皆様に感謝!!!!!
きゃほー!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「最後の一撃…、あれは肝を冷やしたぞ。」
座り込むノネットの傍らには、もう使い物にならない程、大破したヴィンセント。
そんな彼女達の前に、1人の少女が立っていた。
出血する腹を片手で押さえ、生気を感じられない程、肌を青白くしている少女。
「その割には、元気そうじゃない、ですか……。」
「いやぁ、誰かさんがコックピットを狙わず、ドライブを狙ってくれたお陰だなぁ!」
無窮が投擲した太刀、確かに勝負を決める決定打だった。しかし、命を奪うものでは無い。
ヴィンセントに採用された動力部、ユグドラシルドライブを貫いたのだ。
「さぁ、何のこと、やら…。私はより、確実な方を選択した、だけ。」
「ふ…、まぁそういう事にしといてやろう。」
ノネットは笑みを浮かべ、少女を見据える。
「よくも、まぁ、そこまで綺麗に成長したものだ。なぁ、アルカよ。」
「何ですか、それ…。皮肉……?」
今のアルカはお世辞にも綺麗とは言い難い。
腹部からは血が垂れ、淡いミルク色の髪は汚れ、その端正な顔も血と汗でベッタリだ。
そんな彼女を懐かしむ様に眺めつつ、ノネットは口を開く。
「そうでは無い。今の姿を持ってして、美しいと言っているのだ。お前は昔から、ドレスに身を包まれている姿よりも、泥臭く汚れている姿の方が私には綺麗に見えたよ。」
「……はは、何、それ………。全然、嬉しくない…。」
苦悶の表情を浮かべながらも、その顔は何処か安らかで――。
アルカはノネットの傍に座り込む。
「それにしても、そんな状態で私と戦い、勝ったのか。私も腕が鈍ったかな。それとも―――。」
「私が、強くなった…か………。残念ですけど、どちらも、違う…。」
対照的な二人だった。
一方の少女は、戦いには勝ったものの、満身創痍。
一方の女性は、戦いには敗れたものの、五体満足。
この場で取り押さえようとすれば、アルカは何の抵抗も出来ず、ブリタニア軍に身柄を確保されるだろう。
しかし、ノネットはそうしようとはしなかった。
――――完全に戦意を失っている様だった。
「手を、抜きました、ね…?」
アルカの言葉にノネットは目を見開く。
アルカとて、不思議に思っていた。
戦場だというのに、敵であるアルカにヴィンセントの情報を教えた事。
間違いなく、攻められれば対応が間に合わなかった場面で、攻めてこなかった事。
要所要所で距離を取り、無窮の様子を伺っていた事。
戦場での行動全てが、アルカの知るナイトオブナインに一致しなかった。
それは、どちらかというと――――。
「ノネットさん、と戦っている、ようでした。」
戦う、というよりは訓練かな。とアルカは呟く。
ノネットがアリエスの離宮に足を運ぶ様になってから、マリアンヌが死ぬまでの一年も満たない時間。
アルカとノネットは定期的に訓練を行っていた。
対人訓練からシュミレーター上でのKMFの訓練。
アルカは言っているのだ、まるでその時の様だった、と。
「ふ…、アッハッハッハ!」
ノネットは思わず、といった様子で笑い声を上げた。
その声は何処までも明るく、戦場に似つかわしくない声だった。
「私がそんな優しい女だと?まさか、いくらお前が相手だろうと、それは無い。お前は私に勝ったんだよ、誇れ。」
「…………。」
アルカは釈然としない様子で、ノネットを見据える。
「いつから、気づいて、いたんですか?」
「いつから、か。それを言うならきっかけはチョウフの時だな。戦い方があまりにも似ていた。」
「よく、憶えていましたね。私の、こと……。」
