モチベに繋がるので、ぜひどしどし……
「改めて状況の確認をしよっか。新しく分かった事もあるし。」
バベルタワーの作戦から二日後の正午過ぎ。
アルカ、カレン、C.C.はトウキョウ租界の地図を囲んでいた。
本来は昨日行う筈だったが、アルカが腰痛に襲われ動けなくなった為、今日までもつれ込んだのだ。
その原因を作った魔女はまるで他人事の様に知らん顔。
アルカが寝ている間、C.C.とカレンのいつもの言い争いが絶えなかったという。
閑話休題
「兄上は今、皇帝直属の機密情報局に監視中。本部はアッシュフォード学園の地下。そこのトップは元純血派の騎士、ヴィレッタ・ヌゥ。彼女は一度、兄上のギアスに掛かっているからギアスは効かない。まぁ順当な配役ね。
学園の機報局の監視員は確認できるだけで50名ほど。ヴィレッタを含む教師役が40名以上。生徒役は1名…、偽兄の事ね。その他は外部の業者に偽装していたり、用務員だったり。」
「針を通す穴すら無いって感じだな。窮屈そうだ。」
「C.C.の言う通り、学園中にカメラが設置されていて常に記録されている。現状、兄上との接触はほぼ不可能。
それと、これは昨日分かった事なんだけど。やっぱり私と姉上の記録は消されているみたい。生徒の記憶も、生徒会で撮った写真も綺麗さっぱり。私の変わりは居ないけど、姉上に関しては偽兄にそのまま入れ替わっているみたい。その事から―――。」
「ナナリーの身はブリタニアが確保している可能性が高い、と。」
「わざわざ代わりまで用意しているからね、ほぼ間違いないと思う。私の事に関しては、まぁ、記録を消去される覚えはあるかな。
カレンについては特に何も。シュタットフェルト家のご令嬢で、元生徒会メンバーで、絶賛指名手配中のテロリスト。学園に戻らなかったのは正解ね。」
学園について分かったのはこんなものかな、とアルカは表情を柔らかくして背をソファの背もたれに預ける。
「何処でそんな情報を……。」
口を閉ざしたままアルカの話を聞いていたカレンが口を開く。
「兄上から。昨日メール来た。」
携帯をヒラヒラとカレンに見せながら、アルカは悪戯が成功した子どもの様な笑みを浮かべる。
「携帯、渡しておいたの。兄上が使っているものと全く同じ型番のやつ。学園の状況、どうなってるか知りたくて。」
「でも貴女さっき、常に監視されてるって………。」
「兄上の事だからポケットの中とかで文字打ったんじゃない?」
「……相変わらず器用なやつね…………。」
カレンは何処か呆れた表情を浮かべている。
「それで? ここまで分かって私達に出来る事は?」
「何にもない。監視の穴を掻い潜るのも、自由を手にするのも、全部兄上次第。情けない話だよ、待ってることしか出来ないなんて。」
「ここを出る訳にもいかないものね……。」
歯がゆい気持ちを必死に抑えながら、カレンは弱々しく呟く。
「精々、中華連邦との取引を上手く進めておくしか無いんじゃない?」
アルカはそう言いながらカメラの映像が映し出されているモニターを見る。
そこには廊下を進む二人の男が映し出されていた。
一人は顔に白粉を塗った大宦官、高亥。
もう一方は彼の少し後ろを歩いている長身長髪の武官、黎星刻。
「お出迎えする必要があるな。」
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「碌な歓迎も出来ず、申し訳ございません。」
謝罪を述べながら目の前の中華連邦からの使者に紅茶を出す。
「お口に合うかは分かりませんが。」
「構いません。寧ろあなた方こそ、私達の客人。碌な支援も出来ず………。」
「いえ、こうして匿ってくれるだけでも十分です。それと、バベルタワーの時にお借りした服、ありがとうございました。お返しいたします。」
綺麗に折り畳まれたチャイナ服をアルカは差し出す。
「これは差し上げますよ。この煌びやかな装いは、貴女にこそ相応しい。」
歯の浮く様なセリフを平然と口にしながら、星刻はアルカに微笑みかける。
「ほう、中々分かる男じゃないか。深く入ったソリッド。浮き出る身体のライン。ああ、実に良かった。有り難く貰っておこう。」
