コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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TURN26 想い

 

 何かに依存しなければ生きていけなかった。

 そういう生き方しか少女は知り得なかった。

 

 奪われたく無かった。

 奪われ続けた人生だったから。

 

 だから奪い続けた。

 それが自分を守る為に必要な事だった。

 

 

 「誇らしい」と喜ぶ者も居た。

 「忌々しい」と憎む者も居た。

 「穢らわしい」と蔑む者も居た。

 

 

 それでも彼女は進み続けた。

 何か突き動かすものがあった訳では無い。ただ漠然と奪われたくなかったから。

 

 結果、彼女は手に入れた。

 力が全てのこの帝国でも【最強】と称される位、ナイトオブラウンズの席。

 

 自身の両肩に乗る黒いマントを見て、少女:アルカは漠然と思った。

 

 

死に装束みたいだ、と。

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ数える程しか訪れていないのにも関わらず、何処か居心地の良さを感じてしまうのは何故だろうか。

 

 無数の本棚が果てまで立ち並び、記憶を切り取った様な絵画が虚空を漂っている。そんな非現実的な光景も、まるで日常の風景の様に感じる。

 自身に内包される世界だからか……それとも、私が彼女達へ近づいているからか。 

 

 答え合わせをしたい所ではあるが、求めている回答は戻って来ないだろう。

 何故なら、私よりも私の世界を知っていそうな少女は、ある額縁にお熱の様だから。

 

 

「……何を見てるの?」

 

 

 ソファに深く腰を掛けた黒髪の少女、O.O.。

 彼女は映画でも観ているかの如く、ニマニマと笑みを作っていた。

 

 

「君のイフ」

 

「イフ?」

 

「つまりもう1つの現実さ」

 

「言葉の意味は聞いてない」

 

 

 「そうかい」と意地悪そうな笑みを含んだままO.O.は、視線をアルカへと移す。

 

 

「内容は?」

 

「知らない方がいいんじゃないかな。きっと君、もう1人の自分に虫唾が走って殺したくなるよ」

 

「……はぁ。話す気無いのは良く分かった」

 

「話しても何の得も無いからね。もう過ぎた事だし。……まぁ遊びの無いこの世界での数少ない娯楽さ」

 

「………鑑賞料でも請求しようかな」

 

「おいおい、つれないこと言うなよ。()()()()()()()でもあるんだ」

 

 

 やれやれと言う様に首を振り、呆れた笑みを浮かべるO.O.。

 

 

「状況は?」

 

「曖昧な質問だな。君が聞きたいのは戦況? それとも自分の置かれた状況? 前者なら私は知らないし、知っていたとしても教える意味が無い。教えたとて、今の君は何も出来ないのだから」

 

「……というと?」

 

「言葉通りの意味さ。現実の君は昏睡状態。要するに意識だけが切り離されている状態だ。ここを出ない限り、向こうでの活動なんて夢のまた夢だよ」

 

「ならここを出ればいい……と言いたい所だけど、きっと簡単な事じゃないんでしょうね」

 

「ご明察」

 

 

 張り付いた様な笑みを浮かべたO.O.が腰を上げた途端、澄んでいた筈の青空がみるみる塗りつぶされた。焼けるような黄昏へと。

 

 アルカから訝し気な視線を注がれる彼女は、肩をすくめて「僕の所為じゃないぜ」とやはり飄々とした態度でそう言った。

 

 

「僕やC.C.、V.V.…じゃなくてシャルル。そして、君。なぁ、コードって何だと思う?」

 

「…………」

 

()の国ではね。コードはその代の当主に受け継がれていくものだったんだ。尊き血──なんて私の一族は呼ばれていたね。そう呼ばれる以上、勿論役割もあった。ブリタニア風に言えばノブレス・オブリージュってやつ」

 

 

 黄昏の空を仰ぎながら、O.O.は懐かしむ様に目を伏せた。

 何時もの態度は鳴りを潜め、茶化す様子無く淡々と語る。

 

