『黒の騎士団! 全軍、戦闘準備!』
団員達の元へ、ゼロの指示が飛ぶ。
『地形は高低差が少なく、地理的有利は望めない!』
ゼロは的確に、戦場を分析する。
しかし、それはこの男も同様だった。
「……加えて敵の軍は急ごしらえ。指揮系統はゼロに集中させるしかない。しかし、KMFの性能は敵が勝る。」
ゼロの策を読み、カレンと対等に渡り合い、そして捕縛した男、星刻。
奇しくも2人の男は寸分狂いも無いタイミングで、同じ指示を部下へと伝えていた。
それが意味することは。
『となれば、中華連邦軍の選択肢は―――。』
「神虎を前面に押し立てての――――。」
『「中央突破!」』
それぞれの指揮官の言葉を合図に、両軍が進行を開始する。
中華連邦を先行するのは、陸上戦艦「竜胆」。それに対抗するのは―――。
「星刻!」
『無窮蒼天式!』
凄まじいスピードと共に突っ込んできた無窮の太刀を、神虎のハーケンで受け止める。
「第3竜騎兵隊! 射程ではこちらが勝る! 砲撃しつつ、突進せよ!」
無窮との攻防を繰り広げつつも、星刻は的確に指示を飛ばす。
『敵の指揮官は押さえ! 藤堂! 暁隊と共に、地上の敵を掃討せよ!』
『承知!』
『アルカ! 露払いは藤堂に任せてお前は神虎と!』
『言われなくても……!』
地上に居る藤堂が率いるKMF部隊が、迫って来る大量の鋼髏に向けて砲撃を開始する、が新型である暁にまだ慣れていないのか、その砲撃は当たらず突撃を許してしまう。
「星刻が動けずとも、こちらは無窮を押さえている。ならば後は、兵士の熟練度がモノを言う!」
星刻の部下である恰幅の良い男「洪古」は言う。黒の騎士団の団員達は兵士と呼ぶにはまだ幼過ぎる、と。
その証拠にスペックでは圧倒的に勝っている暁部隊は、陣形を崩され、鋼髏の突破を許してしまう。
「やはり紅蓮が居ないと一歩遅れるか……!」
藤堂が遊撃に周っているものの、カバーしきれない。
「敵艦正面天仁区画を押さえろ! 敵軍左右両翼は無視していい! ……っ!」
無窮からの猛攻を防ぎつつも、部下の動きの把握に努める星刻。
しかし、それを見逃すほど、彼女は甘くない。太刀の鋭い切っ先が神虎のメインモニター…、では無く後ろの飛翔滑走翼に向かって放たれる。
「一撃で仕留めるのでは無く、足止めを優先してきたか!」
その無窮の太刀筋に、常人離れした反応速度で対応した星刻は、顔の横を素通りする太刀をハーケンで巻き取り、無窮の手から取り上げる。
「っ! 器用な奴だな!」
武器を失った無窮は、背中のバインダーを広げ、再び太刀を取り出し、再び斬りかかる。
「余所見が許される相手ではない、か……! しかし!」
星刻は額に汗を搔きながら悪態を吐く。
だが星刻の表情とは裏腹に、状況は中華連邦側に傾きつつあった。
「中央が突破されました!」
オペレーターの一人、水無瀬が状況を報告する。
『敵の本陣は?』
「変わらず正面です!」
『良し…、条件はクリアされた! 右翼千葉軍、左翼朝比奈軍! パターンシグマを適用! 後方射撃に備え、敵軍本体に弾幕を張りつつ、先行部隊を叩け! 神虎をエナジー切れに誘い込み、星刻を押さえればこちらの勝ちだ!』
黒の騎士団の中央部隊を突破した中華連邦は、斑鳩に向けて猛進する。中央部隊は左右に割られ、敵は斑鳩の真正面。この状況をゼロは待っていた。
割られた中央部隊は後ろを塞ぐ様に展開し、斑鳩からは第二の暁部隊。左右からは飛翔滑走翼を装備した航空部隊。神虎はその中央で無窮と交戦中。そして、敵は本陣から離れており、援軍は見込めない。
「増援!? ゼロめ、総力を上げてこちらを潰しに来たか!」
地上を走る鋼髏が、次々と破壊されていく。
一機一機確実に。射程が勝る鋼髏に砲撃されない様に、態々航空部隊を地に降ろし、近接戦闘を持ち掛けてまで。
「そろそろ観念して、捕虜にでもなったら?」
『勝ったつもりか、これで!』
太刀を振り払い、無窮の胸部へ蹴りを入れ、距離を取る。
『この勝負、神虎に気を取られたお前達の負けだ。』
「何を―――。」
その時、黒の騎士団の右翼側の方から爆発音が響く。
「あの方角は…。」
事前に見た中華連邦の地図を脳内で照らし合わせる。確かそう、運河が流れていた筈だ。
