いや、でも、割とシャーリー生存の作品見かけるし、セーフ…?
皇歴2009年
あの日の事は良く憶えている。
暗雲に覆われた空。地を打つ激しい雨。
幼いながら、まるで自分の未来を暗示している様だ、と詩的な事を考えていた。
打ち付ける雨の音が私の耳を絶えず刺激しているのにも関わらず、雨音は周りの雑音を消してはくれなかった。
私の周りを囲い、見下ろす複数の大人達。
貴族の様に煌びやかな恰好をした者、軍服を身に包んだ者、白衣を羽織った者、エトセトラエトセトラ。
恰好も、性別も、人種も、一つも同じモノが無い中で、唯一共通していたモノ。
それは私を見る目だった。
その目は私を決して哀れむものでも、同情するものでも無く。まるで新しい玩具を手に入れた子どもの様に興奮を隠し切れない、そんな目だった。
「やぁ、よく来てくれたね。」
そんな大人達の間を割って、1人の少年の声が響く。
「マリアンヌを亡くし、ルルーシュとナナリーとは離れ離れ…。辛かっただろう?」
薄ら寒い笑みを浮かべて、少年は慰めを口にする。
「でも安心して良い。君を邪険に扱う存在はここには居ない。今は亡きマリアンヌ王妃の意志に従い、僕達は全力で手助けをしよう。ここが君にとっての我が家となる様に。そして君の夢が叶う様に、」
少年、V.V.は少女の手を取り、その中へと誘う。
「ようこそ、僕達のギアス教団へ。」
少女、アルカは手を引かれるまま、その中へ足を踏み入れた。
▼
あの頃の私は居場所を求めていた。
誰にも邪見に扱われず、安心して過ごせる場所を。
嚮団が安全な場所と言うには疑問が残るが、少なくとも当時の私にとっては比較的安全と思える場所だった。
母であるマリアンヌとの交流があり、他の皇族もその存在を知らない。
そして何より――――、C.C.が居たから。
嚮団に身を置いてからの数日は、内部の地図を頭に叩き込むのに必死だった。
何せここは、一つの街の様に広く、石造りの建物が隙間無く立ち並び、そこに幾つもの研究室や訓練室が犇めき合っているのだから。
それでも私は必死に憶えた。
早く次のステップへ進みたかったから。
兄上と姉上から引き離され、落ち込む私に対してV.V.は言った。
「君は騎士を目指しているのだろう?」
兄と姉は日本に送られただけで、死んだ訳では無い。生きているのなら人生、挽回するチャンス何ていくらでもある。
君が2人を守る力を手に入れれば、その力で2人が安心して過ごせる世界を作れば良いだろう、と。
その言葉で幼い私は気付かされた。立ち止まっている暇は無い、と。
今思えば、酷く単純だったと自分でも思う。
結局、私はその言葉だけで邁進した。あの頃の私の世界はまだ、単純なモノだけで完結していたから。
嚮団には大人だけでは無く、子どもも沢山在籍していた。
元貴族、捨て子、戦争孤児。
様々なバックボーンを持った敗北者たち。
子どもである私達には義務があった。
それは勉強と訓練。
将来、卿団の役に立つ人材と慣れる様に、嚮団での任務を熟せる様に。
毎日毎日、休む日も無く、それは行われた。
当然、私は全力で取り掛かった。それが肉親を守る為の近道だと信じて。
ある時、学力テストで満点を取った。
「凄! 私なんてまた補修だよ…。」
誰かが褒めてくれた。
多分、一緒に勉強していた歳上の女の子だったと思う。
背の高い、褐色肌の少女。
ある時、戦闘訓練のリザルトがトップだった。
「ったく、なんでお前そんな強いんだよ。」
誰かがまた、褒めてくれた。
多分、最後に戦った歳上の男の子だったと思う。
少し口の悪い、金髪の少年。
私の嚮団での立ち位置は、次第に変わっていった。
最初は腫れ物の様に扱われ、遠巻きで観察されていた。
それが一人、また一人と私が結果を残す度に増えて行き、最終的には私が皆の中心になっていた。
当時の私は嬉しかったんだと思う。
初めて同年代の子ども達に囲まれて、認められて。
肉親以外は全て敵だった私にとって、初めての体験だった。
それに加えて、私が成果を残すと、決まってC.C.が褒めに来てくれた。
良く頑張っているな、と少し不器用に褒めてくれた。
失ってばかりだった私にとって、その時間だけはとても安らかで、かけがえのないものだった。
そんな出来事があって、より私はのめり込んでいった。
成果を残せば、周りが認めてくれる。
成果を残せば、彼女との時間が増える。
成果を残せば、家族を守れる。
成果、成果、成果、成果成果成果成果成果――――。
成果を求め、邁進する日々はあっという間に過ぎていった。
そして、嚮団での生活も慣れ、自然に笑みも浮かぶようになったある日、私は知った。
「……、ブリタニアと、日本が戦争…?」
何時も通りに結果を残し、C.C.の元へと向かっていた途中だった。
通り掛かった研究室の扉の僅かな隙間から、大人達の声っが漏れていたんだ。
何時もだったら素通りをしていた。
しかし、通りかかった私の耳に、日本という単語が入り、興味を持ってしまった。
「…兄上と、姉上が居るのに……、父上は…、どうして………。」
