コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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TURN32 傍目八目

 

 

 耳に届くのは、媚び諂う空虚な言葉。

 頭に響くのは、有象無象の願いの言葉。

 

 嗚呼、五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い。

 五月蠅くて夜もまともに寝れやしない。

 

 

「次っ」

 

 

 しかしそんな中でも、全てを忘れて没頭出来るのだから、やはりKMFの中は心地が良い。

 カメラに映る敵を、ただただ殲滅すれば良いのだから。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「凄いですね…。どんどんスコアを更新しています」

 

 

 元ナイトオブシックス専用研究チーム、現、皇帝直属研究機関「キャメロット」の副主任、セシル・クルーミーが唖然とした様子で言った。

 

 

「まぁ元々、騎士を目指してたらしいからね。当時は有名だったよ? マリアンヌ皇妃の教育熱心ぶりは。それに騎士団時代も常に戦場だろ? ラクシャータが気に入るだけはある」

 

 

 続いてその主任、ロイド・アスプルンドが言った。

 

 

「陛下。ほら、もう一つレベル上げますよ~!」

 

『うん』

 

 

 2人の視線の先にはマリーカ・ソレイシィが興奮した様子でシミュレーションの設定を弄り回していた。

 

 

「あまり根詰め無いで下さいよ。陛下、明日も予定があるんですから」

 

 

 分かってる。30分前にも聞いた言葉が研究所内に響き渡り、セシルはやれやれと首を振った。

 

 

「ロイドさんからも何か言ってあげてください!」

 

「僕から? 無駄無駄、聞くような人じゃないでしょ。こういうのは本人の気が済むまでやらせた方がいいの。陛下にとっても、マリーカ君にとってもね」

 

「マリーカちゃん? …………あっ…」

 

 

 天真爛漫、底抜けのポジティブ、ロイドに継ぐレベルの研究オタク……特徴を挙げればキリが無い彼女。

 一見悩みなど無さそうな彼女ではあるが、セシルはその心の底に持っている物を知っていた。

 

 

「キューエル卿…の事ですね」

 

「そう。ナリタ連山での作戦の時、とんでも無く強い無頼が居ただろ? 紅蓮はその時、ジェレミア卿と交戦してるし……。きっと、その無頼に乗っていたのは陛下本人。そしてマリーカ君は今や、兄の仇の部下だ。思う所はあるでしょ」

 

 

 戦場である以上、誰かは死ぬ。

 ましてや当時のキューエルとアルカは敵同士。アルカが死ぬ場合も勿論あった。結果的に、キュエールの力及ばなかっただけだ。

 

 そこを分かっているのか、マリーカはその事への恨み言は一度も吐いた事は無い。本人には勿論、周りの同僚達にも。

 軍に入っている以上、その覚悟は常にしていたから。

 

 しかしながら、身内贔屓は抜きにしても兄の操縦技術には目を見張るものがあったし、自分自身もそれを誇っていた。

 

 だけど兄は負けた。

 ましてや旧世代の量産型ナイトメアに。

 

 だからマリーカは知りたいのだ。

 この皇帝が……皇アルカの強さが絶対であることを。

 

 

『………レベル、3つ位上げたでしょ?』

 

「あ、バレました?」

 

 

 そして、この少女の力が何処まで伸びるかを。

 それが彼女なりの、気持ちの決着の付け方だった。

 

 

「まぁ陛下にとっても良い息抜きだと思うよ。ほら、昨日の謁見は散々だったらしいから」

 

「ああ……鋼髏の…」

 

「それにデータが沢山取れた方が僕らにとっても有難いからね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからもう1時間。

 

 暇を持て余していたセシルが料理でもしようかと、包丁を取り出した所で件の少女はコックピットから出て来た。

 

 

「お疲れ様です、陛下!」

 

「ん、ありがと」

 

 

 マリーカが持ってきたタオルを受け取り、汗を拭く。

 数時間にも渡ってシミュレーションをしていたのだから、当然ながらその運動量も凄まじい。

 

 しかし、その疲労も感じさせずに軽やかな足取りで歩く彼女は流石と言うべきか。

 

 

「分かっていた事だけど、やっぱり()()()()()はこっちの方が向いてるねぇ」

 

「ロイドさん!」

 

 

 ロイドの相変わらずの態度にセシルは非難の声を飛ばすが、アルカがそれを制止した。

 

 

「いいの、セシルさん。ここは公の場じゃないんだから」

 

「いえ、ですが……」

 

「まぁ確かにその姿を見て、誰も皇帝とは思わないですよね~」

 

「マリーカちゃんまで!!」

 

 

 と、口では非難しつつも、セシル自身も内心でマリーカの言い分には一理あった。

 

 今の皇帝…アルカは雑に髪を1つに纏め、タオルを首に掛けた挙句、タンクトップにショートパンツと非常にラフな格好だったのだから。

 

 

