コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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stage27 行政特区日本

 アッシュフォード学園 クラブハウス リビング

 

 ルルーシュは酷くイラついていた。

 理由は言うまでもない、行政特区日本の影響である。

 絶対強者であったブリタニア人と奴隷同然であるイレヴンを平等に扱うこの政策は、大きな話題を呼び、日夜テレビやラジオで話題にされている。

 エリア11の安定に繋がるのか。特区に参加しなかったイレヴンの扱いは。黒の騎士団が反抗してきた場合は。皇族殺しのゼロの処遇は。

 耳に入る情報は、憶測でのみ語る専門家の無駄話のみ。

 

(上から眺めるだけのやつらは呑気なものだな。)

 

 不機嫌な様子を隠そうともせず、ルルーシュは内心で吐き捨てる。

 

「お兄様? 何か、心配事?」

「え?」

 

 思考に更けていたルルーシュは、ナナリーに声を掛けられ、思考を現実に戻す。

 

「ユフィ姉様の事?」

 

 ナナリーという少女は、目が見えない分、人の感情の変化に敏感である。

 ルルーシュであってもナナリーの前では嘘を付けないし、付いたとしてもすぐに見抜かれてしまうだろう。

 

「…また会いたいなんて我儘は言いません。お兄様やアルカ、ユフィ姉様に迷惑が掛かりますもの。ただ……。」

「ナナリー。ユフィの事、好きかい?」

 

 彼にしては珍しく、ナナリーの言葉を遮り、口を開いた。

 

「えぇ、勿論。お兄様だって好きでしょ?」

 

 ナナリーは柔和な笑みを浮かべ、当然の様に答える。

 ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 ルルーシュ達に対し、初めて優しさを向けてくれた人物。ルルーシュと共に学び、ナナリーと共に離宮内を駆け、アルカの面倒を良く見てくれていた少女。

 当然ルルーシュだってアルカだって、彼女に対して敵意も悪意も無かった。

 しかし、それはついこの間までの話だ。

 

「ああ……、好きだったよ。」

 

 ・

 ・

 ・

 

「ん、……はぁ、あ……」

 

 ねっとりとした蛇の様な舌が口内を犯す。

 口が塞がれた事により、息が苦しくなった私は覆いかぶさっている彼女の肩を叩く。

 意図が伝わったのか、彼女は身体を起こし、私の口内を蹂躙するのを止めた。

 引き抜かれた舌からは混じり合った唾液が垂れ、私と彼女を繋ぐ橋にも見えた。

 

「はッ、…はッ、は……。どう、したの…。し、しーつー……。」

「………………」

 

 行政特区日本開催記念式典を明日に控えた夜。明日に備え、早めに眠りにつこうとしたところ、彼女に襲われた。

 何時もだったら嗜虐的な笑みを浮かべながら、その言葉とその手で私を弄ぶくせに、今日のC.C.は表情を変えず、何も語らない。

 

「…しーつー?……んっ、……んぅんっ。」

 

 どうかしたのかと何回か呼び掛けるも、やはり彼女は何も語らず、また舌を私の口内へとねじ込んできた。

 零距離から聞こえるC.C.の息遣いと、絡み合ってくる舌の挙動に、脳が甘く痺れる。

 麻酔の様な恍惚感に流されそうになるも、何時に無く荒い彼女の息遣いに疑問を覚える。

 再びC.C.は舌を抜き、呼吸を整える。

 

「…はぁ、は、ん……。しー、つー……、なにを、あせって、るの?」

 

 先ほどの余韻から上手く回らない舌を必死に動かし、彼女に問う。

 

「は、はッ……。 わた、しが、焦っている、だと?」

 

 やっと聞けた彼女の声。大好きなC.C.の声を聞けた私は、幾分か落ち着きを取り戻す。

 

「だって、いつもより、荒々しいもの……。」

 

 私にそう言われ、C.C.はハッとした顔をする。

 

「…そうか、すまない……。全く、私らしくも無い………。」

 

 C.C.は自虐的な笑みを浮かべながら、私の頬を撫でる。

 珍しくしおらしい彼女の首に腕を回し、彼女の身体を引き寄せる。

  

「そんなに落ち込まないで。 良いんだよ? 少し位、乱暴に扱っても。 貴女に貰った命ですもの。」

 

 C.C.に一字一句ちゃんと伝わる様に、耳元で囁く。

 

