「やはりここだろうな……。」
神根島の遺跡。
その入口にガウェインを着陸させ、ルルーシュは遺跡を見据える。
「何かお前に関係がある場所か?」
ギアスの模様が描かれた扉の様な石碑。
その石碑に反応したルルーシュとアルカのギアス。
誰がどう考えても、ギアスに、そしてC.C.に関係していると考えるだろう。
ギアスを暴走させるまでに使い続けたルルーシュでさえ、ギアスについて知らない事は多い。
目の前の少女が口を開けば、その問題も解決するのだが……。
「ここは知らない。」
予想通りと言うべきか、少女の口から紡がれた言葉は、ルルーシュの疑問を完全に解決するものでは無かった。
「……ふん、他にもあるという事か。」
長いとも短いとも言えない期間だが、ルルーシュはC.C.の事をある程度は理解している。
この口ぶり的に、これ以上聞いても何も喋らないだろう。
「ナナリーを攫ったやつはギアス能力者か?」
「そこまでは分からない。」
彼女の言葉を聞き、ルルーシュは疑いの視線を一瞬向けるものの、すぐに取りやめた。
「本当だ。」
彼女のその瞳に、声音に、彼女の全てに、真実味が帯びていたからだ。
それに彼女は、共犯者である限り、嘘を付かない。
そこだけは、ルルーシュも最初から信用していた。
「信じよう……。少なくとも、我々の共犯関係はまだ続いているのだから。」
一言で済む事に、あれこれと理屈をつけるのは彼の性格故か―――。
C.C.はそんな彼を見て、ほんの少しの笑みを浮かべ、「ありがとう」と呟いた。
その時、遺跡の方から、何かが伸びてくる。
それは地に這う蛇の様にも見えるし、浜辺を覆う波の様にも見えた。
「っ!!」
一早く気付いたのはC.C.だった。いや、彼女でなければ気付けなかった。
「どうした?」
そう疑問を口にした時、もう既にルルーシュの思考は絡めとられていた。
「何!?これは!!」
精神が肉体から切り離される。
全身から力が抜けるような感覚に襲われ、深い海の底に沈んでいく様だった。
「落ち着け……!これは侵入者に対してのトラップ……。作動させた奴が………。」
ナナリーを攫った犯人だ。
そう口にしようとした時、C.C.の表情は悲痛に染まった。
(…開かれ、る………!)
ルルーシュの見ていた光景が、巡るましく変化する。
まず最初に見た光景、そこは戦地だった。
沢山の人々が命を散らし、硝煙の臭いが立ち込める戦場。
そこだけ見れば何も珍しいことでは無い。
現代に置いても、戦争を続けている国だって幾つもあるし、ルルーシュ本人だってこうしてブリタニアと戦っている。
しかし、現代の戦場とはあまりにもかけ離れていた。
戦車や飛行機、歩兵の持つ銃、様々な兵器の形式が古いのだ。
ルルーシュが持ちゆる知識の中で、この兵器の形式が当てはまる時代は約100年前―――、第一次世界大戦。
その硝煙と土埃が充満する戦場で、この場に似つかわしくない1人の少女が居た。
(あれは、C.C.!?いや、しかし……。)
砲撃による爆発から逃れる為、少女は
先程まで少女が居た地上が爆風に晒され、少女へと土の雪崩が降りかかる。
一命を取り留めた、安堵の息を吐くものの、ここは戦場。すぐに次の死が、少女の前に現れる。
「何だお前は!」
それは兵士だった。
何処の国の兵士かは分からない。
だがその兵士の手には銃が握られ、その目は殺意で満ちていた。
ここは戦場だ、兵士がその後に取った行動は咎められるものでは無い。
自分達の領域に、少女とは言え、見知らぬ人間が入り込んだのだ。
当時の誰もが同じ行動を取るだろう。
それが戦争の、戦場のルール。
理不尽なルールが弾丸となって、少女の額を貫いた。
「あっ、あああああああああああ!!!」
