コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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stage32 少女の在り方

『ア、アルカ…、お前……。』

 

 動揺を隠し切れないルルーシュの声が、無窮のコックピット内に響く。

 まぁ、無理も無いだろう。

 アルカがユーフェミアに撃たれたのが、ほんの数時間前。

 ルルーシュが見舞いに行った時も、容体は安定していたものの、意識を取り戻す気配は無かったのだから。

 

「行って。」

 

 兄の戸惑いに対し、彼女は短くそう呟いた。

 

「私がここで押さえるから。兄上は政庁へ。」

『し、しかし、お前…。傷は……。』

 

 傷の具合を聞かれたアルカは、自身の腹を押さえ、苦笑しつつも、悟られない様振る舞う。

 

「大丈夫。血は止まっているし、痛みも無い。それよりも……。」

 

 目の前の黄金の機体を彼女は見据える。

 ランスロットに似た形状を持つこの機体は、こちらの様子を傍観するばかりで、動く気配は無い。

 

()()()を野放しにしている方が、危険だよ。だから、ここは私に任せて。ね?」

『おい、ルルーシュ。早くしないとブリタニア軍による空爆が始まるぞ。』

 

 アルカとルルーシュの会話に、C.C.が割って入る。

 

『………分かった…。ここは任せよう………。』

 

 渋々と言った様子で、ルルーシュは了承した。

 

『アルカ、無茶した分、後で…。分かっているな?』

「えぇ…、お説教は勘弁……。」

 

 戦場に似つかわしくない会話。

 ただのルルーシュと、アルカの会話。

 それが幾分かの緊張を和らげる。

 式典が始まる数日前から、空気が張り詰めていて日常とは程遠かった為、自然と身体に力が入りっぱなしだったのだろう。

 久しぶりに触れた日常の雰囲気に、アルカは笑みを零す。

 

(ああ…、負けられないな。)

 

 政庁の屋上へ向かって行くガウェインの背中を見送りながら、笑みを浮かべる。

 

『……もう、いいのか?』

 

 その時、タイミングを見計らった様に、黄金のKMFのパイロット、ノネット・エニアグラムが話しかけてきた。

 

『ええ。それにしても意外ですね、ゼロを見逃すなんて。』

『ふっ…何、優先順位の話さ。私からすれば、戦場における脅威度はゼロよりお前の方が上だからね。』

 

 無窮のパイロットがアルカであっても、そうでなくても。無窮のパイロットには、一人で戦況を覆すほどの実力と覚悟がある、とノネットは考えている。

 ゼロがスザクに手を焼いていた様に、そういう手合いは実に危険だ。

 司令塔が居なくとも、自身の判断で戦闘が続行可能、尚且つ勝利を掴む為の実力が付随している。

 チョウフで一戦交えた経験と、今までの戦闘データから、ノネットは、無窮のパイロットはそういう人種だと判断した。

 

「そりゃ、どうも……!!」

 

 先に動いたのはアルカだった、最大出力で後ろに回り、コックピットに向かって太刀を振り下ろす。

 

「ああ、やはり。お前ならこうするだろうよ!」

 

 それを読んでいたのか、すかさず振り向き、その太刀をMVSで受け止める。

 

(早い……。サザーランドと比べ物にならないくらい…。それに、出力も違い過ぎる。)

 

 サザーランドだったら悲鳴を上げていたであろう動きにも問題無く付いていき、無窮の太刀も危うげなく受け止める。

 

(間違いなくこのKMF……、無窮と同等のスペックを持っている……。)

 

 押しきれそうに無い。そう判断したアルカは、空いているもう一本の太刀を、今度は脚部に目掛けて、一閃――――。

 しかしそれも、もう一本のMVSで受け止められた。

 

(クソっ……。)

 

 決めきれなかった焦りか、腹から滲み湧く痛みか、アルカは苦悶の表情を浮かべながら、無窮を後退させる。

 

「ああ、今の、攻防だけで、これか……、情けない。」

 

 腹に手を当て、痛みに耐える。

 鈍い痛みと熱が、全身を蝕み、思考が絡め取られる。

 

『凄まじいだろう?サザーランドとは訳が違う。』

 

 とその時、ノネットが言葉を紡ぎだした。

 

