コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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TURN15 少女の真実

この世界は嘘にまみれている。

 

 

 シャーリー・フェネットは真実を知った。

 記憶を取り戻したあの日から、周りの人間を信頼することが出来なくなった。

 

 どうして誰も、ロロの存在に違和感を感じないのか。

 どうして誰も、ヴィレッタが教師であることを不思議に思わないのか。

 どうして誰も、ナナリーやアルカの事を憶えていないのか。

 

 どうして。どうして。どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして―――――。

 

 

 全員が嘘吐きの様に見えた。全員が敵に見えた。

 街の住人も。軍人も。先生も。友人すらも。

 

 だから自分で呼び出した筈のスザクと会うのも、最後まで迷っていた。

 

 それでも今日、彼女がこうして足を運んだのは、彼女なりに真実を見極めようとしたのだろう。

 そして―――。

 

 

(ああ、そっか。)

 

 

 彼女はまた一つ、真実を知った。

 

 

 彼女と約束をしていたルルーシュと、たまたま居合わせたスザク。

 シャーリーはその二人に命を救われた。

 

 ビルの屋上から足を踏み外した彼女を、ルルーシュとスザクは身体を張って助けたのだ。

 その時の2人の、ルルーシュの顔を見て、シャーリーの見方は変わった。

 

 重力に引っ張られる彼女の身体を必死に手繰り寄せながら、ルルーシュは言ったのだ。

 

 

 ―――もう、誰も失いたくない、と。

 

 

 二人によって引き上げられた後、会話を交えながらルルーシュとスザクの様子を観察したシャーリーは、確信する。

 

 

(そっか、ルルは1人で戦っているんだね。)

 

 

 親友である筈のスザクとも笑い合わず、誰にも背負っているものを打ち明ける事無く。

 全て一人で背負い込んで。

 

 そう思った瞬間に、シャーリーの世界に対する不信感は、ルルーシュに対する疑惑が、全て晴れた。全てを、許そうと思えた。

 それと同時に、こうも思った。

 独りぼっちのルルーシュに、寄り添ってあげたいと。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 突如訪れた異変。

 現在のイケブクロ駅は、軍によって封鎖されていた。

 唐突に駅構内に立ち込めた白煙。息絶えている数人の警備員。

 

 テロの可能性があるとスザクは言い、彼はシャーリーを警察に預けて駅構内へ消えていった。

 彼女達と先程まで一緒に居たルルーシュとは連絡が取れず、生死が不明。

 

 そんな状況でも、シャーリーは確信していた。

 

 

また一人で戦っているんだ、と。

 

 

 そう思った時、彼女の身体は自然に動いていた。

 自身から視線が外れた隙を狙って、封鎖されている駅へと入り、落ちていた銃を護身用に持って、助けたい一心でルルーシュを探した。独りぼっちのルルーシュを。

 

 人気の無い駅を駆け回り、だだっ広い駅のテナントスペースに踏み入れた時、シャーリーは初めて生きた人間と相対した。

 それは―――。

 

 

「ロロ!」

 

「シャーリーさん!?」

 

 

 ナナリーと入れ替わる様に現れたルルーシュの弟を名乗る少年、ロロ・ランペルージだった。

 今となってはロロは皇帝を裏切り、ルルーシュ側に付いた味方と言える存在だ。

 しかし、シャーリーがそんな事を知っている筈も無い。

 

 だから彼女は確かめる。彼の真意を。

 

 

「ロロ…、貴方はルルが好き?」

 

「……好きだよ、たった一人の兄さんだもの。」

 

 

 予想出来無かったのか、一瞬戸惑いを見せたものの、ロロは神妙な顔持ちで愚直に答える。

 ルルーシュが好きだという彼のその目は、本当の妹であるアルカと同じ目をしていた。

 

 

「そう、貴方はルルの味方なのね…。」

 

 

 シャーリーには、その目だけで十分だった。

 

 

「え?」

 

