コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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間が空いてしまい、申し訳ございません!


stage31 剣として

 

 少年は戦場を駆ける。

 純白のスーツを身に纏い、その身を怒りの炎で焦がしながら。

 

「どけぇぇぇぇぇ!!!」

 

 立ちふさがる障害を、荒々しく、鬼神の如く、打ち払いながら。

 

 その戦い方に、彼が持っていた本来の優しさなど無かった。

 その太刀筋は無慈悲に命を刈り取り、彼の目に入ったものは悉く、その命を散らしていく。

 

「ゼロは何処だ!俺はゼロを!!!」

 

 少年———、今の枢木スザクを突き動かすのはブリタニアに対する忠誠心でも、軍人としての責務でも無い。ユーフェミアを殺したゼロへの憎しみ、それだけだ。

 だから彼は気にしない。殺したのが同じ日本人だろうと。

 

 荒々しくも精密に、敵対するKMFを駆逐しているその時、ランスロットの死角からナイフが飛んでくる。

 怒りで我を忘れていようと、操縦の腕前が落ちる訳では無い。

 持ち前の反射神経を活かし、そのナイフをMVSで弾き返す。

 

 俺の邪魔をするな、そう言わんばかりの鋭い視線が投擲された方向へ注がれる。

 そこには――――。

 

『スザク!!!』

『カレンか!!!』

 

 そこには幾度となく対峙した、赤いKMF、紅蓮二式が居た。

 

『戦場で会った以上、悪いけど、死んでもらう……!』

『皆馬鹿だ!君も日本人も、あんな男に騙されて!!』

『その言い方ムカつくね……!あんたにゼロの何が分かるって言うのよ!!』

 

 KMFを通して、それぞれの鋭い視線が交わる。

 お互いのその目は最早、友人に向けるものでは無かった。

 溢れんばかりの殺意が込められている。

 同じ生徒会のメンバーだろうと、クラスメイトだろうと、敵は敵。

 とっくに振り切れているのだ、スザクも、カレンも。

 

『じゃあ、教えてくれ!!ゼロを!ゼロは今、何処に居る!?』

 

 ゼロに対する憎しみが強すぎるのか、スザクの言葉は返答にすらなっていない。

 ただ伝わるのは、彼の異常なまでのゼロへの執着。

 

 言葉と同時に、ランスロットはスラッシュハーケンを用いて距離を詰め、紅蓮に向け、MVSを振り下ろす。

 対する紅蓮は、輻射波動を展開し、受け止める。

 

『言うはず無いだろ!裏切り者がぁ!!!!!!』

 

 こうして幾度目かの、スザクとカレンによる、激しい戦闘の火蓋が切って落とされた。

 

 

◇◇◇

 

「紅蓮二式、ランスロットとの交戦に入りました!!」

「よし、すぐにゼロへ報告しろ!」

 

 G-1ベースの指令室はオペレーターの女性達と、古参の幹部で運営されていた。

 

(カレンとスザクが交戦……。私の想定よりも事態は進んでいる…。)

 

 戦闘の激化により忙しいらしく、誰もアルカの存在には気付かない。

 

「あの白兜…、ランスロットでしたっけ?ゼロ様にはあれを対策する策が有るのですね!!」

 

 本来はブリタニア皇族が座る筈の中央の椅子に、皇神楽耶が腰掛けている。

 キョウト六家は早々に富士に逃げ帰っているものかと思ったが、そうでは無いらしい。

 

 入口の辺りで立ち止まっていたアルカは、再び足を進める。

 足取りはしっかりしているものの、その顔は何時も以上に白く、眼も若干虚ろの事から、本調子では無いことが分かる。

 

「……戦況は?」

 

 静かにアルカは口を開く。

 

「ア、アルカちゃん……!?」

「す、皇様……。」

 

 この場に居る全員、オペレーターも、神楽耶も、井上や南といった幹部も、まるで亡霊を見たのかの様な表情でアルカを見つめる。

 そんな視線を気にも留めず、アルカはモニターに映るトウキョウ租界のマップと、その上の赤と青の点に視線を向ける。

 

