KMFを乗りこなす為には、何より身体作りが大事である。
これは実際に乗った経験がある者だけが実感できる事実であろう。
身体に掛かる激しいGに耐えうる身体を、長時間の戦闘を乗り切れる体力を、激しい戦闘にも対応できる反応速度を。
ブリタニア軍においても、パイロットの育成は身体作りから始める程、重要視されている。
そして、それはここ、黒の騎士団でも変わらない。
「あんた、ホント身体柔らかいわねぇ。」
柔軟を行っているアルカに体重を掛けながら、カレンは感心した様に口を開く。
「昔から、やってた、からね。」
ゆっくりと息を吐きながらアルカは返事する。
2人が居るのは、アジトに用意された簡素な訓練室。
主にKMFの操縦の為の身体作りを目的として作られた部屋だが、ここ最近はKMFのパイロットが固定化されてきた事もあり、あまり利用者は居なかった。
「さて、と……。」
「やりますか。」
柔軟を終えたアルカは立ち上がり、カレンを真っ直ぐ見据える。
「ただやるだけじゃ面白くないわね…。 そうね、勝った方が何か奢るってのはどう?」
「上等。」
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「んで、次行くのが訓練室なぁ。 まぁ、俺くらいになるとよ、利用する事無いんだが。 お前らも最初位は訓練しておいた方が良いと思うぜ~。」
「「「「はい!」」」」
複数の男女を連れ、上機嫌で玉城はアジト内を進む。
サボっている訳では無い。最近、黒の騎士団に入団してきた新人の面倒を見ているのだ。
ブリタニアへの対応や次の作戦の準備で忙しい中、唯一暇そうにしていた玉城に白羽の矢が立ったのだ。
「あ、あの、ナイトメアの操縦っていうのは、やっぱり難しいですか?」
玉城の後ろを歩いていた新入団員の内の一人の男が、何処か興奮した様子で玉城に尋ねる。
「ん、まぁ、最初はちっとは難しいかもなぁ。 でも、この俺様の指導にかかればすぐに乗れるようになるぜ! なんつったって、黒の騎士団のエースパイロットだからなぁ!」
「お、おおぉぉ~」
高らかに笑う玉城を、目をキラキラさせながら見つめる新入団員達。
そうこうしている内に、訓練室のある区画へと差し掛かった。
そこで玉城は訓練所前に出来ている人だかりを目にする。
「あ……?」
訓練室と通路は一枚の強化ガラスで隔たれており、外からでも中の様子が確認出来る様になっている。
「誰か使っているんですかね?」
「ただ使ってるだけじゃ、こんな人だかり出来ねぇと思うんだが…。 はっ、案外ゼロが素顔を晒してたりしてな!」
玉城は冗談を交えつつ、人だかりへと向かう。
人だかりの中で、見知った顔が見えた。
扇、杉山、井上といった黒の騎士団古参メンバーだ。
「よぉ、扇~、こんな所で油売ってていいのかぁ?」
扇の背中を軽く叩き、玉城は話しかける。
「ん、ああ、玉城。 ちょっと珍しいものが見れてな。 ほら。」
言いながら扇は訓練室の中へと指を向ける。
そこには喧嘩…では無く、組手をしているアルカとカレンの姿。
いや、組手と言うよりは摸擬戦闘と言うべきだろう。
両者の目には普段の友人関係は見られず、お互いがお互いを容赦無く攻め立ている。
「あいつら何やってんだ?」
「訓練みたいよ。 ほら、神根島で遭難した時、カレンって一時的に枢木スザクに拘束されたでしょ? 彼に歯が立たなかったのが悔しかったんだって。 アルカちゃんはアルカちゃんで、フロートユニットのシミュレーションをカレンに付き合ってもらってるから、それのお返し。 だってさ。」
玉城の疑問に井上が答えた。
「実際、この摸擬戦の後、そのままナイトメアのシミュレーションに行くんだってよ、ほんと体力が底無しというか何というか……。」
「まぁキュウシュウ戦役で思う事があったのかもな、ゼロが一人で片付けてしまったし…。 ほら、特にアルカとかその辺りに敏感だから。」
続けて青山と扇が口を開いた。
「はぁ~ん。 ………ガキが無茶しやがって。」
再び意識を2人へと戻す。
力が勝っているカレンは足や手を用いて直線的な攻撃を中心にアルカを攻める。
対するアルカは、カレンに力で勝てない事を分かっているのか、防御よりも回避に専念し、隙をついては絡め手を用いて切り返している。
まさに剛と柔。 お互いの性格の表れにも見える。
脚を踏み込んだ際の振動、お互いの身体がぶつかっり合った時に放つ鈍い音、どれもまだ学生である彼女達が出して良いものでは無い。
2人の気迫に、見ているこっちが怯んでしまう。
「カレンもそうだけど、アルカちゃんも容赦無いわね……。」
「というと?」
