エリア11 トウキョウ租界 ブリタニア政庁
「ふあぁ……。」
赤髪の少女は大きく欠伸をし、その瞳に生理的な水を貯める。
「ナナリーが来ないと暇ねぇ。」
そう呟くのは黒の騎士団切ってのエースパイロットであり、ブリタニア人とのハーフである紅月カレン。
彼女は捕虜という立場を忘れて、呑気に再び口を大きく開けた。
中華連邦での作戦の最中。カレンは星刻に敗れ、その身をブリタニアへと引き渡された。
その時のスザクの目は酷く冷たいもので、元学友への情けなど微塵も持っていない様子であった。
その時、彼女は覚悟したのだ。
拷問、脅迫、暴力、罵倒、等の人間の尊厳など無視した行為が身に降りかかるだろうと。
いや、それで終わるならまだ幸運だ。
処刑される可能性すら高い、と。
しかし、実際の彼女に対する想像は大きく裏切られた。
ある人物の口添えで。
ブリタニア貴族に良く見られる装飾が施された煌びやかなドレスを着させられ。
跳ねていた髪は整えられ。
食事は至って普通(シュタットフェルト家基準)のものが用意され。
拷問も無ければ尋問すら無い。
何も起きない毎日を送っていく内に、カレンが抱いていた警戒心は薄れて行き、遂には、「暇…」と思わず呟いてしまうほどになった。
「カレンさん。」
その時、カレンの耳に1人の少女の声が届く。
「ナナリー。」
現れたのはエリア11の現総督であり、カレンの良く知る2人の肉親で、カレンの元学友である、ナナリー。
本名、ナナリー・ヴィ・ブリタニア。
捕虜であるカレンの身を案じ、今の待遇を作った張本人。
「毎日、ここに通わなくても良いのよ? 総督って大変なんでしょう?」
車椅子を走らせ、近づいてくるナナリーに、カレンは少し眉を下げて呟く。
「いえ、カレンさんとお話したいですから。」
ふわりと花が咲く様な笑みを浮かべるナナリー。
その笑顔が、彼女も良く知る人物と重なって見えた。
「そういう所はアルカに似ているわねぇ。」
「ふふっ、そうですか? 本当だったら嬉しいです。」
独房内で退屈な毎日を過ごすカレンにとって、ナナリーの訪問は有意義なものだった。
そして、それはナナリーも。
「あの子もナナリーに似ているとか、ルルーシュに似てるとか言われると、そうやって嬉しそうに笑ってたわよ。普段は素直じゃ無いのに。」
ナナリーはルルーシュとアルカの行方を知らない。
何も聞かされていないのだ。皇帝からも、総督補佐の任に付いている枢木スザクからも。
言える筈も無い。
自身の兄がゼロとして皇族を殺し回っており、妹もそれに加担していたなどと。
結局、皇帝は元より、スザクも彼女に嘘を吐くことしか出来なかった。
そしてその嘘はどんどんと積み重なり、彼に対する不信感へと変わっていく。
次第にナナリーはスザクに2人の話をしなくなった。
そこに現れたのが、2人の事を良く知る人物、カレン。
ナナリーは純粋に喜びを覚えた。
友人であるカレンがテロリスト、というのは悲しい事実ではあったが、それに超える喜びが、彼女の胸中に確かにあった。
「素直じゃない、っていうのもアルカの魅力ですよ。」
「ハイハイ。シスコン発言は兄だけで良いですよー。」
こうして自然と今日の話題はアルカのものへと変わっていった。
幼少期、良く一人で泣いていた事。
再会した時の反応。
果てには一緒に寝た時の話まで。
「それで、寝惚けているアルカったら本当に可愛いんです。猫みたいに擦り寄ってきて、時折声を漏らして。」
段々とナナリーの声音が高くなっていく。
朗らかな笑みを浮かべながら、自身の妹の寝起きの様子を事細かく説明するナナリー。
「……可愛い…? 質が悪いの間違いじゃなくて…?」
「…? そうですか? 私は可愛いと思いますけど――。」
「ああ、まぁ……、姉であるアンタからしたらそう見えるかもしれないけど――。」
カレンは思い出す。
あれはそう、2人っきりで過ごしたシュタットフェルト邸での出来事。
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ブラックリベリオンの騒動も落ち着き始めたトウキョウ租界。
そこの中心街から少し離れたシュタットフェルト邸。
「本当に私が行かなきゃダメか……?」
スーツを身に纏い、黒髪のウィッグを被ったC.C.は不服そうに口を開く。
「文句を言わない! 向こうとの面識あるのはアンタだけなんだから。」
「それはそうだが…。」
「C.C.…。私も我慢するから、お願い。」
「んぅ…。」