 

「役割は2つあってね。1つは国を治める事……まぁ私の代は小さい国だったけど、まぁそれなりに大変だったよ。そしてもう1つが───民草の願いを空に届ける事」

 

「空?」

 

「例えじゃない。本当に空へと……より詳しく言えば、その先に存在するモノに届けていたんだ。ほら丁度、こんな茜空だった」

 

 

 以前にアルカは彼女の記憶と思われる光景を見た事があった。祭壇の上で祈る様に踊る黒髪の少女と膝を地に付けた民衆。

 

 

「踊るのは祭事の時のパフォーマンスの一種だったけど」

 

 

 彼女は畳みかける様に情報を加える。

 まるでアルカの思考を読む様に……いや、きっとお見通しなのだろう。なぜならここはアルカの内の世界であり、彼女はそこに巣食う魔女なのだから。

 

 

「まぁ要するに、私の国ではコード保持者と言うのはそういう役割を担っていた。別に尊き血が特別だった訳じゃ無い。コード保持者というのはそれを出来るだけの力があり、私達は本能的に本質を捉えていたという訳だ。つまり───おっと」

 

 

 その時、世界が揺れた。黄昏に包まれたアルカの世界が。

 ここはアルカという少女の全てが記録された世界、そこに生じる異変の原因など考え得る限り2つしかない。

 現実の自分に何かあったか。もしくは何者かが干渉しているか。

 

 

「おや」

 

 

 興味深そうにO.O.が口を開いた。

 彼女の視線を追う様に、回廊のその先……ポツンと現れたソレに視線を送る。

 

 

「なるほど、剣……。はは、ブリタニアらしいな」

 

 

 黄昏に染まる廻廊の、その中央に現れた岩。そしてそれに突き刺さった1本の剣。

 

 

「アーサー王物語……?」

 

「を模したもの、かな。ふむ、まぁ分かりやすくていいじゃないか」

 

「抜け、と?」

 

 

 アルカの言葉にO.O.が笑みを深くする。

 

 

「選定の時だ。剣を抜けば何もかもが変わるだろうさ。君も、人も、世界すらも」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は数刻遡る。

 

 

 空を突く摩天楼が立ち並び、人で賑わっていたトーキョー租界。エリア11の租界内で一番の発展を遂げていたその場所は、死に絶えたと言っても良かった。

 租界のあちらこちらに転がるNMFの残骸、まだ目新しい弾跡を残した建物、そして人々の亡骸。

 数を挙げればキリが無いほど、各地に残る戦火の爪痕だが、中でも目を引くのは、そのまま空間を切り取った様に出来たクレーターだった。

 

 直径20キロほどのそのクレーターには何もなかった。巻き込まれた人々の亡骸も、建物やKMFの残骸も、匂いさえも。ここにあったモノ、起きた事すら思い出せない程、何もない。

 効果範囲内を完全に消滅させる史上最悪の兵器によって繁栄を極めた租界は完全に死んでしまった。

 

 

 そんな事が起きてしまっては、最早戦争どころではない。

 進軍していた黒の騎士団は、総帥のゼロの指示により撤退。それを確認したブリタニア軍も警戒は続けているものの軍を退かせ、一時の休戦状態。

 今はお互いに行方不明者の捜索に駆られていた。

 

 

「っ」

 

 

 ゼロ=ルルーシュは荒れていた。

 部下からの報告を聞く度に口元を歪めては内心で悪態を吐く。その苛立ちを表す様に、ソファに腰掛けたその脚は頻りに揺れていた。

 

 絶好の機会だった。

 カレンが戻り、ラウンズを討ち取り、都庁に潜らせた佐世子はナナリーを見つけた。あと一手でチェックメイトだったのだ。完膚なき勝利が目の前だった。

 それがたった一つの兵器で覆された。

 

 軍は撤退を余儀なくされ、ナナリーと佐世子は行方不明。加えて別動隊として進軍していたアルカも、ボロボロの無窮を残したまま姿を消した。

 