少女の絶命と共に、その光景は終わりを告げた。
その後も目まぐるしく視界は変化していく。
火刑に処される少女。
首を切り落とされる少女。
アイアンメイデンに詰められる少女。
民衆に嬲り殺しにされる少女。
全ての光景が、同じ少女だった。
全ての光景が、少女の悲鳴に満ちていた。
「やめろ……、やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ルルーシュの絶叫が響く。
彼は悟った。
これは記憶だ、と。
C.C.が今まで経験してきた、死の記憶。
あまりにも見るに堪えない光景に、ルルーシュは目を背ける、が。
「…な、に……。これは……。」
次に待ち構えていたのは、今までの死に溢れたものでは無かった。
それはとある一室だった。
広めのベットと机、それと部屋の隅に本棚。
なんでもない素朴な部屋だった。
その部屋のベッドの上に、2人の少女が向かい合っていた。
1人は言うまでも無く、先ほどの光景から何度も目撃した少女。
もう1人は―――。
「あれは、アルカ……?」
少女、と呼ぶにはあまりにも幼かった。
淡いミルク色の髪を揺らし、笑みを浮かべながら少女に向き合っている。
目の前の幼いアルカはルルーシュの知る彼女そのものだった。要するに、母であるマリアンヌがまだ生きていた頃の出来事だろう。
「ありがとう。」
それは何でもない、純粋な感謝の言葉だった。
「またね、C.C.!」
それは何でもない、別れの挨拶だった。
「最近C.C.に会える時間が、私の楽しみなんだ!」
それは何でもない、少女の純粋な――――。
そこから先の記憶には、常にアルカが居た。
彼女に言葉を投げかけるアルカは、常に笑顔だった。
その笑顔にも、言葉にも、決して裏は無く。純粋に、少女と過ごす時間を楽しむものだった。
「不老不死?ふふ、なにそれー。」
「私は冗談で言った訳では無いんだがな。」
ケラケラと笑うアルカに、少女は呆れた表情を浮かべながら、笑みを作る。
「まぁいい。もし、もしもだぞ、アルカ。私が本当に不老不死だとしたら、お前はどうする?」
そういう少女の顔は、何処か不安げだった。
そんな少女の様子を気にすること無く、アルカは口を開く。
考える素振りも見せず、即答だった。
「C.C.が死んじゃうその日まで、一緒に居るよ。」
さも当然と語るアルカの言葉に、C.C.は言葉を詰まらせた。
「おい…、人の話を聞いていたか…?不老不死だぞ、死なないんだ。歳をとっても、誰かに撃たれても、決して。私が不老不死である限り、お前の方が先に…。」
「甘い、甘いね、C.C.。」
「は?」
「不老不死がこの世界に本当に存在するだとしたら、なる方法も、逆に殺す方法もある筈なんだよ。この世に説明のつかない事象なんて無い、って兄上も言っていたし。」
それは幼子ながらの夢物語だったのだろう。
「もしなれるのなら、私もなって世界が朽ちるその日まで一緒に居る。もしなれないのなら、殺す手段を見つけてあげる。貴女を殺して、私も死ぬ。」
「……………。」
ああ、勿論。C.C.が生きたいっていうなら殺さないよ!っとアルカは慌てて自身の言葉に補足を入れる。
「そんな事考えちゃうくらい、C.C.と過ごす時間が好きなんだ。私は。」
「そうか。…………そうか。」
視線を外し、C.C.は俯く。
アルカからは見えなかっただろう、その瞳には確かに、濡れていた。
C.C.はアルカに悟られない様、涙を拭い、いつも通りの笑みを浮かべて彼女を見据える。
「ふ…、お前……。将来、重い女になりそうだな。」
「な、なんですと…!?」
それは魔女と少女の、何でもない光景。
この光景以降も、C.C.とアルカの軌跡は続く。
