ある日、前世の記憶が突然戻った。
そんなラノベの様な事が一人の幼い少女に起こった。
少女の名前はキャロル・マールス・ディーンハイム。
なんの運命の悪戯か、前世の自分と同じ名前であった。
両親の仕事の都合で日本に移住して何年か経った頃、彼女は原因不明の高熱で数日間昏睡状態に陥り入院した。
両親が心配する中、唐突に熱は下がり意識もすぐに戻った。
だが両親にとって思いがけない事態が起きたのだった。
愛娘の一人称が〝オレ〟となり、性格もどこか粗暴なものになった。
両親はキャロルの精密検査を受けさせたが異常は見受けられず様子を見る事となる。
外で活発に遊んでいたのが一転、インドア派になった。
当初はあまりの変化に戸惑ったが学校の成績が上がり、成績表がオール5になり文句の付け所がない。
中学に進学する頃には自宅の使っていない倉庫代わりの地下室の一角を勝手に占拠し、学校以外の時間のほぼ全てをそこで過ごす様になる。
「記憶が戻って数年か・・・」
キャロルは調べ物が一段落付き、ポツリと呟いた。
病院で目が覚めて戸惑った。
見知らぬ記憶があったからだ。
いや、そもそも何故、記憶なんかがあるのだろうか?
何故ならあの時、シェム・ハとの戦いでキャロルとしての記憶を全て焼却したのだ。
焼却された記憶は消えてしまう。
記憶が消えれば人格も消える。
エルフナインと装者達に後を託し、消滅したはず。
だがこの身体でキャロルとしての記憶は蘇る。
記憶が戻る前の記憶もあり、両親は両親であって両親でない奇妙な感覚に当初は戸惑った。
だが退院すると気を取り戻し、まずは身を守る為に調べ物に没頭した。
そして学校の授業で見た世界地図にて今の世界が以前自分が分解しようとした世界とは別の世界だと知る事になる。
バルベルデと呼ばれる国は映画や創作物の中に出てくる架空の国で存在しないからだ。
オカルトを信奉する集団はいても錬金術師の地下組織の様なものは日本では見つからなかった。
しかし錬金術師は使用可能であり、いざと言うときに備えて焼却用記憶を確保する為の記憶のコピペは怠らない。
「・・・・もうこんな時間か」
うんざりとした口調で時計を眺め、地下室を後にする。
「学校なぞなければ、もっと研究に時間を使えるのに・・・」
そう呟きながら制服を来たキャロルは通学を歩く。
いっその事、通学用テレポートジェムを作ってしまおうかと真面目に考えている始末だ。
「やぁ、キャロルちゃんおはよう。ふわあぁぁぁ・・・」
後ろから聴き慣れた声がする。
「ああ、南雲ハジメか」
振り返りもせずに答える。
これがいつもの日常風景。
キャロルとハジメはいつもの様に始業時間ギリギリに教室へ入る。
「よっ、キモオタと根暗、お似合いだぞ〜。二人とも徹夜でエロゲにBLゲーか〜?」
「うわ〜、徹夜でエロゲとかマジでキモ〜」
そして馬鹿笑い。
ハジメは嫌そうな表情になるが、キャロルはそれらを一切無視してさっさと席に着く。
この様な小物、その気になればいつでも黙らせられるからだ。
ハジメも思い出したかの様にキャロルの横の自分の席に着く。
「南雲君、キャロルちゃんおはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」
「おはよう、白崎さん」
「ああ、おはようだ白崎香織」
「も〜、キャロルちゃんいい加減フルネームで呼ぶのやめてよ〜」
「気にするな」
これもいつもの光景。
「スー・・・スー・・・」
「むにゃ・・・パパ・・・」
揃って居眠りする二人は騒がしくなって来た周囲に気付き、目を覚ます。
じゅるるるっきゅぽんっ。
ハジメはゴソゴソと10秒でチャージ出来るゼリー飲料でエネルギー補給をする。
「南雲君、お昼に教室にいるの珍しいね。お弁当一緒にどう?」
「あー、ごめん白崎さん。でも、もう食べ終わったから・・・」
「え?お昼それだけなの!?ダメだよちゃんと食べなきゃ!私のお弁当分けてあげるね!」
途端、ハジメにクラスのあちこちから嫉妬のこもった視線が注がれる。
ちゅるるるっきゅぽんっ。
そんな小さな音に香織はキャロルを見る。
「あの、キャロルちゃんもしかしてお昼それだけ・・・?」
「うん?ああ、そうだ」
「ダメだよ、ちゃんと食べないと!」
「何故だ?時間の節約にもなって効率的じゃないか」
「栄養が偏っちゃうよ!?」
「仕方ない・・・そこまで言うなら今日はこっちも追加しよう」
そう言いながらキャロルの取り出したものを見て香織は目が点になる。
コンビニでもよく見かける黄色くて厚さの薄い箱を開け、キャロルは中からそれを取り出すと包みを破り齧る。
香織は思いっきり、「違う、そうじゃない」と言いたくなった。
「あはは・・・キャロルちゃんもお弁当分けてあげるから・・・一緒に食べよう?」
「いや、もう十分食べた」
取り付く島もない。
「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲にディーンハイムはまだ寝足りないみたいだ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」
「え?なんで光輝君の許しがいるの?」
至極もっともな答えだった。
その時、光輝の足元から白い光と共に幾何学模様の魔法陣が出現する。
「え!?」
「何!?」
「きゃあっ!?」
教室にいた愛子先生がクラス全体にすぐ外に出る様に大声を出す。
「くそっ!どこの錬金術師の攻撃だ!?」
キャロルの声は教室の戸惑いの声に埋もれる。
緊急離脱しようとポケットの中に忍ばせたテレポートジェムを掴むが、それと同時に視界が真っ白に染まる。
一歩遅く、テレポートジェムを作動させられず教室は無人になった。
うん、駄作だ。
続くといいなぁ・・・・。