コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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stage20 騎士

「枢木スザク。」

 

 凛とした少女の声が木霊する。

 これから仕える事になる主、ユーフェミア・リ・ブリタニアの声だ。

 

「汝、ここに騎士の誓約を立て、ブリタニアの騎士として戦う事を願うか。」

 

 ブリタニアの伝統とされる騎士の任命式。この場に立てるのは純粋なブリタニア人のみ、の筈だった。

 

「Yes, Your Highness.」

「汝、我欲を捨て、大いなる正義の為に剣となり、盾となることを望むか。」

「Yes, Your Highness.」

 

 この式を皮切りに、任命された者はその生涯を捧げる事になる。

 スザクは腰に携えていた剣を引き抜き、剣の柄をユーフェミアに向ける。これも古くから伝わる伝統だ。

 剣を受け取ったユーフェミアは、その刀身をスザクの両肩に置き、高らかに宣言する。

 

「私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは、汝、枢木スザクを騎士として認めます。」

 

 言葉を終えたユーフェミアは、スザクに剣を渡し、受け取ったスザクは刃を収める。

 彼はその場に立ち上がり、来賓の貴族の方へ子を向ける。

 貴族たちの顔は一部の人間を除いて冷ややかであった。

 

(やはり、受け入れられないか……)

 

 無理も無い。ブリタニア帝国史上初の、異国の騎士。それもナンバーズ出身。

 

(何を弱気になっているんだ……。覚悟していた事じゃないか。僕は正しいやり方で変えていくんだ。)

 

 覚悟を決め、貴族達の冷ややかな目から主人を守る様に、スザクは佇む。

 しばらくの間、会場は静寂に包まれていたが、とある人物が沈黙を破った。

 特別派遣嚮導技術部のリーダー、つまりはスザクの元直属の上司。ロイド・アスプルンドだ。彼はその顔に穏やかな笑みを浮かべ、手を叩いている。

 そんなロイドを呆然と眺めていると、横からも拍手が聞こえた。コーネリア・リ・ブリタニアの腹心の部下、アンドレアス・ダールトン。そしてナイトオブナイン、ノネット・エニアグラム。

 ロイドに続いて、その2人もスザクに対し、拍手を送る。

 その光景に思わず、スザクとユーフェミアは表情を柔らかくする。

 実力主義のブリタニア帝国において高位に位置する3人が拍手をしたからであろう。冷ややかな表情を送っていた貴族達も渋々といった感じで拍手をし始めた。

 

(ああ、やはり。僕は間違っていなかった。こうして正統な手段で結果を得れば、認めて貰えるんだ。)

 

 ゼロが現れてから、ルルーシュと再会してから。自身の正義を何度か問い直した。迷いもした。本当に自分がしている事は正しいか。

 

(ルルーシュとナナリー、見ているかい? これで少しは安心してくれるかな? それにアルカ、ありがとう。君の言葉に、僕は励まされた。)

 

 だがこれで証明された。こうして結果として返ってきた。

 

(僕はもう、迷わない。)

 

 

◇◇◇

 

 時を同じくして、エリア11近海。黒の騎士団が保有する潜水艦の中。

 

『それでは、黒の騎士団再編成による新組織図を発表する。』

 

 扇やカレンを始めとする幹部の面々と、新たに加わった藤堂と四聖剣の前に立ち、ゼロ=ルルーシュは説明する。

 度重なるゼロの奇跡、キョウトの支援、藤堂や四聖剣の加入によってより大きくな組織となった黒の騎士団は、作り変えられた。

 レジスタンスとしてでは無く、軍隊として。

 

『軍事の総責任者に、藤堂鏡志郎』

『情報全般、広報、諜報、渉外の総責任者に、ディートハルト・リート』

 

 ・

 ・

 ・

 

『零番隊隊長、紅月カレン』

『作戦遂行補佐に、皇アルカ』

 

 聞きなれない役職に、カレンは困惑の色を浮かべる。対し、横に佇むアルカは感情を表に出さず、ゼロの言葉を待つ。

 

『アルカとカレンに関しては私直属の部下となる。よろしく頼む。』

 

 カレンは嬉しさを隠そうともせず笑みを浮かべ、アルカはやはり表情を変えずに返事をした。

 

「はい!」

「…ええ。」

 

 作戦遂行補佐、文字通り作戦の成功の為にゼロの指示の元、独立して動く役職。立場的には藤堂と同等位だ。

 幹部席への指名はゼロの信頼の表れ。一般的な黒の騎士団メンバーならば、誰もが憧れるポストの筈であるのに、アルカは少しも喜びの色を浮かべない。

 