「アルカちゃんが攻撃しようとしている所ね、鳩尾とか肩とか。 所謂、急所ばかりなの。 ほんと何処で教わったんだろう、っていう位的確よ。」
「急所、か。 確かラクシャータ博士も言っていたな、ナイトメアで戦っている時も真っ先にコックピットとか関節を狙っているって。」
「それはえぐいな……。 いや、手早く敵を無力化するのを重視するなら常套手段とも言えるか?」
そう話している間にも彼女達の攻防は続く。
アルカの的確に急所を狙った攻撃も恐ろしいが、それを見てから対応するカレンの反応速度も恐ろしい。
「あ、あの……。」
ふと、新入団員が声を上げた。
「ああ。ごめんなさいね。 最近入ってきた子よね? どうしたの?」
「あの訓練やってる子達…。 いえ、お二人の様なレベルが普通なのでしょうか……。 ぼ、僕にはとても…。」
他の新入団員達もその言葉に同意する様に、首を縦に振っている。
その様子に玉城以外の3人は顔を合わせると、声を上げて笑い始めた。
「ああ、いや。 あの2人は特別なんだよ。 紅蓮と無窮っていうナイトメアを見た事あるだろ? 赤いやつと青いやつ。」
代表として扇が口を開く。
「あの2人……、カレンとアルカはそれのパイロットなんだ。 その2つのナイトメアは随分とピーキーな性能をしていてね。 彼女達にしか扱えない。 彼女達にしか出来ない事があるように、君達にしか出来ない事が絶対にある。 そんなに気負う必要は無いさ。」
扇の言葉に、顔を明るくする新入団員達。
視線を戻し、再び話題は2人へ戻ろうとしたその時、もう1人の声が加わった。
『ここに居たのか。』
「ゼロ。」
黒の騎士団リーダー。ゼロである。
ゼロの登場に新入団員は顔を引き締め、井上、青山も何処か落ち着かない様子を見せる。
そんな様子を見て、ゼロは内心溜息を吐きながら言葉を続けた。
『何、彼女達に用が合っただけだ。 そう身構える事じゃない。』
そう言いながら、ゼロは訓練室の扉を開け、踏み入れた。
相変わらず戦闘を続けている彼女達はゼロの存在に気付かない。
しばらく無言のまま、2人の様子を見守る。
カレンの猛撃を小さい身体で受け止めるアルカ。
身体的不利にも関わらず、精一杯反撃するアルカ。
病み上がりでありながらも汗を流し、健気にカレンとの訓練に励むアルカ。
『…………、精が出るな。』
出てしまった、我慢しようと思っていたのに。ルルーシュは内心そう考えた。
言わずもがな、いつもの
兄としては、これ以上自らを傷つけてしまう行為を続けて欲しく無かったのだ。
「ゼロ…?」
一番に反応したのはカレンだった。
カレンは一瞬だけ、視線をアルカからゼロの方へ向ける。
「隙あり。」
その一瞬をアルカは見逃さなかった。
カレンを足払いし、バランスを崩した彼女はそのまま重力に従って倒れる。
そのままアルカはカレンを組み伏せた。
「私、アイスクリーム、が良いな……!」
「ちょ、ちょっと…、卑怯じゃ、ない?」
お互い息を切らしながら、口を開く。
気を逸らしたカレンが悪いよ~、そう言いながらカレンの身体から退き、手を差し伸べる。
差し伸べられた手を取りながら、何処か納得出来ないと言った様な表情で立ち上がる。
『すまないな、邪魔をしてしまって。』
「い、いえ!」
「ううん、そろそろ止めようと思ってたし、タイミング的には良かったかな。 それで、要件は?」
『アルカ、君にお手紙だ。』
「手紙?」
ゼロから差し出された紙を手に取り、不思議そうな顔でそれを眺める。
『……キョウトからの。』
◇◇◇
キュウシュウ戦役
旧日本政府、第二次枢木政権下において官房長官を務めていた男、澤崎敦が起こした一連のテロ事件の総称。
中華連邦の支援を受け、キュウシュウのフクオカ基地を占拠し、日本の独立を宣言。
しかし、枢木スザクを始めとするブリタニア軍がKMFで基地を強襲。それにより起きた混乱の隙をつき、コーネリアが率いる親衛隊が制圧。
澤崎に積極的に支援していた中華連邦の曹将軍もろとも捕縛され、このテロ事件は終息へ向かった。
と、いうのが表向きの報道。
実際は基地への強襲は枢木スザク単独での遂行であり、ブリタニアの援護は無かった。
彼を援護したのは他でも無い、ゼロだ。
もちろんゼロがこの事件の解決に一役買った、等と報道される訳が無い。
しかし例え報道されなくとも、黒の騎士団がこの件に関わったのは揺るぎない事実である。
そして今回の一件で黒の騎士団の立場を完全に確立する事に成功した。
ブリタニア、では無く間違った主義や主張を憎む組織。
この認識が一般市民に定着したことは非常に大きい成果と言える。
特に、この後に控える大規模なクーデターに大いに役に立ってくれるだろう。
