どんな形であれ、反応を頂けるというのはとても嬉しいですね!
『……どうしよう。』
「どうしよう、と言われても……。」
場所は斑鳩内のゼロの私室。
眼前に映し出されたモニターの向こうで、彼女の兄「ルルーシュ」は有り体に言えば、困っていた。
『アッシュフォードにナイトオブラウンズがもう二人…。しかも生徒会に…。スザクだけでも頭が痛いのに…。えぇい、ヴィレッタ! 本当に裏は無いんだな!?』
『少なくとも、機情にはそう伝えられていない、が…。ただのヴァインベルク卿の余興では…?』
『いくら奴らの頭のネジが緩かろうと、相手は皇帝直属の騎士だぞ!? 一般の軍人では知りえない任務があるだろう!? 何か俺を誘い出す策略が……。』
『そういう意味では僕らも皇帝直属だよ? 兄さん……。』
彼女、アルカが口を開かなくとも、会話は進む。
(何? やけに馴染んじゃって…。)
少し不貞腐れながら、アルカは自身のコップに注がれた紅茶を口へと運ぶ。
(少し前まではお互いに睨み合っていた癖に。ヴィレッタも、ロロも。)
彼らの順応性が高いのか、ブリタニアでは無くルルーシュに忠義が生まれたのか。どちらにせよ、ルルーシュの傍に居れない彼女からしたら、面白くない。
『加えて夥しい数の女達との逢瀬の約束…、そして俺が、シャーリーと……。』
『はい、キスさせていただきました。』
『言わなくて良い!』
ルルーシュが不在の時に影武者を務めている佐世子の天然発言に、ルルーシュは再び頭を抱える。
「それで? 困り果てた坊やは妹に泣きつく、と。変わらないな。」
『黙れ魔女!』
『ルルーシュ様、次のデートのお約束まで30分を切りました。場所はクロヴィスランドで――。』
『分かっている!』
佐世子に、ラウンズに振り回されるルルーシュ。
その姿はゼロとしての面影など存在せず、年相応の様にも見えた。
「えっと、デートの約束をした女性の数は何人だっけ?」
『総勢108人、残りは83名でございます。キャンセル待ちは14件で変わらず。』
(水滸伝か。)
アルカは考える、送られたルルーシュのスケジュールを眺めながら。
当面二週間、分刻みでスケジュールを組まれている彼の予定を見て、アルカは思った。
体力が無い兄上に、乗り切れる筈が無い、と。
(中華連邦との会談を欠席する訳にはいかない。だとすると、女の子達には悪いけどデートの約束を……。ん?)
女性の名前が隙間無く書かれている中で、一つ見慣れない言葉に引っ掛かりを覚える。
「この、キューピッドの日、ていうのは?」
『ん、ああ。何時ものイベントだよ。会長の卒業に合わせたモラトリアム。男女で違う色の帽子を被り、それを互いに交換する事で結ばれる、という。』
「じゃあ、そこで相手作っちゃえば?」
『……は?』
「ミレイさんのイベントって事は学校全体での行事でしょ? そこで適当な誰かと交換してしまえば言わば学園公認カップル。他の人達も諦めが付くんじゃない? 108人の相手をするよりも1人の相手した方が楽でしょ。」
アルカの言葉を聞き、やつれていたルルーシュの顔に活気が戻る。
『なるほど。そうか、それで女共と一気に清算を……。よし、それでいこう。作戦名は『ラブ・アタック』。そうと決まれば――アルカ!』
「はい?」
『今すぐエリア11へと渡り、作戦に備えアッシュフォードに潜入。作戦当日は、その機動力で先行し、俺の帽子を―――。』
「えぇ…。」
「とうとうシスコンからも道を踏み外したか。」
『兄さん、流石にそれは…。』
『正直、引いたぞ。』
『ルルーシュ様、それは無いです。』
ルルーシュの提案に、皆一様に難色を示す。
『な、何故だ!? 何処の馬の骨かも分からない奴と交換するよりも、身内の方が安全だろう!? 幸い、アルカは顔も割れておらず、学園の生徒達もアルカ関する記憶は持っていない。これ以上の適任者がいるか!?』
『いや、理屈は分かるが……。』
「傍から見たときの見た目が良くないな。」
『何……? お前達の目は節穴か? これ以上、可愛らしい生き物が居るか!?』
「そういう意味の見た目じゃない! このシスコンめ!」
予想外の出来事と、妹達が絡むと途端に頭が緩くなるルルーシュの姿に頭を痛めながら、珍しくC.C.は声を荒げる。
「兎に角、アルカはダメだ。もっと身近にいる人間にしろ。ヴィレッタで良いだろう。」
