「アルカ…アルカ………起きて、起きなってば」
私の肩を枕代わりにしながら眠る彼女を優しく起こす。
一緒に逃亡していた女性――
「このまま少し租界から離れた場所に車を停める感じで大丈夫か?」
中々起きないアルカに苦戦していると、運転している扇さんが苦笑しながら話しかけてきた。
「あ、はい。そこから家まで歩いて行きます。ただ………」
チラリとアルカに目を向ける。
「んだよぉ、おぶってやればいいじゃないか。お前だったらそのくらい余裕だろ」
玉城が茶化すように言った。
このまま起きなかったら最悪そうする事になる。
しかし私も慣れない遠出で疲労が溜まっている。出来る事なら自分自身で歩いて欲しい。
「ん………」
と、その時私の肩が軽くなった。どうやら起きたらしい。
アルカは眠そうな目を擦りながら辺りを見回す。
「よぉ、ちっとは疲れとれたかぁ?」
「玉城…さん……?おはよう、ございます…?」
どうやらまだ頭が働いていないらしい。
「ん…………、ああ!!すみません、カレンさん!!!肩をお借りしてしまって…重かったですか!?」
慌てた様子で彼女がかしこまる。
「大丈夫よ、そんなに気を使わなくて」
そんなやり取りをしていると、車が停まった。着いたらしい。
「アルカ、君の活動については今後カレンを通して伝える。それまでは傷を癒すのに専念してくれ」
「お気遣いありがとうございます、これからよろしくお願いいたします」
ペコリとアルカが頭を下げる。
扇さんも玉城の反応を見るに彼女を受け入れ始めている様だった。玉城なんてブリタニアっていう言葉を聞いただけでも機嫌を損ねていたのに、不思議なくらいすんなり受け入れている。
そしてそれは私にも言える事だった。
◇◇◇
トウキョウ租界―――
占領後のエリア11内でブリタニアの国民が住む街。
全域が人口地盤で覆われている、ブリタニアの科学力が詰まった近代都市。
カレンさんの自宅はトウキョウ租界の中心街から少し離れた場所にあるらしい。
「継母がとっても鬱陶しいけど、そこさえ我慢すれば安全に暮らせると思うわ。少なくとも今までよりはね」
「心労、お察しします……」
紅月カレン、それは彼女の日本人としての名前。
普段はカレン・シュタットフェルトと名乗り、ブリタニア人として暮らしているらしい。
ブリタニア有数の名家当主と妾の子、それがカレンさんだ。
「あ、そうだ。さっきも言ったけど私に対して気を使わなくていいわ。呼び捨てでいいし、敬語もいらない」
これから長い付き合いになるだろし、と彼女は続けた。
カレンさんとの距離感を中々掴めないでいる私を気遣ってか、彼女の方からそう言ってくれた。
せっかくの申し出だ、言葉に甘えることにしよう。
「はい……じゃなくて…。うん、ありがとう…カレン」
少し気恥ずかしいが、そのうち慣れるだろう。
そうこうしている内に彼女の家――シュタットフェルト邸に着いた。
私がやるべきことは分かっている。今は準備期間だ。
確実に
私は心に誓いながら、これからお世話になる彼女の家へと踏み入れた。
◇◇◇
彼女の家に匿われてから半月が経過した。この半月の間、
「ほら、カレン!よく、見て!!傷なんて何処にもないでしょ!!!」
「わかった…わかったから……」
肩と脚に巻いてある包帯を取り、カレンに「ほら、みたことか」というように見せつける。
なんて考えていると
「あんた、銃で撃たれてた訳でしょ?手術もしてないのに、こんな綺麗に銃創って無くなるようなものなの?」
しかもたった半月で…とカレンが訝しげな表情で呟く。
「私、昔から傷とか病気の治り早いんです!」
カレンが少し呆れた様な表情で私を見つめる。嘘は言っていないんだけどな
「まぁ、何にせよ完治して良かったわ。あんたも言いつけ守ってくれた訳だし、私も約束は守らないとね。」
その言葉を聞き、自然と笑顔になるのが自分自身でもわかる。
「じゃあ………!」
「外出を許可してあげる。でもしばらくは一人での外出はダメ、私もついていくわ。」
「……カレンって案外、過保護だよね…。私子どもじゃないよ」