皇歴2010年、サクラダイトの利権を巡ったブリタニアと日本の戦争、「極東事変」。
父は、シャルル・ジ・ブリタニアは、2人が居るのにも関わらず日本に向けて侵攻を開始した。
そして、その結果。
「ああ、アルカ。残念だけど。」
「…嘘よ。そんなの……。」
「そうだと良いんだけどね。でも残念なことに。君の戻るべき場所はもう無い。」
「嫌…、私は、認めたくない……!」
両目一杯に涙を貯め、首を振る幼い少女に、V.V.は微笑む。
「改めてようこそ、教団へ。」
「っっっっっ!」
少女の言葉にならない悲鳴が、嚮団内に響き渡った。
そこまでの私は甘かった。
ここがどういう所かを知らずに過ごし、V.V.の本性を見誤り、あまつさえ信じかけていた。
朦朧とする意識の中、幼いアルカは目を覚ます。
真っ白い無機質な天井、自身を照らす眩しい光と、相も変わらない目で見下ろす大人達。
(………?)
朦朧とだが意識はある、視界は動く。
しかし身体に力が入らず、口も動かすのも億劫だ。
「V.V.様。」
「うん、皆には我慢させて悪かったね。でももう良いよ。」
V.V.の声を合図に、大人達はアルカの右手を抑える。
視界の外にある腕に、チクリと痛みを感じ、アルカは僅かに目元をピクリと動かした。
「被検体の名称は如何しましょう?」
研究員の一人が、手元の資料に目を落としながら呟く。
「ああ、そうだね。彼女はもう死んだことになっているから、元の名前は相応しく無いし…。
――――うん、コードAとでも呼ぶとしようか。」
私はあの時、確信した。
アルカ・ヴィ・ブリタニアなどもうこの世の何処にも存在しないんだ、と。
▼
V.V.からコードAと呼称されたあの日を境に、私の世界は一変した。
「……何なの…。」
皆から向けられる感情が、何となく分かるようになった。
誰が私に対して好意を持っていて、誰が私に対して悪意を持っているか、分かってしまった、気づいてしまった。
人の感情が分かるってどんな気分か分かる?
―――最悪以外の何ものでものないよ。
今まで無意識的にやっていた行為が、打算的なものに変わっていった。
今まで気にしなくて良かったものを、気にする様になっていった。
好感情を持っている人とばかり関りを持つようになった。
悪意を持っている人に、近づかなくなった。
私らしくしてきた事が、出来なくなった。
ある日、人の感情を知りました。
その感情は、私に対する嫉妬の感情。
―――やめて。
ある日、人の感情を知りました。
その感情は、私に対する性的な感情。
―――やめてよ。
ある日、人の感情を知りました。
その感情は、私に対する恐怖の感情。
―――そんな感情を私に向けないで。
段々と日が経つに連れて、好意よりも悪意を気にする様になっていた。
そして。
私は、初めて人を殺しました。
▼
嚮団で過ごし、ある程度成熟した私達は、次のステップへと進んで行った。
それは、より本格的な戦闘訓練と、人体を用いた実験の参加。
まず最初に行ったのは戦闘訓練。
お互いの武器はコンバットナイフ一本。
それぞれ二人一組で、どちらかの戦闘不能になるまで戦い続けるというもの。
ナイフを用いた実戦を想定した訓練と言っても、所詮は訓練。
身体に幾つもの切り傷を作った人は居ても、死人が出る事は無かった。
―――ある一組を除いて。
私がペアになったのは、私に恐怖心を抱いていた少女。
共に戦闘を繰り返していく内に、その少女の恐怖心は、私への殺意と変わっていった。
彼女のナイフの切っ先が、喉元、頭、心臓を掠めていく内に私は思った。
気持ち悪い、と。
「……が、あっ………。」
周囲の動揺する声と、潰されたカエルの様な声を出す少女。
喉を突き刺すナイフを通して聞こえていた彼女の心臓の鼓動が停止する。
それを確認したアルカは、ナイフを引き抜き、重力に従って倒れた少女を見下ろす。
「…嗚呼、これで私を取り巻く感情が一つ消えた。」
返り血で頭から足までベッタリと汚したアルカは、安堵の笑みを浮かべながらそう呟いた。
「お前…! 何やって!!!」
少し口の悪い金髪の少年が、鬼の様な形相でアルカに迫り、胸倉を掴む。
「殺す必要なんて―――!」
「? 彼女から殺意を感じたから。」
彼がアルカに対して怒っている、というのは彼女も分かっている。
ただ、怒る理由が分からない。
「彼女の殺意、気持ち悪かったから。」
アルカの言葉に少年は怯み、後ずさりをする。
周りの傍観者たちも、以前とは様変わりをした彼女に対して恐怖を感じた。
いや、恐怖を感じてしまった。
「――――ああ、気持ち悪い。」
彼女は不快感を示しながら、そう呟いた。
あの時の私は心を殺していた。
戦うべき、生きるべき理由を失った私をさらに追い詰める人の悪意。
当然、幼い私に耐え切れる筈も無い。
一種の自己防衛だったんだと思う、あの時の私は心を殺して日々を過ごしていた。
考える事を止めた私にとって、私を取り巻く人の感情の渦は不快なモノでしか無かった。
その後、どうなったかは想像できるでしょう?
