エピローグだからね、仕方ないね。
神根島には、夕日が差していた。
戦地から遠く離れたこの場所で、カレンは浜辺に座り込み、海を眺める。
カレンの隣には少女が眠っていた。
先程よりも、幾分か表情は穏やかだった。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
カレンは考える。
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日が完全に昇った頃、ランスロットは神根島を飛び立ち、それをカレンは目撃していた。
ゼロを、ルルーシュを完全に捕らえたのだろう。容易に想像出来た。
ランスロットが完全に視界から消えたのを確認し、カレンはアルカを連れ、湖へと足を運んだ。
彼女の服を脱がし、傷口を水で濯ぐ。
アルカの身体は酷いものだった。
腹と肩に出来た銃創。
ラクシャータのが施した処置は最早意味が無く、完全に傷口が開いていた。
「……………。」
黙々とカレンは彼女に応急処置を施していく。
素人目にも分かるほど、彼女の応急処置は的確で、手早かった。
「貴女に教えてもらった応急処置が、まさかこんな形で役立つなんてね……。」
そういうカレンの表情は、見るに堪えないほど、やつれていた。
それでも、彼女は手を止めない。
目の前の少女を救うため、自らの役割を果たす為。
日が暮れるまで、カレンは一心不乱に、応急処置を施していった。
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今もなお、目を覚まさないアルカを見つめ、カレンは呟く。
「アルカ、貴女は何の為に戦っていたの…?私達の為?自分自身の為?それとも――――。」
ルルーシュの為?
そう問いかけようとした時、この場にもう1人の人物が加わった。
「全く、守る為とはいえ、無茶をするものでは無いな…。水圧に押しつぶされるなんて二度とごめんだ。」
そう文句を口にしながら向かってくる人物―――、C.C.にカレンは意識を向ける。
そのパイロットスーツと髪は水を含み、身体に張り付いている。
不快感を前面に出しながら、C.C.はカレンの元へと歩を進める。
「C.C.……。」
「何だ、お前も来ていたのか。………ゼロはどうなった?」
「……………彼は、…ルルーシュは………。」
カレンは歯切れ悪く、自身の身体を抱きしめながら呟く。
「そうか…。お前は知ったのだな、全てを。」
僅かに目を伏せながら、C.C.はカレンの横で眠るアルカを横抱きにし、再び歩み始めた。
「何処へ……?」
「いつまでもこうして、黄昏ているつもりか?場所を移すぞ。その方が、ゆっくり話せる。」
◇◇◇
「ここは………。」
目を覚ました時に視界に入ったのは、品のある装飾が施された天井であった。
この天井を、少女は、アルカ・アングレカムは知っている。
「カレンの、家……?」
「気づいたのね。」
すぐ横から声を掛けられ、アルカは身体を起こし、声の主へ視線を向ける。
「カレン……。」
そこにはカレンが居た。
伸縮性のある部屋着に身を包み、落ち着いた様子であった。
「私はどうして、ここに……。」
「……それは―――。」
「おい、カレン。」
アルカの疑問に、カレンは答えようとするも、もう1人の声に遮られ、それは叶わなかった。
「ルルーシュのクレジットカードが止まった。これではピザが頼めない。お前のを寄越せ。」
C.C.だ。
ぶつくさと文句を言いながら、カレンの私室へと入って来る。
「渡す訳無いでしょ!このピザ女!!」
そんな彼女の横暴に、カレンは怒りの声を上げる。
アルカが良く知っている光景だった。
彼女にとっての何でもない日常。
C.C.の横暴にルルーシュが怒り、それを苦笑いしながら眺める自分。
「…お兄ちゃん………。」
ふと、そう口にしていた。
自然と零れた弱々しい声だった。
そんなアルカを見かねて、C.C.はアルカの居るベットへと足を運び、腰掛ける。
「アルカ、傷の具合はどうだ?身体の調子は何とも無いか?」
先程までの横暴な態度からは想像出来ない程優しく、C.C.はアルカの頭を撫でながら問う。
「……傷…………。」
そう呟きながら、自身の身体へと視線を向ける。
ユーフェミアに撃たれた箇所。
石碑でスザクに撃たれた箇所。
行政特区、ギアスの暴走、神根島、ナナリー、スザク、ゼロ、そしてルルーシュ。
傷を見て、様々な光景が、アルカの脳裏に過ぎる。
「…そうだ、ゼロ……、兄上………。」
声を震わしながら、アルカはそう呟き、C.C.に縋り付いた。
その姿は主に捨てられた犬の様に、弱々しいものであった。
「なんで、私、気づかなかったんだろう……。兄上……、C.C.、ゼロの正体は、兄上、だったの………。なんで、どうして………。」
「お前…、何言って……。」
要領の得ない少女の言葉が、部屋に木霊する。
そんなアルカを見て、C.C.は怪訝な表情を浮かべた。
