コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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明日投稿しようとしたら、間違えて今日投稿してしまった。
まぁいいや。


stage36 二人だけの舞台

「ゼロ。」

 

 少年の憎しみが込められた静かな声が木霊する。

 その手に持つ銃は、仮面の男に注がれていた。

 

『ユーフェミアは罪無き日本人を皆殺しにした、君はそんな女を……。』

「便利な力だな、ギアスとは。」

 

 ゼロの言葉を遮り、スザクは確かに口にした。

 ギアス、と。

 

『何……?』

「……!」

 

 知る筈の無い少年から発せられた言葉に、ゼロとアルカは驚愕を露わにする。

 

「自らは影に隠れ、責任は全て他者になすりつける。傲慢にして卑劣。それがお前の……、いや、お前達の本質だ。」

 

 スザクはそう言葉を紡ぎながら、ゼロが佇む壇上へと上がる。

 彼の言葉の矛先はゼロにだけ向けられたものでは無かった。

 階段の手前で痛みに悶えている少女――――、アルカに対しても向けられていた。

 

「…いか、せるか………!」

 

 震える身体を必死に抑えながら、アルカは懐から銃を取り出し、スザクへと向ける。

 しかし、スザクは一瞬の内に振り向き、銃を持つアルカの手に向かって発砲した。

 彼女の手から銃は弾き飛ばされ、取りに行く体力も残っていなおアルカは、ただただ、唇を噛みしめながらスザクを見つめていた。

 

「……君は何で生きているんだろうね。」

『何……?』

 

 スザクの言葉はアルカに向けて放たれていた。

 

「式典会場で僕は君を見た。瀕死の状態で、カレンに抱えられていた。そう、君はユフィと同じ状況だった筈だ。なのに被害者であるユフィは死に、加害者側である君は生き残った。何故、逆では無かった。」

『スザク……、貴様…!!』

「純粋な者だけが哀しみ、卑劣な君達は影で笑う。何時もそうさ、お前達が、ゼロが関わると。」

 

 しかし、とスザクは言葉を続けた。

 

「俺はそんなお前達の世界を、認めない。」

 

 その声音は相も変わらず淡々としていて、静かなものだった。

 しかし、そこには確かに存在していた。怒りが、哀しみが、憎しみが、絶望が。

 

「カレン、君もゼロの正体を知りたくないか?」

 

 ここにもう1人、新たな人物が加わった。

 赤いパイロットスーツに身を包み、スザクを追うような形でこの場に足を踏み入れた少女、紅月カレン。

 

「何を今更……!」

「君にも立ち会う権利がある。」

 

 スザクは躊躇いなく、引き金を引いた。

 放たれた銃弾は、真っ直ぐとゼロの仮面に向かっていき、そしてその仮面を打ち砕いた。

 

 仮面の下から出てきた素顔は、この場に居る全員が、良く知っている人物であった。

 

 その人物はカレンにとって、学友であった。

 その人物はスザクにとって、親友であった。

 その人物はアルカにとって、兄であった。

 

 ルルーシュ・ランペルージ。

 

 

「信じたくは、無かったよ………!」

 

 その顔を見て、スザクは初めて感情を表に出した。

 その表情は哀しみに満ちていて、今にも泣きだしそうだった。

 

 

「何で……!どうして…………!?」

 

 その顔を見て、カレンは驚愕のあまり、その場に座り込んだ。

 最早、銃を構えることも叶わず、その注意はスザクから外された。

 

 

「…お、おにい、ちゃん………?」

 

 その顔を見て、アルカは自身の身体の傷の事も忘れ、呆然としていた。

 その意識はルルーシュに、そして共に過ごしてきた日々の記憶に向けられていた。

 

 

「そうだ、俺がゼロだ。黒の騎士団を率い、神聖ブリタニア帝国に挑み、そして、世界を手に入れる男だ。」

 

 三者三葉の反応を見下ろしながら、ルルーシュは笑みを作り、雄弁と語る。

 

 

 

 世界。

 この男は何を言っているの?

