「・・・遅いな」
この世界の知識を吸収する目的でここ最近この図書室で資料漁りを行っているキャロル。
少し離れた席に積まれた本の山と読み掛けで開かれたままの本のある席に目を移す。
そこにはしばらく前までハジメがいた。
力で及ばないなら知識で・・・という理由でかどうかは分からないが、ハジメもこの図書室に通い詰めていた。
特段雑談をする訳ではないが、ハジメが本の内容で難解な部分に躓いて唸っているところに助言を出したりしていた。
そのハジメが席を離れてかなりの時間が経つ。
「また、あいつらか・・・」
大方の予想がついた。
最近の小悪党組は魔法の使用が可能になった事と救世主一行と言う一種の特権階級になった事で増長している。
「見捨てても寝覚が悪い。まったく、手間をかけさせてくれる」
キャロルは読みかけの本に栞を挟むと図書室を後にする。
図書室を出てすぐにキャロルは何かの包みをトレーに乗せた香織と遭遇した。
「白崎香織か。南雲ハジメを見かけなかったか?」
「えっ?ハジメ君一緒じゃないの?ハジメ君にサンドイッチ作って来たんだけど・・・あ、キャロルちゃんの分もあるから一緒に食べよう?」
「しばらく前までいてな。トイレにでも行ったのかと思ったが帰りが遅すぎる。最近の檜山大介の増長ぶりを考えると・・・」
その言葉の後を想像してサァッと香織の顔色が変わった。
「す、すぐに探しに行かなくちゃ!!」
香織はトレーを近くにあった出窓の所に置くとキャロルの手を取り駆け出す。
「お、おい!手を離せ白崎香織!自分で走れる!」
「だって、ハジメ君が!」
そのままグイグイと引っ張られ、傍目には香織に引き摺られるような格好になる。
「そもそも行くあてがあるのか?情報が少な過ぎる」
「あう・・・」
「まったく、お前は南雲ハジメの事になると周りが見えなくなるのは相変わらずだな」
キャロルは周囲を見回すと一人の女生徒が偶然歩いているのを見かける。
「おい、そこのお前」
「え?私かな・・・?」
「そうだ。南雲ハジメを見なかったか?」
「南雲君?いや、見てないなぁ・・・」
「そうか。なら、檜山大介は見たか?」
「檜山君?檜山君なら・・・」
女生徒から情報を得たキャロルは香織と共にその方向に向かい、先々にいた生徒達に聞き込みを続けてついにハジメと檜山の目撃情報が重なる場所を突き止める。
「ぎゃははははははっ!当たった当たった!」
「ほれほれ!次は俺だぞ!逃げないと死んじゃうかもな!ここに焼撃を望む、火球」
発生した火の玉がハジメに直撃する。
「ぐあっ!」
炎の塊の直撃により、ハジメの服の一部が燃え皮膚が焼け爛れる。
「う・・・うぅ・・・」
「おいおい南雲ぉ、何寝てるんだよ?よーし、元気を出させるためにもう一発お見舞いしてやるぜ?ここに焼撃を望———」
「おいお前達、何をやっている」
突如として割り込んできた声に詠唱が中断する。
「ちっ、なんだディーンハイムかよ・・・脅かしやがって」
「オレは何をやっているのかと聞いた。答えろ」
キャロルは床で蹲って呻くハジメと檜山グループの間に割って立つ。
「白崎香織、手当てしてやれ」
「う、うん!もちろんだよ!」
ハジメの火傷を治癒魔法で治し始める香織を見ると再度檜山達を見据える。
「で?お前達は南雲ハジメに何をしていた?」
「へ、へへへへへ、何を勘違いしてるか知らねぇが、俺達は南雲に訓練をつけてやっていただけだぜ?別にイジメじゃねぇよ」
「ほう?訓練?それにしては南雲ハジメの火傷は重傷に見えたが?」
「実践式の訓練だったから事故だよ事故。ワザとじゃねぇ。そうだよなお前達?」
檜山は自分のグループのメンバーに同意を求め、全員がそうだそうだと答える。
「そうか。じゃあ、オレにも訓練をつけてもらおうか」
「は?ああ、いいぜ?でも、後から泣いて謝っても遅いからな」
「そうか。その言葉、そっくりそのままお前達に返そう。手加減などせず、全員一斉にかかって来い」
クイクイッと、キャロルは余裕の笑みを浮かべ指で檜山グループを挑発する。
「ば、馬鹿にしやがって!」
激昂した檜山達は魔法の詠唱に入る。
それに対し、キャロルは無防備に立っている。
「泣いて謝ってももう遅いからな!ここに風撃を望む、風球!」
「ここに焼撃を望む、火球!」
それぞれの得意な属性の魔法が一斉に放たれ、キャロルの元に殺到する。