全てが良い事だけでは無かった。時にはアルカが顔を曇らせる出来事もあった。
それでも、何が起きてもアルカはC.C.の傍からは離れなかったし、C.C.もまた同様だった。
アルカの声が、C.C.を呼ぶ声だけが、この場に満ちていった。
「C.C.…、これは、お前の………。」
気づけばルルーシュは何もない世界に居た。
地平線も無く、空も地も無く。
ただただ続く真っ白な世界。
彼のすぐ目の前には、記憶の主、C.C.。
「私には人間としての記憶はもう残っていない。もう亡くしてしまったんだよ、果てる事のない時の流れの中で。」
C.C.はただただ、寂しそうに語る。
「私は独りだった。優しくしてくれた人も、お前の様に契約した者も、最終的には私の手を振り払った。私に憎しみの言葉を投げ掛けながら朽ちていった。本当の意味で、私と共に歩んだ人なんて居なかった。…そう、あいつに出会うまでは……。」
C.C.は笑みを零す。
作った笑みでは無い。本当に、自然と零れた笑みだった。
「分かるだろう?ルルーシュ。あいつは、私の全てなんだ。この長い時間の中で初めて出会った光。マオに私が居た様に、私にとってはアルカが、アルカだけが………。」
「アルカだけでは無いだろう。」
ルルーシュの言葉に、C.C.は目を見開く。
「俺とお前は共犯者。在り方は違えど、俺もお前と共にある。……それに、お前にやるにはアルカはまだ幼過ぎる。兄としてはまだまだ不安が残るからな。」
C.C.の業をアルカ1人に背負わせたく無かったのか、はたまた契約からの義務感なのか。
それはルルーシュ本人にしか分からない。
いや、もしかしたら彼も明確に言語化は出来ないかもしれない。
「ふ……、こんな時によく言う……。……この、シスコンめが。」
暗がりを進む二人の少女を導く様に、少年が加わった。
次に目を開けた時には、現実の光景が広がっていた。
「C.C.、無事か?」
「誰に向かって言っている。」
お互いの安否を確かめるだけの問答。
いつも通りの口調に声音。
しかし、そこには確かに信頼があった。
共犯者としての信頼が。
トラップを掻い潜り、遺跡に意識を向けたその時、後ろから迫る死をC.C.は察知した。
視線を後ろに向けると、ガウェインに向かって伸びてくる一基の巨大なスラッシュハーケン。
「ゼロ、私です!懺悔は今!!!」
そこにはトウキョウ租界で撒いた筈のジェレミアが、KGFが居た。
(間に、合わない――――!)
トラップに気を取られ、気付くのが遅れた。
スラッシュハーケンは、機械の様に正確に、ルルーシュ達の居るコックピットへ向かい、それを貫く――――。
「ぬ……?」
事は無かった。
スラッシュハーケンはガウェインを貫く事無く、ケーブル毎切断された。
『……間に、合った………!!』
少女の苦しそうな声が、コックピット内に響く。
「アルカ!!」
ガウェインをKGFから守る様に、無窮は二機の間に立つ。
『…ああ、良かった……、はっ、ぶ、じ………?こっち、に来る、途中、あいつが、見えた……、飛ばして………、ゴホッ、っ……、ハッ、ハッ………。』
何とか言葉を紡ごうとしているものの、身体が限界なのだろう、トウキョウ租界に居た時よりも、調子が悪そうだ。
『私の、素晴らしき、雪辱!邪魔するお人は!』
ジェレミアの声に呼応するかの様に、KGFの動きは苛烈さを増し、こちらに迫ってくる。
「っ!しつこいやつ!!!」
アルカの状況を考慮すると、このまま戦闘を行うのは得策とは言えない。
そう判断したルルーシュは操縦桿についているボタンを押し、出力を最大まで上げる。
「C.C.!!」
「ああ、分かっている!!!」