『ヴィレッタ…? まぁ…、ヴィレッタでも良いか……。』
『別にお前に対して好意的な気持ちを持っている訳では無いが、その物言いはどうかと思うぞ。』
ルルーシュの後ろでヴィレッタは青筋を浮かべながら口を開く。
『ふむ…、まぁ良い。粗方の作戦概要は決まった。アルカ、C.C.、助言感謝する。後はこちらで上手く立ち回ろう。』
ルルーシュは口早にそう言い、通信を切断した。
過密スケジュールの彼にとって、一分一秒でも惜しいのだろう。
ゼロの私室は途端に静寂に包まれた。
「………なんか、疲れた。」
「あいつ、忙しすぎて頭でもイカれたか?」
はぁ、とため息を吐き、C.C.は隣に座るアルカの膝に頭を乗せる。
アルカもそんなC.C.の行動に慣れた様子で、彼女の髪を掻き分け、頭を撫でる。
「……暇だな。」
「まぁ、やること無いからね。嚮団を探すと言ってもやる事はデータを解析に掛けるだけ。兄上はあの通り動けない―――ひゃっ!」
「こんなに暇だと身体が鈍ってしまうな。太ってきていないか?」
C.C.は彼女のお腹を掴みながら、意地悪く笑みを浮かべる。
「そ、そんなことっ、無い、です…! 私の……か、身体は、一年前から、ぅん、変化、ないんだか……らっ!」
そんな事、C.C.だって百も承知だ。
彼女の事は心身共にC.C.が一番よく分かっている。
これはただの口実。
「何。変化、という物は自分では気付きにくいもの。第三者の目で見て、初めて知る事もある。」
身体を起こし、アルカの小さな両手を片手で拘束し、彼女の着ているパーカーのジッパーに手を掛ける。
「私が、直接、確かめてやろう。」
「え、いや、ちょっと…。まだ、お昼……。」
これはそう。
決戦(キューピッドの日)を控えたルルーシュが知る由も無い前日譚。
斑鳩の一室で繰り広げられる小さな戦い。
その名をラブ・アタック(物理)。
◇◇◇
ルルーシュとの混沌とした作戦会議から数日後。
数日前と変わらず、時間を持て余していたアルカとC.C.はピザを囲み、談笑していた。
「そういえば、ルルーシュは上手く立ち回ったのか?」
ピザを頬張りながらC.C.は思いだしたかの様に呟いた。
「上手くやったみたいだよ。結局、シャーリーさんと帽子を交換したみたい。」
「何だ、結局収まるところに収まったか。でも珍しいな、あいつがプランを変更するなど。」
「女子生徒だけに留まらず、男子生徒、馬、果てにはモルドレッドにまで追われて辿り着いた結果らしいよ。」
「……何故そこにモルドレッドが出てくる?」
「それは私にも分からない…。」
苦笑を浮かべつつ、アルカは当日の様子を話す兄の姿を思い出す。
「色々と慌ただしい一日だったらしいけど。それを語る兄上の表情は嬉しそうだった。」
「……そうか。」
「今度の週末は、シャーリーさんとデートだってさ。」
「呑気なものだな。」
「そうだね。でも、それが終われば―――。」
アルカは僅かに視線を落とし、自身の膝の上に置かれたモニターを見つめる。
そこに映し出されているのは広大な中華連邦の地図と、その中にポツンと赤く光る一つのマーカー。
「もう日常には戻れない。」
そのマーカーが意味する事はただ一つ。
それはC.C.のアルカの古巣であり、ルルーシュが探していたギアス嚮団の本拠地。
最も、アルカにとって古巣と言えるほど良い場所では無かったが。
「中華連邦内のお金の動き、ライフラインの供給量、人と物資の流れ……。その全てをドルイドシステムで分析して、算出したのがこの場所…。ほぼ、確定だろうね。」
「どんな様子だった? 偵察を送ったんだろう?」
「砂漠の中にポツンと遺跡があるだけ。特に見張りは居ないし、人の出入りも殆ど。」
「そうか。そのまま監視を続けておけ。新たに刺客が送り込まれる可能性もあるからな。」
C.C.は先程までピザに伸びていた手を止め、神妙な顔立ちでアルカの目を見つめる。
「……気負うなよ。お前は悪くない。」
「…うん。」
アルカは、目を伏せながら静かに頷き、ティーカップに手を伸ばした。
◇◇◇
雲に覆われ、激しい雨が降り続くトウキョウ租界。
「うん! 観た観た。会長らしいよねぇ。」
先日卒業し、その翌日からニュースアナウンサーとして新たに活動を始めたミレイの姿を思い浮かべ、シャーリーは笑みを零す。
「で、どうしよう? ルーフトップガーデン。―――うん、そう。分かった。じゃあ苗だけ買って帰るね。」
