「ん・・・・」
キャロルはゆっくりと目を開けると欠伸をしながら体を伸ばす。
「ああ、よく寝たな」
立ち上がり、身支度を整える。
壁に手を付くと四元素(アリストテレス)の土の元素を操り壁を崩す。
崩れた壁の向こうにはアルカ・ノイズが待機している。
そのアルカ・ノイズの前には数体の魔物の死体が四肢のいずれかを分解され転がっている。
「ご苦労だったな」
魔物の姿を一瞥すると有用な素材となる魔物以外はアルカ・ノイズに分解させ素材を剥ぎ取る。
「なんか、以前ハジメが携帯ゲーム機でプレイしているのを見たことのあるモンスターを狩るゲームみたいだなこれは」
そんな事を呟きながら手際良く素材を回収する。
「よし、今日は80階層まで行くとするか」
現在地は70階層。
既にトラップにより転送された場所は通り過ぎている。
いくつかの実験を行いながら階層を進んでいる為、あのハジメが奈落の底へ転落した日から10日が過ぎていた。
例を挙げれば魔物を倒した後に再出現するという説を検証するためにそこだけで数日間を消費した。
魔物を倒した後に魔物のいた場所を岩の檻で囲い再出現までの時間を計測し、その出現パターンが一定であるかを計測したりした。
もし再出現場所に障害物があったらどうなるかを検証したり、思いつく限りの実験を行った。
実験はいくつかの仮説を立てたところで切り上げ、先に進む事にした。
深い階層にはそれなりの強さの魔物が徘徊しているが、アルカ・ノイズがキャロルを囲うように配置され移動する為脅威ではなかった。
魔法で攻撃する魔物もいるが、その攻撃はキャロル自身の展開する黄金色の障壁によって阻まれ、キャロルのアリストテレスによる反撃で息絶えていった。
疲れれば土の元素を操り安全地帯を作ってそこで休憩したり睡眠をとり、空腹になれば収納空間にしまってある食料で腹を満たす。
「この世界に飛ばされる前に密林で保存食系を箱買いして置いて良かったな」
ちゅるるるる、きゅぽんっ。
空になった容器をポイッと放り捨てるとアルカ・ノイズが分解器官でゴミを分解処分する。
更に数日が経ち、ハジメが奈落の底へ落ちてから2週間が経過していた。
「ここが最終階層と言われているはずだ」
キャロルは最下層と言われていた100階層を調査中に次の階層へ続く階段を見つけた。
「よくよく考えれば、最下層が100階層目と本には書いてあったが、100階層まで辿り着いた者はいないと騎士団は言っていたな。何処かで伝承が混ざったとかか?」
長い年月の経過で言い伝えなどが変化するのは地球でも古今東西、珍しくはない。
伝承が変化した結果、元々そんな力がなかった槍が神殺しの哲学兵装と化した例もあるではないか。
「まったく、興味深いなこのオルクス大迷宮とは」
キャロルは次の階層へと続く階段を降りて行く。
階段の先は行き止まりだった。
だがその壁には魔法陣が描かれている。
65階層だったあの事件のあった場所から脱出し20階層へ脱出した上り階段の先にも似たようなものがあった。
ここに降りてくるまでにも似たような物はいくつもあった。
「相変わらず、魔力を流し込むと反応する魔法陣か」
その魔法陣に触れる。
キャロル自身にはこの世界の魔法を操る魔力は魔物を倒し続けステータスプレートのレベルが上昇した今でも相変わらず0のままだが問題はない。
ここに来るまでの魔法陣で対処は確立済みだ。
四元素(アリストテレス)の力を攻撃に転化せず、ただ純粋な力として流し込む。
魔法陣がそれを誤認して反応し壁が動き、次の階層が姿を現す。
キャロルはアルカ・ノイズと共に進む。
「意外と広いな・・・」
吹き抜けとなっているのか、意外と開放感のある空間がそこにはあった。
川が流れ、左右を見れば壁と壁の間はそれなりの距離がある。
ゴゴゴゴゴ・・・・!