カレンが私の言葉を聞き、より呆れた顔をして
「実際、子どもでしょ……」と呟いた。
◇◇◇
アッシュフォード学園の正門、制服を着た赤い髪の少女と警備員が言い争っている。
「だから!この子の入学を検討する為に理事長から学校の説明を受けたいのよ!それだけだってば!」
「君たちを疑っている訳では無いが、防犯の関係上、身分がわからない状態で通すわけにはいかない。」
「私の身内!つまりシュタットフェルト家の血縁です!私の学生証は提示したんだしそれで通してよ!」
かれこれ10分くらい、私はこの警備員の説得を心見ているが、一向に首を縦に振らない。前まではここまで警備固く無かったじゃない……ああ、イライラする!アルカなんて飽きてしまったのか、正門に設置してあるカメラをボ――――っと見つめている。想定ではもっとスムーズに行く予定だったのに…
遡ること数時間前、「アッシュフォード家の者と話したい」というアルカの望みを叶える為、カレンは一番確実で安全な方法を考えた。完全に部外者でIDも無いアルカをどのようにして学園に入れ、学校の理事であるアッシュフォード家に接触するか。
しばらく頭を悩ませていたカレンが思いついたのは、在学生である私自身とシュタットフェルト家の貴族階級を利用する事。ブリタニアという国は基本的に貴族主義で成り立っている。貴族が発した一言で裁判の結果がひっくり返ったというのも珍しい話ではない。それだけ貴族の発言力は強いのだ。アルカは現在、身分を証明するIDが無い。シュタットフェルト家に頼るの様な形になって癪ではあるが、アルカの身分をシュタットフェルト家で保証しよう。そうだ、それが一番良い。
そこからの行動は早かった。「アッシュフォード学園に入学を希望している親戚の子がいる、出来れば理事長から直々に話を聞きたい」と連絡をした。その後、ぶかぶかの私のYシャツを着てベットに寝っ転がりながら本を読んでたアルカの髪を整え、あらかじめ買っておいた服を着せ……今に至る。
私の認識が甘かった。ここまで警備が厳重になっていたとは。
「来客があるとは確かに聞いているが、IDが無いんじゃ通すわけにも……ん、ちょっと待ってくれ…。」
唐突に警備員が背を向け、身に着けている通信機で誰かと話している。
「えぇ…はい……了解しました。」
話終えたかと思うと
「…二人とも通って良いそうだ……そっちの子のIDの確認も必要ない、理事長が直接会ってくれるそうだ。」
と、渋々ではあるものの通してくれるらしい。
「やったね、カレン。学校の説明を受けれそうで良かったぁ。」
先ほどまでボーっとしていたアルカが駆け寄ってきた。警備員の主張の変わりように動揺を隠せない。この子が裏で何かしたのではないか、とまで思えてくる。実際やりそうだし。
「あんた、何かした?」
「別に何も?カメラあったし、カレンのこと知っている人が見ていて、さっきの人を説得してくれたんじゃない?」
確かに……ミレイ・アッシュフォードならあり得ない話でもないか。
◇◇◇
「お前が入学希望者…で間違いないか?」
不自然な程に人の気配が無い廊下。恰幅の良い黒服の男が私に話しかけてきた。どこからどう見ても学校職員には見えない。
「ええ、違いありません。理事長の元へ案内してくれるんですか?」
「ああ、付いてきなさい。ただし本人だけだ。カレン・シュタットフェルトの同席は認めない。」
高圧的な男の物言いに「はぁ?」と声をあげたカレンを「まぁまぁ」と落ち着かせる。
「それは理事長の指示ですか?」
「そうだ。入学希望者本人だけに説明をしてくださるそうだ。」
「ふぅん……そう…。カレン、私はお話してくるから。何処かで時間潰してて、先に帰ってても良いよ。」
カレンは何処か納得出来ない様だったが、渋々といった様子で「はぁ…わかったわよ。」と呟く。
「じゃあ適当に時間潰してるから、終わったら連絡して。はい、これ私の電話番号。校内に何個か固定電話置いてあるから。」
どうやら一緒に帰ってくれるらしい。
◇◇◇
