「やっと来たか。待ちくたびれたぞ。」
斑鳩にある数ある部屋の中でも、一際狭い部屋の中央で、銀髪を携えた女性は笑みを浮かべた。
捕虜、という言葉を表す様に、女性の両手は拘束されていた。
にも関わらず、女性は勝気の笑みを崩す様子は無い。
「……本当に…。」
「んー? そんなに意外か?」
「貴女があそこ…、嚮団に居るとは思っていませんでしたから。」
「なんだ、そっちか。捕虜になっている事には驚かないんだな。」
「コーネリアが私達の捕虜になってる、という情報があれば察しは付きます。」
「まぁ、そうだな。違いない。」
アルカは余裕綽々と言った様子の彼女に、溜息を吐きながら、部屋に用意されていた椅子に腰かける。
「それで、どうして嚮団に? ノネットさん。」
「ギアスの事を調べようと思ってなぁ。殿下と行動を共にしてたんだ。そして、嚮団と名乗る胡散臭い連中の尻尾を掴んだ。」
「それで嚮団内部に潜入し、捕まったと。」
「まさか殺しても死なない人間が居るなんて想像もしなかったからな。不意を突かれたんだよ。」
情けない話だ。と自信を嘲笑するノネットを、アルカはただ黙って見つめる。
「それでどうやって抜け出そうかと考えている時、お前達黒の騎士団が攻めてきた。そのどさくさに紛れて脱出した、という訳だ。」
「自分から捕虜になった、とそう聞いていますけど?」
「私は私で調べたいことがあってな。殿下と別行動をしていたんだよ。そうしたら殿下がジェレミアに連れて行かれているでは無いか。もう卒倒したよ。」
それで彼女は自ら黒の騎士団に捕まった。
これが今の状況に至る事のあらましの様だ。
「どうしてジェレミアがこっちの仲間になったと知っているのです? 私もついこの間知ったのに。」
「そんなに不思議か? あいつの皇族に対する忠義の厚さは良く知っている。ゼロの正体が彼なら、そっちに付くのは容易に想像出来るが。」
「……人を良く見てるんですね。」
「まぁ、これでも元ラウンズだからな。強いだけでは務まらんよ。」
はっはっは、とノネットは豪快に笑う。
「嚮団での調べ事、とは?」
「なぁに、大したことじゃ無い。誰かさんについて少し、な。」
「………どうやら、実りのある話では無さそうですね。」
アルカは溜息を吐いて椅子から立ち上がる。
部屋の扉へと手を伸ばし、ノネットに振り向く事も無く、淡々と口を開く。
「大人しくしていれば殺される事は無いと思います。大人しくしていてください。」
「なんだ、もう行くのか?」
「私達は今貴女に構っている余裕も暇も無いんです。…もうすぐそこまで決戦は迫っているの、だから――――。」
これ以上話したくない。そんな態度が見え見えのアルカは、淡々と言葉を紡ぎ、足早に部屋を去ろうとする。
「私達は? 私は、だろ。」
部屋を出ようと扉に手を掛けたその時、ノネットの言葉にアルカの動きはピタリと止まった。
「………、どういう意味、ですか。」
忌々し気に言葉を紡ぎながら、ノネットの方へと振り返る。
「そのままの意味だ。お前、無理しているだろ。」
「………っ。」
「肯定、と受け取っていいか?」
質問には一切答えない者の、彼女は歯を強く食いしばっており、何かに耐えている様に見える。
そんな様子を見て、ノネットは「そうか」と小さく呟いた。
「いや、何。お前が分かりやすいという訳じゃ無い。お前に似てる目をしてる奴を知っているんだ。」
「………私に、似てる?」
「ああ。そいつも不器用でな。周りの誰にも助けを求めず、1人で抱え込んでいる。元来の性格の影響か、育った環境か、義務感なのかは分からないがな。」
不機嫌そうな表情を浮かべつつも、アルカが口を挟む様子は無い。
「ブラックリベリオンでお前に会った時、私は安心した。お前の目が真っ直ぐに、前を向いていたから。ああ、器用に生きていけてるんだなと、あの時の私はお前に対してそう思った。しかし――。」
ノネットの何時に無い鋭い視線が、アルカを射抜く。
「今のお前はどうだ。あの時とは別人の様だぞ。」
「―――――――それはそうでしょう……。」
たっぷりと時間を貯めて、小さくアルカは呟く。
「…あの時の私は、忘れていたんだから……。嚮団で何があったか、私がどんな気持ちを抱いたか、何を願ったか―――!」