背後で今通ってきた通路を塞いでいた岩が再び動き出し、再び通路を塞ぐ。
「なるほど、ここから先は片道切符と言うわけか。もっとも、いざとなればオレにはテレポートジェムがあるから問題ないが・・・何もせずに引き返すのも癪だ」
キャロルは今までと同じ、この階層の調査を始める。
調査を開始して何時間かが経過した。
異様に脚力が強化した兎の魔物や電撃を放って来る二尾の狼の魔物、自身の腕の範囲を超えた空間にまで爪を伸ばし攻撃して来る奇妙な姿の熊のような魔物と遭遇したが全てキャロルの黄金色の防御障壁によって攻撃を弾かれ、四元素(アリストテレス)の反撃で息の根を止められる。
熊のような魔物・・・爪熊の攻撃はキャロルには通じないがそれでもそれなりの攻撃力はあり、アルカ・ノイズの耐久力を超えていて一体が赤い塵になって霧散した。
「ただ広い空間なだけで、代わり映えのしない階層か・・・少し興醒めだったな。・・・・・・ん?」
ふと、視界の片隅に入った岩に違和感を感じた。
「何だ?」
その岩に近付く。
不自然な穴がそこには開いていた。
穴の周囲は先程の爪熊と同一か同じ種類の個体の爪痕があり、内側にもその爪痕はある。
「獲物の巣か何かか?いや、それにしては穴の空き方が不自然過ぎる・・・」
試しにここにきた初日に渡された剣で何度か突いてみるが、金属製の剣でも少し削るのがやっとだった。
その穴はまだ先に続いていて、地面側の方には乾いた血の様な染みが所々に続いている。
残ったアルカ・ノイズを穴の外に警戒の指示を出して残し、先へ進んでゆく。
しばらく進み、ぽっかりと開いた人がある程度の動きの取れる空間に出た。
出てすぐの場所の床には少し大きめの穴があり、その穴の中には尖った鋭利な石柱が何本も突き立っていた。
穴の中には大量の血の跡があり、何かが燃焼したのか床に燃焼痕があり、骨の山があった。
「何だ、これは一体・・・」
辺りを調べ、床に刻まれた図面を見付けた。
図面はまるで銃の設計図であり、メモの為か文字があった。
「日本語のメモ書き・・・!?」
そして壁面を見るとそこにも文字が刻まれていた。
“絶対に生き延びて地球に帰ってやる!”と。
「まさか・・・・!?」
すぐに穴の外に戻る。
まだここにいたと思われる者がハジメと決め付けるには証拠がない。
穴の外に出るとアルカ・ノイズをそのまま待たせ上を見上げながら飛ぶ。
上昇を続けながら途中でいくつもの壁面から生えた木や植物があるのを見た。
一つの場所に集中しているのではなく、崖の所々の高さに生えている。
そのいくつもの高さにある木の枝には最近折れた跡が何箇所もある。
上昇に上昇を続け、キャロルの目に一部崩落した石橋が見えた。
その石橋の上に出ると石橋に降り立つ。
キャロルに反応をしたのか、片方からトラウムソルジャーの群れが迫り、ベヒモスと言う名で呼ばれる魔物が現れた。
「65階層・・・!まったく、ああ、これは奇跡などではない。奇跡などあるものか。これは必然だ・・・!すまないな、八重樫雫。南雲ハジメの墓と遺品の約束は守れそうもない。どうやら、南雲ハジメは生き延びたようだ」
そのままキャロルは魔物の群れを無視して橋から飛び降りる。
落下ではなく、降下。
すぐに先程の穴のあった岩へ戻る。
「さて・・・この階層の捜索を再開するか」
目的を南雲ハジメの捜索に変更し、キャロルは行動を再開する。
キャロルは奇跡の殺戮者だからね