「あんたが言うと、厭らしく感じるのは私だけ?」
「………二人は少し黙ってて…………。話が進まないから……。」
二日前の晩の事が脳裏に過ぎる。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。
「えっと。ほ、本題に入りましょうか……。ブリタニアからの要求は?」
頬を赤らめながら、手に変な汗をかきながら、アルカは高亥に問う。
今まで口を開いていた星刻はあくまでも武官。この総領事館の主であり、ブリタニアと交渉しているのは高亥だ。
「変わらず身柄の引き渡しを要求してきていますが遅滞させています。一週間は持つかと。」
「中華連邦政府は何て?」
「今は何も。」
高亥の言葉に星刻はほんの少し顔を曇らせる。
「この事はゼロにも伝えておきます。……それと、これ今回の分です。」
アルカはカレンに目配せをして、彼女はそれに応じ、懐からCDの様な形をした記録媒体を取り出す。
「紅蓮と無窮の戦闘データ……、助かります。」
受け取ったのは高亥の傍で控えていた星刻。
「今回はチョウフ基地での……。」
「ああ、あの藤堂奪還の時の。」
「こんな事をして下さらなくても、助力は惜しまないと申しておりますのに。なぁ、星刻?」
上機嫌な様子で、高亥は星刻に同意を求める。まるでそれが幸せかのように。協力するのが当たり前だと刷り込まれた様に。
「いえ、貰ってばかりでは…。」
「…………。」
星刻は何も答えない。
眉間に少し皺を寄せ、黙ったままディスクを眺めている。
が、それも一瞬の事。すぐに柔和な笑みを浮かべて、再び口を開く。
「そんなに小出しにしなくても、助力は惜しまないと言うのに……。そんなに我々は信用無いですか?」
自嘲気味に、それでいて何処か自信ありげに、星刻は言葉を紡ぐ。
「そんな事……。信用が無かったら、こうして揃いも揃って身を預けません。ただ……。」
「ただ?」
「手数が減るの、嫌いなんです。」
アルカと星刻。お互いがお互いの顔を見据え、笑みを浮かべている中、1人の団員が焦った様子でこの部屋に入ってきた。
「何ですか、騒々しい。」
「た、大変です! 扇さん達が!!」
◇◇◇
カラレスという統率者が居なくなったエリア11のブリタニア軍。
混乱の中、軍を治めたのはコーネリアの騎士、「ギルバード・G・P・ギルフォード」。そして今は亡きダールトン将軍の子ども達、「グラストンナイツ」。
忠義に厚く、騎士としての振る舞いもさることながら、実力も折り紙付き。
国民、そして軍内部からの信頼も非常に厚く、今や誰もが認める総督代理だ。
そんな彼が要求してきたのは、ゼロとの一騎打ち。
捕縛している扇を含む黒の騎士団幹部、その他の団員達。合計256名の公開処刑を明日に決行。
部下を救いたければ、1人で姿を表せ。
そんな彼の声明が発表されたのがつい数時間前。
「どうしよう……。」
カレンが重々しく口を開く。
その顔は何処までも悲痛に満ちていて、見るに堪えない。
「どうする、って言われてもな。公開処刑が行われるのは総領事館の敷地の真ん前。つまりはブリタニアの領土内。国際問題という壁で今まで手を出してこなかったものの、私達が一歩でも踏み出してしまえばそれも無くなる。どうにか出来るのはただ一人、外に居るルルーシュだけだ。」
「ルルーシュからの連絡は?」
「無い。そもそも連絡手段がもう無いよ。」
「渡した携帯はどうしたのよ。」
「携帯の2台持ち何て怪しすぎるでしょ…。兄上には一度連絡したら破棄してって言って渡したから……。」
「八方塞がり、というやつだな。」
C.C.の言葉に何も言い返せず、アルカもカレンも再び口を閉ざす。
空調の音のみが耳に入る静かな部屋。
そんな静寂が続いたのも一瞬の事。
沈黙はすぐに破られた。誰かが声を発した訳でも無い。この空間に新しい人物が加わった訳でも無い。
外から鳴り響いた爆発音。
激しい音が総領事館中に響く。
「!!」
突然のイレギュラーに、三人は顔を引き締めて立ち上がる。
・
・
・
その騒ぎの中心で、1人の男が黒の騎士団員に刀の切っ先を喉元に向けていた。
「黒の騎士団は滅ぶべし!」
