コードギアス 久遠のアルカ   作:キナコもち

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TURN35 皇帝の仮面

 

 

 皇帝はその殆どを王宮では無くアリエスの離宮で過ごしていた。過去に宛がわれた自室──と言っても既にその面影は無いのだが。ともかく過去を尊ぶ様にその場所を執務室代わりにしていた。キャメロット所属のマリーカなんかは「もっと威厳のある場所に居た方が…」と苦言を呈していたが、それを主任のロイドが止めた。

 そもそも今の王宮内において、皇帝が力を示すべき相手は存在しない。大半の兵士が、貴族が、旧皇族が、彼女のギアスによって縛られ人形状態。唯一、皇帝に口がきけるのもスザクやルルーシュ、ノネットといった彼女のギアスを知る者達のみだ。世界一の大帝国と言えど、その中心で動かす者達は気を許せる身内のみの少数精鋭。対外的にはまだしも、王宮内で力を誇示し続ける必要は無いのだ。

 

 

「首尾は?」

 

 

 皇帝が座るにはあまりにも質素過ぎる木製の椅子に腰掛け、皇帝アルカはジェレミアに問うた。

 

 

「総督府は完全掌握。旧体制派の武装解除も滞りなく。キングスレイ卿の指揮の下、今は支援者のピックアップを──」

 

 

 片目のサイボーグ部分をキラリと光らせ、アルカの前で跪いたジェレミアが淡々とその後のエリア1の状況を告げる。

 ビスマルクが戦死し、指導者を失ったエリア1。ビスマルクがシャルル・ジ・ブリタニアの懐刀だったこと、エリア1自体が帝国の属領としての歴史が長いこと。その二点から陥落にはもう少し時間が掛かると想定されていたが、やはり力がモノを言う時代。圧倒的な力を前にはただただ平服するしかないらしい。

 

 

「現時点で分かってるのは?」

 

「こちらを」

 

 

 ジェレミアから差し出されたタブレットを受け取り、アルカは詰まらなそうに眺める。

 

 

(………ふっ)

 

 

 部屋の片隅で控えていたノネットが、その姿を見て思わず内心で微笑む。まるでままごとだな、と。皇帝が身を置くには似つかわしくない質素で狭い部屋、そもそもの皇帝であるアルカの風貌、様子。いや、会話の内容自体は至極真っ当であるし、重要事項ではあるのだが、あまりにも威厳というものが欠けている。身内しか来ないからと、皇帝特注の礼服を脱いでいるのもそれを助長しているだろう。最も今着ている黒いドレスも上物ではあるのだが。

 

 

「元貴族に、騎士侯。政治家まで。選り取り見取りね」

 

「如何なさいましょう?」

 

「全員の首を撥ねましょう。皇帝の失墜を狙った反逆罪です」

 

「よろしいので?」

 

「もう用済みよ。どうせ情報提供のお願いをした後なんでしょ? あにう……ジュリアスが出張っていて、これしか情報が無いって事はそういう事。だったら見せしめにした方が効果的ではないですか? 血を見れば誰に仕えるべきかも分かるでしょう」

 

「イエス、ユアマジェスティ」

 

 

 再びペコリと頭を下げ、ジェレミアは執務室を後にする。

 なるほど、さすがゴットバルト家の嫡男と言うだけあって騎士歴然とした男だ。とノネットは内心で感嘆した。正直、純血派やオレンジ事件など1年前は良い印象は抱かなかったが、道が交わった今なら彼の有能さが分かる。

 

 そんな彼の軽快な足音が過ぎ去ったのを確認して

 

 

「はぁ」

 

 

 とアルカは溜息を吐いた。

 

 

「危なかったな」

 

「五月蠅い」

 

「途中ルルーシュ殿下のこと、兄上と………」

 

「五月蠅い五月蠅い五月蠅い」

 

 

 あーもう。と机に突っ伏すアルカ。そういう所に威厳が付いてこないのだが……。

 

 

「ジェレミア、きっと聞かぬ振りしていただろうな」

 

「………わざわざ指摘する辺り、ノネットは騎士失格じゃない?」

 

「お前が指名したんだろう」

 

 

 即位時、ああも大々的にナイトオブゼロと枢木スザクをさも右腕の様に紹介しておいて、実際にアルカの傍に居るのは大体ノネットだ。当のスザクと言えば、帝国宰相としてあちらこちらに飛び回るルルーシュことジュリアス・キングスレイの護衛として付いて回っている。普通逆では、とノネットが指摘したところ、「EU戦線で一緒だったから」と最もらしい言い訳をしていたが、要は兄が心配なのだ。

 

 

「しかし本命は無し…か。潜むならエリア1と思っていたが」

 

「だけど全く繋がって居なかったという訳でも無いでしょう。いくらビスマルクとは言え、未だに求心力があったのはひとえにシュナイゼルの支援があったからこそ。それが今やもぬけの殻という事は………」

 

「ビスマルクが国外へ逃がしたか」

 

「もしくはトカゲの尻尾切りか」

 

 

 新体制となった今のブリタニアにおいて、最大の敵はやはりシュナイゼル・エル・ブリタニアだろう。そもそもシャルル・ジ・ブリタニアの生前から最も玉座に近い男と評されていたのだ。典型的な指揮官タイプで決してコーネリアやアルカの様に先陣を切る事は無いが、その類まれなる観察眼と頭脳で帝国宰相の地位を確固たるものにした男。国民からの信頼も厚く、今なお新体制への不信感が蔓延するこの状況、一気に盤面を覆される可能性は十分にある。