(仕込み通り租界の多重構造は崩壊。行政、メディア、学園地区は制圧……、後は政庁か。)

 

 行政特区日本が交付される少し前、アルカとルルーシュは学校に通いながら、クーデターの準備を進めていた。

 

 日本…、エリア11は地震が絶えない国である。

 長い歴史の中で、幾度と無く災害に襲われ、様々な町、人、文化が消えていった。

 そんな地域を植民地に置くのだ。当然、ブリタニアは対策をした。

 強い揺れに耐える為の階層構造。それがトウキョウ租界の基盤となっている。

 外からの衝撃には強いが、それを内側から崩してしまえば――――。

 

 要するに二人はトウキョウ租界の基盤を管理する者にギアスを掛けたのである。

 ある言葉を聞いたら、一斉にパージしろ、と。

 

 上手くいってくれたようで何よりだ。何時もだったらそう思っている所だが、生憎今はそんな時間は無い。

 

「…ルカ、……アルカ!」

 

 声を掛けられていることに気付き、アルカは思考を現実に戻す。

 

「…何、神楽耶?」

「何?じゃないですわ!貴女撃たれた場所は!?大丈夫ですの!?」

 

 神楽耶は仰々しく、しかし異父妹(いもうと)の身を案じる姉として、アルカに問いかける。

 

「……血は出てない。」

「そうは言っても……!!」

 

 神楽耶とアルカの会話を見かねて、オペレーターに指示を出していた南と井上が持ち場所を離れて二人の方へやって来る。

 

「神楽耶様の言う通りよ、アルカちゃん。貴女、数時間前に撃たれたばっかりなのよ?普通だったら意識が戻る事すら奇跡なの。今は大人しく……。」

 

 諭すように言葉を紡ぐ井上に、若干の鬱陶しさを覚えながら、アルカは口を開く。

 

「……無窮は?」

「え?」

「持ってきてるんでしょう?無窮。私のナイトメア。」

 

 まさか、とこの場にいる全員が顔を青ざめた。

 

「貴女…、出撃する気なの!?」

「ええ。」

 

 悲鳴にも近い井上の問いかけに、アルカは機械的に答える。

 そんな彼女の頬を神楽耶は叩いた。出来の悪い妹を叱る姉の様に。

 肌と肌がぶつかり合う音が、指令室に響く。

 

「冗談も休み休み言ってください。アルカ、貴女そんな状態で出たら死にますよ。藤堂も、カレンさんも、そしてゼロ様も戦っております。彼らを信じて――――。」

「……ゼロ、ゼロ、か………、ふふ。」

 

 叩かれた頬を摩りながら、小さくゼロの名を呼び、微笑む。

 

「………っ!」

 

 指令室に居る誰もが身震いをした。

 室温が急激に下がった様な錯覚に陥った。

 

 それほどまでに、アルカの笑みは歪んでいた。

 表面上だけ見れば、何時もと何ら変わりない、芸術作品の様な笑みだった。

 

 しかし、違う。

 それは何処か妖艶で。

 それは何処か全能的で。

 それは何処か狂気的だった。

 

 ここに居る全員がその肌で感じ取った。今の彼女の異質さを。

 

「ゼロが戦っているから、大丈夫?違う、そうじゃない。戦っているからこそ、私が行かなきゃダメなんだ。」

 

 神楽耶も井上も、思わずアルカから後ずさる。

 

「本来は私が、私が一緒に背負うべきだった。いや、私一人で背負うべきだった。それが本来の、私の役割なのだから。」

 

 誰一人、アルカの言っている事は理解できなかった。彼女が言う役割も、背負うべきモノも。

 

「…嗚呼、理解してもらおうなんて思って無い……。ただ貴方達は、己が思うままに、私を戦場に送り出してくれればいい。」

 

 彼女に異を唱える人間は、この場には居なかった。

 

 