今のシュタットフェルト邸に3人以外の人間は居ない。
亭主が居ない事を良い事に好き放題やっていたカレンの継母は、使用人を連れて本国に飛び帰り、カレンが戻ってきた時はもぬけの殻だった。
そこに目を付けたのがアルカ。
追われる立場である自分達の隠れ家として使いたい、と彼女は半ば申し訳無さそうに言った。
貴族であるシュタットフェルト邸ならば、ブリタニア軍の手も伸びてこないだろう、と。
そうして今の経緯に至る。
「今後の活動にも関わる事なのよ? 何がそんなに不安なのよ?」
今、彼女達は中華連邦との協力関係を結ぶ為に動いている。
その為の使者として白羽の矢が立ったのが、一度中華連邦との取引を行ったC.C.だ。
つい先日までは、C.C.も精力的に動いていた。
しかし、彼女は今になって渋っている。
1日、アルカの元を離れなければならない、という事だけで。
「……アルカの貞操。」
「アンタが言うか。」
たっぷりと時間を貯め、極真面目な顔で、C.C.はとんでもない事を口走る。
思わず、カレンは食い気味にツッコんだ。
何故、今更この女がアルカの貞操を気にする、と。不思議でならなかった。
C.C.が時々アルカに手を出していることを、カレンは知っている。
同じ屋根の下で過ごしているのだ。余程の鈍感では無い限り、誰でも気付く事であろう。
「――わ、私とカレンは何も無いよ!」
C.C.の言葉に動揺しながらも、アルカはC.C.を見上げて訴える。
「ああ、分かっているさ。信用出来無いのは――。」
ジトっとC.C.はカレンに目を向ける。
「わ、私?」
「だってそうだろう。お前は私が居ない間に、アルカと共に食卓を囲み、風呂に入り、床に就くんだろう?」
「それはそうだけど。別に初めての事じゃ無いし、心配するような事は――。」
ヤレヤレと呆れた顔をしてC.C.は首を振る。
「それは黒の騎士団が結成する前の話だろう? 今と前じゃ、お前に対するアルカの信頼度が段違いだ。」
「だからなによ。」
自身の口をカレンの耳に寄せ、アルカに聞こえない位の小さな声で呟く。
「心を許した時のあいつを舐めない方が良いぞ。」
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結局、C.C.は渋々と言った様子で出掛けて行った。
「やっと行ったわね、あいつ…。」
「……なんか疲れた。」
2人は肩を落としながら、溜息を吐き、お互いの視線を交差させる。
「し、C.C.が変な事言ってたけど、気にしない方向で――。1日、よろしくカレン。」
「そ、そうね…。―――かしこまりました。お姫様。」
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追われている身である彼女達は、迂闊に外に出る事は出来ない。
ただ待っているだけの2人は、暇を持て余し、様々な事をして時間を潰した。
映画を観たり。本を読んだり。チェスをしたり。ストレッチをしたり。料理をしたり。
そうして過ごしていうちにカレンは気付いた。
(この子、距離近くない?)
以前にアルカが遊びに来た時も、こうして過ごしたことがあったが、ある程度、パーソナルスペースを保っていた。
しかし、今はどうだ。
映画を観れば、身体を寄せて、その頭をカレンの肩に乗せる。
本を読めば、カレンの膝を枕代わりにして寝転びながら。
その他にも色々と。
隙あらば身体を猫の様に近くに寄せる。
体温が伝わり、彼女の呼吸が聞こえる程に。
そんな彼女をカレンが見つめると、アルカは決まって笑みを浮かべ、呟く。
「カレン。」と。
一度気づけば、意識してしまうというのが人間の性。
カレンは自然とアルカの一挙手一投足を視線で追う様になっていった。
そしてそれはこの風呂場でも。
「カレン~、シャンプー。」
「……ハイハイ。」
アルカに言われた通り、カレンはシャンプーを手に取り、彼女に渡す。
「ありがとう~」と呟きながら、アルカの白い細腕がシャンプーへと伸びる。
(うわ、腕細。)
一体その腕の何処にナイトメアを動かし、大人を組み伏せる力が有るのか。
本人は勉強したから、と言っていたが、全く説得力が無い。
そんな事を考えながら、ボーっとアルカの身体を眺めるカレン。
細い体躯、慎ましい胸、小ぶりのお尻、それらを包む瑞々しい白い肌。
女性らしい身体、とは言えないが、彼女の在り方は芸術作品の様に神聖さを感じる。
何者にも穢せない、無垢な―――。
(って、私、何を考えているのよ!)