 だから彼を炙り出す為、その足跡を追う為に、反皇帝派の主軸であるビスマルクを叩いたのだ。

 

 

「こうなると、国外の線で考えた方が良さそう」

 

「しかし他国への侵犯は超合衆国が黙ってはないだろう。今やあそこはブリタニアに並ぶ巨大連合だ。構える事になればシュナイゼルが寝首を掻いてくるのは必然」

 

「ええ、だから先に超合衆国を手中に収めましょう」

 

 

 超合衆国の決議は多数決によって決まる。参加各国の人口によって投票権は比例している。中華連邦が崩壊した今、世界最大の人口を持つ国は間違いなくブリタニアだ。つまり加盟すれば必然的に超合衆国はブリタニアの意のままに操れるという事。

 

 

「最早世界はブリタニアか超合衆国かで二分化されています。シュナイゼルとて、ブリタニアの加盟は無視できない筈」

 

「みすみす加盟を許せばシュナイゼルに勝ち目は無く、阻止するものなら尻尾を出さざるを得ない……と。なんだ中々に政治が出来るじゃないか」

 

「いえ、所詮は兄の受け売りです」

 

 

 そうとなればジュリアスを引き上げさせましょう。とノネットに指示を出した瞬間、執務室の扉がノックも無しに開かれた。

 突然の出来事にノネットは驚きに顔を染め、アルカは呆た表情を浮かべる。

 若いと言えども、皇帝である彼女に対してこんな振る舞いが出来るのは数少ない。1人は勿論、緑髪の魔女。そしてもう1人は───。

 

 

「お~め~で~と~!!」

 

 

 稀代の変人、ロイド・アスプルンドだ。

 

 

「……はぁ…。あの…もう少し節度というものを…………」

 

「あれ、アルカちゃん。公務モード中だった?」

 

「…いや、良い。いまそれも終わった」

 

 

 なら良かった。と悪そびれる様子も無くヘラヘラと笑みを浮かべるロイド。

 

 

「無窮の整備が終わったよ。ついでにデータも取らせて貰ったけどね。いやはや、凄い結果だ。単騎で突入して消耗も損傷も無し。ルミナスコフィンの稼働率も想定範囲内だ。そして何より君の反射速度に機体がきちんと対応しきれている。おめでとう~! これで名実ともに世界最高峰のナイトメアの完成だ」

 

「ルミナスコフィン? ああ、あの無線兵器か」

 

 

 武装一つ一つにフロートユニットとルミナスブレイズを搭載した最新鋭のオールレンジ兵器。同じく第九世代KMF、紅蓮聖天八極式に対抗すべくロイドが新たに開発した兵器だ。

 

 

「実用化は?」

 

「今のところは。そもそも今回だってジークフリートの神経電位接続を流用したものだ。使えるものは限られている」

 

 

 機体とパイロットを接続して神経信号によってパイロットの意志で操作するシステムである神経電位接続。詳細はノネットも聞かされて無いが、システムの都合上、ジェレミアの様な適合手術を施されなければ生身の操縦は不可能。しかしそのジェレミアの身体も元よりC.C.やアルカと言ったコード保持者の身体機能を再現する為の身体。そもそもの設計コンセプトからコード保持者用のシステムだったと予想出来る。

 

 

「後はもうちょっと時間を貰えれば、コフィンに遠隔武器の搭載も──」

 

「いや、それで十分。後はアルビオンとクラブに回して」

 

「あはぁ。だよね~」

 

 

 シンギュラリティと言うべきだろうか。ランスロットの様なワンオフ機、ブレイズルミナス、フロートユニット。そしてエナジーウィング。ここ数年でナイトメアの性能は格段に上がった。一騎当千と謳われたラウンズの機体に比肩し得る性能を持つナイトメアが国外にもゴロゴロと存在する現状。突出した武器を1つ磨くよりは、手数を増やした方が良い。

 

 

「私一人に出来る事なんて限られているから───」

 

「ほう、随分と殊勝な皇帝サマじゃないか」

 

 

 再び執務室の扉が無遠慮に開いた。ここに既にロイドが居るとなると、これが出来るのはもう1人しかいない。

 

 

「これがあの外で騒がれている暴君なのだから、世の中ままならぬな」

 

「C.C.」

 

 

 腰まで届く長い髪を靡かせて、魔女C.C.はアルカに向かって微笑んだ。

 

 

「おい。エリア1の件は済んだのだろう。いつまで私を待たせる気だ?」

 

 

 身体のラインを強調するかの如くデザインされたドレス……何処かの皇帝が着ているのとそっくりな黒いドレスを着た魔女は、アルカの頬を撫でる。

 

 

「……やれやれ夜伽にはまだ早いと思うが」

 

 

 そんな彼女を見て、ノネットが「またか…」と頭を押さえた。

 

 

「そう言ってやるな。英雄色を好むと言うだろ?」

 

 

 椅子に座るアルカの膝を枕代わりに、床に座り込むC.C.。細い太ももの上を指でくるくると遊んでは、「なぁ?」と挑発的にアルカに視線をやる。

 

 

「はは。悪い魔女に引っ掛かったなぁ、アルカ。娘の将来が心配だよ、全く。………行くぞ、ロイド」

 

「え? あ、うん。じゃあ、またね。皇帝ちゃん」

 

 

 人払いはしておく。としたり顔をしたノネットはそう言葉を残し、扉を静かに閉めた。

 

 

「……全く、気を使えるのか、使えないのか…………」

 

「からかっているんだろうよ。お前は"良い反応"をするからな」

 

「……毎晩ごめんね」

 

「なに、気にすることは無い。………忘れさせてやるさ…夜更けくらいは、な」

 

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