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「アオモリを思い出すわね。」
分解された銃を組み立てながら、カレンは口を開く。
「本当、何時も突然。人気者も辛いね。」
「あれよりはマシだろ。全員、服を着ているからな。」
卜部さんが見つけた秘境の温泉。
久しぶりに一息付けると思って一同舞い上がっていたあの日のアオモリ。
まさか全員がお風呂に浸かっている時に、ブリタニア軍の襲撃を受けるなんて思っても無かった。
あの時は焦りに焦った。
皆が服も着ずに荷物を抱え、私は顔にタオルを巻かれてカレンに担がれて。
それを考えると、こうして襲撃が来るのが分かっている今の方が確かにマシに見える。
「高亥にはギアスを掛けたんでしょ? なのにどうして。」
「さぁな。ただ、ここを取られると―――。」
「私達と兄上は、再び離れ離れに…。」
そんな事は許容出来ない。
私はもう、失いたくない。何も、手放したくない。
考えに更けていると、ふとドアが開く音が部屋に響く。
「意外だな、1人で来るとは。」
「中華連邦の総領事は、合衆国日本を承認した筈だけど?」
「その方は亡くなられる予定だ。」
星刻の口から語られる物騒な響きにアルカとカレン、C.C.は驚きの表情を浮かべている。
「それとも黒の騎士団が潰える道を選ぶか。」
「待て! いきなりそんな!!」
カレンは持っていた銃の口を星刻に向ける。
「戦闘データだけじゃ満足出来ませんでした?」
声を荒げるカレンとは対照的に、アルカは静かに、それでいて何処か諦めた様な笑みを浮かべて問う。
「いえ、非常に役に立っています。ただ……。」
「………。」
「私も手札は多い方が好みでしてね。」
アルカとC.C.は顔を見合わせ、お互いの意思を確認する。
「分かった。高亥は私達と戦って、死んだことにすればいい。」
「C.C.……。」
これは単純な話では無い。
高亥の意向に沿えない部下が、武力行使に出た。というようなシンプルな構図では収まらない。
自らの野望、願望を叶える為に。お互いがお互いを最大限利用し合う。
その為なら相手に罪を被せる事も厭わない。
そういう類の政治的な話だ。
「私達は思わぬ引き金を引いたらしいな。高邁なる野望か、俗なる野心か。」
そういうC.C.の言葉を聞きながら、星刻はその端正な顔に笑みを浮かべた。
◇◇◇
翌日 公開処刑当日
「これはどう受け取ったらいいのかしら?」
馴染みのある赤いパイロットスーツを身に着けながら、カレンは疑問を口にする。
昨日の夜、黒の騎士団を襲撃した当の本人が、今はこうして支援を行っている。
「ゼロが現れたら動いてくれていい。」
星刻が用意したのは潤沢な物資に、数機のKMF。
そして、無窮と紅蓮。
「しかも整備済みだなんて、至れり尽くせり。」
「君達は昨日、誠意を見せてくれた。ならばこちらも、そうするべきだろう。」
「我々ならブリタニアに発砲しても知らん顔を決め込めると?」
カレンと星刻の会話を少し離れた場所で聞いていたC.C.が会話に混ざる。
「悪い取引では無い筈だ。」
「武官と聞いていたが、政治も出来る様だな。」
星刻に興味を持ったのか、僅かに口角を上げるC.C.。
「ブリタニアは嫌い。上の老害達はもっと嫌い。その二つを相手取れる私達を最大限利用する。しかも自分の手は汚さずに。高亥に従ってたのは演技でこっちが本心、か。」
カレンと同様に、パイロットスーツに身を包んだアルカが3人に寄る。
「良いじゃないですか、そっちの方がカッコいいですよ。良く似合っている。」
「そういう君は無理をしていないか? 非凡な才能を持っているがまだ若い。こういう事に関わるよりも花を愛でている方が可愛らしい。昨日の2人に揶揄われている姿が年相応で好ましく映ったが。」
「……あれは………、忘れて下さい…………。」
▼
中華連邦総領事館 外縁部
『皆………!』
少し手を伸ばせば届く程の僅かな距離。
総領事館に居るアルカ達はただ眺める事しか出来なかった。
『動くな。ここから出れば、お前も殺されるぞ。』
『分かってる……! でも………!!!』
カレンの気持ちはよく分かる。
目の前に助けたい人が居るのに届かない。
