ある臆病な弓使いの物語。※小説家になろうにも、学校嫌いで投稿しています。第一話以外展開は別です。

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とある遺跡の弓使い

「うぅ……どうして、どうしてこんな所に、1人で来なきゃいけないの? 師匠、絶対可笑しいよ……うぅ」

 とある世界の、とある遺跡。

 そこに1人の少女がいた。

 闇夜の中でも煌く金髪を首元で束ね、右手に矢、左手に弓を持っており、碧い瞳には涙を溜めている。

 少女の名はアーチェ。

 つい半年程前に故郷を旅立った、しがない弓使いである。

 現在も泣きべそをかいている彼女は、故郷の村でも自他共に認める臆病者だった。

 霊の話などを聞いて10秒保った試しが無い程に……そんな彼女が何故故郷を出たのか。

 簡単に言えば、性格を克服する為にと、彼女の両親がそうする様に言ったからだ。

 勿論猛反対したアーチェだったが、断り続けている数日間、寝ている時にひたすら耳元で怖い話を囁かれ、最終的には自分から飛び出して行った。

 その後、流石にやりすぎたかと両親が反省したのは、また別の話である。

 この様な経緯を経て旅をすることになったアーチェだったが、家出と言っても良い状況だった為装備を整える時間等ある筈も無かった。

 それ以前に、武器を持ったことすら無いのだが……今は、巡り合った師に教わり、曲がりなりにも弓の使い手として戦っている。

「ひゃっ!? なに今の……うぅ、もうやだよ~」

 何か怖いものでも見たのか感じたのか、アーチェは固く目を瞑り耳を力強く押さえた。

(帰りたい……でも、帰ったら師匠に怒られる……そっちの方が怖い)

 結局少女に残された道は、師に言われた通り遺跡の奥へ進み、紅い宝珠を取って帰ることだけだった。

 さて、観念してビクビクしながら歩き出したアーチェ。

 彼女が弓矢を使っている理由は、既に分かって頂けるだろう。

 そう――敵に近付く必要が無いからだ。

 その点で言えば、一番敵に近付く必要が無いのは魔術師であるが、彼女にそっちの才能はない。

 しかし、生まれもった視力と、頭抜けた風属性の魔力を有している。

 弓矢に選ばれた者と言っても良いかも知れない。

 実際彼女は、これまで出会った全ての敵から20m以上距離を取り倒してきた。

 初めてその様子を見た時は、師である彼女も感嘆した程だ。

 夜の遺跡でも、彼女の目は本領を発揮する。

 約25m前方、紅い宝珠の力により生ける屍と化した者の集団を、アーチェは発見した。

 数は10を超えている。

 すぐさま180度反転し全力でダッシュしたい気持ちをたっぷり5分掛けて抑え込み、片膝を付いて弓矢を構える。

 ――斜め上空、天井へ向けて。

「……落ち着いて。怖くても、自分だけは疑わないで」

 ゆっくり言い聞かせながら、矢を引き絞っていく。

 矢全体に風の魔力を流し込み、先端へと集約。

 キン、と高く小さな音が響いたその瞬間、

「スピニング・アロー」

 技の名を呟きながら発射した。

 魔物の集団に変化は無い。

 しかしアーチェは次の矢を構える。

 やはり斜め上空だが、先よりも下へ向けて。

「ウィンド・ブレイク」

 放った瞬間、暴風等と言った表現では馬鹿らしく思える程の風を纏い、集団へと向かう1本の矢。

 ここで漸く気付いた魔物達だったが、しかし何も出来ず散ることとなる。

 キィン……!

 音が響いたその直後。

 

 ――ガァアアアァアア!!

 