(……結局、守られちゃっているな。本来は私が守る筈だったのに。)

 

 ゼロ=ルルーシュのアルカに対する想いは変わらない。アルカがいくら戦果を上げようと、力を示そうと、彼からすれば守るべき対象なのだ。出来る事なら戦場に出て欲しく無いし、黒の騎士団にも参加して欲しく無い。

 しかし、いくらアルカを戦場から遠ざけようとしても、彼女自身がそれを望まない。加えて、皇という名前がそれを許さない。

 だからルルーシュはゼロ直属の作戦遂行補佐という役職を用意し、アルカをそこに座らせた。いつでも守れる様に自身の目が届く範囲で、なおかつキョウト六家の血筋に相応しい地位。

 そんな彼の気遣いをアルカは感じているからこそ、カレンの様に純粋に喜べない。

 本来、ルルーシュとナナリーを守る騎士として育てられたアルカからすると、逆に守られるというのは複雑なのだ。

 

(頼りにされるのは嬉しいけど、なんかこう、ね。)

 

 思考に更けているアルカを他所に、ゼロはその後も次々と役職を発表していく。

 口煩い玉城を納得させる為に適当に用意した役職を発表し終わったタイミングで、ディートハルトが口を開いた。

 

「ゼロ、一つよろしいでしょうか? 後程、協議すべき議題があります。」

 

 ・

 ・

 ・

 

「枢木スザク、彼はイレヴンの恭順派にとって旗印になりかねません。私は暗殺を進言します。」

 

 ゼロやアルカ、扇、藤堂といった中核メンバーを集めたこの場でディートハルトは、言った。

 その提案に対する幹部達の表情は、芳しくない。

 

「なるほどね、反対派にはゼロっていうスターが居るけど、恭順派には居なかったからねぇ。」

 

 幹部の中で表情を変えなかった数少ない人物、ラクシャータが納得がいった様子で口を開いた。

 

「人は主義主張だけでは動きません。ブリタニア側に象徴足りうる人物が現れた今、最も現実的な手段として暗殺という手があります。」

 

 ディートハルトの言う事は決して間違っていない。彼の言う通り、既に枢木スザクを英雄視する声も上がっている。

 彼は示してしまったのだ、例えナンバーズであっても、認められる可能性があるという事を。

 完全に日本人の意見が二極化する前に、枢木スザクを始末することで、再びゼロに指示を集めようという事だ。

 

「反対だ。」

 

 藤堂が口を開く。

 

「その様な卑怯なやり方では、日本人の支持は得られない。」

「私は最も確実で、リスクの低い手段を提示したまでで……」

 

 ディートハルトは言う、あくまでも手段の一つだと。

 

「私も反対です。」

 

 藤堂に続く様に、アルカも口を開いた。

 

「これは意外ですね、貴女からは同意を得られると思っていたのですが…。やはり血筋ですか。」

 

 本当に驚いた様子で、ディートハルトは目を見開いた。

 

「…どういう意味ですか?」

 

 アルカは目を鋭くし、ディートハルトを見据える。

 

「そのままの意味ですよ。貴女は枢木本家である皇の血筋の者。つまりは血縁者だ。それに貴女は彼とご学友だと言う、情が生まれたのでは?」

「私がそんな事に拘るとでも?」

「私にはそう見えますがね。」

 

 視線だけで人を射殺せそうな目つきで、ディートハルトを睨みつける。

 初めて会った時から、この男の事は好きになれなかった。ゼロを妄信し、担ぎ上げる事を目的としているこの男を。まるでゼロを、ルルーシュを玩具の様に扱われている気がして嫌で仕方なかった。

 

「殺すより彼を仲間に引き込んだ方がメリットがある、ってだけですよ。スザクは日本国最後の首相の一人息子だ。私の様に突然現れた存在より、彼の方が日本人からの支持は得られるでしょう。キョウトもそれを望んでいる筈。」

「自身の立場を明け渡しても良い、と?」

「ええ。知っての通り、私はブリタニアで生まれ、ブリタニアで育ちましたから。日本にそれほど思い入れはありません。所詮は名ばかりの存在。彼をこちら側に引き込める手段があるのなら、私はそちらを選択したい。」

 

 アルカはその場を立ち上がり、この場から去ろうとする。

 

「もし、全ての手段を使い果たし、それでも彼が刃を向けてきた時はどうするおつもりですか?」

「……その時は、敵として処理します。」

 

 そう言い残し、アルカは部屋を後にした。

 

 

◇◇◇

 

 アッシュフォード学園 クラブハウス

 

「ほんと、お祝い事大好きだね…」

 