 

 カレンはそう思った。

 日本の為に戦っていると思っていた。

 ブリタニアを憎む気持ちも同じだと思っていた。

 しかし、彼は今、何と言った。

 「世界を手に入れる」

 確かにそう、口にした。

 

 違ったのだ、最初から。

 ゼロ、ルルーシュは、カレン達に手を貸したあの時から。

 決して同じものを見ておらず、同じ意志も持っていなかった。

 言わば、カレンは…、黒の騎士団は彼の野望の為の道具。

 

 その事実に、カレンの覚悟は、ゼロへの忠誠心はブレる。

 

「貴方は私達日本人を利用していたの…?私の事も……。」

「結果的に日本は救われる、文句は無いだろう。」

 

 カレンの疑問にルルーシュは間髪入れずに答えた。

 

 否定して欲しかった。

 仲間と言って欲しかった。

 

 そんなカレンの想いは、当の本人によって一蹴された。

 

「っ…………!」

 

 声にすらならない哀しみが、カレンを支配する。

 少女はまた一つ、絶望を知った。

 

 

 

「な、なんで……、お兄ちゃんが………。」

 

 アルカは困惑の色を隠そうともせず、震える声で言葉を発する。

 

「…………。」

 

 そんな妹に対し、ルルーシュは何も語らない。

 

(ゼロの、正体を知らなかった……?いや、しかし。だとしたら……。)

 

 そう、ここでスザクにとって意外だったのは、ゼロがルルーシュであると、妹のアルカが知らない事だった。

 カレンの絶望に気にも留めなかったスザクは、意識を僅かにアルカへと向ける。

 

(ゼロの正体を知らないにも関わらず、ギアスの事は知っている様子だった……。)

 

 アルカの持ちゆる情報が、事実が、全てがちぐはぐだった。

 歪んでいた。

 

 何故気付かなかった。

 アルカはそう思った。

 

 誰よりも気付ける立場に居た筈だ。

 ゼロの活動と、ルルーシュのスケジュールの一致。

 C.C.の存在。

 そして、ギアス。

 

 いくつも要素はあった、それにも関わらず、今の今まで気づく事が出来なかった。

 

 ナリタでの戦いは?

 神根島で、ユーフェミアとゼロと共に行動していたあの時は?

 そして、マオの襲来の時は?

 

 思い返せば幾つもの、決定的な瞬間があった。

 それなのに。

 

「………うっ……………!」

 

 頭が痛い。

 身体が重い。

 気を抜けばそのまま意識を手放してしまいそうだった。

 

 考えれば考える程、思考は混乱していく。

 ハンマーで殴られたような、鈍い痛みが続き、意識が朦朧とする。

 

 何かが足りない。

 そう、何かが。

 

 頭に靄が掛かっている様だった。

 肝心な部分が、不鮮明だった。

 

 痛みの感覚が、段々と狭くなっていく。

 

「…おにい、ちゃん………。」

 

 最後に見た光景は、壇上で対峙する兄とスザク。

 そこでアルカは意識を失った。

 

 

 

「アルカ……。」

 

 目の前で倒れた少女に、カレンは弱々しく声を掛ける。

 しかし、反応は無い。

 肌は青白く、呼吸も弱々しい。

 死体と錯覚しても可笑しくはない程、アルカは弱っていた。

 

 そんな二人の光景を、壇上に上がったルルーシュとスザクは一瞥する。

 

 二人の少女は舞台から外れた。

 残るは二人の少年。

 終幕に向け、少年達は口を開く。

 

「早く君を逮捕するべきだったよ。」

「気づいていたのか?」

「確信は無かった。だから否定し続けてきた。君を信じたかったから。」

 

 ゼロと初めて言葉を交えたあの時。

 式根島でゼロが発した「分からず屋」という言葉。

 

 ゼロの言動、行動が、スザクの知るルルーシュに似通う所がある、というのは早々に気付いていた。

 しかし、スザクにとってすれば、ルルーシュは大切な親友。

 一縷の望みに掛けたのだ、しかしそれも徒労に終わった。

 

「だけど君は嘘を付いたね。僕とユフィに、ナナリーに……!!」

「ああ、そのナナリーが攫われた。」

「えっ?」

 

 ルルーシュが仮面を取った理由。

 戦う理由。

 それは全て、妹達が平穏に暮らせる世界を創る為。

 アルカはルルーシュと共に歩み、今もこうしてこの場に居る。

 しかし、もう一人の妹、ナナリーは?

