士……。いくつかの可能性がアルカの脳内に浮かぶ。
『……ただまぁ、これはおいたが過ぎるんじゃないか?』
アルカの両肩が急に重くなった。実際に重くなった訳では無い。強いプレッシャーを感じたのだ。
「………貴女は…?」
『おや、これは済まない。騎士ともあろう者が、名乗るのを忘れていたよ。』
最近、ブリタニア本国からとある女性騎士がエリア11へ渡航してきた、という情報は黒の騎士団にも届いていた。
その女性は帝国における最高戦力であり、コーネリアの士官学校における先輩。コーネリアの紹介でアルカ自身も会った事がある。
ここまで予想が当たって欲しくないって思ったのも久しぶりかも、とアルカは冷汗を流しながらグロースターを見据える。
『ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムだ。女同志、仲良くしようじゃないか。』
「ほんっと、最高の初陣。」
戦闘描写ってすごく難しいですね!