「……なぁ、アルカ。 お前は明日…、記念式典を終えたらどうするんだ?」

「どうって…、今までと変わらず黒の騎士団の一員として活動していくけど……。」

「……今ならまだ間に合うぞ。明日の式典が終わってしまえば、間違い無く世界は動く。 お前の命が、お前の見る風景が戦いに染まってしまう。 望もうと望むまいが。」

 

 ここまで会話して私はやっと理解した、私の事を心配してくれている事を。

 

「私は…。 私はな、アルカ。 お前を失うのが怖いんだよ…。 お前を失う位なら、いっそ……。」

「……ふふ、告白してくれてるの?」

 

 弱々しいC.C.の背中を、子どもをあやす母親の様に、優しくさする。

 

「私はね、C.C.。 貴女に感謝しているの。 貴女から名前を貰った。 生きる術も喜びも。 貴女が居なければ今の私は無かったし、貴女と共に居なければ、私は私で居られない。」

「…………。」

「言われなくても、私はC.C.の傍から居なくならない。 離れてやるもんですか。」

 

 C.C.は今、どんな顔をしているだろう。彼女の息遣いだけが、首に掛かってくすぐったい。

 彼女が欲しかった答えが出来たかは分からない。もしかしたら彼女が望んでない返事だったかもしれない。

 それでも私は、今の私を、私の想いを受け止めて欲しかった。

 

 C.C.は何も言わぬまま顔を上げ、私を見つめる。

 彼女の金色の瞳に私の顔が映ったのを確認し、私は笑みを浮かべた。

 

「大丈夫、私は死なないよ。」

「…ああ、そうだったな。」

 

 C.C.は安心したような、しかしどこか悲しそうな表情を浮かべながら微笑んだ。

  

 

◇◇◇

 

 

 行政特区日本開設記念式典

 

 ブリタニア国旗と日本の国旗が風に揺れている。

 日本人の誰もが一度は夢に見た光景だろう、こうして日の丸が再び掲げられることを。

 

 誰もが有耶無耶になると思っていたこの政策は、世論を裏切り、迅速に準備が進められた。

 裏で後押しをした人物が居る、これがルルーシュの見解であった。

 ユーフェミアを上手く退いたとしても、その次の障害がすぐに立ちはだかるのは、容易に想像出来る。

 だからこそ、ルルーシュはこの日の準備を怠らなかった。最後まで渋っていた妹を説得し、ユーフェミアが取りうる行動を分析し、何も知らない黒の騎士団メンバーを丸め込んだ。

 

 そう、ここが正念場なのだ。彼の反逆にとって。

 ルルーシュは覚悟を決め、C.C.と共にガウェインへ乗り込む。

 

(……ああ、やってやるさ。 これが俺の答えだ、ユーフェミア!)

 

 ・

 ・

 ・

 

 メインカメラに映るのは会場に入りきらなかった大勢の日本人。コックピット内に響くのは式典の様子を知らせる中継ラジオ。しかし、コックピットに乗り込んだ少女はそれらに見向きもしない。

 少女――、アルカのアメジスト色の瞳は中央のモニターに注がれ、無窮の武装を一つ一つ確認していく。

 

『…なぁ、アルカぁ。 何をそんなにチェックしてやがんだぁ? んなことしなくても今回は戦闘なんて起きねーって。』

 

 待機命令に飽きたのか、玉城がアルカに対して通信を飛ばす。

 

「……何が起きるか、分からないから。」 

 

 流石、エースパイロット様は違うぜ、と言い残して玉城は通信を切った。これ以上は会話が続かないと判断したのだろう。

 アルカとしても玉城のこの判断は有り難かった。こちらが()()()になるとは言え、大勢の人々が死ぬ可能性が高いのだ。そんな作戦の前に、あんな能天気な男とは話したくなかったのだ。

 

 一通り確認を終えたアルカは一息つき、座席の背もたれに体重を掛ける。

 

「上手くやってよね、兄上……。」

 

 

◇◇◇

 

 ユーフェミアは補佐役のダールトンに時間を告げられ、席を立つ。

 記念式典の開始時刻だ。

 

(ルルーシュ……。)

 

 ユーフェミアはふと、未だに埋まらない席に視線を向ける。

 自らが参加を呼び掛けたゼロの為に用意した席だ。

 