ルルーシュとのデートを週末に控えたシャーリーは、学友との会話に話を咲かせながら歩を進める。
「園芸部の方は――――。」
ふと、シャーリーは足を止め、言葉を詰まらせる。
突然の異常に、手には力が入らなくなり、さしていた傘を地面に落とす。
「あ……、あぁ……。」
電話越しにシャーリーを心配する声がするが、今の彼女にその言葉は届かない。
「そうだ…、思い出した。」
動揺しているのにも関わらず、シャーリーは直ぐに指を通話の終了ボタンに運び、電話を切る。
何故、こういう所だけ機転が効いたのか。それは彼女自身にも分からなかった。
「お父さんを殺したのは…。」
一年前の記憶が、再び蘇る。記憶の底から、蓋が外れた様に溢れてくる。
ゼロの正体、他人を操る特別な力、彼の妹達。
溢れてきた記憶と今の現実の相違に、シャーリーの思考は混乱する。
「ルルーシュ……。」
その名を呟いた彼女の瞳から涙が零れ堕ちた。
◇◇◇
中華連邦領土内に位置する嚮団を名乗る組織の本拠地。
そこを突き止めたコーネリアとノネットは、その施設の中で死亡したとされていた軍人、バトレーと出会う。
ブリタニア軍の上層部が、この組織に肩入れしている事は容易に想像出来ていた二人は、彼に出会うや否や持っている剣を突きつけた。
しかし、その剣を突きつけられたバトレーから零れた言葉は、命乞いや懺悔では無く、安堵と助けを求める声だった。
お会い出来て良かった。助けて欲しい。
彼は確かにそう言った。
これが演技なら相当の役者だが、コーネリアの記憶上、彼はそんなに器用な男では無い。
敵では無いと判断した2人は剣を降ろし、彼の言葉に耳を傾ける。
そして、彼から出た言葉が―――。
「神を殺す? 随分と突拍子の無いことを言い始めたな。皇帝陛下はそこまで傾倒しているのか。」
神殺しに協力してしまった。と彼は言った。
「何かの比喩だとも思いましたが、少なくとも、彼らは本気で信じている様です。」
「おいおい、私の知るブリタニアは、宗教国家でも何でも無いぞ。」
「彼女の言う通りだ。馬鹿馬鹿しい。神など存在する筈が無い。」
ノネットとコーネリアは強い口調でその思想を否定する。
彼女達は元々軍人。近代兵器を用い、戦いによって自身の地位を築き上げてきた最たる存在。そんな彼女らが難色を示すのも無理も無い話だった。
「そうだね。」
そんな彼女たちの会話に割って入る一人の少年の声。
「っ!」
唐突に後ろから聞こえた声に、2人は身を翻し剣を構える。
「背中に翼の生えた女神様とか、長い髭の老人とか。確かに、そんな神様は存在しないね。」
立ち並ぶ柱の陰から現れたのは、精巧な人形の様な金髪の少年。
思わず警戒を解いてしまいそうな幼い風貌。常人であればここで武器を取る選択はしなかったであろう。
「――うっ………。」
少年の額に深くナイフが刺さり、彼は力無くその場に倒れる。
そのナイフを投降したのは、他でも無いノネット・エニアグラム。
「え、エニアグラム卿……。」
「…どんなギアスを使ってくるか分からないからな。少年には悪いが―――。」
「うん、そうだね。正しい判断だよ。」
確実に息絶えたであろう少年の口から、再び言葉が漏れる。
「っ!」
少年……V.V.はゆっくりとその身体を起こし、額に刺さっているナイフを乱雑に抜いた。
抜かれた額からは大量の血が零れ、彼の顔を真っ赤に穢す。
「流石は音に聞こえたシャルルの騎士。僕も兄として誇りが高いよ。」
「…一体どんなトリックだ? 流石の私も、殺しても死なない相手は初めてだぞ……。」
全くの道の存在に、ノネットとコーネリアは冷汗を流し、僅かに後退する。
しかし、それでも彼女達は警戒を辞めない。
何か裏がある筈だ。能力の発動条件は一体何だ。2人は頭を回す。
そんな彼女達を嘲り笑う様に、V.V.は笑みを深くし、再び口を開いた。
「僕らは誓ったんだ。人々を争わせる神なら―――、殺してしまおうって。」
人の歴史の裏に蔓延る嚮団の意志。
それをまだ、彼女達は知らない。
番外編読まれてない方様に、念のため。
ノネットはラウンズを辞任して、コーネリアと共にギアスの尻尾を掴むために旅をしています。
アニメではコーネリアが一人で約一年姿を眩ましてた訳ですが、支援も無く元皇女がたった一人で……ってのは考えづらかったので、ノネットを絡ませました。