コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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TURN14 最後の日常、嚮団の影

『……どうしよう。』

 

「どうしよう、と言われても……。」

 

 

 場所は斑鳩内のゼロの私室。

 眼前に映し出されたモニターの向こうで、彼女の兄「ルルーシュ」は有り体に言えば、困っていた。

 

 

『アッシュフォードにナイトオブラウンズがもう二人…。しかも生徒会に…。スザクだけでも頭が痛いのに…。えぇい、ヴィレッタ! 本当に裏は無いんだな!?』

 

『少なくとも、機情にはそう伝えられていない、が…。ただのヴァインベルク卿の余興では…?』

 

『いくら奴らの頭のネジが緩かろうと、相手は皇帝直属の騎士だぞ!? 一般の軍人では知りえない任務があるだろう!? 何か俺を誘い出す策略が……。』

 

『そういう意味では僕らも皇帝直属だよ? 兄さん……。』

 

 

 彼女、アルカが口を開かなくとも、会話は進む。

 

 

(何? やけに馴染んじゃって…。)

 

 

 少し不貞腐れながら、アルカは自身のコップに注がれた紅茶を口へと運ぶ。

 

 

(少し前まではお互いに睨み合っていた癖に。ヴィレッタも、ロロも。)

 

 

 彼らの順応性が高いのか、ブリタニアでは無くルルーシュに忠義が生まれたのか。どちらにせよ、ルルーシュの傍に居れない彼女からしたら、面白くない。

 

 

『加えて夥しい数の女達との逢瀬の約束…、そして俺が、シャーリーと……。』

 

『はい、キスさせていただきました。』

 

『言わなくて良い!』

 

 

 ルルーシュが不在の時に影武者を務めている佐世子の天然発言に、ルルーシュは再び頭を抱える。

 

 

「それで? 困り果てた坊やは妹に泣きつく、と。変わらないな。」

 

『黙れ魔女!』

 

『ルルーシュ様、次のデートのお約束まで30分を切りました。場所はクロヴィスランドで――。』

 

『分かっている!』

 

 

 佐世子に、ラウンズに振り回されるルルーシュ。

 その姿はゼロとしての面影など存在せず、年相応の様にも見えた。

 

 

「えっと、デートの約束をした女性の数は何人だっけ?」

 

『総勢108人、残りは83名でございます。キャンセル待ちは14件で変わらず。』

 

(水滸伝か。)

 

 

 アルカは考える、送られたルルーシュのスケジュールを眺めながら。

 当面二週間、分刻みでスケジュールを組まれている彼の予定を見て、アルカは思った。

 

 体力が無い兄上に、乗り切れる筈が無い、と。

 

 

(中華連邦との会談を欠席する訳にはいかない。だとすると、女の子達には悪いけどデートの約束を……。ん?)

 

 

 女性の名前が隙間無く書かれている中で、一つ見慣れない言葉に引っ掛かりを覚える。

 

 

「この、キューピッドの日、ていうのは?」

 

『ん、ああ。何時ものイベントだよ。会長の卒業に合わせたモラトリアム。男女で違う色の帽子を被り、それを互いに交換する事で結ばれる、という。』

 

「じゃあ、そこで相手作っちゃえば?」

 

『……は?』

 

「ミレイさんのイベントって事は学校全体での行事でしょ? そこで適当な誰かと交換してしまえば言わば学園公認カップル。他の人達も諦めが付くんじゃない? 108人の相手をするよりも1人の相手した方が楽でしょ。」

 

 

 アルカの言葉を聞き、やつれていたルルーシュの顔に活気が戻る。

 

 

『なるほど。そうか、それで女共と一気に清算を……。よし、それでいこう。作戦名は『ラブ・アタック』。そうと決まれば――アルカ!』

 

「はい?」

 

『今すぐエリア11へと渡り、作戦に備えアッシュフォードに潜入。作戦当日は、その機動力で先行し、俺の帽子を―――。』

 

「えぇ…。」

 

「とうとうシスコンからも道を踏み外したか。」

 

『兄さん、流石にそれは…。』

 

『正直、引いたぞ。』

 

『ルルーシュ様、それは無いです。』

 

 

 ルルーシュの提案に、皆一様に難色を示す。

 

 

『な、何故だ!? 何処の馬の骨かも分からない奴と交換するよりも、身内の方が安全だろう!? 幸い、アルカは顔も割れておらず、学園の生徒達もアルカ関する記憶は持っていない。これ以上の適任者がいるか!?』

 

『いや、理屈は分かるが……。』

 

「傍から見たときの見た目が良くないな。」

 

『何……? お前達の目は節穴か? これ以上、可愛らしい生き物が居るか!?』

 

「そういう意味の見た目じゃない! このシスコンめ!」

 

 

 予想外の出来事と、妹達が絡むと途端に頭が緩くなるルルーシュの姿に頭を痛めながら、珍しくC.C.は声を荒げる。

 

 

「兎に角、アルカはダメだ。もっと身近にいる人間にしろ。ヴィレッタで良いだろう。」

 

『ヴィレッタ…? まぁ…、ヴィレッタでも良いか……。』

 

