虚しい。
そんな感情が胸に蠢く。
結局のところ、嘘に塗れた人生だ。それが、真実だ。
「……結局、俺は世界にとってのノイズで…邪魔者で………」
自分の信念に従って生きてきたつもりだった。仮面を取ったその時から、自分の人生が始まった気がしていた。
しかし、結局のところ、親の……こいつらの傀儡に他ならなかった。
そしてそれは俺だけでなく、ナナリーも……アルカまで………
「はっ……どう思う? お前達は」
そんな己を一番近くで見てきた共犯者。
そして真向から対峙してきた親友。
C.C.と枢木スザク。
「気付いていたのか? 私が来ると」
「元に戻っていることもな。死にに来たんだろう?」
その通り。と皇帝が言った。
「アルカのコードが目覚め、C.C.が揃った以上……準備は整った。故に枢木、追ってきたところで無意味な事よ」
「……でしょうね…。貴方は既に不老不死になったと聞きました。だから…確かめたい事があります。 貴方が創ろうとしているコレは……」
かつて、優しい世界をと望んだ少女達が居た。
片や幼馴染で、親友の妹で。身体に障害を負いながらも、誰よりも心優しい少女だった。
片や枢木スザクにとっては初めての恋人だった。自分の信じる世界を目指し、奔走し、そして命を落とした。
「そう、ユフィやナナリーが望んだ……優しい世界だ」
そんな少女達と同じ願いを、この男、シャルル・ジ・ブリタニアは持っていた。
「C.C.。アルカが継承した以上、これで始められる。お前達の願いは計画の後で、叶えてやろう」
「………………」
皇帝がその手を虚空へと翳す。
それぞれのコードの証が、ギアスの象徴が光り輝き、地は揺れ、空は割れた。
「嗚呼、始まる! アーカーシャの剣が…私の娘が神を殺す……!」
まるでハリボテの空だと、ルルーシュは思った。
存在する空間は違えど、見えている空は同じだった。
黄昏の空が消え去ったその先で、現れたのは巨大な惑星。いや、本当の惑星では無いのだろう。便宜上、その形をとっているだけに過ぎず、その実態は────。
集合無意識。
すなわち人類そのものであり、神である。
「ルルーシュ。君は何のために戦ってきた?」
くだらない質問だ、とルルーシュは思った。
「俺は妹達の為に」
「あの2人を言い訳に使うのか?」
枢木スザクの鋭い視線がルルーシュを突き刺す。
嗚呼、そうだよ。
妹達だけの為じゃない。俺は俺の為に…俺自身が大切にしたい全てのものの為に…戦ってきた!
【違う、C.C.の為なんかじゃない。】
【彼女と一緒に居たい。兄上と姉上と一緒に居たい。
カレンと、ミレイさんと、シャーリーさんと……
結局、自分の為だったんだ。】
【だって1人は寂しいから。孤独になりたくないから。
もう失いたくないから私は戦ってきた!】
───だから俺は。
──────皇帝の願いを認める訳にはいかない。
人は何故、嘘を吐くのか。
それは何かと争う為だけじゃない、何かを求めるから。
ありのままで良い世界とは、変化が無い、完結した世界。
歩むことを止めた世界など、死人と同じ。
自分同士で争い合う人間など勿論居ない。自分同士で意見を交わすものなど居ない。
全て分かり切っているのだから、分かり合う必要が無いのだから。】
【そこには発展も、温かみも無い。】
【分かり合おうとするから意見を交わすんだ。
分かり合おうとするから身体を重ねるんだ。】
【
俺は【私は】嫌だな、そんな世界。
「ルルーシュ、それは私も否定するということ?」
「母さんの願いも、皇帝と同じなのですか?」
「1つになるという事はとっても良い事だと思わ。死んだ人とだって一緒になれるのよ。
スザクの眉が僅かに揺れた。
「そうか…やはりな……お前達はそれをいい事だと思っているしかし……! それはただの押し付けた善意だ。悪意となんら変わりは無い」
「いずれ…皆、分かる時が────」
「そんな時は来ない!!!!!」
ルルーシュの瞳に涙が浮かぶ。
知ってしまった。分かってしまった。
これは紛れもない真実だ。
こいつらはどうしようも無く、救いがなく、自分達の善意が全て正しいと、そう思っている。
だが───。
「お前達はそれが俺達に善意を施したつもりなのかもしれない……。しかし! お前達は俺達
結局のところ、俺もナナリーも、アルカも。
こいつらにとってはただの手駒だったんだ。結果的に会えるのだから、死人にすら会えてしまう世界になるのだから。
その過程でどうなろうと知った事かと素知らぬ振りをしていたのだ。
「結局、お前達は未来なんか見ていないんだ!」
「未来はラグナレクの接続……ナナリーの言った優しい世界が…」
「違う! ナナリーが言ったのはきっと…他人に優しくなれる世界……お前達はただ、自分に優しい世界を創ろうとしているだけだ!!」
ナナリーが流す涙の意味を、こいつらは知らない。
アルカが人を想って行動する意味を、こいつらは知らない。
自分自身しか見えていないこいつらに、分かる筈が無い!