『ランスロットを元とした量産型KMF。ヴィンセント、というらしい。あいつの活躍が評価された、という事だろう。』

 

 らしくない、とアルカは思った。

 今の状況、間違いなく詰められれば対応出来なかった。

 絶好の好機だというのに、彼女はそれをしなかった。

 

『随分とお喋り、ですね…。らしくもない……。』

『ん、ああ……。昔を思い出したんだよ……!』

 

 黄金のKMF――、ヴィンセントが距離を詰める。

 二本のMVSの柄を繋ぎ、バトンの様にクルクルと回しながら。

 

 まるで踊る様にMVSを回転させながら、無窮に切り掛かる。

 一つ刃をいなしても、もう一方の刃が、すぐさま襲う。

 二つの刃を搔い潜れば、次に待つのはスラッシュハーケンか、別の軌道からの一筋。

 

(……やりにくい…!)

 

 アルカは防戦一方だった。

 二つの致死の刃を受け流しながら、反撃の機会を伺う。

 振り下ろされるMVSを、二本の太刀で受け止め、そのまま弾き返す。

 ヴィンセントの手から離れたMVSは、クルクルと円を描きながら、宙を舞う。

 反撃の絶好の機会かと思えた、しかし―――。 

 

『ほぉら、どうした?こちらがお留守だぞ。』

「!!」

 

 それを許す程、ノネットは甘くない。

 ヴィンセントの腕を折り曲げ、吐出した肘を無窮に押し付けようとする。

 それを右手の太刀で受け止めようとする、が。

 

 太刀は音を立てて折れた。

 KMFの鎧をも切断し、MVSとも渡り合った太刀が、こうも簡単に。

 

 ニードルブレイザー。

 新型であるヴィンセントに標準搭載された新武装。

 両肘部分にブレイズルミナスを展開させる機構があり、それを収束させる事で、防御装置であったブレイズルミナスを、打突武装として変換させたもの。

 ノネットが乗るヴィンセントは試作機であり、ブレイズルミナスを展開させるまでに至っていないが、武器としての利用は可能らしい。

 

「ク、ソ……!」

 

 何度目か分からない悪態を付きながら、アルカは宙を舞っている折れた刀身をヴィンセント目掛けて蹴り飛ばす。

 

『器用なやつだな!!』

 

 至近距離からの反撃。

 さすがのノネットも反応しきれず、そのままヴィンセントの肩に突き刺さる。

 

 その間に距離を取ったアルカは、身体を震わせながら、痛みに耐える。

 

「…がッ、……ごほっ…、っ……!」

 

 湧き上がる痛みに耐えきれず、口に手を当て、咳込むアルカ。

 咳が収まり、手を放すと、そこには赤い血がベットリと付着していた。

 気づけば、自身のパイロットスーツも傷口の部分が赤黒く染まっている。

 

(そろそろっ、限界…か。)

 

 額に汗を浮かべながら、ヴィンセントを見据える。

 

(もう左腕は使えん、か。)

 

 狙ったのか、たまたまなのか。

 恐らくは前者だろうが、無窮が蹴り飛ばした破片は、ヴィンセントの肩の駆動部分に見事に突き刺さり、機能しなくなっていた。

 対する無窮は、武器が一つ減ったものの、五体満足。

 

((次で終わらせる。))

 

 宙に舞っていたMVSを取り、無窮に向かって翔けるヴィンセント。

 

「そう安々と、何度も接近を許すと思っているんですか!!」

 

 無窮に装備されている飛翔滑走翼の上部、そこのハッチが開いた。

 そこには無数のミサイル。

 その全てが、向かってくるヴィンセントに向かって射出された。

 

 追尾式小型ミサイル。

 無窮の、というよりは飛翔滑走翼に搭載された、遠距離武装。

 

「そんなものまで隠し持っていたとはな!…だがっ!!」

 

 それでノネットを倒せる程、ナイトオブラウインズは甘くない。

 ミサイルはヴィンセントに捉える事は無く、全て後ろのビルへと着弾した。

 激しい音を立てて、ビルは無窮とノネットの方へ倒れていく。

 

 倒壊に巻き込まれては、流石のKMFも人溜まり無い。

 両者は倒壊するビルを挟む様に、位置を変え、視界が晴れるのを待つ。

 