(協力、してくれないのね。)

 

 気分が沈みかけたその時、会場を警備するブリタニア軍人や、日本人の来場客からどよめきの声が上がった。

 空に一機の黒いKMFが現れたのだ。ゼロが神根島で強奪し、キュウシュウ戦役において凄まじい制圧力を見せた元ブリタニア軍最新鋭KMF「ガウェイン」。

 そしてその肩に乗るのは。

 

「ゼロ…、来てくれたのですね!」

 

 ユーフェミアは無邪気に喜んだ。

 隣に座るダールトンは勝ちを確信した。

 日本人の代表として招かれた桐原は困惑した。

 

 彼の登場に、この式典会場に居る全員が、反応を示した。

 

 ガウェインはゆっくりとした動作で、会場のステージへと高度を下げる。

 

「ようこそ! 行政特区日本へ!」

 

 ゼロの正体を知るユーフェミアは、友人を迎えるような表情でゼロに歓迎の言葉を掛ける。

 対するゼロは、そんなものはどうでもいいと言わんばかりに、告げた。

 

『ユーフェミア・リ・ブリタニア。 折り入ってお話したい事があります。』

「私と?」

『はい、貴女と2人きりで。』

 

 2人きりで、その言葉を聞き、ユーフェミアは察した。ゼロとユーフェミアとでは無く、ルルーシュとユフィで話したいのだと。

 

「…特に、問題は無い様です。」

「では、こちらへ。」

 

 SPの金属探知機によるボディチェックを終えたゼロをG-1ベースへと促す。

 

「ユーフェミア様。 やはりこの男と2人になるのは危険です。 せめて、自分だけでも…。」

 

 彼女の傍に居たスザクが、自身の主に警鐘を鳴らす。

 ユーフェミアがいくら大丈夫と言っても、民衆がいくら支持しようと、スザクはどうしてもゼロを信用することが出来ないのだ。

 

「もう、スザク。 前にも言ったでしょう? 大丈夫です、私に任せて下さい。」

 

 いくら警鐘を鳴らそうとも、彼の立場は騎士。主の決定には逆らえない。心に不安を募らせながらも、スザクは自らを律し、ユーフェミアとゼロの背中を見送った。

 

 この時の事を、スザクは後悔し続ける事となる。この時、無理矢理にでも一緒に居れば、未来は変わったのではないかと。

 

 

◇◇◇

 

 促されるままG-1ベースへと足を運んだゼロは、真っ先にG-1ベースの動力を落とし、完全に電気が切れたのを確認してから仮面を外す。

 

「用心深いのね、カメラならオフにしてあるのに。」

「ずっと隠れてきたからな、何処かの帝国のせいで。」

 

 ルルーシュは皮肉を交えながら、懐から銃を取り出し、ユーフェミアへ銃口を向ける。

 

「セラミックと竹を使用したニードルガン。これは検知器では見つからない。」

「ルルーシュ、貴方撃たないでしょう。」

 

 ユーフェミアは銃口を向けられても、動じることなく口を開く。

 そう、ここでルルーシュが撃つ筈がない。

 仮にここで、ゼロ=ルルーシュがユーフェミアを撃ったとしたらどうなるだろうか。ブリタニア軍からは捕縛され、日本人からは裏切り者とされ、信用は地に落ちる。

 単純に、ユーフェミアを撃つメリットがゼロ=ルルーシュには無いのだ。

 

「そう、俺は撃たない。撃つのは君だよ、ユフィ。」

「……え?」

「この式典は世界中に中継されている。そこでブリタニアの皇女である君がゼロを撃つ。どうなると思う?」

「暴動になるんじゃないかしら?」

 

 簡単な問答だ。誰もが容易に想像できるだろう。

 

「ああ、騙し撃ちされたとなれば、ゼロは殉教者となり、君の信望は地に落ちる。」

「何ふざけているんですか!?私と一緒に日本を……。」

 

 まるで話が通じないルルーシュに、ユーフェミアは声を上げる。

 彼女からしたら、手を取ってくれると思っていた矢先に、このような事を言うのだ、無理も無いだろう。

 

「全ての条件はクリアされた。ゼロは生死をさまよい、奇跡の復活を遂げ、称えられる。人は理屈では無く、奇跡に弱いものなんだよ。」

 

 そう語るルルーシュの顔は、ユーフェミアの知る優しい彼のものでは無かった。

 