 他者の悪意に巻き込まれ、ルルーシュの前から姿を消した。

 どちらが欠けてもダメだった。

 その点だけは、ルルーシュは何処までも強欲であり、人間そのものだった。

 

「スザク、一時休戦といかないか?ナナリーを救うために、手を貸して欲しい。俺とお前、二人一緒なら、出来ない事なんて……。」

 

 学校で言葉を交える何時もの調子で、ルルーシュはスザクに語り掛ける。

 

 それにスザクは我慢ならなかった。

 周りの人間を、自分自身を裏切り続け、他者に罪を擦り続けてきた男が、手を取らないかと誘ってくるのだ。

 スザクは彼の在り方を、認める事は出来なかった。

 

「甘えるな……!」

「っ!!」

「その前に手を組むべきは、ユフィだった!君とユフィが力を合わせれば、世界を……。」

 

 変える事が出来た。

 スザクに言われなくとも、ルルーシュが一番分かっている。

 分かっているからこそ、手を取るつもりだった。

 しかし、それを、世界は許さなかった。

 

「全ては過去、終わった事だ。」

 

 そう、もう過ぎ去ってしまった出来事だ。

 今更そんなたらればを語ったところで、何も変わらない。

 せめてもの贖罪だった。

 自らが起こしてしまったあの事件への。犠牲になったユーフェミアや、日本達への。

 

「過去!?」

 

 ルルーシュの言葉に、スザクは驚愕を露わにする。

 

 この男は今、何と言った。

 あの出来事を、大勢の人間が、ユフィが犠牲になったあの地獄を、そんな簡単な言葉で切り捨てるのか。

 

「お前も父親を殺しているだろう!懺悔など、後でいくらでも出来る!!」

 

 父親を、枢木ゲンブを殺めた事を、スザクはずっと後悔しながら生きてきた。

 自身の命を蔑ろにしてでも、罪を償おうとしていた。

 人間一人を殺めただけでもこれだ。

 しかしどうだ?

 目の前の男はもう既に、数えきれない程の人間をその手で、その口で殺めている。

 あの苦しみを理解していない、この男には、世界は盤上のゲームとしか映っていない。

 

 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い――――!!!!!!

 この男が憎い!

 

「いいや、君には無理だ!」

「何!?」

 

 銃を持つその手に、力が入る。

 スザクの身体は怒りで震えていた。

 射抜かんばかりの鋭い視線が、ルルーシュへ注がれる。

 

「君は、最後の最後で世界を裏切り、世界に裏切られた!君の願いは叶えてはいけない……!」

 

 ルルーシュの願いを、妹達に対する想いを、スザクは好ましく思っていた。

 しかし、その実態は違った。

 この男の願いは、それが行きつく先にあるものは崩壊のみ。

 そんな願いを、誰が認めようというのだろう。

 

「馬鹿め、理想だけで世界が動くものか!」

 

 純粋な願いだけでは何も変わらない。

 ルルーシュは母を失ったあの日、世界は残酷である事を知った。

 だからルルーシュは非情を貫き、人間性を捨てた。

 それに対してアルカは理解を示し、願いを叶える為、共に歩んだ。

 それを当事者でもないスザクに、傍観者であった男に否定された。

 比較的冷静であったルルーシュの頭にも血が昇る。

 

「さあ、撃てるものなら撃ってみろ!この流体サクラダイトをな!」

 

