姉がレンタル彼女してたんだけどどうしよう? 作:ああああああ
斜陽のさしている教室で熟睡すると、はっと目覚めたとき一瞬どこにいるのかわからない。さっきフェードアウトしていったのとまったく同じ音量で話し続ける教師の声に気づく。
「じゃあ、今日の授業はここまで。夏休みが近いからってはめを外しすぎないようにな。体調管理には気をつけろよ。以上号令」
起立~気を付け~と間の抜けた掛け声とともにチャイムが鳴り、授業の終了ひいては自由への招待を示していく。夏休み間近の月曜日。週が始まったばかりだというのに、教室の空気は何処か浮足立っている。まだまだ高い太陽を見上げながら帰りの支度をする。
高校三年生の夏は、受験の追い込みだ。だが、流石にそれだけを目的に夏休みを過ごすものは少ない。特にこの学校は、夏までは部活は引退ではない。合宿に参加する人間も少なからずいるだろう。それに、このクソ暑い中ビックサイトまで行こうとするバカもいるだろう。
そんなことを考えながら、ホームルームまで明日の定期テストの勉強をしていると後ろから声を掛けられる。
「と・お・るくん~!!!」
後ろから突進してくるハイテンションの塊を紙一重でよける。突っ込んできた人物は、勢いを殺すことかなわず机に激突しそうだったので、腕をつかんで無理やりこっちに抱き寄せた。
ドンっと言う鈍い音と共に俺に激突したその正体は、随分長い付き合いになってしまった八重森みにだった。
「避けるなんてひどいっス!」
「突っ込んでくる方がひどいだろ」
セミロングの黒髪に蒼いメッシュ。笑った時に見える八重歯が特徴的で、常にハイテンション。いやもう、マジでハイテンション。加えて、謎のコミュニケーション能力。結構影響されやすいくせに、ちゃんと自分を持っているそんな少女だ。
「俺はなんでこんな奴と出会ってしまったんだろうな」
「ひどいっス!こんな美少女と親友同士なのに、何で損に残念そうなんスか!」
「お前が残念な美少女だからじゃないか?」
「え?美少女!?いや~照れるっス」
「………お前な」
何処かズレているんだよな。八重森みにと言う少女は、一言でいうならオタクだ。表現を変えるなら、ネット文化に詳しい現代っ子。二次元キャラクターの久松望を恋人としているような、超がつくほどのオタクだ。
まあ、オタクと言えば俺もオタクなわけだがジャンルがだいぶ異なる気がする。ゲームをやらないわけではないが…。
「お~い、そこのバカ二人。席に着け~」
担任からのお叱りを受け、八重森は席に戻っていった。なんで俺も巻き込まれているんだろう…。
ホームルームが終わり、改めて八重森は俺の席の前にやってくる。
「さっきはすいませんでした。透くんまで怒られちゃって」
申し訳なさそうに、うつむく八重森を見ながら本当にこういう顔は似合わないなと再確認した。
「テンションの落差が激しい」
「で、でも透くん推薦狙いだし、あんまり先生に怒られるのはまずいんじゃないかって思ったんス」
ごもっとも、最近受験を意識してやっと理解してくれたようだ。まあ、今更なのだが。
「はぁ~、俺の優等生ロールをなめんな。あれくらいで揺らぐような点数の稼ぎ方はしてねえよ」
「よ、よかったス~。ま~た、迷惑かけたかと思ったス」
「おう、迷惑であることは変わりないからな。反省しろ、ハイテンションお化け」
一気に脱力する八重森を見ながら、教室から人気がなくなってきたことを確認する。
「それで?何の用だったんだ?このタイミングで俺のことろまで一直線でかけてくるってことは、コミケか?」
「あ、忘れてたっス。そうっス!コミケ!流石に冬はできないんで、今年は夏オンリーでやるっス!」
八重森は、コロネ丸という名義でコスプレイヤーとして活動してる。その他にも、ツイキャス、ニコ生、YouTube、snowroomを使って配信を行なっている。
何の因果か、高校1年の春から八重森の手伝いをすることになった。昔は仕方なくやっていたがいつのまにか板についてしまった。
「で?俺は、宣伝を手伝えばいいのか?」
「あと、衣装づくりも少し手伝ってほしいっス」
「はいはい」
「一ノ瀬の志望は練馬大学でいいのか?」
夏休み前日、透は教室で進路相談を受けていた。担任の対面に座り、張り付けた笑顔で話す。
「はい、経済学部の推薦を受けようかと思っています」
「まあ、お前の成績なら問題ないだろうな。………あんまり、家庭の事情に突っ込むのは問題かと思うんだが、大丈夫なのか?」
透の笑顔は微動だにすることなく、張り付けたような笑顔を担任に向けたまま言い放つ。
「大丈夫ですよ」
「…無理するなよ」
「はい、失礼します」
担任は複雑そうにしながらも、それ以上何かを言うことはなかった。