『別にお前に対して好意的な気持ちを持っている訳では無いが、その物言いはどうかと思うぞ。』

 

 

 ルルーシュの後ろでヴィレッタは青筋を浮かべながら口を開く。

 

 

『ふむ…、まぁ良い。粗方の作戦概要は決まった。アルカ、C.C.、助言感謝する。後はこちらで上手く立ち回ろう。』

 

 

 ルルーシュは口早にそう言い、通信を切断した。

 過密スケジュールの彼にとって、一分一秒でも惜しいのだろう。

 ゼロの私室は途端に静寂に包まれた。

 

 

「………なんか、疲れた。」

 

「あいつ、忙しすぎて頭でもイカれたか?」

 

 

 はぁ、とため息を吐き、C.C.は隣に座るアルカの膝に頭を乗せる。

 アルカもそんなC.C.の行動に慣れた様子で、彼女の髪を掻き分け、頭を撫でる。

 

 

「……暇だな。」

 

「まぁ、やること無いからね。嚮団を探すと言ってもやる事はデータを解析に掛けるだけ。兄上はあの通り動けない―――ひゃっ!」

 

「こんなに暇だと身体が鈍ってしまうな。太ってきていないか?」

 

 

 C.C.は彼女のお腹を掴みながら、意地悪く笑みを浮かべる。

 

 

「そ、そんなことっ、無い、です…! 私の……か、身体は、一年前から、ぅん、変化、ないんだか……らっ!」

 

 

 そんな事、C.C.だって百も承知だ。

 彼女の事は心身共にC.C.が一番よく分かっている。

 これはただの口実。

 

 

「何。変化、という物は自分では気付きにくいもの。第三者の目で見て、初めて知る事もある。」

 

 

 身体を起こし、アルカの小さな両手を片手で拘束し、彼女の着ているパーカーのジッパーに手を掛ける。

 

 

「私が、直接、確かめてやろう。」

 

「え、いや、ちょっと…。まだ、お昼……。」

 

 

 これはそう。

 決戦(キューピッドの日)を控えたルルーシュが知る由も無い前日譚。

 斑鳩の一室で繰り広げられる小さな戦い。

 

 その名をラブ・アタック(物理)。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 ルルーシュとの混沌とした作戦会議から数日後。

 数日前と変わらず、時間を持て余していたアルカとC.C.はピザを囲み、談笑していた。

 

 

「そういえば、ルルーシュは上手く立ち回ったのか?」

 

 

 ピザを頬張りながらC.C.は思いだしたかの様に呟いた。

 

 

「上手くやったみたいだよ。結局、シャーリーさんと帽子を交換したみたい。」

 

「何だ、結局収まるところに収まったか。でも珍しいな、あいつがプランを変更するなど。」

 

「女子生徒だけに留まらず、男子生徒、馬、果てにはモルドレッドにまで追われて辿り着いた結果らしいよ。」

 

「……何故そこにモルドレッドが出てくる?」

 

「それは私にも分からない…。」

 

 

 苦笑を浮かべつつ、アルカは当日の様子を話す兄の姿を思い出す。

 

 

「色々と慌ただしい一日だったらしいけど。それを語る兄上の表情は嬉しそうだった。」

 

「……そうか。」

 

「今度の週末は、シャーリーさんとデートだってさ。」

 

「呑気なものだな。」

 

「そうだね。でも、それが終われば―――。」

 

 

 アルカは僅かに視線を落とし、自身の膝の上に置かれたモニターを見つめる。

 そこに映し出されているのは広大な中華連邦の地図と、その中にポツンと赤く光る一つのマーカー。

 

 

「もう日常には戻れない。」

 

 

 そのマーカーが意味する事はただ一つ。

 それはC.C.のアルカの古巣であり、ルルーシュが探していたギアス嚮団の本拠地。

 最も、アルカにとって古巣と言えるほど良い場所では無かったが。

 

 

「中華連邦内のお金の動き、ライフラインの供給量、人と物資の流れ……。その全てをドルイドシステムで分析して、算出したのがこの場所…。ほぼ、確定だろうね。」

 

「どんな様子だった? 偵察を送ったんだろう?」

 

「砂漠の中にポツンと遺跡があるだけ。特に見張りは居ないし、人の出入りも殆ど。」

 

「そうか。そのまま監視を続けておけ。新たに刺客が送り込まれる可能性もあるからな。」

 

 

 C.C.は先程までピザに伸びていた手を止め、神妙な顔立ちでアルカの目を見つめる。

 

 

「……気負うなよ。お前は悪くない。」

 

「…うん。」

 

 

 アルカは、目を伏せながら静かに頷き、ティーカップに手を伸ばした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 雲に覆われ、激しい雨が降り続くトウキョウ租界。

 

 

「うん! 観た観た。会長らしいよねぇ。」

 

 

 先日卒業し、その翌日からニュースアナウンサーとして新たに活動を始めたミレイの姿を思い浮かべ、シャーリーは笑みを零す。

 

 

「で、どうしよう? ルーフトップガーデン。―――うん、そう。分かった。じゃあ苗だけ買って帰るね。」

 

 