ガウェインは一瞬の内に、無窮を庇う様に前へ移動し両肩の砲門を開ける。
ハドロン砲。
全てを破壊する黒閃が、KGFに向かって放たれる。
『姑息!孤立!小癪!』
恨みが強すぎる故か、ガウェインに真っ直ぐ向かっていたジェレミアは反応しきれず、ハドロン砲をまともに正面から受ける。
その衝撃から浮力を失い、KGFは海へと落ちていく。
「…まともに喰らって原型を保っているとはな……。」
感心した様にC.C.は声を漏らす。
『……あの、兵器………、ランスロットと、同じ…、防御装置が、ある…、らしい、から………。』
「それならまだ動ける余力がある、ということか。」
C.C.はしばらく考えるような素振りをした後、再び口を開いた。
「お前達、先に行け。あいつは私が抑える。」
『……しー、つー……?』
「しかし、それでは!!」
アルカとルルーシュの、困惑の声が上がる。
「大丈夫だ。………いや、少し不安だな。」
『……はっ、しー…つー……!!私も、一緒に!!』
力の入らない身体に鞭を打ち、アルカは叫ぶ。
アルカの声に、C.C.は少し寂しそうな表情を浮かべたものの、彼女はそれを否定した。
「駄目だ!……アルカ、お前言っていたじゃないか。兄と姉を守りたい、と。その想いを、私は好ましく思っている。今のお前には、やるべきことがあるだろう?」
『……………!』
「大丈夫さ、
『……わか、った…………。』
最後まで健気な少女の姿に、C.C.は笑みを深くする。
「勝てよ、お前達。自らの過去に……。そして、行動の結果に。」
それは純粋な彼女の願いであった。
◇◇◇
この場を去っていくガウェインを2人は見送る。
彼女は死なない。それは分かっている。
ただ、死なないから、と言って切り捨てる程、2人は非情では無かった。
『……行くか。』
仮面を被ったゼロ=ルルーシュは、自身に横抱きにされている少女に声を掛ける。
「う、うん………。な、なにも、お姫様抱っこ……、じゃなく、ても………。」
弱々しく抗議する少女を気にも留めず、アルカを見つめた。
『そう気にするな。立つのもやっとの状態だろう?…………そうだ、アルカ。』
「……?な、に―――――。」
呼びかけられたアルカは、ゼロの方へ顔を向ける。
そこには無機質な仮面が広がっていた。
しかし、その左目の部分。
その一部分だけ、本来の彼の顔を覗かせ、赤い瞳がアルカを見つめていた。
『―――――――――――――――。』
・
・
・
石碑へと続くトンネルに、2人分の足音が響く。
『大丈夫か?』
「大丈夫です……、だから、先行って……。」
先に行くのは仮面の男。
その足はやや急ぎ気味で、奥に佇む遺跡へと向かっている。
それを追うのはまだ幼い少女。
苦痛に顔を歪めながらも、ゆっくりと足を運んでいる。
少女――、アルカが壇上へと続く階段付近に辿り着いた頃、仮面の男――、ゼロは石碑へと到達した。
『そこで休んでいるんだ。』
機械交じりの、しかし少女を気遣う声が響く。
(目的は俺かアルカか……、C.C.という線もあるが………。)
ゼロは石碑を見上げながら、考える。
自身の妹を攫ったやつの目的は?
現段階の情報量だとどうしても犯人の目的が不鮮明なままだ。
考えるのを止め、ゼロは石碑に触れようとする、が。
「………あっ…。」
一発の銃声と共に、少女が地に膝を付いた。
少女の短い悲鳴と銃声に、ゼロは石碑に向けていた身体を翻す。
そこには血が流れ出る肩を抑えながら、苦痛に顔を歪めているアルカ。
そして、その後ろには。
「ゼロ。」
枢木スザクが居た。
早速のリクエストありがとうございます!
なるべく形にする所存ではあります。
番外編を設けるか……。
さてさて、一期もいよいよ大詰め。
頑張るぞいっ