アルカの言葉に対し、少し寂しそうな笑みを浮かべ、ノネットは口を開く。
「それはそうさ、お前のことなど一度も忘れた事など無い。私の娘になる予定だったのだから、当然だろう?」
「……は?」
その時、世界の時間が止まった様に思えた。
◇◇◇
「私が、あの子の母に、ですか。」
マリアンヌに呼び出されたノネットは、紅茶を口に運びながら、戸惑いを隠せない様子で呟いた。
「そう、アルカの母親。私達って後ろ盾少ないでしょう?あの子も貴女に懐いているし、丁度良いかなって思って。」
平民の出であるマリアンヌの家を支持する貴族は少ない。
それこそマリアンヌの出身母体であるアッシュフォード家か、ゴッドバルト家位だ。
「確かに、私の家も貴族階級ですが…。何も養子に出さなくたって……。後ろ盾が欲しいなら、私が彼女の後ろ盾に………。」
アルカの兄と姉に対する愛情の深さはノネットとて、十分に理解している。
訓練の合間に話すことが殆ど、その2人に関する事なのだから、嫌でも分かる。
騎士を目指すのも、2人を守る為だとか。
それはとても良い心掛けだし、そんな少女の在り方を、ノネットは好いていた。
それを、彼女の源を、母親自ら遠ざけるなんて……。
「あら、それはダメよ、ノネット。あの子を何時までも皇族として、置いておく訳にはいかないの。」
さも、当然の様にマリアンヌは言った。
「貴女は口が堅いから、話すけど、あの子皇族じゃないの。」
「………は?」
頭を叩かれた様な衝撃が、ノネットを襲う。
あまりの驚愕っぷりに手からティーカップが離れ、音を立てて割れた。
「私の子どもである事には変わりないわ。だけど、あの子にはシャルルの血は入っていない。入っているのは日本における王の血。」
「……道理で、次期皇帝の座を……、いや、しかし、だとするなら何故貴女は……!」
皇族でありながら、騎士を目指す。
それは良い。コーネリアの様な在り方だってあるし、何も皇族から騎士になる例が無かった訳でも無い。
しかし、まだ5にも満たない幼子の段階で、皇位継承を諦めると明言するのは前代未聞だったが――。
「色々とあるのよ。色々と。」
マリアンヌの目が細まり、ノネットを見据える。
その目は王妃の目では無かった。戦場で敵を打ち滅ぼす、閃光の目。
聞くな―――。
マリアンヌから発される大きなプレッシャーに、ノネットはそれ以上踏み込む事は出来なかった。
ノネットは落としたティーカップを拾い上げ、口を開く事無く、座り直す。
「あら、流石はノネット。気の使える女はモテるわよ?」
マリアンヌは何も無かったように、聖母の如く笑みを浮かべ、紅茶を啜る。
「ここまで言えば分かるでしょう?このままだと間違いなくあの子は、皇族としての立場を上げる。でも、立場を上げれば上げる程、その土台は揺らいで行く事になる。だったら騎士侯なら?異国の血が入った騎士なんて五万と居るし、ラウンズまで上り詰めれば、異を唱えられるのは皇帝陛下ただ一人。」
「それで、あの子を養子に……。」
別にアルカの事は嫌いではない。寧ろ好きだ。
面倒を見るのも構わない。
何なら、自ら率先して行いたい位だ。
しかし、それ以上に、マリアンヌの手元に彼女が居る事自体が、不安だ。
そうノネットは考える様になっていた。
マリアンヌの姿がぶれる。
何かを企てている様子ではあるものの、その言葉は実に理に叶っていた。自らの娘を安じた母親そのものだった。
歪んでいる。
歪んでいる。
歪んでいる。
その歪さが、ノネットを不安へと駆り立てる。
「そう、あの子の為にも。ね?」
マリアンヌはノネットの手を包み、小首をかしげる。