ぶんぶんと頭を振って、その考えを吹き飛ばす。
「?」
そんなカレンの気持ちを知らず、アルカは小さく首を傾げた。
・
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「何か、疲れたな。」
カレンは真っ暗な部屋でベッドに仰向けになりながら、小さく呟く。
「アルカに1日中振り回されっぱなしだった…。」
彼女にそんな気が無いっていうのが質が悪い。
このままでは寝れない。と判断したカレンは、アルカを別室に通し、寝かしつけた。
彼女の顔には抗議の色が浮かんでいたが、カレンは自身の名誉のためにそれを無視した。
「これでやっと……。」
眠りに付ける。っとカレンが目を閉じたその時。
カレンの部屋の扉が静かに開いた。
「……んぅ。」
ヒタヒタと、裸足の足が近づく音と、少女の眠そうな声がカレンの耳に入る。
「……アルカ?」
「………。」
カレンの呼びかけに答える事無く、アルカはベッドに腰掛け、当たり前の様に布団に入った。
「え、ちょっ。」
するりと植物のツルの様にアルカの脚が絡みつく。
カレンの二の腕に慎ましい感触があったと思えば、次に来るのは手の先の柔らかい感覚。
「え、嘘。」
手の先の柔らかさ。
それは丁度アルカのお腹の部分。
いや、正確にはそのもう少し下。
――女の子の、大事なところ。
密着する部分から、高い体温が伝わってくる。
彼女の吐息が、心臓の鼓動が、あらゆるものが直接伝わってくる。
(何で、服を着てないのよ!?!?!??!?)
カレンは叫んだ、心の中で。
私が男であれば真っ先に手を出している。それくらいの甘美な誘惑が、今の彼女にはある。
ああ、質の悪い子。
「……ぅん…、ふへへへ………。」
混乱している彼女を叩き込む様に、寝惚けているアルカはその拘束を強める。
これでもか、という位に密着し、嬉しそうに口角を上げながら、カレンの肩に頬を摺り寄せる。
彼女の髪が揺れる度に尾行を刺激する媚薬の様な甘い匂い。
カレンの理性を繋ぎとめていた最後の一本の線が、切れた気がした。
「……っ! ああ、もう!」
カレンは大きく声を上げ、アルカの拘束を振りほどき、彼女を見下ろす形を取る。
傍から見れば、カレンがアルカをベッドに押し倒しているという構図だ。
「―――アンタが。」
未だに寝ているアルカを見つめながら、カレンは小さく口を開いた。
「アンタが、悪いんだからね。」
アルカの唇に、親指を這わせる。
僅かに上下する胸を視姦する。
穢したい。
神聖な雰囲気を纏う彼女を。
歪ませたい。
その幼さの中にある綺麗な顔を。
汚ししたい。
その陶器の様な白い肌を、自らの欲で。
カレンの中に今まで抱いたことの無い気持ちが芽生えていく。
「文句、言わないでよね。」
何かに当てられたようにカレンは、本能の感じるまま、アルカの口に自身の口を寄せる。
そして―――。
「おい、戻ったぞ。案外星刻という男、話が出来る奴だな。今度はお前達を交えて――――。」
カレンの部屋に入ってきたアルカは、どうやら扉を閉めなかったらしい。
予定よりも早く戻ってきたC.C.は、部屋の入口の壁に寄り掛かり、カレンとアルカを交互に見ていた。
裸で寝ているアルカ(12歳)を押し倒し、頬を赤らめて迫るカレン(18歳。)
「―――この、ロリコンめ。」
C.C.に返す言葉も無く、カレンはただただ項垂れた。
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・
結局、この後、カレンは冷静さを取り戻し、アルカはC.C.に連れて行かれた。
そして次の日。
腰を摩りながら気怠そうにカレンの元へと現れたアルカに、彼女は一言。
「――アンタ、質悪いわね…。」
「何がさ!?」
◇◇◇
「いや、アルカは可愛いとかそういう次元じゃない。あれは兵器よ兵器。」
「カレンさんにも分かりますか!? あの少し小生意気なところがもう微笑ましくて―――!」
2人の会話は続く。
致命的なズレを生んだまま。
カレンとナナリーの対談は、総督補佐であるローマイヤが来るまで続いた。
そして―――。
「くしゅんっ」
「風邪か?」
小さくくしゃみをしたアルカに、ルルーシュは苦笑を浮かべる。
「…なんか、不名誉な褒め言葉と、名誉ある褒め言葉が同時に来た気がする。」
「なんだ、それ。」
良く分からない事を言い始めた妹に、ルルーシュは首を傾げた。
アルカは碌に人と関わってきてないので距離感がバグってそう。
特に同性に。
星刻とC.C.の話が盛り上がったのは、きっとどっちもロリコンだから。
通ずるものが有ったのでしょう。
初期構想ではカレンルートもあり得たので、これはその可能性の一部です(何処かで消化したかった。)