答え合わせをするかの様に、黒煙が立ち込める方角から、大量の濁流がこちらに向かって流れ込んでくる。
しかし。
『フフハハハハハハハ…! 運河の決壊がお前の策か、星刻。しかし、事前に水量は減らしておいたんだよ……。』
大量と言っても、KMFの脚部を少し浸す程度。戦闘には問題無い、とゼロを始め誰もがそう考えた。
「……どうやら、ゼロが一枚上手だったようですね。」
『その言葉を聞いて安心したよ。取るに足らない、と考えたな。故に、君達の負けだ。』
「負け惜しみを…!」
『負け惜しみかどうか、君の目で確かめたら良い。』
「………なっ!?」
地上に展開する暁部隊に視線を向けると、ぬかるんだ地面に足を捕らえられているのか、身動きが出来ないまま、銃弾の雨に晒されていた。
『ここは灌漑開拓地でね。癒着による手抜き工事の結果は、流石の君達も知らないだろう?』
「じゃあ、ここで単騎で突撃したのは…。私達を足止めする、為……?」
『我らに勝利をもたらすは、我が国の大地そのもの! 全軍、進行開始!』
星刻の言葉を合図に、後方に控えていた本体が、竜胆ごと移動を始める。
「ゼロ!」
『ああ、分かっている! ……認めよう、星刻。先に貴様を落とすべきだった…!』
枢木スザク並みの武勇と、ゼロにも並ぶ知略。言葉通り、天は星刻に二物を与えたらしい。
『艦首拡散ハドロン重砲、セット!』
星刻にこれ以上進軍させまいと奮闘するアルカの背後で、斑鳩の船首から二つの砲台が展開される。
海から引き上げたガウェインを元にして改造した砲台。
『敵軍両翼に向け、撃て!』
ゼロの号令と共に、二つの太い光線が鋼髏目掛けて放たれる。
「流石だな、ゼロ。まだ手を残しているとは…!」
光線に飲まれ、次々と爆散していく鋼髏。暁隊を囲んでいた鋼髏を8割方殲滅した後、斑鳩は撤退に向けて回頭する。
『藤堂は部隊の救出と、再編成の指揮を執れ! アルカは神虎を足止めしつつ後退! 斑鳩は敵を迂回しつつ、引き付ける! 第4予定地点へ先行せよ!』
後方へと下がる斑鳩を追い、神虎は無窮を振り切る。
『逃がすと思っているのか!』
神虎の胸部が開き、その中から砲門が顔を覗かせる。
天愕覇王荷電粒子重砲。紅蓮の攻撃を真正面から受け止め、相殺した超高火力兵器。
「それをみすみす見過ごすとでも!?」
砲門を構える神虎の後方から、凄まじい弾速で放たれる超電磁式榴散弾銃砲。
『無窮か!』
神虎は身を翻し、照準を向かってくる銃弾へと放つ。
「っ! 一瞬で照準の再設定まで! 本当に嫌になる…! けどっ!」
『ああ、今の一瞬、無駄では無かった! 藤堂!』
「承知!」
ぬかるんだ地面に足を捕らわれていた斬月は、ぬかるみから脱出し、神虎に向けてゲフィオンネットを射出する。
『何、これは…!』
KMFの動力源であるサクラダイトに干渉し、その動きを止めるゲフィオンディスターバーを搭載した兵器。
それが神虎を取り囲み、動きを止める。
「本家ほどの効果は無いけど、今はこれで十分!」
『…あと一歩のところで……!』
あと少し、あと少しで天子の手を取れたというのにも関わらず、結果を急ぎて最後の最後に無窮から意識を外してしまった。
その結果がこれだ。
神虎が身動きを取れない間に、斑鳩はどんどん後退し、藤堂と皇アルカはぬかるんだ地面から部下を救出している。
次第に足を捕らわれたKMFも居なくなり、まばらではあるものの、黒の騎士団のKMFは完全にこの場から姿を消した。
『星刻様! 今すぐ追撃を!』
ゲフィオンネットの効果も切れ、神虎の主導権を取り戻したタイミングで、竜胆で第二の司令塔として指示をしていた香凜から通信が入る。
「……いや、良い。こちらも多くの戦力を失った。」
『しかし……。』
「完全に見失った訳では無い。斑鳩の後退していった方角…、自ずと位置は絞れる。ただちに部隊を再編制。」
星刻は頭に回っていた熱を外へと逃がす。
「部隊編成後、直ちに出撃する。今晩中に決着を付ける!」
広大な中華連邦の大地に沈んでく夕日を眺めながら、星刻は改めて覚悟をその目に宿した。
◇◇◇
天帝八十八陵。
超巨大な岩山を削って作られた、歴代の天子を祀る墓所。
撤退を余儀なくされた黒の騎士団は現在、その聖域とも言える場所に籠城していた。