 

「クソっ!」

 

 

 様子を影で見ていたC.C.が怯えた様子で肩を震わせた。

 

 言うまでも無く、彼にとっての妹達は戦う理由であり、生きる意味だった。ルルーシュという少年にとっての全てだ。

 だから彼女らの生存を確認出来ない限り、彼は仮面を取る事は出来ない。

 

 

「……兄、さん…」

 

 

 そんなルルーシュにとって、その者の存在は我慢ならない。

 

 

「…ロロか」

 

 

 ギロリと親の仇を見るような視線で、偽りの弟=ロロ・ランペルージを睨み付ける。

 

 ナナリーとアルカに代わり、自身を監視する目的ですり替わった赤の他人。

 何よりも妹達を大事にする彼にとってすれば、居場所を奪った略奪者。

 

 その利用価値から殺さず、仲間に引き込んだが、今となってはただの憎悪の対象。

 

 

「なぜ……」

 

「兄、さん……?」

 

「何故アルカ達なんだ…。オマエじゃなく…!」

 

 

 ルルーシュは信じたい、妹達が生きていると。

 しかしながら部下から告げられる報告が、現実がその願いを上書きしていく。

 

 フレイヤに巻き込まれたというナナリーが乗っていた脱出船。修復が不可能なほどボロボロになった無窮。

 

 ルルーシュ自身、薄々分かっていた。

 生きている可能性の方が限りなく低い、と。

 自分を見つめる批評家の自分が、そう警鐘を鳴らしているのだ。

 

 

「……は?」

 

「何故生きているんだと聞いているんだ!!!」

 

 

 だからロロの存在が許せない。

 何故、偽りの家族の方が生きているのだ。居場所だけでなく、その命すら上書きしてしまうのか。

 そんなドロドロとした憎悪が胸中に蠢き、それは言葉として吐き出される。

 

 

「お前が代わりに死ねばよかったんだよ………お前が生きているから、妹達は居ないんだ!! その為の命だろう? お前など、本当の家族になりやしない! この偽物め!!!」

 

 

 妹達と幸せに暮らせる世界が創る為のただの道具だ。理想を体現させるために消費されるただの駒。使い道が無くなれば、真っ先に始末すべき存在。

 こいつとの関係など、全て嘘だ。取るに足らない幻だ。

 

 

「出てけ! 最早お前には利用価値すらない……出てけよ、偽物!!」

 

 

 偽りの弟との生活。

 嘘に塗れた世界だった。こいつの存在は嘘。こいつへ向けた言葉も嘘。語った気持ちも全て嘘。

 

 だからこれが、初めてロロに送った真実であり本音だった。

 

 

 

 

 

 

 実に簡単だった。

 

 所詮はトップのカリスマ性で成り立っている烏合の衆。皆、ゼロという仮面に惑わされ、ギアスというペテンに魅了された哀れな観客に過ぎない。ましてや、ゼロの目的と幹部衆…つまりイレヴン達の目的は同じ様に見えて決定的に違う。

 だからそこを突いてしまえば簡単に揺らぐ。

 

 ゼロは秘密主義であったし、本来の人物像とかけ離れた行動を取る事があったと言う。元々、多少の不信感はあったのだろう。

 まぁそれでも、たかだがその正体と枢木スザクとの会話の録音。そしてギアスの事を伝えただけで崩壊するとは思っていなかったが。

 

 

「それは殿下の人徳では?」

 

 

 後ろのカノンがクスクスと笑みを浮かべている。

 

 

「……ふむ。それならいいけどね」

 

 

 カノンの言う通り、シュナイゼル・エル・ブリタニアの名が会合を有利に進めてくれたのかもしれない。

 兎に角、成果は予想以上だった。

 