気持ち悪い、という理由だけで、また人を殺した。
私と夢を語り合った人を殺しました。
私と食卓を囲んだ人を殺しました。
私に勉強を教えてくれた人を殺しました。
私に薬を与えてくれた人を殺しました。
殺しました。
殺しました。
殺しました。
殺しました。
殺しました。
殺しました。
殺しました。
実戦訓練中にナイフを突き立てて、KMFの操縦訓練で相手の機体ごと潰して、戦闘訓練の関係無い所で。
いつしか、自分の居場所になりかけてた場所を、自らの手で壊していった。
日に日に私から人は離れ、いつしか最初と同じ様に1人になったその時、C.C.は再び私に手を差し伸べた。
常に悪感情に晒されていた私にとって、彼女の感情だけは感じ取れなかった。
最早、嚮団内ですら居場所が無い私は、自然とC.C.と寝食を共にする様になった。
穏やかだった。
私を取り巻く感情は無く、世界は私と彼女のみ。
次第に凍てついていた私の心は優しく溶かされて。
「……ごめんなさい………。」
罪悪感にさいなまれた。
C.C.と共に過ごす様になってからも、私は義務から逃れられない。
戦闘訓練と、人体を用いた実験。それは毎日欠かさず行われる。
変わらず私に殺意を持って挑んでくる人の命を摘み取る毎日。
因子活性剤を投与される毎日。
その他、私の能力を計る実験の毎日。
日を追うごとに死体を積み重ねていくと同時に、私はさらに人の感情に機敏になっていく。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――。」
嚮団中の人間から、私に対して負の感情が向けられる。
恐怖、恨み、怨嗟、嫌悪、軽蔑、怒り、憎しみ。
「どうして――。」
幼いアルカは嘆く。
「私はただ―、純粋に――自分の
祈るように。
「どうして誰も分かってくれないの―――。」
大嫌い、と記憶の中の私は言った。
「嫌い、大嫌い。大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い―――!
人間も、世界も、何もかも! 全部全部全部!!」
大嫌い、と自身の心に従うまま、そう叫んだ。
▼
なるほど、とO.O.は感心した様に頷く。
額縁に映っていた風景は消え、アルカがここに踏み入れた時の状態へと戻った。
「そうして嘆く君に手を差し伸べ、力を与えたのが彼女、と。まぁ100%の善意かどうかは怪しいが。」
「……どうして。」
「ん?」
「どうしてこれを私に思い出させたの?」
アルカが漏らした疑問に、O.O.は笑顔を浮かべたまま応じる。
「言っただろう? 君の成長の為だ、と。何事にも押さえておかなければならない要点、というものが有る。それが君にとってのコレってだけさ。」
「…私の成長って貴女は言うけど、それを為したとして一体どんな意味が――。」
「チッチッチ、甘いなアルカちゃん。意味があるから成長するんじゃない。成長した君だから、意味を持たせることが出来るんだ。」
腰に手を当て指を振りながら、O.O.は得意げに告げる。
「さてさて、そろそろ選択の時だ、アルカちゃん。」
両手を大きく広げ、彼女は叫ぶ。
「黄昏の中から、精々後悔の無い様、君らしい道を見つけておくれ。
――――僕のコードを継ぐ者よ。」
彼女の言葉を皮切りに、アルカの意識は再びブラックアウトした。
書いている内に、うちの主人公はニュータイプか何かか?って自分でも思ってきました。
因子云々の設定は小説版にありましたね、確か。
その内本編でも補足します。
今は、そんなのあるんだぁ程度に思っといてください。