「……お願い、私も仲間に入れて! 私もルルを守りたいの!」

 

 

 彼女は自身の胸中を叫ぶ。

 真実を知る者として、彼の傍に寄り添い、支えたいと。

 

 

「…っ………。」

 

 

 必死に、敵では無く味方だという事を、ロロに訴えることに意識を置いていた彼女は気づかなかった。

 僅かにロロの目つきが鋭くなったことに。

 

 

「取り戻してあげたいの! ルルの幸せを! 妹のナナちゃんだって、一緒に――――。」

 

 

 その名を口にした途端、シャーリーの時は文字通り止まった。

 

 

「………。」

 

 

 絶対停止のギアス。

 V.V.と契約したロロが所有する、範囲内の人間の体感時間を止めるという能力を持つ力。

 効果発動中は自身の心臓が止まってしまうというデメリットを持つが、幼少期より人を殺して生きてきた彼にとって、一般人であるシャーリーを仕留める事など容易い。

 

 ロロは胸からナイフを取り出し、ゆっくりと近付く。

 

 

(どいつもこいつもナナリーとばかり…。僕の居場所を奪おうとする奴は、全員敵だ!)

 

 

 ロロはシャーリーの首元にナイフを突きつける。

 その凶刃はシャーリーの喉元へと勢い良く向かい―――――。

 

 

 

 

 シャーリーとロロが対峙している同時刻。

 嚮団からの刺客であるジェレミア・ゴッドバルトはルルーシュに手も足も出せなかった。

 

 

「…やはりその性能、やはりサクラダイトを使っていたな。」

 

「げ、ゲフィオン…、ディス、ター…バー………!」

 

 

 嚮団によって改造され、文字通りの鋼鉄の身体と全てのギアス能力を破壊するギアスキャンセラーを手に入れた彼にとって、生身のルルーシュは敵ではない筈だった。

 しかし、今こうして彼は劣勢に立たされている。駅に停まる電車に仕込まれた兵器によって。

 

 

「サクラダイトに干渉するこのシステムが完成すれば、環状線内に存在するトウキョウ租界の都市機能が全て停止する。……ありがとう、君は良いテストケースになった。」

 

 

 強靭な肉体を持っていようと、ギアスに対して耐性があろうと、動くことが出来なければマネキンに等しい。

 価値を確信したルルーシュは、雄弁に語る。

 

 

「さぁ、話して貰おうか。嚮団の目的を、V.V.の正体を!」

 

 

 ジェレミアの敗因はただ一つ、運が無かったこと。

 ルルーシュを襲撃した場所がここで無ければ、ゲフィオンディスターバーの近くで無ければ、彼は問題無く目的を果たせたかもしれない。

 

 

「…話すのは……、そちらの、方だ……!」

 

 

 しかし、運が無かったという理由だけで、彼は止まらない。

 意志が届かない身体を、執念だけで動かし、一歩、また一歩とルルーシュの元へ歩を進める。

 

 

「何?」

 

「私には理由がある…。忠義を貫く、覚悟が…。確かめなければならない、真実が!」

 

「…馬鹿な……、動ける筈が無い!」

 

 

 ジェレミアは進む。

 どれだけ身体が悲鳴を上げようと、どれだけ苦しかろうと。その想いだけで。

 

 

「ルルーシュ…、何故お前は、ゼロを、演じ……、祖国ブリタニアを、実の父親を敵に回す? 自らの、妹までも巻き込んで…!」

 

「―――俺が…、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだからだ!」

 

「!」

 

 

 ジェレミアの執念に圧されつつも、ルルーシュは力強く口を開く。

 決して曲げる事の無い、自身の戦う理由。

 

 

「俺の父、ブリタニア皇帝は…、母さんを見殺しにした! その為にナナリーは目と足を奪われ…、アルカはその未来までも……!」

 

 

 ルルーシュの根底に根付く絶望。

 彼の原動力。

 全ての始まり。

 その事を頭に浮かべ、唇を強く噛みしめながら、ルルーシュは激しい怒りをあらわにする。

 