豪華な装飾が施された理事長室。静寂に包まれたこの部屋に「ガチャリ」と乾いた音が響く。
「いやぁ、遅くなって済まないね。もう歳なのか身体が思った様に動かなくてね…」
そう朗らかに呟きながら一人の老人が私の目の前に腰掛ける。「ルーベン・アッシュフォード」…アッシュフォード学園の理事長であり、元ブリタニア貴族。パーティー等の派手な事を好み、その浪費家ぶりからアッシュフォード家没落の要因の一つとされている男。
「そう言う割にはまだまだ元気そうじゃないですか。想像よりもお変わりなくて安心しましたよ、ルーベンさん。」
「……何処かでお会いしましたかな?」
「ええ……アリエスの離宮で。貴方が主催したマリアンヌ王妃の誕生日パーティーの時でしたっけ?」
「ふむ…シュタットフェルト家を招いた記憶はありませんが…」
この男、いつまでこの不毛な会話を続けるつもりだろうか。
「……建前は結構です。私の事憶えているのでしょう?本題に入りませんか?」
「はて、憶えているとは?貴方とは初対面の筈ですが…」
私を試しているつもりなのか、もしくは成長した姿を見たいのか。どちらにせよ私から切り出さない限り、この不毛な会話が終わることは無さそうだ。
「はぁ……。私達が学園の敷地に入る前、正門に居た警備員に身分証明書の提示を求められました。身分を証明出来ないと学園に入れることは出来ない、と。イレヴンによるテロ行為が立て続けに起きているエリア11の情勢を考えると当然のこと。カレンが警備員と言い合いをしている中、警備員の態度が一変。私は身分証明書を提示していないのにも関わらず、敷地内に入ることを許された。大方、身に着けていた通信機から通しても良いと指示があったのでしょう。正門には防犯用のカメラが設置されていた…私達の様子を確認するのは簡単でしょう。」
「……ふむ」
「それにこの部屋に来るまでに通った廊下。不自然な程に人気が無かった。たまに見かけた人と言えば、学園の職員にはまるで見えない黒服の男。アッシュフォード家直々のSPですかね。まるで皇族を出迎える様な人払いっぷりでしたね。加えて、学校側の対応も不自然過ぎます。私は表向きにはカレンの血縁の入学希望者として貴方に会いに来ました。しかし実際に理事長室に通されたのは私一人。私を連れてきた、血縁である筈のカレンを同席させないのはおかしい。」
一通り話を聞いたルーベンは、安堵と歓喜といいた感情を顔に露わにしたまま呟いた。
「…その聡明さに苛烈な姿勢、まるでマリアンヌ王妃を見ている様でしたアルカ様。あまりにも懐かしい光景だったもので、ついつい遊び過ぎてしまいましたな。」
母上の姿を私に重ねたことに少し苛立ちを覚える。
相変わらず遊びが過ぎますね、と少しの嫌味を言葉に込める。
「カレン・シュタットフェルトは貴女の事は何処まで……?」
「皇族ということは知りません、貴方が心配していることは起こりませんよ。カレンはエリア11に来てから初めて知り合った友人です。彼女は善意で私に手助けしてくれているのです。感謝こそすれ、疑いをかけるようなことは無いです。」
その言葉を聞き、「そうですか」とルーベンは呟く。
そして意を決した様に、続けて私に言葉をかけた。
「マリアンヌ王妃が亡くなられた後の貴方様の足跡、お伺いしても…?」
まぁそれくらいなら良いだろう。
「時間も惜しいので簡潔にはなりますが、」
◇◇◇
ギアスや
用意された紅茶を口にしながらチラリとルーベンに目を向ける。彼は顔に手を覆いながら肩を震わせている。そして声を震わせながら
「このルーベン、胸の高鳴りが抑えられません…マリアンヌ王妃が亡くなった際は二度とお目にかかれないと不躾ながら考えていました……。」
この様子を見るに味方…と考えても良いかもしれない。歓喜、安堵といった感情を隠し切れない様子でルーベンの独白が続く。
「まさか
「二度も?」
「…ルルーシュ様、ナナリー様、お二方はご存命でございます。姓をランペルージに変え、この学園の学生として……」
「兄上と姉上が………?」
ミレイのおじいちゃん、描写無さ過ぎて性格わからん…