「…いや、待て。そうか、ルルーシュめ。回りくどい事を。」
何かを納得した様にC.C.は独り言をつぶやく。
「落ち着け、アルカ。今戻してやる。」
そう言ってC.C.はアルカの顔に手を沿え、その唇を彼女のものへと近づけ―――。
「…え、え?ちょっと、こんな時に何やってるのよ!しかも女同士で!!」
その距離を零にした。
突然の奇行に、カレンは顔を赤く染めながら、声を上げる。
カレンの困惑を余所に、二人は口づけを続ける。
(………これは……。)
アルカの頭に掛かっていた靄が晴れていく。
抜けていた重要な記憶が、彼女の元へと帰る。
ゼロの正体に関する記憶を、一切忘れろ――――。
洞窟に入る前、確かにそう、ルルーシュに言われた。
その赤く光る瞳を、こちらに向けながら。
タイミングを見計らって、C.C.は唇を離す。
「ハッ…、ハハハ……。そっか、兄上のギアスか…。」
乾いた少女の笑い声だけが、室内に響く。
「…それで、どうして私はここに?」
「私があの場から連れ出したの。ゼロ…、ううん。ルルーシュから役割を果たせ、って言われてね。正直、今でもルルーシュの事は信用していないわ。でも、あいつの貴女に対する気持ちだけは、信じても良いって、そう思えたの。」
開戦を目前に控えた最後のブリーフィング。
カレンはゼロ=ルルーシュにとある任務を任されていた。
それは何が起きようとも、例え、ゼロを見殺しにしてでも、アルカを守る事。
それが、ゼロから与えられた、カレンの役割であった。
それを聞いたアルカは、驚愕を表情に浮かべていたものの、すぐに笑みを作った。
その笑みは少女らしいものでは無く、何処か壊れた人形の様な笑みだった。
「…フフッ、ハ、アハハハハハハ!!」
少女は笑った。
それはまるで喝采の様だった。
その笑みは何処までも皮肉に満ちていて、何処までもルルーシュに似ていた。
「そうなると、私が意識を手放すのも織り込み済みか……。それはそうだよね、意識があったらカレンにギアスを掛けてでも、残ろうとするだろうし。」
流石は兄上、私の事を良く分かってる。と、少女は言葉を続ける。
「ああ…、何が二人を守るだ、何がどんな手を使っても、だ。結局、私は、何も出来ず、守られているだけじゃないか……!!」
少女が本来守るべきだった対象は、もう少女の傍には居ない。
兄も姉も、その姿を少女の前から消した。
「ハハッ、そうだ、まだ私は甘かった。自分自身の責任を、全て兄に任せ、流れに身を任せていた……。ハッ!」
少女は嘲笑う。
自身を、そしてこの世界を。
「ああ、良いよ…。これが世界の選択なら、私はこんな世界、要らない。」
◇◇◇
黒の騎士団は壊滅した。
幹部の殆どは捕らえられ、残る幹部も中華連邦へ亡命。象徴を失った団員達は、その殆どは身を隠し、息を潜めた。
そんな状況の中でも、一部の者はまだ諦めていなかった。
藤堂直属の部下、四聖剣の卜部。
ゼロの懐刀、紅月カレン。
その二人に釣られるようにこの場に参加した複数名の団員。
そして―――――。
「黒の騎士団は、日本は敗北しました。」
その者たちの前で、口を開く一人の少女。
「ブリタニアが強大だから?それとも、ゼロが戦場が離れたから?……いいや、どちらも違う。」
淡いミルク色の髪を靡かせ、彼女は雄弁と言葉を紡ぐ。
「私達に覚悟が足りなかったのです。……世界を相手取る覚悟が。」
誰よりもうら若い少女の声に、異を唱える者は居なかった。
「ブリタニアという国は世界そのもの。そうにも関わらず、あの場に居る誰もが、目の前の勝利を掴む為、必死だった。扇も、藤堂も、私でさえも。それでも、ゼロは違った。」
この空間の支配者は少女だろう。
誰が見てもそう思う程、少女の存在感は圧倒的だった。
「私はあの時、ゼロを追いました。そして見た。彼は確かに、次の勝利を得るために行動していた。目先では無く、誰もが想定していなかった、その次を。」
カリスマ。
10も過ぎたばっかりの少女の言葉に、大人達が耳を傾けているのだ、少女には確かにそれがあった。王としての器が。
「戦うだけなら誰もが出来るでしょう。しかし、世界を見据えながら、次への布石を打ちながら戦える人間など、そうは居ない。」
意を決した様に、少女は叫ぶ。
「私達には、日本には、ゼロが必要です!彼無しでは、世界の破壊は叶わない!」
少女の訴えに、誰もが首を縦に振った。
「今日、この場より。黒の騎士団は、日本は再び、反抗の狼煙を上げる。当面の目標は、ゼロの奪還―――。」
少女――――、アルカは告げた。
「皇アルカの名の下に命じます。その命、私に預けなさい!!」
「「「「承知!!!」」」」
物語は次なるステージへ―――――――――。
ということで、第一期はこれにてお仕舞。
オリキャラとしては割と大人しくしていたアルカちゃん。
まぁ歳が歳だし、いくら強かろうと、頼りになるお兄様が近くに居ればこんな感じっで落ち着くかな、と。
では、また次のお話で。