 

「……知っています。私もあそこにおりましたから……。」

 

「っ! 母さんの!?」

 

「初任務でした…、敬愛するマリアンヌ王妃の護衛……。あの時の私の胸中は、喜びで満ちていました…。加えて、本人は憶えておられないと思いますが、アルカ様に言われた『がんばれ』の一言……! 間違いなく、人生の絶頂でした…! これで忠義を尽くせる、と! しかし……!」

 

 

 自らの顔をひどく歪め、義眼から血の様な赤い涙を流しながら、遂げられなかった忠義を語る。

 

 

「しかし、私は守れなかった……! 忠義を果たせなかったのです!」

 

「それで純血派を…。」

 

 

 その日を境に、ジェレミアは卑劣なテロ行為を、ナンバーズを許すことが出来なくなった。

 その気持ちが暴走し、行きついたのが、ルルーシュもよく知る傲慢なジェレミア・ゴッドバルトの姿。

 

 

「ルルーシュ様、貴方がゼロとなったのは…。やはりマリアンヌ様の為であったのですね…!」

 

「お前は…、俺を殺しに来たのではなく……!」

 

「私の主君は、V.V.などでは無く…、マリアンヌ様……。」

 

 

 ジェレミアが人間だった証である生身の瞳の部分から、歓喜の涙が溢れる。

 

 

「これで…、思い残すことは………、ない。」

 

「ジェレミア卿!」

 

 

 動力源であるサクラダイトを止められたジェレミアが、その活動を止めようとしたその時、ルルーシュは手元のスイッチに手を伸ばし、ゲフィオンディスターバーの動力を切った。

 

 

「……、なっ! 殿…下……。」

 

「ジェレミア・ゴッドバルトよ。貴公の忠節はまだ終わっていない筈―――。」

 

 

 サクラダイトが再び活動を始め、ジェレミアは文字通り息を吹き返す。

 突然のルルーシュの行動に、驚愕をあらわにするジェレミアに、彼は手を差し伸べた。

 愚直に忠義を貫く、不器用な騎士に。

 

 

「そうだな?」

 

「……イエス、ユアマジェスティ。」

 

 

 自身の忠義は真たる主君に。

 ジェレミアは静かにその覚悟を口にした。

 

 

 

 

「何を、しているんですか。」

 

 

 シャーリーの喉元に向かっていた凶刃は、届く寸前でその動きを止めた。

 

 

「………!」

 

 

 ロロは自身の腕を力強く掴む少女、アルカを恨めしそうに睨み付ける。

 

 

「何をしているか、って聞いてるの!」

 

 

 そのままロロの腕を捻り、彼の細い身体を蹴り飛ばす。

 彼の手から零れた落ちたナイフは、カランと乾いた音を立てた。その音を合図となった様に、ロロの瞳からはギアスの紋章が消え、止まっていた時間が動き出す。

 

 

「居たいと願って―――、って……、え? アルカ……?」

 

 

 シャーリーから見れば何が起きたか理解出来ない光景であろう。

 さっきまで立っていたロロは咳き込みながら地に膝を付き、ロロとシャーリー以外居なかった筈の空間には、もう一人の妹、アルカが突然現れたのだから。

 

 

「っ。私の名前…? という事はシャーリー…、貴女、記憶が………。」

 

 

 彼女の口からもう二度と聞くことが無いと思っていた自身の名前が出た事に、アルカは目を見開く。

 2人の少女が互いに困惑している中、その手を血に染めようとした下手人であるロロはゆっくりと立ち上がる。

 

 

「えぇ…、記憶を取り戻していたんですよ。銃を持って兄さんを探し回っていた…。彼女は兄さんを殺す気なんだ。――――だから僕は!」

 

 

 再びロロの目にギアスの模様が浮かび、絶対停止の結界が2人の少女を包む。

 ギアスの発動と同時に、ロロはナイフを拾い走り出す、が。

 

 