「メシアは一人でなければならない。」

 

 

 同時刻、G-1ベース前。

 

 ガウェインのコックピット内でゼロを待っている所、下から向けられる視線に気づいた。

 

「ん?あいつは……。」

 

 枢木スザク、彼は何かが見えているかの様にガウェインを、いや、ガウェインに乗るC.C.を見ていた。

 

「見えているようだな。間接接触と神根島の件がきっかけになったか。それともあいつか?…だとしたら―――。」

 

 ガウェインのハッチを開き、C.C.はコックピットを後にする。

 

「枢木スザク、といったか。」

「どうして、君が、ゼロと一緒に……。」

 

 スザクの動揺を気にもせず、C.C.はスザクの方へ足を運ぶ。

 

「ふん、気に食わんな。守護者のくせに、仕えるべき主を間違えるとは。本来、お前が守るべき血は()()()()()()()()()()()。」

「何を言って……。」

 

 やはり彼女はスザクの事を気にも留めない。

 

「1つだけ答えろ、お前は――――、うッ!!」

 

 スザクに問いを投げようとしたその時、C.C.の顔に苦悶の表情が浮かんだ。

 熱い、痛い。 鈍器で殴られたような痛みが頭に響く。

 自立する事が困難になったC.C.はその場で頭を抑え、しゃがみ込む。

 

「おい、どうした!?」

 

 目の前の少女の異変に動転したスザクはC.C.の元へと駆け寄り、肩を掴む。

 その瞬間、スザクの脳内に様々な情報が、光景が流れ込んできた。

 

(これは、どこかで……)

 

 あまりの密度に脳の処理が追い付かなくなり、スザクの意識は途絶える。

 

「まさか、もう……。」

 

 動揺を隠せない様子で、C.C.は呟いた。

 

 

 時を同じくして、ルルーシュもC.C.と同じように左目を抑え、その場で片膝を付いていた。

 

「ルルーシュ!」

 

 それを心配したユーフェミアは彼の傍に駆け寄るが――。

 

 

「やめろっ!」

 

 自身を哀れみ、手を差し伸べたユーフェミアの手を振り払い、ルルーシュは激昂する。

 

「これ以上俺を哀れむな!施しは受けない!」

 

 もう他者に自身の運命を握らせてたまるか、そんな強い意志がルルーシュの中を駆け巡る。

 

「俺は自分の力で手に入れて見せる!その為にも穢れて貰うぞ!」

 

 ルルーシュは抑えていた手をどかし、左目を解放させる。

 

「ユーフェミア・リ・ブリタニア!!!!」

 

 ジェレミアに掛けた様に、マオに掛けた様に、そしてスザクに掛けた様に、彼女にも命令を下そうとした。

 しかし、彼女の予想外の返答によって、それは阻まれた。

 

「その名は返上しました!」

「な……。」

「いずれ本国から発表があると思いますが、皇位継承権を放棄しました。」

「何故…、まさかゼロを受け入れたから……。」

「私の我儘を聞いてもらうのですから、それなりの対価は必要でしょう?」

 

 さも当然の様に、彼女は言う。

 皇位継承権の放棄、すなわち次皇位争いから身を退く事。これはそんなに簡単な事では無い。

 皇族において、自ら負けを認め、放棄するという行為は死に等しい。

 後ろ盾の貴族は支援を止め、別の皇族へと乗り換える。世話をしてくれるメイドも、警備してくれるSPも離れる。それは当然だろう、その皇族には将来性が無いのだから。

 そして敵対する他の皇族は、ここぞと言わんばかりに攻撃の苛烈さを増してくる。

 ルルーシュ達もかつて経験した事だ、あの時の惨めさと、苦しみは誰よりも分かっている。

 それを彼女は分かっているのだろうか。

 

「随分と簡単に捨てられるんだな、君は…。俺の為とでも言うのか。」

「ふふ、相変わらず自信家ね。ナナリーの為よ。」

 

 ナナリー、その名を聞きルルーシュはハッとする。

 

「あの子言ったの、お兄様とアルカさえ居れば何も要らないって。貴方とアルカ、昔から一人で考えて行動しちゃう所あったから、私が気付かせてあげないと。」

「そんな事で……?」

「そんな事で決心がついちゃったの!」

 