「定期的に私達に合わせてくれれば、貴女の思う様に育てて構わないから。貴女だって子どもが居ても可笑しくない歳何だし。」
私なんて20の時にルルーシュを産んだのよ。とマリアンヌは胸を張る。
「無理にとは言わないわ。貴女がダメなら他を当たるもの。そうねぇ、ルキアーノの所なんてどうかしら。きっと頼もしく成長するわ。」
それは脅迫に近かった。
それは命令にも等しかった。
「……分かりました。喜んでお受け致します。」
「それは良かったわ!んー、そうねぇ、正式な受け渡しは…、あの子が5歳になったら、でどうかしら?」
そして、アルカの5歳の誕生日を迎える前日、マリアンヌは死亡し、ヴィ家は崩壊した。
◇◇◇
アルカの目が、驚愕で大きく見開かれる。
「それで、貴女は……。」
「ああ。まぁその話が無くとも足は運んでいただろうがな。それ位、私はお前の事を気に入っている。」
スッキリした様な表情を浮かべ、ノネットは続けて口を開く。
「あの時のマリアンヌ王妃には確実に何かがあった。だが私はな、アルカ。それ以上にお前を守ってやりたいと思っていたよ。」
痛みも忘れ、アルカは驚愕を隠せない様子でノネットを見つめる。
「お前、訓練の後のマリアンヌ王妃との会話。あれ、寂しそうにしてたよなぁ。私はあの光景が嫌いだった。私なら褒めるのに、私なら…。そんな事ばっかり考えていたよ。」
「……だからって、今、そんな昔の話をしたところで……!」
その時、政庁の屋上から激しい爆発音が聞こえた。
アルカとノネットは言葉を切り、視線を屋上へと向ける。
「あっちも終わったのだろう。……行け。ゼロはルルーシュ様、何だろう?お前の役割を果たせ。」
ルルーシュ、兄の言葉に咄嗟に反応し、ノネットにギアスを掛けようとする、が。
「そう怖い顔で睨むな、安心しろ、誰にも話したりはせんよ。…それよりも早く行け。お前の戦う理由なのだろう?……それとも、行かないのなら私と本国にでも戻るか?」
そう言い、挑発的な笑みを浮かべながら、ノネットはアルカに手を伸ばす。
この手を取れば、戦場から離れ、エニアグラム家で平穏に暮らすのだろうか。それとも、ブリタニアの騎士として、道を進むのだろうか。
アルカは一瞬考え込んだものの、ノネットの手を振り払った。
「ふざけないで下さい。」
アルカは立ち上がり、ノネットを見下ろす。
その目には確かに覚悟が宿っていた。
「もう道は完全に別れたんです、10年前のあの日から……!私には…、私の戦う理由がある!貴女の手を取ることは出来ない!」
痛みも忘れ、自身の想いを吐き出したアルカは、無窮へと乗り込む。
「…ああ、それでいい。」
ノネットはそんな彼女の行動に、満足気に笑みを浮かべた。
コックピットのハッチを閉める直前、ノネットと少女の視線が交わる。
少女のその汚れた顔は何処までも美しく、何処までも人間的で、ノネットには芸術作品の様に思えた。
視線が交わる中、戦場にそぐわない少女の声が、ノネットに向けられた。
「………さようなら。―――――。」
「っ!!」
アルカが最後に言い残し、無窮を政庁へと向かわせた。
段々と小さくなっていく無窮を、ノネットは目を見開いたまま、見つめる。
しかし、それも一瞬の事、ノネットは再び何時もの様な快活な笑みを浮かべ、口を開いた。
「ああ、それでこそ私の見込んだ少女だ。はっ、実に良い!」
彼女は何処までも、満足気だった。
「ぶれるなよ、アルカ。お前は自身の信じる道を歩めばいい。そしてその先にある世界を私に見せてくれ。」
彼女は何処までも、満足気だった。
「……道は交わらずとも背中を押してやる。」
それが母親というものだろう―――――――。
彼女は何処までも、満足気だった。
私はノネットさんが、大好きです!!