 黒の騎士団はゼロへの不信から崩壊、指揮系統は藤堂、扇らの幹部達へ。

 しかし幹部達はゼロという共通の敵が生まれた事により、敵対心は薄く、加えて捕らえる見返りにエリア11の開放も約束した。つまり実質的に黒の騎士団、ひいては超合衆国の主導権はこちらが握ったに等しい。

 

 

「それで、ルルーシュは?」

 

「依然、逃亡中です。アーニャを出しましたが…、振り切られた様ですね」

 

「ギアスというのは厄介だね。時を止めるなんて……。アルカが居なくて良かったよ」

 

 

 ゼロ…ルルーシュを取り囲んだ時に現れた蜃気楼……、機情のデータにあった嚮団のエージェントだろう。ギアス能力も一致する。

 彼はたちまちルルーシュを守るや否や、彼を連れて飛び去ってしまった。

 騎士団とこちら、両軍からナイトメアをいくつか出したが、結果は芳しくない。

 

 

「アルカ、というのは……ゼロの…」

 

「妹、だね。向こうでは皇…と名乗っていたけど…。ほら朱禁城で仮面を身に着けていたあの子だよ」

 

「あぁ…、あの趣味の悪い……。ブラックリベリオンの時にエニアグラム卿を下し、中華連邦ではアーニャを退けた───」

 

「そう、その彼女。戦果も凄まじいけどね。マリアンヌ殿下の死後、幼い身で生きながらえた少女だ。恐らくギアスも持っている。居たらこんなにスムーズにはいかなかっただろうさ」

 

 

 いやはや、我が弟達は強敵だよ。とシュナイゼルは笑った。

 

 

「しかし哀れだね。どんなに能力を持っていても、死んでしまえば無力だ」

 

 

 そう語るシュナイゼルの目は冷たく、声音とは真逆の印象を受ける。

 

 

「一度退かせよう。蜃気楼が向かった先は神根島だろう? あそこにはオカルトにお熱の父上が居るからね」

 

 

 

 

 

 

 

「何故、助けた………」

 

 

 追手を振り払い、降り立った地で、ルルーシュは呟く。

 死に掛けた少年を見下ろして。

 

 

「…僕は、おとう、と……だから」

 

 

 ギアス能力はその者の素質によって左右される。

 元々持っている素質が高ければギアスも強大となり、低ければその逆。

 

 少年、ロロ・ランペルージはお世辞にも高いとは言えなかったのだろう。

 相手の時を止めるという強大な力の裏で、使用中は自身の心臓が停止するという重大な欠陥を抱えているのだから。

 

 そんな中、彼は追手を振り切る為に数十分に渡ってギアス能力を使い続けた。 

 そうなれば、もう彼は───。

 

 

「嘘だと言っただろう……」

 

「それ…でも、僕にとって……ほんと…だ、った、から──」

 

 

 元々白かった肌が、さらに白くなっていく。ゆっくりと、その生命活動が終わりに向かっている。

 

 

「アルカ、に…教わった、んだ………。好きな、人を……想って、行動する、こと……、大切だ、って」

 

「もういい! 喋るな! 後でゆっくり聞いてやる……! 待ってろ、機内に確か生命維持装置が………」

 

「…忘れ、ないで、兄さん……。に、いさんが、想うよう、に……にいさん、を想ってる───人も、居るんだ………。兄さん、1人の……い、のち……じゃ───」

 

 

 手足の感覚が無くなっていく、脳内が霧に包まれた様に不鮮明になっていく。

 それでも少年は想いを吐き続ける。

 

 

「ロロっ! ロロ───!!」

 

「……偽り、でもいい…から………、兄さんと……僕───4()()で暮らして、みたかっ────」

 

 

 もう何も見えはしない。その造られた瞳には、何も映していない。

 叫ぶ兄の声も、もう、聞こえない。

 

 

「おい! しっかりしろ! ロロ!?」

 

「──────」

 

「っ」

 

 

 全てを失った青年の叫びが辺りに響く。

 それは間違いなく、偽りの無い慟哭だった。




しれっと久しぶりに投稿……
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