私もよくその屈辱を味わってきた。
それでも私は信じている。
兄上を、ゼロを、ルルーシュを。
今の私達に出来る事は、ただ信じて待つだけ。
「……自在戦闘装甲機部隊は戦闘準備を。ゼロの起こす奇跡を信じましょう。」
・
・
・
ギルフォードの要求通りゼロは一人で現れ、ギルフォードの一騎打ちに応じた。
しかし。
『悪を成して、巨悪を打つ!』
ゼロがそう口にした途端、激しい音を立てて処刑場の足場が崩れた。
それが合図だったのかの様に。
ブラックリベリオンの時と同様、租界の階層構造の分解。
処刑場の位置は総領事館の敷地よりも上に位置している為、そこに居たブリタニア軍、黒の騎士団員達はそのまま雪崩の様に敷地へと滑っていく。
総領事館の敷地、つまりは中華連邦の領土内。
『アルカ! 突入指揮を執れ!!』
「全く、苦手だと言っているのに……! 先導は紅蓮二式、自在戦闘装甲機部隊は紅蓮に続いて! 人質の救出が最優先!」
『了解!!!』
「ここは私達の領土内! この場にいるブリタニア軍は殲滅してください!」
総領事館の敷地内に引きずり込まれたブリタニア軍は素早く態勢を立て直し、迫って来る黒の騎士団を迎え撃とうとする。
しかし。
『撃つな! ここは中華連邦の治外法権区だぞ!』
国際問題という障害が、ブリタニア軍の動きを抑制する。
領土内に堕ちたブリタニア軍は手出しできず、ただ人質が解放されていくのを傍観することしか出来ない。
ギリギリ踏み止まったブリタニアの戦力も、ブリタニア領土内から射撃を行うのみ。その射撃も紅蓮と無窮に阻まれ、意味を成さないものとなっている。
この場にいる誰もが、黒の騎士団の、ゼロの一人勝ちで終わるかと思った矢先、イレギュラーが現れた。
物理法則を無視しながら、いや。無視ししている様に錯覚させながら移動する金色の機体。
ブラックリベリオンの時に初めて戦線に導入された後、量産が正式に決定した次世代機「ヴィンセント」。
立ちはだかる無頼を切り伏せながら、真っ直ぐゼロへと向かっている。
(あれが噂の………。)
バベルタワーの時にも現れ、卜部を始めとする何人かの団員達を殺害したイレギュラー。
話には聞いている。そして手出し無用とも。
(ロロ・ランペルージ。私にとっての偽物の兄か。)
ゼロ=ルルーシュから、つい先程連絡が来ていた。
ヴィンセントは自分が対処するから手を出すな、と。
何か考えがあっての事だろう。
「人質の救出が最優先。イレギュラーは手出し無用です。」
・
・
・
結果的にヴィンセントはあれ以上、私達の邪魔をしなかった。
ヴィンセントの窮地を兄上が身を呈して救い、同じ様に兄上の窮地をヴィンセントが救ったのだ。
そして。
『どうして、僕を……。』
『お前が、弟だから……。』
私に対してのみ、オープンにされたチャンネル。
コックピット内に響く二人の声。
幼さが残る少年の声には、動揺が見える。
対する兄上の声には、諭すような穏やかさが。
『植え付けられた記憶だとしても、あの時間に嘘は無かった。』
畳みかける様に兄上は言葉を紡ぐ。
家族、大切、弟。
しっかりと染み渡る様に、強調して、口説く様に、兄上は言葉を続ける。
その光景はまるで、本当の兄弟の様で。理想の兄の様で。
そして、ひどく歪な形をしていた。
本当はそんな事、思っても無い癖に。
『お前の居場所は、ここにある。』
ロロ・ランペルージ。
記憶を失った兄上の監視役として配置された偽りの家族。私にとっての偽物の兄。
姉上の居場所を奪った男。
「……ああ、気持ち悪い。」
彼と私、今後の事を考えると気が重くなる。
◇◇◇
特一級犯罪者。つまりは黒の騎士団の団員達が解放され、逃げおおせたその日の夜の事。
一人の青年がアッシュフォード学園を眺めていた。
決して懐かしむ様な優しい目では無い。
その眼差しは鋭く、険しかった。
「……ルルーシュ…………。」
枢木スザク。
ブラックリベリオンでの功績で、ナイトオブラウンズまで上り詰めた、元ユーフェミアの騎士。
初のナンバーズ出身者の騎士侯であり、ナンバーズにとっての英雄。同時に裏切り者。
そんな青年が今、アッシュフォード学園の制服を着て、静かに佇んでいた。