「そこに居るんだろうアルカ。これが俺の答えであり願いだ。俺は歩みを止めたくない」
ルルーシュはコンタクトを外し、自身の呪われた瞳を顕わにさせる。
奪ってばかりの、間違ってばかりの力だった。
しかし、今こうして、彼は人類の為に力を振るう。
使ったら、最後、その願いは永遠に残り続け、その者を蝕んでいく。
コードを継承し、力も消えたと思ったが、そうでも無いらしい。
多分、一度死ななければ消えないのかもしれない】
【……でも今は、この醜い力が必要の様だから、まぁそれも良しとしよう】
【神が息絶えるその前に、彼女の様に祈りを捧げよう】
ルルーシュは空を仰ぐ。
双方の
絶対順守の、願いの力。
「神よ! 集合無意識よ!」
俺達【私】は───明日が欲しい。
崩れていく、崩れていく、崩れていく。
とある君主の夢が、理想が、嘘が。
天を突く程の剣も、それを動かしていたシステムごと。
「バ、馬鹿な……崩れていく……思考エレベーターが、ワシと兄さんの夢が………!」
「貴方っ!!」
マリアンヌは叫んだ、夫の元へ向かおうと。
しかし、足が言う事を聞かない。
そこでやっと気づいた。
自分達の身体すら、崩れていっていると。
「それが答えだ…現実だ………」
世界がそう判断したから。
前に進む為に、その者達は不要だと判断したから。
世界から弾き出されてしまえば、いくら不老不死とは言え存在することは許されない。
「愚か者が…! ワシを否定すれば…待っているのは奴の…シュナイゼルの世界だぞ! 善意と悪意は所詮、一枚のカードの裏表…それでも貴様は!」
「だとしても、俺達はお前達を否定する! ………消え失せろ!!!!!!」
大国の皇帝と、その妻の断末魔が響く。
世界そのものを変えようとした観測者は、他でも無い世界に呑まれ、塵と化した。
▼
「はっ、良い恰好ね……お義父様。それに、お母様」
世界に…集合無意識に一番近かった少女が、剣の崩壊と共にルルーシュの前へ姿を現した少女がそう言った。
宙に舞って消えていく、塵を眺めながら。
「……出来れば、その死にざまも拝みたかったな」
「…アルカ」
「何、兄上」
「これからどうするつもりだ」
「どうする……ねぇ」
チラリとアルカはC.C.に視線を送る。
地べたに座り込み、意気消沈と言った様子だ。
「Cの世界に触れて俺達は知った。人々は明日を望んでいる、と。それはアルカ、お前にも感じただろう? だから願いを届けてくれた」
「………………」
「だからもう一度聞こう。お前の願いで歪めたこの世界で、お前は何をしたい?」
「私は────」
▼
第二次トウキョウ決戦から一か月が過ぎた。
被災したトウキョウ租界は復興の兆しが見え始め、今日に至るまで戦火を浴びることも無かった。
いや、トウキョウ租界だけでは無い。
世界中の至る所で、ここ一か月大きな争いは生まれなかった。
ひとえにそれは、ブリタニア皇帝:シャルル・ジ・ブリタニアが玉座を空けていたからである。
反ブリタニア組織の黒の騎士団を戦力として保有する超合衆国ですらも、皇帝の不在とゼロの失脚により、まともな活動は取れていなかった。
そんなある日、全世界に激震が走った。
一か月もの長期に渡って席を空けていた皇帝シャルルから、重大な発表があると。
ブリタニアの首都、帝都ペンドラゴンでは皇族と主要貴族が集まり、あの男が姿を見せるのを待っている。
全世界の人々が、中継を通してその様子を見ている。
「皇帝陛下、ご入来!!」
軽快なファンファーレが宮殿内に鳴り響く。
そう、これは世界の王の凱旋歌。
───誰もがそう思っていた。
「は?」
ブリタニアの第一皇子、オデュッセウスが声を上げた。
毒にも薬にもならぬ、第二皇子の陰に隠れた平凡な男。
