コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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TURN30 一天万乗の君

 

 

 有り得ない。

 

 と誰かが言った。

 

 

 そう、有り得ない。

 あの少女が、玉座に座る事は決して。

 

 アルカ・ヴィ・ブリタニアは皇族の中でも末端も末端。

 他に何人、皇族が居ると思っているのだ。他に何人、先立つ兄妹達が居ると思っているのだ。

 

 既に軍人として、為政者として、成果を挙げている者も居ると言うのに。

 今まで何もしてこなかった……国にすら居なかった末妹が、皇帝だと?

 

 いや、そもそも………

 

 

「生きていた……?」

 

 

 ギネヴィアは知っている。いや、彼女だけでない。オデュッセウスも、カリーヌも。この場に居る皇族、主要貴族全員が知っている。

 彼女、アルカ・ヴィ・ブリタニアは、マリアンヌを追う様に殺された、と。

 

 

「そうです、お姉様。地獄の底から舞い戻ってきました」

 

 

 死んだとされた少女は穏やかな笑みを浮かべ、またも雄弁と語る。

 

 気に喰わない。

 チラリ、とある女性の面影が重なった。

 庶民の出でありながらラウンズまで上り詰め、あまつさえ皇帝の側近として迎え入れられたあの女。

 

 マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの顔がチラつくのだ。

 

 

「う、嬉しいよ、アルカ。生きていたなんて。しかし…少々悪戯が過ぎるんじゃないか? そこはお父様の───」

 

「相変わらず何も見えて無いようですね。お兄様」

 

 

 これではシュナイゼルの陰に隠れるのも当然です。

 そう、玉座の少女は嘲笑う様に自身の兄姉(きょうだい)達を見つめる。

 

 

「先代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは私が殺した。よって、次の皇帝には私がなる。─────弱肉強食はこの国の国是でしょう?」

 

 

 今度こそ宮殿は困惑に包まれた。

 呆然とするもの、怒りを表すもの、恐怖を感じるもの。反応は様々であるが、誰一人として彼女の即位に賛同するものなど居ない。

 しかしそんな様すら娯楽映画だと言う様に、相も変わらず彼女の顔には笑顔が張り付いていた。

 

 

「あの痴れ者を排除しなさい! 皇帝陛下を弑逆(しいぎゃく)した大罪人です!」

 

 

 混沌としたこの場で、一早く平静を取り戻したのは第一皇女、ギネヴィアだった。

 

 いきなり皇帝を名乗る少女よりも、既存の皇女に従うの極自然の事。衛兵達は玉座の少女にその切っ先を向け、始末しようと試みる。

 

 ────しかし、その刃が少女の首に届く事は無かった。

 

 

「おっと、オイタが過ぎるな? 皇帝の御前だぞ?」

 

 

 槍の切っ先が切り落とされていたからだ。

 零れた刃はカランと虚しく音を立て、剣を携えた()()の女性の足元で転がっている。

 

 

「皇帝陛下への無礼を、見逃す訳にはいかない」

 

 

 そしてもう1人。

 少女の盾となる様に立ち塞がる茶髪の青年。

 

 

「紹介しましょう。私の騎士、ノネット・エニアグラム卿。そして枢木スザク卿。彼らには新しきラウンズとして、それぞれナイトオブワン、()()()()()()()の称号を与えます」

 

 

 さらに宮殿内の困惑は増していく。

 かつて先代皇帝に忠誠を誓った円卓の騎士達が、今では皇帝を自称する少女の前で跪いてる。

 

 温厚で有名なオデュッセウスですら、その異常さに僅かに身震いを覚えた。

 

 

「そして───もう1人」

 

 

 しかし、少女は淡々と告げる。

 既に決定事項だと。お前達に拒否権は無いのだと言う様に。

 

 そう、元より関係無いのだ。

 第一皇女が反発しようと、第一皇子が危機感を覚えようと、この場に居る誰一人として賛同していなくても、玉座の少女には関係無い。

 

 

「次期、帝国宰相を紹介します」

 

 

 コツコツと、ブーツの踵を地に鳴らしながら、その眼帯の男は現れた。

 

 どこまでも黒かった。艶やかな髪も、身に纏う服も。

 死神を彷彿とさせるその男の存在も少女と同じ様に異質だった。

 

 かつてユーロ・ブリタニアで指揮を執った軍師。パリへの侵攻に多大なる貢献をした後、死んだ筈の男。

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 彼もまた、皇帝の元に跪き、頭を垂れる。

 

 

「……あ、アルカ……君はこんな事をして──」

 

 

 危機感を覚えつつも、オデュッセウスは対話を試みた。一切理解は出来ないし、策も何もない。しかし彼は自身の知る妹だと信じて語り掛けた。

 これが現代で無ければ、平和な世の中であれば、平凡ではあるものの彼は良い統治者となったかもしれない。

 

 

「いや、そもそも。先程の仮面は一体………?」

 

 

 聞きたい事は沢山ある。

 皇帝殺し、次期皇帝の座、離反した2人のラウンズ………。

 

 しかし、まず第一に解消すべきはあのテロリストと同一の仮面。

 

 親族殺しは…まぁ悲しい事だが皇族・貴族ではよくある事だ。

 あと2つに関しても、力を持ち過ぎた皇族や騎士達が過去に起こした事例がある。

 

 どちらも歴史としては一般的に知り渡っている事柄も多いし、今起きたとしてこの国の根幹が揺れる事は無い。

 

 

 だけど、あの仮面だけはダメだ。

 

 皇……つまりイレヴン達にとっての皇族の様なもの。

 その一族の1人である少女が、ゼロに付き従いテロ活動を行っていたのは周知の事実。

 