「そんな単調な動き!」

 

 

 停止された時間の中で戦ってきたロロの動きは、平等な時の流れで生きてきたアルカには単純すぎるものだった。

 瞬くの間に素手のアルカに組み伏せられ、彼は完全に動けなくなる。

 

 

「――――っ! やはり厄介なモノですね! ギアスが効かないというのは……!」

 

「………? 何を言って?」

 

 

 ロロの言葉に憶えのないアルカは疑問を浮かべる。

 時間があれば問いただしている所だったが、生憎そんな余裕が許される状況じゃない事は、到着したばかりのアルカも分かっていた。

 

 

「アルカ…だよね……?」

 

「……うん、久しぶり。シャーリーさん。」

 

 

 戸惑うシャーリーの呼び掛けに、一瞬迷ったものの、諦めた様な笑みを浮かべて彼女に応じる。

 

 

「…どうしてここに……。あ、そうだ…、アルカはあの手配書の皇アルカなの!? そもそもどうして貴女はルルと……!」

 

「答えてあげたいけど、今はそんな時間無いんだよね。」

 

 

 ロロの手からナイフを取り上げ、自身の懐に仕舞う。

 

 

「まだ抵抗する? 貴方じゃ私に敵わないと思うけど。」

 

「……分かった。分かりました。もう早まった事しないから、手を離してくれないかな。」

 

「よろしい。」

 

 

 ロロは観念した様に声を上げ、アルカも彼に殺意が無くなった事を感じ取り、その拘束を解く。

 

 

「全く、歳下に、しかも異性に手も足も出ないなんて…。」

 

「非力なりに色々勉強したからね。それより状況は?」

 

 

 制服に付いた埃を払いながら、ロロは苛立ちを隠す事無く、愚痴を零す。

 

 

「嚮団からの刺客が兄さんと交戦していた所…、ただもう全部終わったみたいだ。兄さんからメッセージが来てる。」

 

「それで、貴方のさっきの行動は?」

 

「……僕の早とちりさ。彼女の記憶が戻っていたから。兄さんを恨む理由はシャーリーは持ち合わせているだろう?」

 

「シャーリー、記憶の方は、いつ?」

 

「自分でも良く分からない。街中を歩いている時、突然……。」

 

「僕からも聞いて良いかな?」

 

 

 そう…。と考え込むアルカに、ロロは問う。

 

 

「何故君がここに? 」

 

「嚮団がエリア11に向けて刺客を送り込んだのを知って、居ても経っても居られなくて。」

 

「それだけで君は危険を晒して…? 咲世子も僕もそんなに信用無かったかな。」

 

「そうじゃないよ。私が来たのは刺客が一人じゃないから。どんなギアスを持っているか分からないし、人手が必要かと思って。ただ、何事も無くて良かった。」

 

「刺客が一人じゃない…? その情報は確かなのか……?」

 

 

 ロロの顔色はどんどんと青くなり、その声は震えていた。

 彼の様子の変化に、怪訝な表情をアルカは浮かべる。

 

 

「嚮団を監視していた密偵からの情報だから間違いは無いと思うけど。」

 

「だとしたら不味い! 兄さんは今一人で……!」

 

「…? 貴方、さっき全て終わったって言ったじゃない。」

 

「僕らが、機情が把握していた刺客はジェレミア一人だ! もし本当に、他にも居るんだとしたら―――――。」

 

 

 アルカとロロ、そしてシャーリーが居るこの空間に、新たに複数人の足音が加わる。

 

 

「何、この人達……。」

 

 

 三人を取り囲む様に現れた複数の人間に、シャーリーは怯え、アルカの背に思わず隠れる。

 

 

「……見たところ、嚮団関係者、かな?」

 

 

 現れた人間達の風貌はそれぞれ異なっていた。性別も、人種も、国籍も。子どもから老人まで。

 ただその中で、共通するのはその瞳。

 彼らの瞳は薄暗く、ただただ一心にアルカを見つめていた。

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