 あっけらかんと、さも気にして無いと言わんばかりに、ユーフェミアは明るい表情を浮かべる。

 

「私にとって、本当に大事な物って何だろうって。だからルルーシュ、本当の本当に大切なものは1つも捨てていないわ。ああ、安心して? 貴方達の事は誰にも――――。」

 

 大事なものを捨ててきたのに、先ほどまで脅してた人物が今も目の前に居るのに、昔と変わらない態度でユーフェミアは語る。

 

「ふん、…ハハハっ!コーネリアは?」

「別に会えなくなる訳じゃ……。」

「馬鹿だよ、君は。大馬鹿だ。」

「そりゃ、ゲームでも勉強でも、ルルーシュに勝ったことは無いですけど!」

 

 ルルーシュの肩に入っていた力が抜ける。肩の荷が下りた様だった。

 

「しかし、無茶なやり方なのに、結局全てを手に入れてしまう。考えてみれば、君はいつも副総督や皇女殿下である前に、ただのユフィだったな。」

 

 思えば簡単な事だった。

 世界が変わった、人が変わったと思い込んでいたが、結局変わったのは自分だったのかもしれない。

 

「ただのユフィだったら、一緒にやってくれる?」

 

 ユーフェミアは顔を引き締め、ルルーシュへ手を差し伸べる。

 

「…………。」

 

 長い様で一瞬の沈黙。

 ユーフェミアの決意を固めた顔を見つめ、口を開く。

 

「君は、俺にとって最悪の敵だったよ。…ふっ。」

 

 ルルーシュは差し伸べられた手を取る。

 

「君の勝ちだ。この行政特区を生かす形で策を練ろう。」

 

 言葉を嚙み砕いていたのか、少し反応が遅れたものの、ユーフェミアは満面の笑みを浮かべる。

 

「ああ、部下になるわけじゃないからな?」

「ええ!」

 

 2人に間に柔らかい雰囲気が漂う。

 彼らの脳内には今後の展望が早速広がっていただろう。

 お互いの大切な人達を招き、人種関係無く手を取り合いないがら生きていく平和な世界。

 行政特区という小さなスタートにはなったものの、ゆくゆくは―――。

 

「でも私って信用無いのね。」

「ん?」

「脅されたからって、私がルルーシュを撃つと思ったの?」

 

 ああ、その事か。とルルーシュは思考を中断する。

 もう話してしまっても良いだろう。これからの未来、そうそう使う事も無さそうだ。とルルーシュは結論付ける。

 

「ああ、違うんだよ。俺が本気で命令したら、誰だって逆らえないんだ。俺を撃て、スザクを解任しろ、どんな命令でもね。」

「もう、変な冗談ばっかり。」

 

 そういう年頃なのかしら。今度アルカにでも聞いてみましょうか。っとユーフェミアは彼を見つめながら考える。

 

「本当だよ、例えば―――。」

 

 ユーフェミアの顔から視線を外していたルルーシュは、再度彼女の顔を見つめる。

 

「例えば、()()()()()()って言ったら、君の意志とは関係無く―――。」

 

 ルルーシュは冗談のつもりだった。ユーフェミアが到底取りそうもない行為をチョイスしただけだった。

 

「い、いやぁ…私が、嫌っ!」

「ユフィ?」

 

 明らかに様子が可笑しいユーフェミアに、ルルーシュは怪訝な表情を浮かべる。

 

「殺したくない!……いや、う…、うぅぅ………。」

 

 ユーフェミアは悲しみに満ちた表情で、自らの身体を抱き崩れ落ちる。

 

「なっ…まさか!」

 

 ルルーシュはある人物を思い出した。

 常に周囲の心の声が聞こえてしまうギアス能力者。

 暴走するその力でルルーシュを、アルカを追い詰めた男、マオ。

 

「俺もマオと同じように……!」

 

 ギアスの暴走。

 力を行使し続ける事で、ギアス能力者は次第に力に飲まれ、その力を制御出来なくなってしまう。

 ギアス能力者の末路。

 

「……ユフィ!!」

 

 震える身体を抱きしめながらうずくまっていたユーフェミアは、ピタリと震えを止め、顔を上げた。

 先ほどの苦悶の表情が嘘の様に、涼しい顔をして、さもそれが当然の様に、彼女は口を開いた。

 

 

 

「そうね、日本人は殺さなきゃ。」

 

 

 

 

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