 ルルーシュとのデートを週末に控えたシャーリーは、学友との会話に話を咲かせながら歩を進める。

 

 

「園芸部の方は――――。」

 

 

 ふと、シャーリーは足を止め、言葉を詰まらせる。

 突然の異常に、手には力が入らなくなり、さしていた傘を地面に落とす。

 

 

「あ……、あぁ……。」

 

 

 電話越しにシャーリーを心配する声がするが、今の彼女にその言葉は届かない。

 

 

「そうだ…、思い出した。」

 

 

 動揺しているのにも関わらず、シャーリーは直ぐに指を通話の終了ボタンに運び、電話を切る。

 何故、こういう所だけ機転が効いたのか。それは彼女自身にも分からなかった。

 

 

「お父さんを殺したのは…。」

 

 

 一年前の記憶が、再び蘇る。記憶の底から、蓋が外れた様に溢れてくる。

 ゼロの正体、他人を操る特別な力、彼の妹達。

 溢れてきた記憶と今の現実の相違に、シャーリーの思考は混乱する。

 

 

「ルルーシュ……。」

 

 

 その名を呟いた彼女の瞳から涙が零れ堕ちた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 中華連邦領土内に位置する嚮団を名乗る組織の本拠地。

 そこを突き止めたコーネリアとノネットは、その施設の中で死亡したとされていた軍人、バトレーと出会う。

 ブリタニア軍の上層部が、この組織に肩入れしている事は容易に想像出来ていた二人は、彼に出会うや否や持っている剣を突きつけた。

 しかし、その剣を突きつけられたバトレーから零れた言葉は、命乞いや懺悔では無く、安堵と助けを求める声だった。

 

 

 お会い出来て良かった。助けて欲しい。

 

 

 彼は確かにそう言った。

 これが演技なら相当の役者だが、コーネリアの記憶上、彼はそんなに器用な男では無い。

 敵では無いと判断した2人は剣を降ろし、彼の言葉に耳を傾ける。

 そして、彼から出た言葉が―――。

 

 

「神を殺す? 随分と突拍子の無いことを言い始めたな。皇帝陛下はそこまで傾倒しているのか。」

 

 

 神殺しに協力してしまった。と彼は言った。

 

 

「何かの比喩だとも思いましたが、少なくとも、彼らは本気で信じている様です。」

 

「おいおい、私の知るブリタニアは、宗教国家でも何でも無いぞ。」

 

「彼女の言う通りだ。馬鹿馬鹿しい。神など存在する筈が無い。」

 

 

 ノネットとコーネリアは強い口調でその思想を否定する。

 彼女達は元々軍人。近代兵器を用い、戦いによって自身の地位を築き上げてきた最たる存在。そんな彼女らが難色を示すのも無理も無い話だった。

 

 

「そうだね。」

 

 

 そんな彼女たちの会話に割って入る一人の少年の声。

 

 

「っ!」

 

 

 唐突に後ろから聞こえた声に、2人は身を翻し剣を構える。

 

 

「背中に翼の生えた女神様とか、長い髭の老人とか。確かに、そんな神様は存在しないね。」

 

 

 立ち並ぶ柱の陰から現れたのは、精巧な人形の様な金髪の少年。

 思わず警戒を解いてしまいそうな幼い風貌。常人であればここで武器を取る選択はしなかったであろう。

 

 

「――うっ………。」

 

 

 少年の額に深くナイフが刺さり、彼は力無くその場に倒れる。

 そのナイフを投降したのは、他でも無いノネット・エニアグラム。

 

 

「え、エニアグラム卿……。」

 

「…どんなギアスを使ってくるか分からないからな。少年には悪いが―――。」

 

「うん、そうだね。正しい判断だよ。」

 

 

 確実に息絶えたであろう少年の口から、再び言葉が漏れる。

 

 

「っ!」

 

 

 少年……V.V.はゆっくりとその身体を起こし、額に刺さっているナイフを乱雑に抜いた。

 抜かれた額からは大量の血が零れ、彼の顔を真っ赤に穢す。

 

 

「流石は音に聞こえたシャルルの騎士。僕も兄として誇りが高いよ。」

 

「…一体どんなトリックだ? 流石の私も、殺しても死なない相手は初めてだぞ……。」

 

 

 全くの道の存在に、ノネットとコーネリアは冷汗を流し、僅かに後退する。

 しかし、それでも彼女達は警戒を辞めない。

 何か裏がある筈だ。能力の発動条件は一体何だ。2人は頭を回す。

 

 そんな彼女達を嘲り笑う様に、V.V.は笑みを深くし、再び口を開いた。

 

 

「僕らは誓ったんだ。人々を争わせる神なら―――、殺してしまおうって。」

 

 

 人の歴史の裏に蔓延る嚮団の意志。

 それをまだ、彼女達は知らない。




番外編読まれてない方様に、念のため。

ノネットはラウンズを辞任して、コーネリアと共にギアスの尻尾を掴むために旅をしています。
アニメではコーネリアが一人で約一年姿を眩ましてた訳ですが、支援も無く元皇女がたった一人で……ってのは考えづらかったので、ノネットを絡ませました。
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