「……はぁ…………。」
キュウシュウ戦役の事を思い返すと、少し憂鬱な気分になる。
そんな気分になるなら思い出さなきゃ良い、という意見もあるだろう。
しかし今、壇上に上がっている先生がそれについての熱く話をするものだから、思い出したく無くても思い出してしまう。
アルカの今の顔は誰が見ても分かりやすく落ち込んでいる。
何故、彼女はキュウシュウ戦役の話で心に影が差すのか。
厳密に言えば、キュウシュウ戦役だけに限った話では無い。
チョウフ基地でのノネットとの痛み分け、神根島での昏睡と数日に及ぶ体調不良、そしてルルーシュとC.C.のみで介入したキュウシュウ戦役。
焦っているのだ、自分が役に立っていないのではないか、と。
元々、ルルーシュの障害を打ち払う剣として、その身を守る盾として育てられてきたアルカは、ルルーシュに守られる事に若干の抵抗がある。
そうであるのにも関わらず、最近は守られてばかり。まるで自身の存在意義を無くした様な感覚に陥るのだ。
アルカのそんな気分を余所に、壇上の教師はさらにヒートアップする。
彼女は熱を増していく教師を目に留めながら思わず苦笑をしてしまう。
(まぁ、ブリタニア市民からしたら大きな事件だから、熱くなるのも分かるけどね。)
澤崎という日本人が表立っては居たものの、背後に控えていたのは中華連邦。
キュウシュウ戦役とは、味方を変えれば中華連邦による実質的な侵略行為。一歩間違えれば国同士の戦争にすら発展してた可能性が有る。
だから目の前のこの教師は、生徒達の空気を汲まずに、熱く、語っている。警鐘を鳴らしている。
周りの生徒は他にやりたいことがあるのか、早く終わらないかと落ち着き無い様子だ。
(休めばよかったかな……。)
今、アルカが居るのはアッシュフォード学園中等部の教室。久方ぶりの学校に来ている。
というのも黒の騎士団の活動に一区切りついたからだ。
黒の騎士団は現在、次の作戦に向け準備をしている。物資の調達、人員の確保、各レジスタンス組織との連携、内部協力者の確保etc.……。やる事は沢山あるものの、その分、設定された準備期間も長い。
ブリタニア軍に激しい動きも無い最近は、黒の騎士団に入り浸らずとも、十分に準備を進める事が可能であった。
その実、ルルーシュも最近は学校に顔を出している。
実際は進級の為の単位が足りないから来ている訳だが、妹の前では恰好を付けたいルルーシュはそんな事話す筈も無い。
(あ、やっと終わった。)
話したいことを話終えたのか、満足そうな顔で教師は壇上を退き、2人の生徒と入れ替わる。
先生のソロライブから本来の目的へとシフトするらしい。
壇上に上がったのはこのクラスの中心人物、常に皆の中心に立ち、纏めてきた2人の男女。
その内の女子生徒の方が笑みを作り、声を上げた。
「ただいまから! 第15回! 学園祭クラス会議を始めます!!」
少女の声を聞き、周りの生徒も声を上げた。
中には両手を上げ雄たけびを上げている生徒も居る。
「…この学校、イベント好き多すぎでしょ……。」
アルカは周りのテンションについていけず、1人項垂れた。
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「ね、ねぇ……!」
クラスメイトが学園祭について盛り上がっているのをBGMに、外の様子を窓から眺めていたアルカは意識を戻す。
アルカの席の前には先ほどから指揮を執っているクラスメイトの女の子。
何処か緊張している様子だ。
「どうかしました?」
「ア、アルカちゃんは何か、文化祭でやりたいこと、ある?」
どうして歳下の自分にそんな緊張を…、そう疑問を抱きながらアルカは考える。
学園祭という行事は人生で初めてだが、ミレイやルルーシュから粗方話は聞いている。
「んー…、これと言って特には。」
アルカは気づかない。
目の前の少女だけでは無く、クラスの全生徒が自身に注目している事に。
「でも、私に出来る事なら手伝いますよ。」
「……ほんと…!? ありがとう!」
少女はパァっと顔に笑顔を咲かせ、アルカの前から居なくなる。
そしてそのまま興奮した様に他のクラスメイトへ何かを話始めた。
その様子をしばらく不思議そうに見ていたアルカだが、まぁいいか、と視線を再び外へと向ける。
彼女は後に後悔する事となる、自身のクラスの出し物を碌に知らないまま、返事をした事を。
介入の余地が無さそうだったので、キュウシュウ戦役は全カットとなります。
澤崎ファンの方々、大変申し訳ない。
中の流れは原作と変わらないです。
ユーフェミアはスザクに告ったし、ルルーシュもスザクと共闘しました。
分からない人は原作を観てネ。