「本当、何処までも腐っているわね…。」
アルカは苦々しい顔色を浮かべながら、視線の先に映る光景を眺める。
「星刻達だけなら、まだ交渉の余地もあったかもしれませんが…、まさか…。」
アルカの言葉に同意する様に、日向が続いて口を開く。
斑鳩の前方、天帝八十八陵に続く道の中央で、先程も相対した中華連邦軍の大部隊が展開されている。
同じように神虎の部隊を中央に配置し、竜胆を始めとする陸戦兵器の砲門を、その中央に向けていた。
『動くな、と伝えた筈。』
『我らに反旗を翻した者など、許してはおけん。』
容赦無く星刻達に向けられた砲門は、その動きを制限するのに十分すぎる物だった。
一歩でも足を踏み出せば、指を一本でも動かせば、その砲門から弾が飛び出し、部下の命を奪う。
今の星刻達は、大宦官に命を握られているのも当然だった。
「こんな事をしている場合では! それに、天子様を取り戻すのでは無かったのか!?」
陸戦要塞「竜胆」の指令室で、星刻と同じく香凜も同胞に銃を向けられ、身動きが取れずにいた。
「ここまでで、十分。我々には強大な援軍も居るしな。」
大宦官共は媚びるような笑みを絶やすことなく、言葉を紡ぐ。
彼らの居る竜胆の後方、その上空。一機の浮遊艦と三機のKMFが待機していた。
「愚かな! 我が国で他国に…、ブリタニアに支援を頼むなど! それに、あの艦はアヴァロン……。」
星刻の視線の先には、ブリタニアが誇る最新鋭の浮遊航空艦「アヴァロン」と円卓の騎士の名を冠する三機のKMF。
「分かっているのか、大宦官共は! 相手はE.U.の半分を奪い取った男…、第二皇子シュナイゼルだぞ!」
籠城をする黒の騎士団の前に現れたブリタニア軍。その意味は明白で、この場に居る誰もが悟っていた。
「大宦官は私達だけでは無く、星刻までここで抹殺するつもりだな。」
敵は強大、援軍も補給も望めず、退路も交渉の余地も無い。そんな劣勢の状況で、仮面の男「ゼロ」は―――。
『ディートハルト。仕掛けの準備を。』
「な……、ここで、ですか!?」
『全て揃った。最高のステージじゃないか。』
ゼロは豪語する。この状況でも勝ってみせると。奇跡を、起こしてみせると。
「私達も出るぞ。」
指令室の扉のスイッチに手を掛けながら、C.C.はアルカを連れてゼロに声を掛ける。
『…アルカ、C.C.……。』
「「ん?」」
『不利になったら……、脱出しろよ。お前達だけでも…。』
ゼロの物言いに、アルカは何かを言いたそうにしていたが、それをC.C.が制止した。彼女の背後でアルカは不服そうな表情を浮かべながらも、吐き出しそうになった言葉を飲み込む。
「…ふっ。その前に手を打っておけ。」
・
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『あいつ、前に比べて随分と丸くなったじゃないか。』
斑鳩の格納庫。
暁と無窮。二機のKMFに乗り込み、戦闘前の最終チェックをしながら、幹部のみに許されたプライベート通信で彼女達は会話を続ける。
「……兄としては合格、指揮官としては及第点。」
『不服か? 嬉しい癖に。』
「複雑なの。……また私は守られて………。」
あいつの妹である限り、その宿命からは逃れられないぞ、とC.C.は内心で苦笑する。
「まぁいいや。ここで戦果を上げて、嫌でも認めさせてやるんだから。守るのは私だって。」
『果たしてそれが叶うかな? お前は危なっかしいからな。カレンも言っていたぞ、目を離せないって。』
「……、カレンもカレンで。子ども扱いをして! 何回も言っているのに。私は死なないって。」
『………。』
質の悪い冗談だ。
C.C.は内心でそう考えた。
『………ああ、お前と話していたら僅かな緊張も無くなったよ。やはりお前は心地良い。』
「それは良かった。」
C.C.って緊張するの?
アルカの疑問は抱いたが、この場で言葉にすることは無かった。
『さて、行けるか?』
「当然。」
斑鳩のハッチが開く。
眼前に広がるのは雲一つ無い夜空と、それに不釣り合いな大量の軍事兵器。
「無窮蒼天式、出ます!」
『暁直参仕様。出る!』
2人の少女が戦場へと飛び出す。
それぞれ譲れないモノをその胸中に抱いて。