 懐から取り出した小型爆弾を、自身の身体へと取り付ける。

 そう、ルルーシュにとって、人間とは妹達のみ。

 黒の騎士団も、カレンも、ルルーシュ自身すらも、願いを叶える駒に過ぎない。

 

「俺の心臓が止まったら爆発する。お前達もおしまいだ!」

「貴様……!」

「それより取引だ。お前にギアスを教えたのは誰だ?そいつとナナリーは!?」

 

 縋る様な思いで、自身の命を差し出してでも、スザクに問う。

 それほどまでに、ナナリーの存在は、ルルーシュにとって大きいものであった。

 しかし。

 

「ここから先の事は、お前には関係ない!!!」

 

 スザクはそれを一蹴した。

 

「お前の存在が間違っていたんだ!お前は世界から弾き出されたんだ!!」

 

 初めて友達として、自身の存在を認めてくれた男からの否定。

 自身の身を呈してでも、ルルーシュの命を守ろうとしたアルカの想いの否定。

 そして―――。

 

「ナナリーは俺が!!」

 

 妹の隣に居たいというルルーシュの願いの否定。

 

 スザクの放つ言葉の全てが、世界が、ルルーシュと言う個を否定する。

 それにはルルーシュも怒りを露わにした。

 スザクと同様に、その顔は怒りに歪み、殺意に溢れていた。

 

「スザク!!!!!」

「ルルーシュ!!!!」

 

 怒りに支配された二人の少年は、それぞれに銃口を向け―――――。

 二つの乾いた銃声が、洞窟内に木霊した。

 

 

 ルルーシュの放った弾丸は、スザクが身に着けているインカムを掠めた。

 スザクの放った弾丸は、ルルーシュが手に持つ銃を掠めた。

 

 手から伝わる衝撃に、ルルーシュは僅かに後ずさる。

 それをスザクは見逃しはしなかった。

 一瞬の内に距離を詰め、ルルーシュを組み伏せる。

 

「………!ゼロ!!」

 

 思考が現実に引き戻されたカレンは、思わず口にした、己が先導者の名を。

 

「こいつはルルーシュだ!!」

「うっ………。」

 

 スザクの一喝が、再びカレンの動きを止める。

 

「日本人を…、君を利用した男だ!そんな男を守りたいのか、君は!!」

 

 スザクはルルーシュに取り付けられた爆弾を取り外しながら、カレンに問う。

 そこまでの覚悟はあるのか、と。

 

「カ、カレン………。」

 

 取り押さえられているルルーシュは、息を絶え絶えに、彼女の名を呼ぶ。

 

「な、何をしている……、君はゼロの、俺の親衛隊の隊長だろう……。()()を果たせ……、さぁ、早く……!」

「ルルーシュ!君はそうやって、まだ……!!!」

 

 呼びかけられたカレンは、一瞬困惑の色を浮かべた者の、身を翻して走り出す。

 壇上の下で、今もなお意識を失っているアルカを抱え、洞窟を後にする。

 

「フ……。」

 

 そんな彼女を見て、ルルーシュは何処か満足気な笑みを浮かべた。

 

「ゼロ……、君を終わらせる。」

 

 親友を見下ろすスザクの瞳には、何処までも冷たかった。

 

 

 

 ユーフェミアによる大量虐殺によって引き起こされた第一次トウキョウ決戦――――通称、ブラックリベリオンはゼロの捕縛により終息した。

 日本は二度目の敗北を味わい、とりわけ他エリアよりも活発だった反ブリタニア運動も息を潜めた。

 

 その後のエリア11では、日本人を徹底的に排除する選民思想が根強く反映され、日本人達に対する扱いは、クロヴィス生前よりも苛烈さを増した。

 その当時、全ての日本人が地獄を味わい、世界を憎んだ。

 日本は完全に、ブリタニアに屈したのだ。

 

 英雄が復活する、その日まで。

 

 ―――――A・A著書 「帝国の崩壊」第5章より

 




この話で終わらせようと思っていたのに、終わりませんでした。
それも全て、このシーンが死ぬほど好きな私の所為……。

次で一期、終わります。
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