◇◇◇

 

 G-1ベースの出撃ハッチから、一つの青い閃光が飛び出した。

 それは戦闘機よりも速く、ファクトスフィアでも追えない程の速度を有していた。

 

『うわぁぁぁぁぁ!!』

 

 野太い悲鳴を上げながら、サザーランドは爆発する。

 それを近くで見ていた僚機も、その悲鳴を聞き駆け付けた別部隊も、一瞬の内にスクラップと化した。

 

 その閃光は無数の敵を散らしながら、ブリタニア政庁へ向かう。時には地を駆け、時には空を舞いながら。

 

 無窮天式(むきゅうてんしき)

 ガウェインに装備されているフロートユニットを解析し、独自に開発した飛翔滑走翼を装備した無窮の事を、ラクシャータはそう呼んだ。

 空中での行動を可能とした半面。まだ開発してから間も無い為、最適化されておらず、エナジーの燃費が悪いこと。また、外部装甲や武装を完全装備した無窮を飛翔させるのに必要な出力に至っておらず、現状、空を飛ぶには外部装甲と一部の武装をパージしないといけないこと。この2点が欠点として残っている。

 

 今の無窮の武装は両手に持つ二本の太刀のみ。

 装甲は通常よりも薄く、少し頼り無い。

 

(……だから、何だ。)

 

 そんなことでは彼女は止まらない。

 

 武器が太刀しかないなら全てを叩き切れば良い。

 装甲が薄いなら全て避ければ良い。 

 それを可能とするだけの力と覚悟があるのだから――――。

 

 腹に宿る熱に耐えながら、アルカは戦場を鳥瞰する。

 

(……あれは…?)

 

 ブリタニア政庁の屋上に向かって進む一機の黒いKMF、ガウェインだ。

 

「兄上…!」

 

 アルカはその顔に安堵の笑みを浮かべ、無窮を前進させようとするが、ある事に気付き、その手を止めた。

 空を飛ぶガウェインに向かって、一機のKMFが向かっているのだ。

 黒の騎士団が所持するKMFの中で、フロートユニットが取り付けられているのは現状、ガウェインと無窮のみ。要するに、敵だ。

 ガウェインはまだ、その機体に気付いている様子は無い。

 

「…っ。させない…!」

 

 身体にかかる負担、知るもんか。

 エナジーの消費が激しい、だからどうした。

 

 アルカは最大出力で空を翔ける。大事な人を守るために。

 

 

◇◇◇

 

 遡る事、数刻前。

 

「本当に彼女なら、真っ先に政庁を攻め落としにくると思ったが、あてが外れたか?」

 

 ブリタニア政庁の前で、帝国最強の騎士、ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムは呟く。

 

 ノネットの知るアルカ・ヴィ・ブリタニアは、戦いに置いては実にシンプルな人間だった。

 先手必勝、疾風迅雷。この言葉がよく当てはまるだろうか。

 兎に角、彼女は戦闘を早く終わらせる事に重点を置いていた。

 可能であれば敵の頭を叩く。目の前の敵をなるべく一撃で葬る。常に最短距離で勝利をもぎ取ろうとする、それが彼女の在り方だった。

 

 それをある人は単純と言った。

 それをある人は死に急ぎと笑った。

 

 しかし、彼女にはそれを可能にするだけの実力があった。

 実力がある人間が取る正攻法は、時には全てを上から叩き潰せるほどの力を発揮する。

 枢木スザクが良い例だろう。

 

 黒の騎士団に四方八方から攻められ、防戦一方なこの状況。

 昔の彼女なら真っ先にチェックを掛けてくる、それがノネットの考えであった。

 

(別の目的があるか、この戦場に居ないか、それとも…アルカでは無く別の人物、か。)

 

 いや、よそう。とノネットは首を振る。

 

(どれかにしろ、私が取るべき行動は変わらない。)

 