 お互いのKMFに遠距離武装が無いと判断した為だろう。

 そして、その判断こそが間違いだった。

 

 倒壊するビルを挟んで対峙するというこの構図に、アルカは口角を上げる。

 太刀を逆手に持ち替えて、投擲態勢に移行する。

 

 狙うのは、倒壊するビルの残骸の、僅かな隙間。

 瓦礫の隙間とヴィンセントが重なる、ほんの一瞬。

 

「………。ここっ!!」

 

 太刀は無窮の手を離れ、ヴィンセントに向かって投擲された。

 空気を切り裂く程の速度を保ちながら、瓦礫の隙間を掻い潜っていく。

 

 ノネットが気付いたのは、投擲されてから数秒後の事だった。

 しかし、もう、太刀は無窮の手を離れている。

 鋭い刃が、ヴィンセントに向かってきている。

 

「しまっ――――。」

 

 凶刃は腹部を貫き、ヴィンセントは完全に沈黙した。

 

 

◇◇◇

 

 万能と謳われた少女が居た。

 

 

 皇歴2009年。

 ナイトオブナインに着任して、数年経ったある日、ノネットは噂を耳にした。

 

「万能?」

 

 皇族の末端に、万能と言われる少女が居ると。

 聞けば、筆を取れば聡明さを周囲に見せつけ。剣を取れば悉く障害を打ち払う。そんな少女。

 ノネットも話は聞いていた、非情に優秀な皇族が居ると。

 だが、その様な呼ばれ方をしているという事は知らなった。

 

「ええ、マリアンヌ様の家の次女なのですが、最近シュナイゼル兄様も目を張るほど、頭角を現していまして。卿も――、ノネットさんもどうかと。」

 

 目の前の少女、コーネリアは嬉しそうに語る。

 シュナイゼルが、と建前を付けているが、その実、コーネリアのお気に入りという事が目に見えて分かる。

 

「ああ、殿下が良くヴィ家に足を運んでいるのは知っていましたが、目的はマリアンヌ様のお子様でしたか。」

「ふふ、まぁそれもあります。」

 

 コーネリアは柔らかく笑みを浮かべる。

 本当に目に掛けているのだろう。マリアンヌ王妃の子ども、というのもあるが、騎士として優秀な義妹が居る事が。

 

 数ある皇族の中でも、やはり優秀な者と、そうでない者が居る。

 シュナイゼルは特にその部類だろう。次期皇帝に一番近いとまで言われているのだ。まさにその体現である。

 ノネットの個人的な見解をしてはルルーシュ、クロヴィス、ユーフェミアもその部類に入るだろう。コーネリアについては最早言うまでもない。

 

 しかし、ルルーシュとシュナイゼルは指揮官として、クロヴィスは芸術面、ユーフェミアは民を導く象徴として。

 それぞれが輝かんばかりの才能を持っているが、コーネリアの様に、騎士として優秀な皇族は殆ど居ない。

 

 ある種の孤独感を覚えていたのだろう。そこに剣をとっても非凡性を発揮する義妹が現れたのだ、無理も無い。

 

「それで?どう、とは?」

「丁度今の時間、その子は他の貴族と訓練をしていまして、見に行ってみませんか?」

 

 聞けば、その万能の少女――、アルカ・ヴィ・ブリタニアは次期皇帝争いには参加せず、騎士の道を歩むらしい。

 そこでノネットが、帝国最強の騎士の一角として、少女の訓練を見てあげて欲しいとの事だった。

 相変わらずの身内に対する面倒見の良さに微笑ましさを覚える。 

 

「…うん、そうだな。折角の休みだ。後輩に付き合うのも悪くない。」

 

 ノネットは口調を幾分か柔らかくし、そう呟いた。

 

「ふふ、アルカもきっと喜びます。」

 

 ・

 ・

 ・

 

 驚く程、その少女は麗しかった。

 神に愛されているのではないか、と思わず錯覚する程、彼女の容姿は整っていた。

 

 ノネットとコーネリアは、訓練の様子を少し遠くから眺める。

 少女の相手は、歳にして倍はあるだろう貴族の少年。

 

 誰が見ても、少女が勝てる未来など想像出来ないだろう。

 もしかしたら一種のいじめとも捉えられるかもしれない。

 