小さい手を握りしめて、伏せがちだった瞳を真っ直ぐにノネットに向ける。
「騎士団が、兄上が、貴女が! 見てきた私は全て偽物のなの! 皆が頼ってくれる私も、兄上が褒めてくれる私も、貴女が安心を覚えたアルカは、偽りの存在に過ぎない…。」
その瞳に涙を浮かべて、少女は吐露する。
「唯一、本当の私を知る人も、居なくなってしまった…。だから―――!」
「何が偽物だ、馬鹿馬鹿しい!」
真っ直ぐアルカの瞳を見つめ、ノネットは一喝する。
「っ! 何も知らなくせに…!」
「ああ、知らんさ。お前が話さないのだから、知るわけがないだろう。だが、知らない私でも分かることがある。」
彼女は続ける。アルカが口を挟む隙を与える事無く。
「お前は言ったな、今までの自分は偽物だと。しかし、それは勘違いも甚だしい。」
「…何を……。」
「記憶を失っていようと無かろうと、お前はお前だ。何故か分かるか? そこにお前の意志があるからだ。自らの考えで、想いで行動を選択出来る。それは紛れも無く、本物、だろう。」
「…でも、そこに願いの原点があると無いじゃ話が――。」
「そう答えを急ぐな。良いか、選択するのは過去の自分では無く、今の自分だ。過去に起きた事はもうどうする事も出来ん。それなら、その過去に起きたことを踏まえて、今後どうするかを考えるべきでは無いか?」
「私が、考えていないとでも…?」
「少なくとも、今後の事など考えていないだろう。今のお前は、過去の出来事にばかりに目を向けて、自分自身を縛り付けている様に見える。」
鋭い視線を向けていたノネットが、再び目元を柔らかくして語り掛ける。
「自分一人で全てを決める必要などない。お前はまだ、子どもなのだから。一度、落ち着いて周りを良く見てみろ。本当に、お前の周りは敵しかいないのか?」
「………。」
「使えるものは何でも使え。そして勝ち取れ。少なくとも、私が惚れ込んだアルカはそういう人間だ。」
「…………。」
アルカはノネットの言葉に返答する事無く、部屋を後にした。
◇◇◇
ブリタニアの皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアが行方不明。
シュナイゼルを中心とした軍の動きから、兄上はそう結論付けた。
黄昏の間での出来事の時、どうやら一人だけ取り残された様だ。
「…ん……。」
「お、お嬢様…。」
ゼロの私室にあるソファで、2人の少女が身体を横にしていた。
戸惑うC.C.を気にした様子を見せる事無く、アルカは隙間が無いくらい身体を寄せる。
今、この場に兄上は居ない。
連合国家「超合衆国」の建国に向けて会議に参加している。
日本、中華連邦を中心とするアジア諸国とE.U.の一部を一纏めにすることで、規模だけで言えばブリタニアに匹敵するほどの大勢力が誕生する。
これが認められれば、晴れて黒の騎士団はテロリスト、としてでは無く、一つ国として、大義名分を掲げてブリタニアと戦争をする事が出来る。
超合衆国が誕生し、ブリタニアとの戦争に勝つことが出来れば、黒の騎士団のみならず兄上の大望も叶えられ、姉上を取り戻す事が出来る。
しかし、それを意味するのは皇帝を殺すという事。
すなわち、彼女の願いは―――。
どうして、あの時兄上の手を取ったのだろう。
願いを叶えるだけなら、無視してC.C.のコードを私に移せば良かったのに。
「……分からなくなっちゃったな。」
ぼそり、と小さく呟き、C.C.の胸へと顔を埋める。
「何時までそうしているつもりだ? C.C.が困っているぞ。」
ふと、新たな声が加わる。
少し驚いた様子のアルカは、目線だけを声の主に向ける。
そこには呆れた笑みを浮かべながら、アルカとC.C.を見下ろすピザを持ったルルーシュが居た。
「……、いつからそこに?」
「ついさっき。気づかなかったのか?」
珍しいな、と言いながら手に持つピザを机に置き、2人の向かい側に座る。
「ノネット・エニアグラムに会ってからずっとその調子だが…、何か言われたのか?」
「……別に、将来の事について考え中。」
「将来、か。先の事を考えてくれているだけで俺は嬉しいよ。何せ、あの時のアルカは――。」
「…まだ、完全に諦めた訳じゃ無いから。皇帝の言葉よりも、兄上の言葉の方が良く聞こえた、ただそれだけ。兄上が少しでも道を違えたら、その時は――。」