「キャロルちゃん!?きゃぁっ!?」
炎と風の魔法の相乗効果で爆炎と爆煙が巻き上がり、香織は反射的に顔を背けた。
「ぎゃはははははっ!」
「当たった当たった!」
「ざまぁみろ生意気女!」
元々キャロルをよく思っておらず、なおかつこの異世界という日本の法治力の及ばない場所にいる事が檜山達を増長させる。
キャロルとの体格差も知らない第三者から見れば男子高校生が女子小学生をいじめているように見える事が檜山達にブレーキを掛けていたが、今ではそのブレーキも掛ける必要がないと檜山達は思った。
「キャロルちゃん!?キャロルちゃん!!」
香織の悲痛な悲鳴。
香織の治癒魔法で傷が癒たハジメも香織と同じく顔を真っ青にする。
「大声で喚くな白崎香織」
キャロルの声が聞こえると同時に内側から風が吹くように爆煙が四散し、そこには腕組みをして無傷で立つキャロルの姿。
爆煙が晴れる瞬間、爆煙の隙間から一瞬だがハジメと香織の目の黄金色に輝く何かが空中に浮かんでいるように見えた。
「な・・・ぁっ・・・・!?」
絶句する檜山達。
「さて、次はオレがお前達に訓練をつけてやる」
ポイッと、キャロルはポーチから取り出した無色透明の液体の入った栓をした試験管を放り投げた。
それは重力に従って落下し、檜山達の足元で割れると空気と反応を起こし、真っ白い煙を上げる。
それはあっという間に檜山達の顔の高さまで登る。
「へっ・・・なんだよこれ・・・?・・・・・・げほっ!?げほげほっ!?」
「ぶえっくしょんっ!?はくしょんっ!!げほっ!げほげほっ!」
檜山達4人は突然咳き込み出したりくしゃみを連発させる。
全員涙をぼろぼろ流し、床に這ったり座り込んでいる。
「キャロルちゃん・・・これは・・・?」
「ん?あぁ、ただの催涙ガスだ。気まぐれに作ってみたが、役に立ったな」
そう言いながらキャロルはハジメと香織に一つずつカプセルを渡す。
「飲んでおけ、中和剤だ。まぁ、あんな風になりたければ捨てても構わんぞ」
その言葉に反射的に床の上で涙を流して咳き込んだりくしゃみを連発したりアニメだったら虹色に加工される事が多いものを床に向かって吐き出している4人を見、すぐに2人はカプセルを飲み込んだ。
「なんの騒ぎなんだ!?これは!?」
しばらくして檜山達が放った魔法の音に気付く範囲にいたのか雫を含む天之河一行が駆け付けてきた。
既に催涙ガスは四散し、天之河達には影響を与える事はなかった。
天之河は床で涙を流しながら咳やくしゃみ、嘔吐に苦しむ檜山達こと小悪党組を見て驚く。
「一体何があったんだ?」
天之河が会話が可能な状況であるキャロル、ハジメ、香織に向かって聞く。
「ああ、こいつらが南雲ハジメを甚振って大怪我を負わせていた。それを訓練と言い張るからオレも訓練をつけてもらっただけだ。訓練なのだから反撃しても問題あるまいに」
「だからと言って、ここまでする必要はないはずだ!」
「ほう?一つ言わせてもらうが、オレと白崎香織があと少し到着が遅ければ南雲ハジメは死んでいてもおかしくはなかったぞ?何せ、大火傷で身動きが取れないところに魔法の追撃を行う寸前だったのだからな」
「でも、香織の治療が間に合ったのだからいいじゃないか。それに弱い南雲も悪い。だからこそ檜山達も南雲に強くなって欲しいと訓練をつけていたんだろう?」
「「「はぁ・・・?」」」
ハジメと香織、おまけにキャロルも思わず呆れて声を出した。
「いや、あれはただのイジメだろうに・・・・いや、話が通じない以上何を言っても無駄だな・・・。行くぞ、白崎香織」
「え?行くって・・・どこに?」
「ここ以外ならどこでも構わん。オレと南雲ハジメにサンドイッチを作ってきたのだろ?早く食べないと勿体ないではないか」
「う、うん!行こう、ハジメ君!あ、雫ちゃんも来る?」
「え?えぇ・・・・そうね、行くわ」
「おい、話はまだ終わっていない!」
「こっちはもう話す事はない」
そう言い残し、キャロルを先頭にして香織とハジメ、続いて雫はその場所を立ち去り、香織と雫を除いた天之河グループと催涙ガスの効果で苦しむ小悪党組が残された。
小悪党組が催涙ガスの後遺症から回復するのにはその後数日が掛かり、檜山はキャロルと香織に介抱されたハジメを更に憎むことになる。
個人的にはGX9話ラストのキャロルちゃんの表情が大好きです。