 そんなテロリストの仮面を、アルカは身に着けてここに現れた。

 そしてよりにもよって、皇族である自分達の事を兄、姉と呼んだ。

 

 その意味が分からない程、オデュッセウスは間抜けでは無い。

 

 だから彼女に否定して欲しくて彼は問うた。

 自分が討ち取り、その戦利品だと、高らかに掲げて欲しかった。そんな淡い展開を、望んでいた。

 

  

「皇アルカ。そう、私のものです」

 

「は?」

 

 

 しかし、そんなオデュッセウスの希望もあっさりと吐き捨てられる。

 

 

「まぁどちらでも、好きな方で呼んでください」

 

 

 少女は静かに立ち上がる。

 

 体躯は大きくない。その手足も簡単に手折れてしまいそうなほど細く、肌は人形の如く白い。

 しかしそんな可憐とも言える外観にも関わらず──いや、だからこそ彼らは目を離せなかった。

 

 

「いずれにせよ、お前達の王の名である事に変わり無いですから」

 

 

 その唇から紡がれる言葉から。

 その毒々しく輝く()()()()()から。

 

 

「私が望むのはただ1つ───忠誠を」

 

 

 鈴の様な声音が、聖少女の様な可憐な声が響いた。

 それがさも合図かの様に、先程までざわめきに包まれていた宮殿内は静まり返る。

 

 

「イエス・ユア・マジェスティ」

 

 

 沈黙を破ったのは他でも無いオデュッセウスだった。

 焦燥と困惑に駆られていた筈の彼の顔は何処までも穏やかであり、丁寧な所作で膝を付く。

 

 そしてそれに連なる様にギネヴィア、カリーヌ。次第に宮殿に集まった全員がアルカを前に頭を垂れた。

 

 

「「「オール・ハイル・アルカ! オール・ハイル・アルカ! 」オール・ハイル───!」」

 

 

 まさに讃美歌の如き響き。

 宮殿内を震わす、新たな皇帝の誕生を称える歌は、いつまでも続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハ!」

 

 

 男は笑っていた。いつになく上機嫌に、心の底から楽しそうに。

 例え肉親がギアスによって歪められていても、例え母国が奪われようと、彼は楽しそうだった。

 

 元々、この男にとってブリタニアという国は、世界の1/3を統べる国すら、ちっぽけに見えていた。

 だから今更、国を1つ取られた位で、焦る様な事は無い。

 

 相手が動けば、こちらも合わせて動けばいいだけ。

 いや寧ろ、先に手の内を晒してくれるのならば、この後の展開も予測しやすいというもの。

 

 

「ありがとう、ルルーシュ。いや、ジュリアス・キングスレイと言うべきかな? 表に出てきてくれたお陰で、動きやすくなる」

 

 

 だから男は…シュナイゼル・エル・ブリタニアは感謝を述べた。

 勿論、皮肉ではあるが。

 

 

「殿下…お言葉ですが……相手は、皇アルカ……新皇帝の方では?」

 

 

 そんなシュナイゼルに水を差す様に、黒の騎士団を離れた男、ディートハルトは疑問を投げる。

 

 

「アルカは差し当っての問題では無いよ。彼女は賢いけど…、人の上に立つ様なタイプでは無いだろう?」

 

 

 シュナイゼルにとってのアルカ・ヴィ・ブリタニアは武人……要するにコーネリアやラウンズの様な戦場でこそ真価を発揮するタイプだ。

 勿論、全く向いていないとは思っていない。親が親だし、何よりルルーシュの妹なのだから。

 

 しかし、圧倒的に経験が足りなさすぎる。

 帝国から離れなければ、その才能も開花したかもしれないが、所詮、彼女は帝国の捨て子。外の世界で学べる事など、たかが知れている。

 

 仮にアルカがルルーシュと同じタイプならば、皇神楽耶を蹴落として当主に成り代わり、日本の実権を握っていただろう。

 

 

「勿論、戦場では会いたくないがね」

 

「しかしその心配も無いのでは? 彼女は皇帝。戦場を駆ける役割は……」

 

「ふむ、さぁ。どうかな。僕にはアルカがクイーンで、ルルーシュがキングに見えるけどね」

 

 

 暗にシュナイゼルはこう言いたいのだ。

 

 アルカは形だけの皇帝であり、その裏で糸を引いているのはルルーシュ。アルカの即位も、自分自身を宰相にしたのも、全て意味があってのこと。

 シュナイゼルはそう考えている。

 

 

「仮に、ルルーシュが手を打っていると仮定しよう。向こうの戦力は枢木卿、エニアグラム卿、それとアルカ。もしかしたらオレンジくんも一緒かな?」

 

 

 エニアグラム。その名前を聞いたコーネリアの顔が曇る。

 

 

「強大ではあるが、旧ラウンズが離反している以上、使える戦力は少ない。きっと暫くは、各地で起きる反発の制圧で忙しいだろう。僕らはその間に───カノン」

 

「はい。トロム機関から……既に完成していると…」

 

「うん、じゃあ試運転だ。まずは帝都ペンドラゴンへ。あぁ、気付かれない様に慎重にね」

 

「兄上!」

 

 

 咎める様なコーネリアの声に対し、シュナイゼルは穏やかな微笑みを返す。

 

 

「まだ打たないさ。国はルルーシュ達にあげようじゃないか。しかし」

 

 

 その先の世界を獲るのは、彼らのギアスか、それとも─────。

 

 

 シュナイゼル・エル・ブリタニアは好戦的な笑みを浮かべた。

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