「それより、データは役に立ちそう?」

 

「えぇ、それはもう。所で、どうでした? ()()()()()()()()()?」

 

「反応がコンマ2秒位遅かったかも。もう少し早くても大丈夫」

 

「えっ!?」

 

 

 セシルが素っ頓狂な声を挙げる。

 それもその筈、今回は彼女の中での最高の調整のつもりだったのだから。

 

 

「あの~、お言葉ですけど、エナジーウィング付いたら操作感変わりますよ?」

 

「勿論、織り込み済み」

 

「あ、はい」

 

 

 マリーカが恐る恐ると言った様子で手を挙げたが、それも一言で済まされる。

 この皇帝、思っている以上に開発者泣かせである。

 

 

「出来そう?」

 

「まぁ完成は何とか。だけど紅蓮と同等とまでは言えませんね」

 

「あちらは元となる機体がありましたから……。ただ今回の2機は完全新造…、0からの設計です。時間がいくらあっても……」

 

 

 この先の戦いで、真っ先に障害となるのは紅蓮だ。

 現状、この世界で唯一の第九世代NMF……いや、世代を1つ飛ばして第十世代と言ってもいいかもしれない。

 それほどまでに、あの機体は強烈だ。

 

 ……それをその場のノリで開発してしまったこの3人が言うのだから間違いない。

 

 だから紅蓮に太刀打ち出来るほどの機体が必要だった。

 それほどまでにあの「紅蓮聖天八極式」という機体にはありとあらゆる可能性が秘められている。

 それこそ、たった一機でこちらの軍を壊滅させてしまう程の。

 

 

「じゃあ、第2生産ラインを止めてアルビオンに回して。1機さえ出来てしまえば旧植民地エリアへの侵攻も容易になる、量産機はその後からでもリカバリーが───」

 

「いや」

 

 

 2つの足音と共に、とある男の声が加わった。

 

 

「僕よりもアルカの方を優先するべきだ。だろ、()()()()()?」

 

「そうだな、全く。蜃気楼の修理を優先しなければ良かったんじゃないか?」

 

 

 2人の青年だ。

 一方は茶髪、一方は黒髪。

 

 良く知る人物だ。

 国内の反皇帝派の討滅を命じていた2人の部下……、いや今はただの友人と兄か。

 その2人の柔らかい表情が、それを如実に表していた。

 

 

「だって兄上、ナイトメア無いと弱いんだもん」

 

「あーまぁ、それには同意する、かな」

 

「………お前らな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで? 結局、お前の方を優先したのか」

 

「うん、そうだね」

 

 

 アリエスの離宮。

 かつてルルーシュやナナリー、そしてアルカが生まれ育った場所。

 

 しかしながら住んでいた、と言っても決して閉鎖的な空間として扱って居たので無く、シュナイゼルやクロヴィス、コーネリアとユーフェミア等、他の異母兄弟達の出入りもあり、他の皇族領と比べても比較的、人で賑わっていた。そんな場所だ。

 現在は皇帝であるアルカ自身が人の出入りを止めている為、宮殿内に居るのは極僅かの人間のみ。そしてそれも大半はギアスで縛り付けている者達であり、かつての賑わいはなりを潜めている。

 

 

「エリア侵攻でどうしても障害になるのは旧皇帝派達。取り分け、ビスマルクは厄介」

 

「あぁ、なるほど。だからお前か」

 

「そう言う事」

 

 

 C.C.はやれやれと言った様子で溜息を零した。

 

 

「折角の休みだと言うのに、年頃の女が……花が無いな」

 

 

 昼間はシミュレーションで時間を潰し、口から語られる事は政治や戦争の話。

 

 私がお前位の時はもっと遊んでいたぞ?とC.C.は遥か昔に想いを馳せながら言った。

 

 

「今更じゃない? 今まで、年相応に過ごした事なんて殆ど無いよ」

 

 

 生まれた時から…いや生まれる前から普通の人生とは無縁だった。

 常に血生臭い人生、命の危険が隣り合わせの人生。

 

 それこそ、年相応に過ごしたのなんて、アッシュフォードに通っていた時くらいか。

 

 

「まぁ別にそうしたい、とも思わないけどね。私は私だ。それに──」

 

 

 アルカはC.C.の手を自身の胸に手繰り寄せ、熱っぽく口を開いた。

 

 

「夜は貴女が花を持たせてくれるでしょ?」

 

「………そうだな」

 

 

 途端、アルカは手首を掴まれた。

 

 

「へ?」

 

 

 有無を言わせぬ力で芝生の上に押し付けられ、天地が逆転する。

 頬にかかったC.C.の髪が日差しでテラテラと光っていた。

 

 

「まぁ持たせるのでは無く、散らすが正しいがな」

 

「あの…ここ外……」

 

「黙れ、お前が悪い」

 

 

 ピシャリと言い放ったC.C.の眼は、狼の如く細められていた。

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