 それでも、この場に居る全員、少女の事を軽く見る様な真似はしなかった。

 対峙する少年の後ろには、少女に打ち負けたであろう、同年代の貴族達が座り込んでいた。

 少女の後ろには、勝ちを確信しているかの様に、微笑むマリアンヌが居た。

 

 少年は模造刀を、少女に振り下ろす。

 少女はそれを最低限の動きで躱し、そのまま少年の鳩尾に肘を入れる。

 

 別に少年が弱い訳では無い。むしろ良い線を行っている。伝統を重んじる貴族らしく、正しい型で、マニュアル通りの忠実な動き。故に、読みやすい。

 対する少女はどうだろう。

 急所を当てられ、悶絶する少年の目に向かって土を蹴り上げ、視界を奪う。すかさず顎に向かって、一閃――、模造刀を叩き込んだ。

 顎を強打され、倒れ伏した少年の首に、模造刀の切っ先を向ける。

 

「終わりです。」

 

 少女の凛とした声だけが響いた。

 それ以降、少女は何も言わぬまま、身を翻して、自身の母の元へと向かう。

 そんな時だった、後ろの少年達が声を上げたのは。

 

 卑怯者。

 正々堂々戦え。

 騎士の恥。

 魔女。

 

 思いつく限りの罵倒や非難の声が少女に浴びせられる。

 後ろの少年達も同じ様にやられたのだろう。

 

 見るに、少年達の戦い方は伝統を重んじた騎士そのもの。

 伝統を重視しすぎるのは、貴族の出の子ども達に多い傾向だ。

 それも仕方無いことだろう。少女程では無いが、少年達もまだ子ども。貴族という立場そのものが、彼らのプライドなのだから。

 

 対する少女の戦い方は、無法者、つまりはルール無用の戦場を想定した戦い方だった。

 使えるモノは何でも利用し、敵の排除だけを重視した戦い方。

 平民の出のマリアンヌらしいと言うべきか、それとも少女に元から備わった資質か。

 

 実際の戦場に置いて、どちらが理にかなっているかは言うまでもない。

 少年達も、実際に戦場に出れば分かるだろう。

 理想だけでは世界は動かない、と。

 

 後ろからの罵倒や非難に、少女は足を止め、振り向く。

 

 その顔に、表情は無かった。

 その顔は、何処までも機械的だった。

 その顔は、人形の様だった。

 

「戦場でも同じ事が言えますか。」

 

 ただ一言、その一言だけを言い放ち、再び歩を進めた。

 先程まで、わめき散らかしていた少年たちは、返す言葉が無いのか、嘘の様に静かになり、それ以降は口を開かなかった。

 

「あれが、アルカ・ヴィ・ブリタニアです、どうです?面白いやつでしょう?」

 

 コーネリアは誇らしげにそう語る。

 

 少女はマリアンヌから何かを言われている様だった。

 俯く少女の顔には先程まで無かった、寂しさと悲しさ、そういった表情が浮かんでいた。

 

 ああ、とノネットは納得した。

 褒められたかったのだな、と。

 

 しかし、あの感じを見るに、マリアンヌが掛けた言葉は、アドバイスともほど遠いダメ出しの類だろう。

 

「マリアンヌ様はやはり厳しいお方ですね…、あれではまたアルカが泣いてしまう。しかし、これも彼女の事を思っての事なのでしょう。」

 

 また、という事は、今まで何度も見てきた光景なのだろう。

 

 確かにマリアンヌの指導は厳しい。

 ノネットも受けた事があるからそう言えるのだが、自身でも思わずそう感じてしまうほどスパルタだったし、騎士の頂点のビスマルクすら、コテンパンにされていた。

 しかし、それは自分達、大人に向けているから良いのであって、5にも満たない幼子に向けるものでは無い。

 

 ノネットは理解した、少女の万能性は先天的なものでは無く、たゆまぬ努力の成果なのだと。

 それと同時に、情も湧いた。

 少しの同情と、言葉では言い表せない庇護欲。

 

 それは、マリアンヌからある提案をされる、少し前の出来事だった。




この時期にヴィンセントが開発されているかは分かりません。
が、アニメ二期の初っ端から登場していたので、試作機位は造って良そうだな、という事で登場。
あしからず。
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