 普段は生徒会メンバー以外の人は寄り付かないクラブハウスが、賑わっている。

 生徒会主催の「枢木スザク君、騎士就任おめでとうパーティー」の影響だ。

 ミレイやシャーリーを始めとする生徒会メンバーは勿論、ブリタニア人や日本人の一般生徒も多く参加している。

 ただただ豪華な食事にありつきたいという層も一定数居るだろうが、大多数の生徒は純粋にスザクのお祝いを目的に参加している。

 それも彼の太陽の様な人柄の影響だろう。

 

「「あっ」」

 

 アルカとスザクの視線が交わる。

 スザクは自身の周りの生徒に声を掛けると、そのままアルカの方へ真っ直ぐ向かってきた。

 

「やぁ、アルカ。こうして話すのは久しぶりだね。ちゃんと授業は出ているかい?」

「……開口一番それ?」

「君はルルーシュ以上のサボリ魔らしいからね。心配になっちゃって。」

「心配しなくても、必要最低限は出席してるよ。」

 

 そういう事じゃないんだけどな、と頬を掻きながらスザクは苦笑する。

 

「…騎士への就任、おめでとうございます。」

 

 そういえば、まだお祝いしていなかった、と人形の様に整った顔に笑みを浮かべ、アルカは祝いの言葉を伝える。

 

「ありがとう! 君のお陰だよ!」

 

 対するスザクも、幼さ残るその顔に柔らかな笑みを浮かべる。

 

「私の?」

 

 予想外の言葉にアルカは疑問を浮かべる。

 

「前に生徒会室で僕に言ってくれただろ? 自身の正義に従えって。」

 

 ああ、あの時か。とアルカは思い返す。

 日本解放戦線によるホテルジャック事件の少し後の事。

 言われてみると、彼とそんな話をした気がする。

 

「その言葉のお陰で、改めて自身を信じる事が出来た。進むべき道を見失わずにすんだ。だから、君のお陰なんだ。…ありがとう。」

「……そんな小さい出来事でお礼言われるなんて思っていなかった。」

「僕からしたら大きな出来事なんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 彼の言葉を聞き、アルカは顔を引き攣らせる。

 

「…よくそんな恥ずかしい事を……」

「?」

 

 無意識からの発現だった様だ。ミレイさんに朴念仁と言われただけの事はある。

 

「スザクくーん! こっちに来てー!」

 

 少し離れた所からシャーリーの声が響く。

 パーティーの主役に気を休める暇は無いらしい。

 

「ほら、呼ばれているよ。私の事は良いから、行ってあげて?」

「うん、ありがとう。今度またクラブハウスに遊びに行くよ! お茶でもしよう!」

 

 そう言い残し、スザクは駆け足でシャーリーの元へ向かった。

 彼から視線を外し、会場を見渡す。

 相変わらずお祭り騒ぎをしているミレイに、上品にピザを口へと運ぶナナリー。様々な生徒が各々の形で騒ぎ、スザクの栄進を祝っている。そんな中で複雑そうな顔でスザクを見つめるルルーシュ。

 

「……兄上。」

 

 そんな兄に掛ける言葉を、アルカは持ち合わせて居なかった。

 ルルーシュの苦悩はルルーシュにしか分からないのだから、どんなに励ましの言葉を掛けようと、それは気休めにしかならない。

 

(……せめて最大限、私に出来る事を。)

 

 アルカは静かにそう決意し、会場を後にした。

 

 

◇◇◇

 

 式根島 近海

 

 黒の騎士団がインド軍から譲り受けた潜水艦の中で、ゼロは作戦概要を語る。

 

『ユーフェミアが本国からの貴族を迎えに、あの島へやってくる。騎士である枢木スザクも共に居るはずだ。戦略拠点では無い為、戦力も限られている。作戦の目的は枢木スザク及び、ランスロットの捕獲!』

 

 あくまでも正々堂々と、民衆からもメンバーからも遺恨が残らない形で仲間に引き込む。これがゼロの最終決定だ。

 ゼロ=ルルーシュの手に自然と力が入る。

 分かっているのだ。アルカの言う通り、これが最後のチャンスであることを。

 彼が過去に起こした過ち、彼の正義感を利用する。そこでスザクが揺らがなければ、もう彼がこちら側に来ることは無いだろう。彼の頑固さは、ルルーシュが一番良く知っている。

 ここが分岐点なのだ。黒の騎士団にとっても、ルルーシュにとっても、スザクにとっても。

 そして、

 

(式根島の近くに来てから、ずっと誰かに見られている気がして気持ち悪い。)

 

 アルカにとっても。




ようやく一期の終わりが見えてきた(気が早い)
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