 獣の雄叫びとも聞き紛う様な球状の爆風が、通路ごと魔物を呑み込んだ。

「っ…………ほ、良かった」

 吹き付ける風に目を閉じたアーチェは、1体残らず魔物を倒したことを確認した所で安堵の息を吐いた。

 奥へ向けて歩を進める。

 一体彼女は何をしたのか。

 まず、最初に天井へ向け放たれた矢。

 あれには名の通り回転が掛けられていた。

 込めた風の魔力でその様にしたのだが、実はこの魔力、同じ風属性と言っても別物である。

 詳しい説明は省かせてもらうが、磁石を想像してもらいたい。

 対の極が互いに引き付け合う力だ。

 次に放たれた矢に込められた魔力は、スピニング・アローと引き付け合う魔力が込められていた。

 真っ直ぐ天井へと飛んでいった矢は次に放たれた矢へ向けて急激に軌道を変え、魔物達の上空で衝突。

 掛けられた回転によって両者の魔力を増幅、融合した結果、あの爆風が発生したのである。

 彼女と同じ弓使いなら……いや、弓使いでなくとも、聞けば大半の者がこう言うだろう。

 何だそれは、と。

 先に放った矢の軌道をほぼ180度変える等と言った芸当、こんなことが出来るのは、恐らく現在ではアーチェだけだ。

 放たれた矢が戻ってくる等、一体誰が想像できようか。

 例え分かったとしても、咄嗟に対応することは難しいだろう……加えて、彼女はまだまだ技を持っている。

 臆病を遺憾なく発揮し、とことん近づかずに倒す方法を考えた結果だ。

「うぁ……おおきい扉」

 と、ここでアーチェが扉の前に辿り着いた。

 遠距離から扉があることは分かっていた彼女だが、間近で確認した時の大きさに改めて感嘆する。

(師匠が嘘ついてないなら、この先に紅い宝珠がある筈だけど)

 これまで結構な数の嘘を付かれ、その度に危うく気絶しそうな程怖い目に遭ってきた彼女は、ここでもその可能性を危惧する。

(師匠より怖いものは……うん、ない。今の所は)

 そう思い切り、おそるおそる扉を押し開いた。

 そして柱に隠れた。

「聞いてませんよ……ししょう~……!」

 小さく叫ぶという器用なことをしながら、師に文句を言うアーチェ。

 彼女が見たのは、腐敗した体を持つ魔物。

 所謂、ゾンビだった。

 どろどろに溶けた体の至る所から骨が見えており、垂れ下がった右の眼球と左目は空洞。

 中途半端に残っている皮膚が、余計に彼女の恐怖を助長させている。

 そして、このゾンビはサイズが異常だ。

 10mを超える巨体に、同等の大剣と真円を描く盾。

 攻撃を食らえばまず即死だろう。

 加えてこちらの攻撃は全て盾で防がれる。

 余程腕に自信のあるもの……例えば、アーチェの師、彼女クラスで無ければ太刀打ち出来まい。

 しかし、アーチェが師から言い渡されたのは、ゾンビの討伐ではなく紅い宝珠を持ち帰ることだ。

 ゾンビの背後にソレがあることも、彼女は確認している。

(………………よし)

 漸く決心したアーチェは、魔力の矢を形成し正面へ放った。

 目を閉じ意識を集中。

 矢を操り扉を通過、ゾンビの股下を抜け宝珠が置かれている台座の後ろから、宝珠の真後ろへ回りこませ、

「炸裂(ファイア)……!」

 魔力を爆発させた。

 前触れ無く発生した爆風に、ゾンビは体勢を崩し掛けるが倒れることは無かった。

 だが、彼女の目的は既に果たされている。

 どれだけ正確な計算をしたと言うのか……吹き荒れる風の中、宝珠だけは真っ直ぐ扉へ向けて飛び、部屋から通路へ姿を現した。

 数秒後、今度は扉がバタンと大きな音を響かせ閉じる。

「あっ……待ってよ!」

 勢いの付きすぎた宝珠はそのまま通路を転がっていき、アーチェはソレを追いかけた。

 宝珠が無くなったことに気付いたゾンビが、

「オーマイガー!」

 等と叫んだことには気付かず。

 

 

「は、は……やっと、捕まえた……はぁ~……あれ? 出口だ」

 いつの間にか、戻ってきたんだ。

 そう呟き、アーチェは心底安堵の息を吐く。

 宝珠を腰のポーチに収めたことを確認し外へ出れば、そこには彼女の師がいた。

 長い銀髪を煌かせ、紅い瞳でアーチェを見る彼女は、どこか満足気な表情をしている。

 しかし、今のアーチェが師に言いたいのは文句ばかりであり、早速ぶつける為にまずは、

「どっせい!」

「ぐふぅ!」

 ボディタックルをお見舞いした。

 そのまま押し倒す形で2人は地面に倒れる。

 馬乗りになったアーチェは、とにかく思いつく限りの文句を涙と共にぶつけ、荒い息を吐きながら倒れこんだ。

 これでもかと言わんばかりに師を抱き締めすすり泣き、やはりまだまだガキだな、と師である彼女は思う。(けど……)

 胸に染み込んで来る温かいモノを感じながら、教え子を優しく包み込む。

 顔を上げた少女に、彼女は一言。

「おかえり」

「っ……!」

 少女は瞳を一層潤ませ、わんわんと号泣した。

 そんな少女を、師はただ優しく抱き締める。

 

「――ホント、可愛い奴だよ、お前は」

 

 夜空に輝く星々達が見守る中、2人は互いの体温を感じていた。

 



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