「…ふっ、今はそれだけで十分さ。お前がこっちに居るだけで、な。」
「………。」
自信があるのか、至って余裕の表情を浮かべてルルーシュは机のピザへと手を伸ばす。
「あの…、ご主人様。この食べ物は……?」
アルカに拘束されたままのC.C.は、目の前のピザに興味を示す。
「ん、ああ。ピザだよ。お前が好きなやつだ。」
「…ピザ……。」
食べてみたい。そんな気持ちが見え見えのC.C.にルルーシュは笑みを浮かべて、「解放してやれ」と呟く。
渋々と言った様子ではあったが、アルカは言葉に従い、C.C.に回していた腕を解いた。
「美味いか?」
解放されたC.C.は、すぐに身体を起こしてピザを頬張る。
「~~!! すごく、すごく!!」
口いっぱいにピザを蓄え、幼い笑顔を浮かべるC.C.。
その表情は幸せに満ちていて。
「…………。」
それを見たアルカはピザを食べるのを止めて、C.C.の顔をじっと見つめる。
「………? お嬢様? 私に何か…………?」
「……別に。それより、超合衆国の方は?」
C.C.へ向けていた視線を外し、話題を変える。
「ん、ああ。各国からの承認は得られた。後は……。」
「世界にアピールするだけ、か。」
さてと、どうするべきか。
アルカの頭にはこの後に控える戦争の事よりも、別の事で一杯だった。
C.C.という願いを共にする人を失い、独りになってしまった自分の身の振り方を―――。
◇◇◇
「はぁ? ランスロットにフレイヤを?」
ナイトオブシックス、枢木スザク直属の研究チーム「キャメロット」に所属する軍人。セシル・クルーミーは驚きの声を上げた。
「いやその、本当は枢木卿には紅蓮に乗ってもらうつもりだったのですが……。」
キャメロットの設立と同時に、別の研究チームから移籍してきた少女、マリーカ・ソレイシィは頬を掻きながら苦笑を浮かべる。
「僕が!?」
スザクの視線の先には幾度と無く立ち塞がった真紅の機体。
その風貌は捕縛した時と比べて大きく変わっていた。特に目が引くのは、その背中にある飛翔滑走翼に代わる新しい翼だろう。
「ラクシャータのマシンだから弄りやすくって。ねぇ、セシル君。」
「ご、ごめんなさいね。私もついついノっちゃって…。気づいたら趣味の世界に……。」
「それで出来上がったのが誰にも乗りこなせないモンスターマシン。全く、2人の研究バカっぶりには呆れてしまいますよ…。」
ロイドとセシルの言い分を聞いて、マリーカはやれやれと横で首を振りながら口を開く。
「そういう君だって、ノリノリだったじゃないの。ほら、エナジーウィングの設計の時――――。」
「あぁぁぁぁ、あ、あれは! 新しい世代の誕生と言う歴史的瞬間に立ち会える事に感動したと言いますか―――。」
君も研究バカの一員では。とスザクは思ったが、口には出さなかった。
「まぁ、兎に角、紅蓮を乗りこなす為には流石の君でも練習が必要だ。でも、僕らにはそんな時間は残されていない。そこでニーナ君が…。」
ロイドの後ろで控えていたニーナがスザクに歩み寄る。
「今の黒の騎士団には強大な戦力が揃ってきているでしょう? それこそ、ラウンズと渡り合える位に。」
エリア11に集結した戦力は強大だ。
在住軍に加えて、ガレスを始めとする本国の新型。
そして各国に散らばっていたナイトオブラウンズ達。
黒の騎士団が勝てる要素はほぼ零に等しい、が相手はゼロだ。その万が一を何度も覆してきた男。
そんな万が一の時に、彼女はスザクに判断を委ねたい様だ。
「フレイヤは貴方を守る為でもあるのよ。一次制圧圏内に含まれた物質は、フレイヤのコラプス効果によって完全に消滅するから―――。」
「……僕に、背負えと…。」
人の命も、人の営みも、簡単に消滅させる最悪の兵器。
その兵器は、一人の少年の心を壊すには十分すぎるものであった。
しかし、それはもう少し後の話。
何故期間が空いてしまったか。
それは、FGOのアトランティスからアヴァロン・ル・フェを一気に駆け抜けていたからです。
全てはツングースカ・サンクチュアリの為に…。
私、エクストラの頃から玉藻好きなんですよ。やらない理由は無い。
フェイトの小説も書いてみたいなー!
でも難しそうだなー!