しかしそんな彼にもこれが異常であると、そう感じれたのだ。
「あれって……」
「嘘、まさかテロリストの……?」
彼に続いて主要貴族達が口々にそう言った。
そう、現れた人物は皇帝などでは無かった。
響く足音は舞踏会のに向かうお姫様の様に軽やかで、その体躯も非常に小柄。身に纏う服装も、気品は感じるがただの学生服だ。子どもと言っても差し支えなかった。
しかしそんな、威厳とは無縁の風体であるが故、その顔を覆う仮面が余計に恐ろしく見えた。
その仮面をオデュッセウス達は知っている。
ブリタニアにとってのテロリスト、そうでない者達にとっての英雄。
そんなゼロに付き従う、日本の貴き血【皇】を名乗るもう1人の少女だったのだから。
会場のざわつきなぞ何のその。
その【皇】は君主の椅子に腰掛けた。皇帝だけが座る事を許された玉座に。
「まさか……あのテロリストがお父様を…」
第一皇女、ギネヴィア・ド・ブリタニアが口を開いた。
「衛兵! 何をしている!? あの痴れ者を───」
『まぁ、お姉様。落ち着いてください。貴女は歳を重ねるばかりで全く成長していない。少しは考えたらどうですか、この状況を』
玉座の少女が仮面に手を掛ける。
皇族であるギネヴィアを姉と呼んだ少女が。
この場に居る全員が、ギネヴィアさえも固唾を呑んだ。彼女の一挙手一投足、目が離せなかった。
仮面から現れたのはやはり幼い少女だった。
淡いクリーム色の髪、アメジストの瞳、陶器の様な白い肌。
「……なっ」
「あ、ありえない……」
それを彼女達は知っている。
皇族であれば、誰しもが知っている。
無数にいる兄弟達の中でもさらにその末端。
「私が、第99代皇帝。アルカ・ヴィ・ブリタニアです」
最も皇帝の座から遠いとされていた少女が、そう雄弁に語った。
▼
これはアルカが生まれるよりも前の話。
ナナリーがまだ、生まれたばかりのそんな時期。
皇妃マリアンヌは毎日の様にそこへ訪れていた。
不可思議な力であり、計画の源。ギアスを研究する嚮団。
「ねぇ…このR因子っていうのは何なの?」
モニターを指差しながら、彼女は研究員に問う。
「ギアス能力に関わる才能……素質…と言うべきでしょうか。高ければ高いほど、その能力は強大なものとなります。逆に──」
「低ければその能力は微小で使いにくくなる…と」
私の様に、とは言わなかった。
「じゃあこのC因子っていうのは?」
「まだハッキリとは分かっていないのですが…。心を読んだり、通わせたり……要するに教祖様たちに近い素養かと……」
ふぅん。と機械に繋がれた容器の中で眠る、生まれたばかりの赤子を眺める。
「ナナリー様はC因子に関しては高い数値を示しています。逆にルルーシュ様をR因子をシャルル皇帝とマリアンヌ王妃……2人の素養をそれぞれ受け継いだのかと」
「遺伝するの?」
「はい。両親の値が高ければ高い程、その子どもに引き継がれて───」
「仮に後付けでも?」
「…………ある程度は……」
マリアンヌはしばらく考え込んだ後、朗らかな笑みを浮かべた。
「なら因子活性剤をくださいな。ルルーシュ用にR因子、ナナリーと私用にC因子のを」
「……王妃にもですか?」
「…………何かと都合良さそうだから」
悪戯っぽく笑みを浮かべた後、マリアンヌは眠るナナリーに手を伸ばす。
優しい手付きだった、まさに理想的な母親の。
しかしながら、その赤子を見つめる目はどこまでも冷めていて恐ろしかった。
「聞いていて? ナナリー。貴女の素質は子どもに受け継がれるんですって」
細い指が赤子のナナリーの方を撫でる。
「どうする?
これは皇帝も、ナナリーも、C.C.も。
誰も知り得ない、今後も知る由の無いほんの一幕。