 あくまでも彼女はナイトオブナインとしてこの戦場に立っている。ノネット・エニアグラムとしてでは無い。

 政庁の前を防衛しているのも、自身の希望もあるが、コーネリアに依頼されたからだ。

 どの道、黒の騎士団は政庁へと集まってくる。遊撃は枢木に任せて、ノネットは火に飛び込んでくる虫達を払えばいい、と。

 

(…ん……?あれは……。)

 

 その時、自身の乗るKMFが一つの熱源を捉えた。

 ブリタニア政庁の屋上へ向かう、黒い巨人。ガウェイン。

 

 ゼロ。黒の騎士団のリーダーにして、皇族殺しの大罪人。

 黒の騎士団のメンバーの殆どは、元一般人だと聞く。一部、藤堂を始めとする旧日本解放戦線のメンバーも居るらしいが、それもほんの一握り。

 つまりはゼロと一部のメンバーが組織として無理矢理纏めている烏合の衆。

 それがコーネリア、そしてノネットの見解だった。

 

 ゼロのカリスマ性は圧倒的だ。それは認めよう。

 しかし、それが偉大であればあるほど、失った時の動揺は計り知れない。

 そして―――。

 

「私も、結果を追い求める質なんでね…!」

 

 ノネットは目を鋭くし、自身のKMFをゼロに向かって上昇させる。

 ナイトオブラウンズとして、勝利を掴む為に。

 

 ・

 ・

 ・

 

 コックピット内にけたたましい警告音が鳴り響く。

 

「おい!とんでもない速度で此方に向かってくる奴が居るぞ!」

「ああ…!分かっている!!」

 

 ブリタニアによる空爆を阻止する為、ブリタニア政庁の屋上へと向かっていたルルーシュとC.C.は、その進行を一機のKMFによって阻まれようとしていた。

 

「目障りなんだよ……!」

 

 向かってくる金色のKMFに向かってハドロン砲を放つも、円を描く様に躱されてしまい、一瞬で距離を詰められる。

 

「っ!!何なんだこいつは!?」

 

 迫って来る敵に対し、ハドロン砲、スラッシュハーケン、あらゆる武装を用いるが、その姿を捉える事は出来ない。

 そもそも、ガウェインというKMFの性質上、接近戦は不向きなのだ。

 最低限の動きは出来るものの、コンセプトは指揮官機。

 このように近距離に持ち込まれると、どうしても機動力の無さが仇となってしまう。

 

「えぇい!こんな奴が二機もいてたまるか!」

 

 ガウェインの目の前にはランスロットと同じ、赤い剣を構える黄金の機体。

 

「チェックメイトだ、ゼロ。案外、大したこと無かったな。」

 

 その機体を駆るノネットは、笑みを深くする。

 彼女はそのままガウェインのコックピットに向かってMVSを振り下ろす―――。

 事は叶わなかった。

 

 一機のKMFがMVSを受け止めたからだ。

 激しい金属音と共に、火花が両者の機体の間で発生する。

 

「やはり来たか……!」

 

 その機体を見て、ノネットはより一層、笑みを深くした。

 

「お、お前は……。」

 

 その機体を見て、ルルーシュは驚愕を隠せない様子だった。

 

「……アルカ…。」

 

 その機体を見て、C.C.は悲しそうな、しかし何処か安堵した様な表情を浮かべた。

 

 一般的なKMFよりも高い等身。額から伸びる一本の角。外部装甲の代わりに、新たに取り付けられた飛翔滑走翼(フロートユニット)

 そんな深い青色のKMFが、黄金のKMFの攻撃を受け止め、そしてそのまま弾き返す。

 弾き返された黄金のKMFは勢いに押され、後退し、距離を開けた。

 

 青いKMF、無窮を駆る少女は、何処までも静かだった。

 その端正な顔に表情を浮かべる事無く、黄金のKMFを見据える。

 

「見た事の無い機体…、新型か……。」

 

 大切な人達の障害を全て切り伏せる剣として、自身の本来の役割を果たす為、少女、アルカ・アングレカムは呟いた。

 

「潰す。」

 

 

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